不動産を少しでも高く売却するためには、売却にかかる費用を把握し、手取額を増やす方策を検討することが重要です。売却を想定したシミュレーションで方針を決め、売却活動中は適宜調整しながら進めていくことがポイントになります。
今回は、不動産の売却でかかる費用や、売却での手取り額を増やすための方法を紹介するとともに、実際に売却を想定したシミュレーションをご紹介します。不動産の売却を成功に近づけるヒントとしてぜひご活用ください。
目次
- 不動産売却にかかる費用
1-1.費用の種類
1-2.税金の種類 - 手取り額を増やすためのポイント
2-1.不動産を高く売る
2-2.売却にかかる費用を節約する
2-3.経費を計上して節税する
2-4.長期譲渡所得を適用して節税する
2-5.特例を利用して節税する - 不動産売却のシミュレーション
3-1.自宅売却のシミュレーション
3-2.投資用物件売却のシミュレーション - まとめ
1 不動産売却にかかる費用
不動産の売却では次のような費用が発生することがあります。
- 測量費用
- 建物解体・不用品処分費用
- 立ち退き料
- 修繕・リフォーム費用
- 仲介手数料
- 住宅ローン弁済費用
- 抵当権抹消費用
- 譲渡所得税
- 印紙税
- 引っ越し費用
1-1 費用の種類
不動産売却にかかる費用の種類を一つずつ見ていきましょう。
測量費用
不動産を売却する際は、隣地との境界を明確にするための測量費用がかかることがあります。測量会社に土地を測量してもらい測量図を作成してもらう費用となり、一般的には50坪前後の土地で30~50万円かかります。
なお、私道など公共用地に接している土地の場合、役人の立会いが必要になるため、60~80万円と若干割高になることがあります。
建物解体・不用品処分費用
古家や廃屋が建っている土地は、買主が購入後に自費で撤去しなければならないため、買い手が付きにくく、高く売れないことがあります。そのため建物や廃材や不用品を撤去し、更地にするための費用をかけなくてはならない場合があります。
不用品の処分は、解体業者にまとめて依頼することもでき、費用の目安は木造住宅で1坪当たり3~5万円程度です。延べ床面積30坪程度の木造2階建ての場合は、90~150万円かかることがあります。
立ち退き料
収益用物件などで賃貸に出している場合に、売却前に入居者に立ち退いてもらうための費用が立ち退き料となります。入居者に直接支払う費用であり、相場の目安は家賃の5~6か月分です。
修繕・リフォーム費用
売却予定の住宅が破損していたり、外壁の塗装が劣化していたり、内装などが古く時代のニーズに合っていないなどの場合に、売却前に修繕やリフォームを行う場合があります。
修繕費用はその内容により異なってきますが、屋根・外壁塗装は、延べ床面積が30坪前後の木造2階建ての場合は、100万円前後かかることもあります。3LDKの間取りでフルリフォームを行う場合は200~300万円が目安となります。特定の箇所だけの簡易リフォーム、またはハウスクリーニングの場合は、数万~数十万円程度になると見積もっておきましょう。
仲介手数料
不動産の売却は通常、不動産会社に売買仲介依頼をするため仲介手数料が発生します。なお不動産業者の仲介手数料は、以下のように法律で上限額が定められています。
物件の売買価格 | 仲介手数料の計算式 |
---|---|
200万円以下 | (売買価格×5%)+消費税 |
200〜400万円以下 | (売買価格×4%+2万円)+消費税 |
400万円超 | (売買価格×3%+6万円)+消費税 |
参照:SUUMO「売却時の手数料とは?いくらかかる?」
上記金額はあくまで上限額となるため、交渉次第で値引きしてもらうことも可能です。
住宅ローン弁済費用
売却予定の物件に返済中の住宅ローンが残っている場合、これを完済する必要があります。自己資金で完済するか、もしくは売却代金を返済に充てることもできますが、それでもなお残債がある場合は、住み替えローンを利用することができます。
抵当権抹消費用
