令和2年度税制改正、アメリカ不動産投資への影響は?2つのポイントを解説

自民党の税制調査会は2019年12月12日に税制改正大綱を発表しました。その後、税制改正大綱は12月20日に閣議決定されています。今回の税制改正大綱には、海外不動産を利用した節税に対する特例が盛り込まれており、節税目的のアメリカ不動産投資にも大きな影響が出る見通しです。

現在の予定では、2020年1月20日に通常国会が召集され、関連法案について審議が行われます。各法案成立の目処は2020年3月末です。この記事では、税制改正の内容とその影響について解説します。

目次

  1. 税制改正大綱の内容
    1-1.2022年以降に実施する確定申告から適用される
    1-2.簡便法による節税効果を狙い撃ち
  2. アメリカ不動産が好まれる理由
    2-1.アメリカ不動産市場の特徴
    2-2.築古・木造に対する抵抗がない
    2-3.アメリカ以外の主要国では築古木造は少ない
  3. まとめ

1.税制改正大綱の内容

今回発表された税制改正大綱の中で、アメリカ不動産を用いた節税に関連のある箇所は以下の通りです。

国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例を次のとおり創設する。
(1) 個人が、令和3年以降の各年において、国外中古建物から生ずる不動産所得を有する場合においてその年分の不動産所得の金額の計算上国外不動産所得の損失の金額があるときは、その国外不動産所得の損失の金額のうち国外中古建物の償却費に相当する部分の金額は、所得税に関する法令の規定の適用については、生じなかったものとみなす。

※引用:令和2年度税制改正の大綱〔令和元年12月20日閣議決定〕 3 租税特別措置等(国税)〔新設〕(16ページ)

噛み砕いて説明すると、「令和3年以降の確定申告において、海外の中古不動産に関する減価償却費は、収支が赤字の場合、その分の減価償却費は計上できないようにする」ということになります。

「国外不動産所得の損失の金額のうち国外中古建物の償却費に相当する部分の金額は」とあるので、損失計上できなくなるのは、あくまでも減価償却費のみです。運用において発生した賃貸管理費などの費用は、引き続き経費計上できると読み取れます。

また、続く(2)の内容は以下の通りです。

(2)上記(1)の適用を受けた国外中古建物を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算上、その取得費から控除することとされる償却費の額の累計額からは、上記(1)によりなかったものとみなされた償却費に相当する部分の金額を除くこととすることその他の所要の措置を講ずる。

※引用:同上資料17ページ

これは、物件を購入して減価償却費を損失計上した後、物件を売却するときに発生する譲渡税に関係しています。

譲渡税の計算方法は以下のとおりです。

(不動産売却額 – (不動産購入価格 + 諸経費 - 減価償却計上費))×税率
※税率は不動産の保有期間によって40%または20%のいずれかが適用される

つまり、通常の不動産投資においては、運用期間中に減価償却費を計上して所得税を減らす効果を得られる代わりに、物件を売却したときの譲渡税は多くなる、という形となります。

しかし、今回の税制改正大綱では、上記の措置により経費計上を行わなかった海外不動産に関する減価償却費については、不動産購入価格から差し引かないとしています。建物の価値は損なわれていないものとしてみなすということです。これは、「海外不動産の譲渡税については実質的に軽減されうる」ということです。

1-1.2022年以降に実施する確定申告から適用される

大綱には「令和3年以降の各年において」とあります。つまり、国会で関連法案が決議されたとしても、今回の税制改正内容が適用されるのは、2021年以降に実施する確定申告からとなります。

1-2.簡便法による節税効果を狙い撃ち

大綱の注記((1)と(2)の間)には、簡便法による所得税の計算について書かれています。アメリカを中心とした海外不動産を購入して節税するためには、この簡便法を用いるのが一般的でした。

簡便法とは

簡便法とは、減価償却額の計算にあたって該当資産の償却年数を決定する方法のことです。簡便法による償却年数は以下のように計算します。

(1) 法定耐用年数の全部を経過した資産
その法定耐用年数の20%に相当する年数
(2) 法定耐用年数の一部を経過した資産
その法定耐用年数から経過した年数を差し引いた年数に、経過年数の20%に相当する年数を加えた年数

