アパート経営においては、物件の立地や入居率、利回りなどの収益に直結しやすい指標に注目している方も多いでしょう。一方で、長期間にわたる運用が必須となるため建物としての性能も注目されるようになっています。
経年劣化や災害などによる建物性能の損失に対する強さの評価基準が「住宅性能表示制度」で、導入しているアパート経営会社も増えています。今回のコラムでは、「住宅性能表示制度」について詳しく解説していきます。
目次
- 住宅性能表示制度とは
- アパート経営で住宅性能表示制度を活用するメリット
2-1.住宅性能が見える化される
2-2.住宅ローンの金利が優遇される
2-3.地震保険料の割引が受けられる
2-4.資産価値が高くなる - アパート経営で住宅性能表示制度を活用するデメリット
3-1.建築コストが上がる
3-2.設計デザインが制限される
3-3.工期が長くなる可能性がある - アパート経営における住宅性能表示制度のポイント
- 住宅性能評価を導入しているアパート経営会社
5-1.シノケンプロデュース
5-2.アイケンジャパン - まとめ
1 住宅性能表示制度とは
住宅性能表示制度とは、国が定めた基準をもとに住宅の性能を評価する仕組みのことです。「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に基づいた制度で、共通基準である「評価方法基準」をもとに国に登録されている第三者機関が評価する仕組みです。
住宅性能表示制度は、次の2つの種類に分けられています。住宅の性能が評価されると、住宅性能評価書が交付される流れとなっています。
- 設計性能評価…設計段階で図面をチェックした評価
- 建設性能評価…設計段階の性能が完成後に適切に発揮されているかを評価
住宅性能表示制度は一戸建てだけではなく、マンションやアパートなどでも活用されています。一般社団法人住宅性能評価・表示協会の資料「住宅性能表示制度の利用率の推移」によると、2009年度に着工された386,870戸の共同住宅のうち、設計住宅性能評価の交付を受けた件数は71,291戸で、割合は18.4%となっています。
これに対して2020年度は、新築着工戸数418,653戸のうち、設計住宅性能評価の交付を受けたのは110,194戸となっています。割合が26.3%に上昇しており、導入している共同住宅が増えていることがわかります。
2 アパート経営で住宅性能表示制度を活用するメリット
住宅性能表示制度は、ハウスメーカーや工務店などだけではなく、シノケンプロデュースやアイケンジャパンなどのアパート経営会社なども活用しています。そこでこの項目では、住宅性能表示制度を用い、住宅性能評価を得ることで得られる代表的な4つのメリットについて解説していきます。
2-1 住宅性能が見える化される
住宅性能表示制度を活用する大きなメリットは、住宅の性能が第三者機関によって正当に評価されることです。
住宅は見た目だけではなく、長く快適に住むためにどのような性能が備えられているのかも重要です。そのため住宅性能が見える化されることで、住宅を購入する際に品質の高さで選ぶことができるようになり、欠陥住宅を購入してしまうリスクを減らすことにもつながります。
2-2 住宅ローンの金利が優遇される
住宅金融支援機能が提供する住宅ローン商品の【フラット35】Sは、省エネルギー性、耐震性、バリアフリー性、耐久性・可変性が一定以上の評価を受けている場合、金利が年0.25%優遇されるプランです。
例えば【フラット35】S(金利Bプラン)では、耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上の住宅であれば適用されることになります。
このほか民間の金融機関でも、住宅ローンや、アパート・マンション投資などに適用される不動産投資ローンにおいても金利が優遇される可能性があります。
2-3 地震保険料の割引が受けられる
「住宅の品質確保の促進等に関する法律」が規定した評価方法基準によって「耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)」を取得した住宅は、火災保険などに特約でつけることができる地震保険の保険料が割引の対象になります。
つまり、住宅性能表示制度を活用して交付された住宅性能評価書があると、割引が受けられるということです。割引率は耐震等級によって決まっており、下記のようになっています。
- 耐震等級3等級:30%
- 耐震等級2等級:20%
- 耐震等級1等級:10%
地震保険は、政府と損害保険会社が共同で運用しているため、契約する保険会社によって保険料が異なるということはありません。そのため住宅性能評価を得ることで地震保険料が割引されるのは、大きなメリットと言えます。
2-4 資産価値が高くなる
住宅性能表示制度によって交付された住宅性能評価書は、国土交通省が定める基準を満たしていることの証明書となります。住宅の性能に対する信用性が増し、資産価値が高くなります。
また不動産を売却する際は買主候補の方から値段交渉が行われることもありますが、住宅性能評価書の交付を受けているという点をメリットに感じてもらうことで、同規模の物件と比較して高値売却に繋がる可能性もあると言えるでしょう。
