日本で不動産を所有する場合、地震は留意すべき災害リスクの一つです。地震による損害リスクを抑えるためには、立地及び物件選びが重要です。
今回の記事では、地震に強い不動産の種類についてまとめました。震災リスクを少しでも抑えるうえで、ぜひ参考にしてください。
目次
- 地震により想定される不動産への被害を整理
1-1.揺れによる直接的な被害
1-2.火災
1-3.津波
1-4.地盤の液状化や亀裂・隆起など - 地震に強い不動産の構造とは?
2-1.物件タイプによって耐震性に差が出るわけではない
2-2.耐震等級が高い物件
2-3.2000年以降に建てられた物件
2-4.耐火性にも目を向けよう - 不動産の震災リスクを抑えるエリア選びとは?
3-1.太平洋側の方が震災リスクが高いとの予測
3-2.海岸付近は津波のリスクに注意
3-3.液状化は地質や地形に着目して防ぐ
3-4.火災危険度を公表している自治体も - まとめ
1 地震により想定される不動産への被害を整理
まずは、地震によってどのような被害が想定されるのかおさえておきましょう。震災では揺れによる直接的なダメージはもとより、次のような被害が出る可能性があります。
- 揺れによる直接的な被害
- 火災
- 津波
- 地盤の液状化や亀裂・隆起
1-1 揺れによる直接的な被害
地震の揺れが原因で、不動産本体に損害が及ぶ場合があります。地震の揺れの大きさや地盤の状況や建物の構造によっては建物の一部が破損したり、最悪のケースでは倒壊したりするリスクがあります。
大規模な破損や倒壊が起これば、当面の期間人が住めなくなるうえ、瓦礫の撤去、物件の大規模修繕や立て直しなどが発生するでしょう。
ただし後半で詳しく紹介しますが、不動産は揺れに対する耐久力が年々向上しています。耐震性の高い物件を選べば、たとえ震度7クラスの大地震でも、揺れによる直接的な損害リスクは抑制可能です。
1-2 火災
大規模な地震が起こると、電線の寸断や燃料漏れなどさまざまな原因により火災が併発する場合があります。ときには、多数の建物に延焼する大規模火災に発展しかねません。火災に巻き込まれれば、建物が半焼・全焼して大きな損害が出るでしょう。
地震を原因とする火災は、火災保険で補償されないので注意が必要です。たとえば、火災に強い建物で地震保険に入るなどの対策が考えられます。
1-3 津波
沿岸部や海上で大地震が起こると、波が地面の揺れによって発生し津波を発生させます。東日本大震災では揺れ本体より津波で甚大な被害があり、2024年1月の能登半島の震災でも津波の被害が確認されました。
津波によって建物が押し流されれば、建物の建て直しが必要になると考えられます。あまりにも被害が甚大になると、そもそも跡地に居住用不動産を建て直すのが難しくなるリスクもあります。
物件の構造を工夫しても津波のダメージを抑えるのは困難です。津波リスクが大きい立地を避けることが有効な対策となるでしょう。
1-4 地盤の液状化や亀裂・隆起など
地震によって地盤が液状化し、建物の傾斜や沈下が起こる場合があります。たとえば、東日本大震災の際には千葉県の一部地域などで住宅地の地盤沈下が発生しました。
地盤沈下が発生すると、軽度でも建物全体が傾いてしまいます。地盤強化をしつつ建物を水平に戻す施工は可能ですが、多額の修繕費用がかかるでしょう。
重度の地盤沈下が起こると、建物自体にもヒビ割れなどの損害が生じる可能性もあります。深刻な症状の場合は建て替えになるケースも考えられます。建て替えとなるとさらに多額の費用がかかるうえ、建て替えが完了するまで賃料収入が途絶えます。
2 地震に強い不動産の構造とは?
