不動産投資の収益性の指標であるイールドギャップは、実質利回りとローン金利の差から求めるものです。金利上昇局面では将来ローン金利も上昇するリスクを見越して、余裕をもった水準になるように購入物件やローン契約を工夫することが大切です。
また、イールドギャップは収益性を把握するうえで指標の一つにすぎず、見るうえではいくつか注意すべきポイントもあります。今回は金利上昇局面のイールドギャップの考え方や注意点についてまとめました。
目次
- 不動産投資におけるイールドギャップとは?
1-1.イールドギャップの計算方法
1-2.イールドギャップの計算例
1-3.イールドギャップの考え方
1-4.イールドギャップの変動要因 - 金利上昇時における不動産投資のイールドギャップの目安は?
2-1.通常期は1.5~2.0%程度が一つの目安
2-2.金利上昇局面では高めのイールドギャップを目指す - イールドギャップで不動産の収益性を見るときの注意点
3-1.イールドギャップは返済額と返済期間が考慮されていない
3-2.借入金額や期間を加味したイールドギャップもある
3-3.繰り上げ返済の効果を把握しづらい
3-4.イールドギャップでの収益性分析が適さない場合もある - まとめ
1 不動産投資におけるイールドギャップとは?
イールドギャップとは実質利回りと不動産ローンの金利差から算出する収益性指標です。まずは計算方法と具体的な考え方についてまとめました。
1-1 イールドギャップの計算方法
イールドギャップの計算式は次の通りです。
イールドギャップの計算式
- (実質利回り)ー(不動産ローン金利)
実質利回りは諸経費などを考慮した後の不動産投資の収益率です。そこから毎月負担する支払金利を引くということは「ローン金利負担を加味した後の不動産の収益率」を計算していることになります。
なお、実質利回りの計算式は次の通りです。
実質利回りの計算式
- {年間家賃収入×(1ー空室率)-年間諸経費}÷(物件価格+購入時費用)
1-2.イールドギャップの計算例
イールドギャップについて、以下のようなケースを例として、実際に計算してみましょう。
計算例の前提
- 家賃収入:6万円
- 部屋数:10棟
- 月次の管理費用:1棟1万円
- 物件価格+購入時諸費用:8000万円
- 不動産ローン金利:2.0%
- 想定空室率:10%
実質利回りの計算
実質利回り=(諸経費控除後の年間収入)÷(物件価格+購入時費用)
分子の計算:年間家賃収入×(1ー空室率)-年間諸経費
=(6万円×10棟×12か月)×(1-10%)-(1万円×10棟×12か月)
=528万円
実質利回り:{年間家賃収入×(1ー空室率)-年間諸経費}÷(物件価格+購入時費用)
=(528万円)÷(8000万円)
=約6.6%
イールドギャップの計算
イールドギャップ=6.6%(実質利回り)-2%(不動産ローン金利)
=4.6%
こちらの計算式の場合、イールドギャップは約4.6%という結果となりました。
1-3 イールドギャップの考え方
イールドギャップはローンの金利部分の負担をした後の不動産投資の収益率を表しています。イールドギャップが高ければ、その投資は効率が高く、また低ければ効率が低い、さらにイールドギャップがマイナスということは利回りベースでは収益が出ていないということを意味します。
不動産投資で収益を得るうえでは、イールドギャップがある程度のプラスになるように投資を行うことが大切です。なお、注意点のところで詳しく触れますが、イールドギャップにはローンの元本返済額や返済期間が加味されないため、イールドギャップが実際のキャッシュフローの大きさに直結するとは限りません。
1-4 イールドギャップの変動要因
イールドギャップの数式をふまえると、次のような要因で変動していきます。
- 賃料収入・空室率の変動
- 管理コストの変動
- 金利の変動
まず、不動産物件の周辺環境やエリアの物件価格の変動、経年劣化などにより賃料収入が変動すれば、実質利回りが変化するため、イールドギャップの変動要因ともなります。また、空室率も同様で、想定より高止まりすれば実質利回りは低下しますし、空室が少なければ実質利回りは改善します。
また、管理会社の変更や方針変更、修繕個所の増加などにより管理コストが増大すれば実質利回りの低下を通じてイールドギャップの減少要因となります。さらに、変動金利でローンを組んでいる場合は、ローン金利が引き上げられればイールドギャップの減少要因となります。
イールドギャップは購入時点だけでなく、不動産投資を継続している間、常にその水準をウォッチしておく必要があります。
2 金利上昇時における不動産投資のイールドギャップの目安は?