住宅ローンが残ったままの不動産を売却するのは難しいため、住宅ローンを完済し、金融機関が付けた抵当権を抹消する手続きが必要になります。抵当権抹消手続きは、司法書士に依頼するなどして行う必要があります。費用は、登記手続き時に発生する登録免許税と司法書士報酬を合わせて1〜2万円程度かかります。
引っ越し費用
自宅を売却する場合に必要となる費用であり、一般的に10~20万円程度かかります。なお、引越し業者の繁忙期となる3〜4月に依頼すると費用も割高になるため注意しましょう。
1-2 売却にかかる税金
次は税金に関しても見ていきましょう。
譲渡所得税
不動産を売却して利益が生じた場合、譲渡所得に対して税金が発生します。一般的に譲渡所得税と呼ばれていますが、税金の種類は所得税、住民税となります(個人の場合、平成25年から平成49年までの各年分の所得に対して2.1%の復興特別所得税もかかる)。譲渡所得税は次の計算式で求めることができます。
・譲渡所得税={譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額}×税率
取得費とは「物件購入にかかった費用」であり、次の計算式で求めることができます。
・取得費=「物件の購入費用」+「購入にかかった経費」-「減価償却費」
特別控除額とは、マイホームを売却する際3,000万円が控除される特例です。
なお、譲渡所得税の税率は、不動産の所有期間により異なります(詳細は後述)。また売却して利益が出なかった場合は、譲渡所得税はかかりません。
印紙税
不動産の売買契約書に貼付する収入印紙代です。契約書は、売主と買主が1通ずつ保管することになるため、収入印紙も2セット必要になります。記載金額が10万円を超える不動産売買契約書は、平成32年3月31日までの間に作成されるものについては軽減税率が適用されており、金額は次のようになります。
売却価格 | 印紙税額 |
---|---|
100 万円を超え500万円以下 | 2千円 |
500 万円を超え1千万円以下 | 1万円 |
1千万円を超え5千万円以下 | 2万円 |
5千万円を超え1億円以下 | 6万円 |
1億円を超え5億円以下 | 10万円 |
参照:国税庁「不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置」
2 手取り額を増やすためのポイント
不動産を少しでも高く売却し、手元に残るお金を増やすためのポイントは次のとおりです。
2-1 不動産を高く売る
不動産をできるだけ高く売るには、売却相場の把握や売却金額のアップが見込める不動産会社選びが欠かせません。たとえば次のポイントに留意して売却活動を行うと効果的です。
- 類似物件の相場を自分で調べる
- 複数業者の査定を受ける
- 売却実績が豊富な信頼できる業者に仲介を依頼する
- 売却時には補修を済ませ、瑕疵(建物上の欠陥、キズのこと)がない状態にする
- 物件の内覧対策として清掃・クリーニングなどを入念に行う
2-2 売却にかかる費用を節約する
手取り額を増やすためには、売却にかかる費用を節約し、圧縮することも重要です。以下のことに留意して節約を図ります。
- 物件の修繕は行ってもリフォームは必要最小限に止める
- 仲介手数料は上限額が決まっているだけのため、値下げ交渉する
- 抵当権抹消登記は、時間があれば自分で行う
- 不用品処分・ハウスクリーニングなどもできるだけ自分で行う
2-3 経費を計上して節税する
譲渡所得税の計算では、譲渡価格から不動産の取得費や譲渡費用などを差し引いて求めます。そのため、費用となる経費を漏れなく計上して節税を図ることが重要です。譲渡所得税は前述したとおり、譲渡価額-(①取得費+②譲渡費用)-特別控除額に税率をかけて算出します。
ここで、①取得費について「取得費に該当するもの」と「取得費に該当しないもの」があるため、取得費を計算する際は注意が必要です。「物件の購入費用」以外に「購入にかかった経費」も漏れなく計上するようにしましょう。取得費として経費計上が認められるものは次の通りです。
- 土地の購入価額
- 建物の購入価額から減価償却費を差し引いた額
- 購入時の仲介手数料