地震の被害を防ぐには、第一に地震で倒壊や破損が発生しにくい物件を選ぶのが第一です。木造とRC造りに関わらず、住宅においては統一された耐震基準が設定されているため「RCだから強い(木造だから弱い)」とは一概に言えません。
また、地震に付随して起こる災害のうち、火災はある程度物件の構造によってリスクや被害の度合いを抑える余地があります。ここでは、地震に強い物件の構造についてまとめました。
2-1 物件タイプによって耐震性に差が出るわけではない
アパートや戸建て、マンションという物件タイプにおいて「いずれかが地震に弱い、強い」とは一概に言えません。日本の耐震性に関する規制はいずれの物件タイプでも、高さ60メートル以内であれば同じ規制が適用されます。
2階建ての住宅と10階建のビルを比較すれば、確かに10階建てビルの方が構造としては頑丈な作りになっている可能性があります。
しかしそもそも、同じ揺れ・同じ建物の構造であれば、高い建物の方が地震に脆弱になります。高層の建物が低層と同等の耐震強度を有するためには、より頑丈な構造が求められるのです。
そのため、建物自体の地震に対する耐久性という観点では、双方で差が出るわけではありません。
また、RC 造りと木造でも、建築基準や耐震基準に差はありません。RC造りの方が頑丈なイメージを持たれがちですが、同等の基準を満たしていれば、近年の物件であれば耐震性に明確な差はないのです。
60メートルを超える超高層ビルには、地震における揺れの程度や設備の保全性など別の規制が適用されます。
しかし、これらは低い物件に適用される規制とはルールが違うだけであり「厳格な」規制とは必ずしもいえません。そのため、超高層ビルの方が安全とも、一概にいえないでしょう。
2-2 耐震等級が高い物件
物件のタイプよりも、耐震等級をもとに物件の耐震性を判断するのが有効です。耐震等級とは、現行の建築基準法を満たす建物において、基準を上回る耐震性を3段階で表したものです。
耐震等級1
- 建築基準法で定められた「耐震基準」同等の基準
- 数百年に一度程度発生する規模の地震による力(東京で震度6~7相当)に対して、倒壊・崩壊しない
- 数十年に一度程度発生する規模の地震による力(東京で震度5強相当)に対して、損傷しない
耐震等級2
- 耐震等級1の1.25倍の耐震性
- 災害時の避難所として使用される学校などの公共施設が満たすべき基準
- 数百年に一度程度発生する地震の1.25倍規模の地震でも倒壊・崩壊しない
- 数十年に一度程度発生する地震の1.25倍規模の地震でも損傷を生じない
耐震等級3
- 耐震等級1の1.5倍の耐震性
- 現行の耐震性の最高基準で、警察署や消防署などが満たす基準
- 数百年に一度程度発生する地震の1.5倍規模の地震でも倒壊・崩壊しない
- 数十年に一度程度発生する地震の1.5倍規模の地震でも損傷を生じない
※出所:一般社団法人住宅性能評価・表示協会「『長期優良住宅の普及の促進に関する法律』の長期優良住宅認定制度の技術基準の概要について」
本基準は主に住宅に適用されるものですが、物件のタイプや構造によって基準に差があるわけではありません。
すなわちどの物件タイプや構造であっても、耐震等級3が高いほど等しく震災により損害を受けるリスクが低いといえます。災害のリスクを考慮するのであれば、まずは耐震等級を軸に耐震性を判断した方がよいでしょう。
2-3 2000年以降に建てられた物件
基本的に築浅の物件ほど安全性が高いと言えますが、特に2000年以降の物件は耐震性が強くなっています。新耐震基準が施行されたのは1981年のことですが、木造については2000年にさらに基準が厳しくなっています。
また、1995年に発生した阪神・淡路大震災の反省から、2000年ごろから耐震基準を厳格に適用して、検査などを精緻に行うようになりました。そのため、2000年以降の物件の方がより信頼できます。
2-4 耐火性にも目を向けよう
耐火性が高ければ、震災に伴う火災のダメージを抑制できる可能性があります。物件全体で言えば、木造よりもRC造の方が耐火性が高いと期待されます。素材本来の性質としては木よりもコンクリートの方が燃えにくいからです。
ただし、近年は木造でも特殊加工によって耐火性を高めた建材が使われています。比較的築浅で、耐火性に配慮された木造住宅であれば、RC造と性能に大きな差はないでしょう。
耐火性の観点では、周囲の建物との距離も重要です。周囲の建物と距離があれば、延焼リスクを抑えられます。
建築基準法では、1階で3メートル以上、2階以上で5メートル以内が「延焼のおそれがある範囲」として、防火構造を施した建材使用などを義務づけています。
裏を返すと、基準より周囲の建物と距離があれば延焼のリスクは低いといえるでしょう。都市部で、近隣の建物と充分な距離が取れない場合には、延焼リスクのある部分の構造はとくに入念にチェックしてください。
参考:国土交通省「建築基準法制度概要集」
3 不動産の震災リスクを抑えるエリア選びとは?