イールドギャップは一定程度プラスを維持しておく必要がある一方で、高ければよいというものでもありません。続いては平時のイールドギャップの目安と、金利上昇をふまえた適正値について紹介していきます。
2-1 通常期は1.5~2.0%程度が一つの目安
金利環境の前提を置かない場合は、1.5~2.0%程度がひとつの目安です。これを下回る物件は賃料収入からの収益が見込みづらくなるうえ、賃料収入が減少すれば赤字化するリスクも高くなるため、購入は慎重に判断したほうがよいでしょう。
一方で極端に高すぎる物件についても注意が必要です。例えば、中古物件などでイールドギャップが5%後半~になるような物件は、何らかのリスクがあるために投資家から敬遠され、物件価格が過度に低下している可能性が考えられます。
例えば、そのような物件は賃貸需要が乏しく空室率が高止まりしたり、物件の劣化が激しくのちのち修繕コストがかかったりと、投資家にとってデメリットの多い物件であるケースがあるのです。物件価格が安くイールドギャップが取りやすい理由を慎重に判断する必要があるでしょう。
利回りの高い物件に投資して高リターンを狙う手法もあるため、イールドギャップが高い物件を購入すべきかどうかは、投資スタンスによって変わってきます。少なくとも、イールドギャップが高すぎる物件は、ハイリスクな傾向にあることをおさえておきましょう。
新築は物件価格が高止まりするため、イールドギャップも上昇しにくい一方で、中古の方が相対的にイールドギャップが高い物件が多い傾向にあります。しかし、新築だからといって収益性が低くてもよいわけではないため、中古・新築ともイールドギャップの目安は1.5~2.0%程度と考えておきましょう。
2-2 金利上昇局面では高めのイールドギャップを目指す
近い将来金利上昇が想定される場合で、変動金利でローンを組む予定の人は、イールドギャップの目線を少し高めに持っておくのが適切です。具体的には3%~4%くらいを目指すのがよいでしょう。
将来金利上昇に伴いローン金利が上昇すれば、その分イールドギャップは低下します。購入時点で高めのイールドギャップを目指すことで、金利が上昇してもイールドギャップをプラスに保ち、しっかりと収益を残せるようになります。
不動産の市場環境にもよりますが、新築ではイールドギャップを4%まで持っていくのは困難なタイミングも少なくありません。適度な利回りが期待できる中古物件への投資も視野に入れながら、将来の金利上昇に備えて高めのイールドギャップも考慮した投資判断を行っていきましょう。
3 イールドギャップで不動産の収益性を見るときの注意点
イールドギャップはあくまで収益性の指標の一つにすぎず、特にローン返済額や借入期間の要因を無視している点に注意が必要です。また、投資に対する考え方によってはイールドギャップを重視した投資判断が必ずしも適さない場合もあります。
3-1 イールドギャップは返済額と返済期間が考慮されていない
イールドギャップの式には実質利回りと不動産ローンの利率しか反映されないため、返済額や返済期間が加味されていません。
例えば先ほどの下記の事例において、イールドギャップは4.6%ありました。金利上昇リスクを加味しても、充分な水準といえるでしょう。
計算例の前提(再掲)
- 家賃収入:6万円
- 部屋数:10棟
- 月次の管理費用:1棟1万円
- 物件価格+購入時諸費用:8000万円
- 不動産ローン金利:2.0%
- 想定空室率:10%
しかし、この時フルローンで16年間で借りていたとします。元利均等返済だった場合、月々の返済額は約48.8万円となります。年間の返済額はおよそ586万円です。一方で、賃料収入は、空室率を10%として、管理費用を控除すると528万円でした。
年間の収入額の計算
{年間家賃収入×(1ー空室率)-年間諸経費}
=(6万円×10棟×12か月)×(1-10%)-(1万円×10棟×12か月)
=528万円
すなわち、この返済期間・返済額の場合、イールドギャップはプラスでも月々のキャッシュフローは赤字ということになります。ローンの返済は元本返済と金利支払いを同時に進めていくスキームであるため、このように実際のキャッシュフローは借入額と乖離する場合があるのです。
3-2 借入金額や期間を加味したイールドギャップもある
通常のイールドギャップが借入期間や借入額を加味していないという弱点を補うために「ローン定数」という数値を導入してイールドギャップを算出することもできます。
ローン定数は、次のように当初のローン残高対比での返済率を示すものです。
ローン定数
ローン定数(K)=(年間返済額)÷(当初のローン残高)
ローン定数は、不動産ローン金利の代わりにイールドギャップの計算に使います。
ローン定数を活用したイールドギャップ
イールドギャップ=(実質利回り)-(ローン定数)