※引用:国税庁HP タックスアンサーNo.5404 中古資産の耐用年数

つまり、具体的には以下のような計算方法になります。

(1) 法定耐用年数×20%=償却年数
(2)(法定耐用年数―経過年数)+経過年数×20%=償却年数
※いずれも計算結果の小数点以下は切り捨て

償却年数は短ければ短いほど都合が良い

一般的な納税者にとっては、償却年数が短ければ短いほど都合が良くなります。なぜなら、1年あたりの減価償却費が大きくなり、節税効果を得やすいからです。

例えば、1,000万円を減価償却する場合、1年あたりの減価償却費は以下のようになります。

減価償却期間が10年だと、損失計上できる1年あたりの減価償却費は

1,000万円÷10年=100万円

減価償却期間が4年だと、損失計上できる1年あたりの減価償却費は

1,000万円÷4年=250万円

なお、簡便法の計算(1)と(2)を比較すると、足し算する年数がない分だけ、償却年数は(1)の方が短くなります。

償却年数が最も短くなる資産とは

結論からお伝えすると、「築年数が22年以上の木造住宅」が節税目的の不動産投資としては最もニーズの高い物件です。

簡便法の計算を考慮すると、効果的に節税するためには以下のような資産が向いていると言えます。

  • 法定耐用年数が短い
  • すでに法定耐用年数の全部を経過している

木造住宅は法定耐用年数が22年です。簡便法(1)の計算に当てはめると、築22年以上経過した物件の減価償却期間は4年となります。単年あたりの減価償却額はかなり大きくなります。

2.アメリカ不動産が好まれる理由

上記で築年数22年以上の木造住宅が節税に向いている物件の代表例であることを解説しました。しかし、問題なく入居者が付く・損をしない価格で売却可能という2点も兼ね備えていないと、不動産投資としては成立しにくい物件となります。

日本では、住居は新しい方が好まれるので、築22年以上経過した木造物件の人気は高いとは言えません。しかし、アメリカではこういった物件でも問題なく入居者が入る上に、売却も比較的しやすいのです。

2-1.アメリカ不動産市場の特徴

アメリカでは、住宅市場の大半を中古物件が占めています。理由の一つとして、アメリカでは、日本と違い新しい建物の建築確認認可にとても時間がかかることが挙げられるでしょう。
1年以上かかることもざらにあるので、アメリカでは審査中に市場が変化してしまうことを嫌う業者も少なくありません。

こういった背景から、アメリカでは国家規模の割に住宅の新規供給数が多くないので、築古の中古住宅の流通も盛んとなっているのです。

2-2.築古・木造に対する抵抗がない

都心ではコンクリート造の建物が多い一方、アメリカ全体で見ると木造住宅は多くの割合を占めています。

築年数100年を超える物件も普通に取引されており、アメリカ人は築年数が数十年以上経過している住宅に対しても抵抗が少ないと言えます。何度もリフォーム・リノベーションを繰り返して長く住むのが普通とされています。

また、日本では住宅を購入するというと、その住宅を「終の住処」とするような感覚も一般的です。しかし、アメリカ人の多くは住宅の購入と売却を数年ごとに繰り返します。日本とアメリカでは、このように築古木造物件に対する意識の違いが存在するのです。

2-3.アメリカ以外の主要国では築古木造は少ない

イギリスなどにも数十年以上経過している住宅は多く存在します。しかし、ヨーロッパの築古物件ではレンガ造の建物が多く、そうした物件は節税にはあまり向いていません。

レンガ造になると、木造よりも償却年数が伸びて単年あたりの減価償却額が少なくなります。このような背景から、築古の木造物件が多く存在するアメリカの不動産は、節税を目的とする日本の富裕層に人気なのです。

まとめ

今回の税制改正は節税の完全シャットアウトではなく、海外不動産の減価償却費の計上について、赤字となる部分の計上を認めないとするものです。つまり、経費計上自体ができないわけではありません。

また、上記により未計上となった減価償却費は、売却時の不動産取得額を求める際に差し引く減価償却費には加味されません。したがって、物件を売却するときに課税される譲渡所得に対しては税額圧縮の影響があります。

税制改正の内容を正しく理解して、アメリカ不動産の投資についても検討してみてはいかがでしょうか。

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HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム

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