3 アパート経営で住宅性能表示制度を活用するデメリット
住宅性能表示制度を活用するメリットについて把握したところで、デメリットについても確認しておきましょう。
3-1 建築コストが上がる
住宅性能評価を受けるには、国土交通省が定める基準を満たす必要があります。そのため、住宅性能評価を受けないで建築するケースに比べて建築資材や施工内容のグレードが上がり、建築コストが高くなります。
また、住宅性能表示制度を申請する際の費用が別途請求されます。初期費用がやや高くなることで、アパートの利回りに影響することも考えられます。
3-2 設計デザインが制限される
住宅性能評価を獲得するために、間取りや設計デザインの自由度が下がることも考えられます。大きな吹き抜けや柱や壁のない大きな空間を作ると耐震性能は下がってしまうため、断念せざるを得ないケースもあるからです。
同様に耐震性能を優先すると、日当たりを良くしたくても、窓を大きくできないこともあります。つまり、住宅性能評価を獲得するために、設計デザインについても考慮する必要があるということになります。
3-3 工期が長くなる可能性がある
住宅性能表示制度を活用して住宅性能評価を獲得する流れは、下記のような手順になります。
- 設計図書の作成
- 設計住宅性能評価の申請
- 設計図書の評価
- 設計住宅性能評価書の交付
- 施工段階・完成段階の検査
- 建設住宅性能評価書の交付
設計図面を評価してもらう際に、必要書類などを提出して申請をします。その際、必要な場合は設計図面に修正が入ります。つまり、設計の段階で第三者の調査機関の審査を受けるため、設計図面がそのまま採用される訳ではないということなのです。
また設計図面を修正して再評価してもらい、評価書が交付される流れになるため、通常よりも工事に取り掛かるまでの期間が長くなることが考えられます。
一方、施工段階や完成段階の検査は、「基礎工事」「躯体工事」「内装工事」「屋根工事」「竣工」に対して行われ、検査は合計5回以上になることもあります。検査の際に工事が止まることもあるため、工期が長くなる可能性があるのです。
4 アパート経営における住宅性能表示制度のポイント
住宅性能表示制度のメリットとデメリットを把握したところで、具体的な内容について見ていきましょう。評価されるのは、下記の10分野・34事項(新築住宅は32事項)です。
- 構造の安定に関すること
- 火災時の安全に関すること
- 劣化の軽減に関すること
- 維持管理・更新への配慮に関すること
- 温熱環境に関すること
- 空気環境に関すること
- 光・視環境に関すること
- 音環境に関すること
- 高齢者等への配慮に関すること
- 防犯に関すること
住宅性能評価は以上の10分野に関してそれぞれ性能表示事項が設けられており、10分野・34事項(新築住宅は32事項)で評価されます。詳しく解説していきます。
構造の安定に関すること
住宅は地震や暴風、積雪などの影響を受けるため、壊れるなどして財産としての価値が失われることがあります。そのため柱や梁、壁、基礎などの構造躯体の強さを評価するのが、この「構造の安定に関すること」です。
評価項目は「耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)」「耐震等級(構造躯体の損傷防止)」など7つあり、地震に対する構造躯体の倒壊、崩壊などのしにくさなどが評価され、住宅性能評価書に表示されます。
火災時の安全に関すること
評価のポイントは「安全な避難を確保するための対策」と「延焼を防止するための対策」の2つです。これに対して「感知警報装置設置等級(自住戸火災時)」「避難安全対策(他住戸等火災時)」「脱出対策(火災時)」「耐火等級(界壁及び界床)」などの7つの事項について評価・表示されます。
劣化の軽減に関すること
住宅に使われている材料は、水分や大気中の汚染物質などの影響を受けて時間経過とともに劣化するものです。建築用資材が腐ったり、錆びたりすると、住宅の継続使用が困難になってしまいます。そのため建築用資材の劣化速度を遅らせるために、どのような対策が講じられているのかが評価するポイントです。
評価事項は「劣化対策等級(構造躯体等)」の1つで、アパートのような木造住宅の場合は木材の腐朽やシロアリ被害を軽減するための対策などが評価されます。
維持管理・更新への配慮に関すること
内外装で隠されてしまうことの多い給排水管や給湯管、ガス管における、点検や清掃、補修のしやすさの評価です。
アパートのような共同住宅の場合は、排水管が寿命となった際の交換のしやすさも評価の対象になっています。評価事項は「維持管理対策等級(専用配管)」「維持管理対策等級(共用配管)」「更新対策(共用排水管)」「更新対策(住戸専用部)」の4事項です。
温熱環境に関すること
室内の温度を適切に制御できるように、住宅の構造躯体の断熱化・気密化などのほか、夏期における日射を遮蔽する対策など住宅本体の効果が評価されます。また、結露の発生を抑制するための対策についても評価対象です。評価事項は「省エネエルギー対策等級」の1事項のみとなっています。
空気環境に関すること
この分野で評価されるのは、住宅内の水蒸気や代表的な化学物質の濃度を低減するための対策です。評価事項は「ホルムアルデヒド対策(内装及び天井裏等)」「換気対策」「室内空気中の化学物質の濃度等」の3事項となっています。
