不動産を売却するときには、売買契約の前に契約不適合責任の内容についてしっかりと確認することが大切です。しかし、契約不適合責任とはなんのことなのか、よくわからないという人も多いのではないでしょうか。
契約不適合責任とは、2020年4月に改正された民法で新たに規定されており、従来規定されていた「瑕疵担保責任」から内容が変更されたものとなっています。契約不適合責任は不動産の買主保護を目的として規定されたので、売主はその内容を把握しておくことが重要です。
この記事では、契約不適合責任の内容について解説するとともに、責任を免責または軽減する方法についてもご紹介します。
目次
- 契約不適合責任の意味
1-1.売主が買主に対して負う責任のこと
1-2.瑕疵担保責任から変更された主なポイント - 買主に契約不適合責任を追求されたらどうなる?
2-1.追完請求と代金減額請求
2-2.催告解除と無催告解除 - 契約不適合責任を免責または軽減する方法
3-1.不動産売買契約に特約を付加する
3-2.交渉前にインスペクションの実施が重要 - まとめ
1.契約不適合責任の意味
契約不適合責任の意味や、従前規定されていた瑕疵担保責任との違いなどについて解説します。
1-1.売主が買主に対して負う責任のこと
契約不適合責任とは、取引の目的物に関する品質や数量を契約内容と合致させるよう、売主が買主に対して負う責任のことです。責任に違反していた場合は、買主は売主に対して以下の請求をできます。
- 目的物の修補
- 代替物の引渡し
- 不足分の引渡し
※参照:e-Gov法令検索「民法第562条(買主の追完請求権)
不動産の取引においては、建物や設備の不具合が見つかった場合に売主が買主から責任追求される可能性があります。
1-2.瑕疵担保責任から変更された主なポイント
契約不適合責任は、2020年4月に行われた民法改正に伴って規定されました。従来は、不動産取引における不具合については瑕疵担保責任が規定されていましたが、契約不適合責任に置き換えられています。
これまで、売主に対して買主が瑕疵担保責任を追求するためには、隠れた瑕疵が存在することを買主が証明する必要がありました。しかし、契約不適合責任に関しては、買主が不具合の事実を知った後、売主へ事実を通知するだけで修補等の履行を求められるようになっています。
その他、瑕疵担保責任の履行義務は「隠れた瑕疵の有無」によって判断されていたのに対し、契約不適合責任の判断基準は「不具合の内容について契約書に記載されているかどうか」という点が争点になります。
【関連記事】売主が不利に?不動産売却の契約不適合責任(瑕疵担保責任)を解説
2.買主に契約不適合責任を追求されたらどうなる?
不動産の引渡し後に買主から契約不適合責任を追及されると、契約解除に至る可能性があるほか、損害賠償請求されるリスクも出てきます。
2-1.追完請求と代金減額請求
契約不適合の箇所が見つかった場合は、買主は売主に対して追完請求できます。追完請求とは、不動産の修繕や代替設備の提供などによって契約の履行を求めることです。買主から追完請求されると、売主は費用負担を伴う修繕などで対応する必要があります。
もし、売主が追完請求に応じなかった場合は、買主は代金減額請求が可能です。また、買主は代金減額請求とともに損害賠償請求もできます。ただし、買主が損害賠償請求できるのは、売主に何らかの落ち度があると認められる時だけです。
2-2.催告解除と無催告解除
買主には、代金減額請求の他に催告解除も認められています。催告解除とは、売主が追完に応じない場合に、契約解除の予告とともに追完を催告することです。あるいは、催告解除をしても売主が追完を拒絶した場合は、買主は一定期日の定めとともに契約の無催告解除をできます。
契約の解除とは、契約が最初からなかったものとして扱うことであり、契約の解約とは異なります。解約は未来に向かってのみ契約を解消するものです。不動産売買において契約解除に至った場合は、売主は受取済みの売買代金などを全額買主に返金しなくてはなりません。
3.契約不適合責任を免責または軽減する方法
不動産の売主は、売却する不動産に関する不具合の有無について、これまでよりも注意を払う必要があります。しかし、契約内容を工夫することにより、売主のリスク軽減も可能です。
3-1.不動産売買契約に特約を付加する
契約不適合責任が規定されたことにより、個人間の不動産売買をする場合は、売主は追完請求されるリスクを背負うことになりました。しかし、契約不適合責任は売買契約の特約によって免責にできます。
また、特約の内容としては、買主の権利を追完請求のみに限定する内容にするケースが多くなっています。代金減額請求権および損害賠償請求権を認めない内容とすることで、売主のリスクヘッジを図れます。
そのほか、不具合を知った時から通知までの期間を短縮する特約にすることも有効です。買主は不具合を知った時から1年以内に売主へ通知することで不具合の修繕等を求められますが、契約不適合責任の通知期限については、買主の了解が取れれば短縮も可能です。
なお、不動産会社の仲介を受けて売買する場合は、不動産会社が売買契約書を作成します。不動産会社によっては、民法改正の内容を十分に把握できていないこともあるため、特約の付加に対応できる不動産会社を選ぶことも重要です。
【関連記事】マンション売却、不動産会社の選び方は?大手と地域の不動産会社の比較も
3-2.交渉前にインスペクションの実施が重要
契約不適合責任は、特約によって免責にしたり通知期限を短縮したりできます。しかし、いずれも買主の合意が必要です。買主によっては免責に同意しないことも考えられます。
買主と交渉するためには不具合の内容把握と通知が重要です。契約不適合責任の判断基準は、不具合の内容が契約書に記載されているかどうかという点が重視されるためです。売主と買主との共通認識を作ることが、トラブルを防ぐ予防策になります。
不動産の不具合を確認するためには、インスペクションの実施が有効です。インスペクションとは、専門家による建物の点検のことを指します。インスペクションで指摘された事項について、契約書に記載する前提であれば、契約不適合責任に関する交渉もスムーズになります。
インスペクションの点検箇所としては、例えば梁など建物の構造的な部分や屋根裏に加え、給排水管なども対象です。
まとめ
契約不適合責任は2020年の民法改正によって規定された責任であり、不動産の売主はこれまでよりも売買する建物の状態を把握するよう求められることとなりました。
個人間の不動産取引においては特に、表面的には売主のリスクが上がったようにも思えます。しかし、契約不適合責任は特約の付加によって軽減可能です。
契約不適合責任に関する特約を付加するためには、買主との交渉が必要になります。交渉にあたっては、インスペクションの実施が有効です。あらかじめ建物の状態を把握しておくことで買主との交渉もスムーズに進められるため、実施を検討してみると良いでしょう。
HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム
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