先ほど使用した計算例にローン借入額の条件を追加します。ここでは頭金500万円として、7500万円をローンで借りたとしましょう。
計算例の前提
- 家賃収入:6万円
- 部屋数:10棟
- 月次の管理費用:1棟1万円
- 物件価格+購入時諸費用:8000万円
- 頭金:500万円
- 当初ローン借入額:7500万円
- 不動産ローン金利:2.0%
- 想定空室率:10%
このとき、実質利回りは先ほど計算したときと変わらず、6.6%となります。
実質利回りの計算
分子の計算:(年間家賃収入)×(1ー空室率)-(年間諸経費)
=(6万円×10棟×12か月)×(1-10%)-(1万円×10棟×12か月)
=528万円
実質利回り:{年間家賃収入×(1ー空室率)-年間諸経費}÷(物件価格+購入時費用)
=(528万円)÷(8000万円)
=6.6%
続いて、ローン定数について15年・30年それぞれのケースについて求めていきましょう。なお、計算には住宅支援機構のローンシミュレーションを使用しています。
借入期間15年の場合
- 月間返済額:約48.3万円
- 年間返済額:約580万円
- ローン定数=580万円÷7500万円=約7.7%
- イールドギャップ=6.6%(実質利回り)-7.7%(ローン定数)=-1.1%
借入期間30年の場合
- 月間返済額:約27.8万円
- 年間返済額:約337万円
- ローン定数=337万円÷7500万円=約4.5%
- イールドギャップ=6.6%(実質利回り)-4.5%(ローン定数)=2.1%
ローン定数を加味したイールドギャップは借入期間が短く、また当初の自己資金の比率が低いほど、数値が悪化します。より実態のキャッシュフローに近い収益性を把握可能です。
3-3 繰り上げ返済の効果を把握しづらい
不動産投資の戦略の一環として、資金に余裕があるとき、将来の金利上昇が現実味を帯びてきたときなどに、繰り上げ返済で残債を減らしていくのが選択肢の一つです。しかし、繰り上げ返済を行っても適用金利が下がるわけではないため、通常のイールドギャップでは繰り上げ返済の効果を把握することができません。
繰り上げ返済において月々の返済額削減を選んだ場合、ローン定数方式のイールドギャップであれば、返済額が減ってローン定数が下がるため水準が改善します。一方で、返済期間の短縮を選んだ場合、当面の支払額が変わらないため、いずれのイールドギャップにも反映されません。
従ってイールドギャップだけを見ていると「繰り上げ返済においては返済額削減をした方がよい」と考えてしまいがちです。しかし、繰り上げ返済は返済期間の短縮に充てた方が総返済額が減るため、必ずしもそうはいえません。
繰り上げ返済を活用しながら不動産投資をしようと考えている人は、イールドギャップでの判断が有効ではない場合もあるので注意しましょう。
3-4 イールドギャップでの収益性分析が適さない場合もある
投資に対する考え方次第では、イールドギャップを元にした判断が有効ではない場合もあります。
例えば、都心部の区分マンション投資などにありがちですが、キャピタルゲインを期待して投資をおこなう場合です。不動産投資における利回りは賃料収入をもとに計算するものなので、そこに不動産価格の上昇は加味されていません。そのため、キャピタルゲインを加味して収益性を見通すときには、イールドギャップは活用できないのです。
また、老後に向けた資産形成など、将来の収益源として活用したい人にも、イールドギャップでの投資判断が適さない場合があります。給与所得など収入のある現役世代のうちは高い収益が出なくてもよく、老後までにローンを完済したいという投資判断も考えられます。このとき重要なのはローン完済後の収益性なので、イールドギャップは参考になりにくいでしょう。
このようにイールドギャップはあくまで目安の一つであり、この数値をどの程度重視するかは投資スタンスによっても異なります。イールドギャップのみを過信して安易な投資判断を行わないよう注意してください。
4 まとめ
イールドギャップは実質利回りとローン金利から計算される収益性の指標で、高ければローン金利を負担しても充分な収益性が見込めることを意味します。通常は1.5~2.0%程度が目安ですが、将来金利上昇が懸念されるときは少し高めになるように物件をうまく選んだり、金利の低い金融機関を探したりすることも大切です。
なお、通常のイールドギャップでは月々の返済額が加味されないことに注意が必要です。ローン定数を用いたイールドギャップであれば返済額も考慮した収益性分析ができますが、全ての投資家にとってイールドギャップが重要な収益性指標とは限りません。あくまで収益性の一つの参考程度に捉えて、自分の投資スタンスをふまえて最適な物件や投資スキームを選んでいきましょう。
伊藤 圭佑
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