- 土地建物を一括取得後、直ちに建物を取り壊した費用
- 購入時に以前の所有者等へ支払った立ち退き料
- 購入時の印紙税※
- 購入時の登録免許税・司法書士報酬などの登記費用※
- 購入時の不動産取得税※
※事業用不動産の場合は認められません
また②譲渡費用についても、「費用計上できるもの」と「できないもの」に注意します。
・譲渡費用として計上できるもの
- 測量費用
- 建物解体・不用品処分費用
- 仲介手数料
- 印紙税
- 立ち退き料
・譲渡費用にできないもの
- 修繕・リフォーム費用
- 住宅ローン弁済費用
- 抵当権抹消費用
- 引っ越し費用
2-4 長期譲渡所得を適用して節税する
譲渡所得税を算出する際の税率は、不動産の所有期間により大きく異なるため、特別な事情がない限り不動産は売り急がず、長期譲渡所得の適用を受けられるように売却すると、支払う税金を抑えることができます。
不動産の所有期間 | 譲渡所得の種類 | 税率 |
---|---|---|
5年超 | 長期譲渡所得 | 20.315% (内訳:所得税15.315%、住民税5%) |
5年以下 | 短期譲渡所得 | 39.63% (内訳:所得税30.63%、住民税9%) |
(注1)税率には、復興特別所得税が加わっています。
(注2)不動産の所有期間は、不動産を売却する年の1月1日時点で計算されます。
2-5 特例を利用して節税する
不動産の売却では、節税につながる様々な特例を利用することができるため、該当する場合は最大限活用することがポイントです。
不動産の譲渡所得から控除される「特別控除の特例」
マイホームの売却で、一定の要件を満たせば、所有期間にかかわらず譲渡所得から最高3,000万円までが控除されます。
税率が軽減される「軽減税率の特例」
所有期間10年超のマイホーム売却で、一定の要件を満たせば、3,000万円特別控除の特例適用後の譲渡所得に対し、長期譲渡所得の税率より低い軽減税率が適用されます。
他の所得と損益通算ができる特例
個人が、土地・建物などの不動産を譲渡して売却損が生じた場合は、その損失は他の不動産の譲渡所得から控除できますが、給与所得や事業所得など他の所得と損益通算することは原則できません。ただし、マイホームの譲渡損失に限っては、以下のように特例が定められています。
【居住用財産住み替え等の場合の譲渡損失の損益通算および繰越控除】
住み替えのためマイホームを売却して売却損が生じた場合、一定の要件を満たせば、給与所得や事業所得など他の所得と損益を通算できます。また、譲渡の年に損失を控除しきれない場合は、翌年以降最長3年間にわたり損失を繰り越すことができます。
【居住用財産の譲渡損失の損益通算および繰越控除】
住宅ローンが残っているマイホームを住宅ローン残高を下回る価格で売却して売却損が生じた場合、一定の要件を満たせば、給与所得や事業所得など他の所得と損益を通算できます。また、譲渡の年に損失を控除しきれない場合は、翌年以降最長3年間にわたり損失を繰り越すことができます。
課税を将来に繰り延べることができる特例
【特定居住用財産住み替えの特例】
マイホームを売却して他に買い替える場合、一定の要件を満たせば、譲渡所得に対する課税を将来に繰り延べることができます。
【事業用資産買い替えの特例】
個人が、事業用の不動産(土地・建物等)を譲渡して、一定期間内に買換不動産を取得し、その取得の日から1年以内に買換不動産を事業用として利用したときは、一定の要件を満たせば、譲渡益の一部に対する課税を将来に繰り延べることができます。
3 不動産売却のシミュレーション
不動産を売却する場合のシミュレーションを「自宅用の不動産」「投資用の不動産」に分けて行ってみます(シミュレーションは価格査定後・売却前に行うことを想定し、査定額を売却額に設定しています)。自宅を売却するといくら費用がかかるのか、手元にいくらお金が残るのかの参考にしてみてください。
3-1 自宅売却のシミュレーション
まずマイホームを売却する場合です。売却不動産は、「木造2階建て(自宅)」「査定額3,000万円」「ローン残債1,000万円」と設定します。不動産を売却する際にかかる費用は次のとおりです。