震災による損害リスクを抑えるためには、エリア選びも重要です。ここからは、エリアごとの注意すべき点やエリア選びのポイントを紹介します。
3-1 太平洋側の方が震災リスクが高いとの予測
2022年3月発行の地震調査研究推進本部のパンフレット「地震がわかる」によると、太平洋側の方が大震災の発生リスクが高いとの予測があります。南海トラフ地震や首都直下型地震といった地震の発生が懸念されているためです。
どちらも政府の予測通り発生した場合は太平洋側の幅広い地域が被災する恐れがあります。一方で、東京・大阪・名古屋など人口の多い大都市の多くは太平洋側にあります。
また、将来の震災発生の予測は難しく、2024年初には日本海側に当たる能登半島で地震が発生しています。日本全土が世界で見ると地震が多い地域であることを踏まえて、物件のある地域に関わらず、耐震性能の高い物件であることが有効な手立てとなります。
3-2 海岸付近は津波のリスクに注意
海岸線では津波に注意が必要です。揺れ自体での被害を免れても、津波が直撃すれば大きな損失となります。海岸に近い地域に物件を建てる場合は、津波のリスクを踏まえてエリア選びを行いましょう。
海岸に近くとも、高台になっていれば津波の被害も限定的です。また、低地の場合でも東日本大震災を受けて津波対策を強化した地域もあります。高い堤防などが適切に整備されているエリアを選びましょう。
3-3 液状化は地質や地形に着目して防ぐ
地盤の液状化も留意すべきリスク要因です。液状化は、次のような地形でしばしば発生します。
- 埋立地
- かつて池、沼、川であった場所
- 自然堤防(大きな河川の近く)
- 砂丘間低地(砂丘列と砂丘列との間の細長い低地)
- 干拓地
- 三角州
可能であればこれらに該当する土地を避けるのが無難です。ただし、日本は海に囲まれていて、河川の多い地形であるため、実際には上記に該当するエリアを選ばざるを得ないケースもあるでしょう。
その場合は、地盤に対して適切な対策を施して液状化リスクを抑制してください。
3-4 火災危険度を公表している自治体も
自治体によっては火災リスクを公表している自治体もあります。たとえば、東京都品川区のケースであれば「火災危険度ランク図」で公表しています。本来であれば、火災リスクは建物が密集している地域で高いはずです。
しかし、多くの自治体では「防火地域」「準防火地域」に指定して、建物の構造面での防火性や、近隣の建物との距離を規制してるため、市街地=火災リスクが高いとは一概にいえません。
また、居住環境の観点からは、火災リスクだけを理由に市街地を避けるわけにもいかないでしょう。
火災リスクについて詳細にまとめている自治体については、エリアごとのリスクを確認しながら詳細な立地を選ぶのが一案です。また、物件自体の耐火性能を高めて、延焼による損害リスクを抑えるのも有効と言えます。
4 まとめ
震災対策においては、揺れに対する耐久性に加えて、津波や火災、液状化といった地震と併発する災害への対応も重要です。
揺れや火災に強い構造の物件を取得する、災害リスクの低い立地を選ぶといった工夫によって、被災リスクや被災時の損害リスクを抑えることが重要です。
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伊藤 圭佑
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