売却価額 | – | 3,000万円 |
売却にかかる費用 | ローン残債 | 1,000万円 |
仲介手数料 | 103万6,800円 | |
抵当権抹消費用 | 1万円 | |
印紙税 | 1万円 | |
測量費用 | 40万円 | |
建物解体、不用品処分費用 | 120万円 | |
引越し費用 | 15万円 | |
譲渡所得税 | なし |
仲介手数料は、売却価格が400万円を超える場合、売却価格×3%+6万円+消費税で求めます。また譲渡所得税は「3,000万円特別控除の特例」によりかかりません。
次に、売却時の手取り額(売却価額-売却にかかる費用)を求めます。
売却時の手取り額=売却価額3,000万円-売却にかかる費用(ローン残債1,000万円、仲介手数料103万6,800円、抵当権抹消費用1万円、印紙税1万円、測量費用40万円、建物解体・不用品処分費用120万円、引っ越し費用15万円)=1,719万3,200円
売却時の手取り額は、1,719万3,200円と算出されました。
マイホームの売却にかかった費用のうち、「仲介手数料」「抵当権抹消費用」「引越し費用」は、工夫次第で減らすこともできます。手取り額を増やすため、粘り強く不動産会社と交渉したり、可能な限り自分で手続きを行うなどしましょう。
3-2 投資用物件売却のシミュレーション
次は賃貸用物件を売却する場合のシミュレーションです。売却不動産は次のものを想定します。
不動産の種類 | マンション1戸(賃貸物件) |
所有年数 | 7年 |
家賃 | 12万円 |
査定額 | 2,500万円 |
取得費 | 1,700万円(減価償却費控除後) |
ローン残債 | 1,000万円 |
上記不動産を売却する際にかかる費用は次のとおりです。
売却価額 | – | 2,500万円 |
売却にかかる費用 | ローン残債 | 1,000万円 |
仲介手数料 | 87万4,800円 | |
抵当権抹消費用 | 1万円 | |
印紙税 | 1万円 | |
立ち退き料 | 72万円(家賃12万円×6月分) | |
リフォーム費用 | 80万円(部分リフォーム) |
譲渡所得税について、譲渡費用として認められるものは、仲介手数料、印紙税、立ち退き料の合計160万4,800円です。また、投資用不動産はマイホームではないため、「3,000万円特別控除」は適用できません。上記物件の売却で支払う譲渡所得税は次のとおりです。
譲渡所得税={譲渡価額2,500万円-(取得費1,700万円+譲渡費用160万4,800円)-特別控除額0円}×税率20.315%(長期譲渡所得)=129万9,100円
次に、売却時の手取り額(売却価額-売却にかかる費用)を求めます。
売却時の手取り額=売却価額2,500万円-売却にかかる費用(ローン残債1,000万円、仲介手数料87万4,800円、抵当権抹消費用1万円、印紙税1万円、立ち退き料72万円、リフォーム費用80万円、譲渡所得税129万9,100円)=1,128万6,100円
売却時の手取り額は、1,128万6,100円と算出されました。
投資用物件の売却にかかった費用のうち、「仲介手数料」「抵当権抹消費用」「リフォーム費用」は、工夫次第で減らすこともできます。
4 まとめ
不動産売却にあたり、必要となる費用や手取り額を増やすためのポイント、売却を想定したシミュレーションを見てきました。不動産を売却する場合は、物件を高く売る対策を講じることと併せて、必要となる費用を洗い出し、それを節減する方策を練ることが重要です。
そのためには、物件の売却前に自分で売却を想定したシミュレーションを行い、売却の全体像をイメージしながら、売却活動を進めることが肝心です。
不動産を売却する際はぜひこの記事を参考に税金や利用できる特例を調べ、少しでも手取り額を増やす工夫をしてみてください。
HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム
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