「換気対策」については、「2時間で住宅の空気がほぼ入れかわる程度の換気が常時確保できるよう計画的な換気対策が講じられているかどうか」が評価され、表示されます。
光・視環境に関すること
住宅の窓には日照や採光、通気などの物理的効果に加えて、眺望、開放感、安らぎの享受などの心理的な効果もあります。そのため、居室の開口部の面積と位置についての配慮が評価され、表示されます。
評価事項は2つあり、開口部の大小を床面積との比率で評価する「単純開口部」と、東西南北のどちらの方向により多くの開口部がある住宅なのかを評価する「方位別開口比」です。
音環境に関すること
アパートなどの共同住宅の床や壁の遮音性、住宅の外壁に設ける窓の遮音性を高める効果が評価され、表示されます。共同住宅については下記の3つの音に対する対策が評価されます。
- 重量床衝撃音…子供が走り回る音など
- 軽量床衝撃音…食器などが落下する音など
- 空気伝搬音…人の話し声など
評価事項は「重量床衝撃音対策」「軽量床衝撃音対策」「透過損失等級(界壁)」「透過損失等級(外壁開口部)」の4項目です。
高齢者等への配慮に関すること
「高齢者等配慮対策等級(専用部分)」と「高齢者等配慮対策等級(共用部分)」の2つの事項で評価され、表示されます。評価の対象となるのは「移動時の安全性」と「介助の容易性」という 2 つの目標を達成するための対策で、車椅子を使用したり、介助者の助力を得たりする際に必要なスペースがあるかどうかです。
具体的には、通路や出入口の幅、浴室・寝室・便所の広さ、共用階段への手すりの設置や勾配の工夫、共用廊下の段差の解消、傾斜路や手すりの設置などが評価対象となります。
防犯に関すること
住宅の防犯性を向上させる4つの項目のうち、「開口部の侵入防止対策」を評価事項とし、防犯対策が評価されます。共同住宅の場合、各階の住戸の出入り口の他、下端までの高さが2m以下の窓などの開口部が評価対象となります。
評価のポイントは、通常想定される侵入行為による外部からの侵入を防止するための対策がとられているかどうかです。評価内容は「すべての開口部や侵入防止対策状有効な措置が捉えている」「シャッターや雨戸によって対策が講じられている」などとなっています。
住宅性能評価を受ける場合は、この10分野のうち「構造の安定に関すること」「劣化の軽減に関すること」「維持管理・更新への配慮に関すること」「温熱環境に関すること」の4項目が必須となっています。
5 住宅性能評価を導入しているアパート経営会社
この住宅性能表示制度について、アパート経営会社では具体的にどのように活用しているのかを見て行きましょう。今回は、シノケンプロデュースとアイケンジャパンの2社の事例についてご紹介します。
5-1 シノケンプロデュース
シノケンプロデュースは「シノケングループ」の100%子会社で、日本で初めて新築アパート経営において独占提携ローンを利用した有利な条件での不動産購入を可能にしたローン融資に強い会社です。
グループ会社のシノケンファシリティーズでは管理戸数47,000戸以上(2023年12月末時点)の実績と入居率98.56% (2023年年間平均入居率)の実績があり、初回の入居が成約になるまで家賃を100%保証する「100%初回満室保証」や、入居者からの家賃の支払いが遅れた場合の家賃滞納保証など、収益を生むための保証制度も充実しています。
シノケンプロデュースが実施するアパートの住宅性能評価
シノケンプロデュースでは、すべての土地に対して地盤調査を実施しており、第三者の地盤調査会社の調査内容に基づいて適切な対策工事を行っています。特徴的なのは、強固な土地の底面全体にコンクリートを打ち込む「ベタ基礎」構造で、これにより高い耐震性を実現しています。そのため創業から30年以上、倒壊・半壊は0棟、液状化による被害も0棟の実績を維持しています。
また構造躯体として使用しているのは、鉄の約2倍、コンクリートの約12倍の強度を誇る木材で、火や熱にも、劣化にも強くなっています。そのため供給するアパートは、劣化対策等級2準拠の耐久性能を保有しています。
5-2 アイケンジャパン
アイケンジャパンは、2006年8月に福岡市中央区で設立した不動産投資会社です。現在は福岡本社と東京本社のほか、国内の9カ所と海外1カ所に拠点を展開しています。「堅実なアパート経営」をコンセプトに掲げているのが特徴で、投資用木造アパート「グランティック」シリーズなど1,000棟以上のアパートを全国各地で供給しています。
アイケンジャパンが実施するアパートの住宅性能評価
アイケンジャパンで建設するアパートは、独自のBSP構造(Basic rubber Seismic board Protect)をすべての物件に採用しており、耐震性能は建築基準法で定められている基準の約1.3倍となっています。
例えば、アパートの土台と基礎の間には積層ゴム「キソゴム」を設置しており、建物に伝わる揺れを軽減することができます。振動や衝撃が吸収できるため新築時の剛性を維持しており、長期間にわたって高い耐震性能を維持することができるのです。また壁の変形に対応する「耐力壁」を多用しているのも特徴です。
これらの技術により、2017年以降に販売されている物件はすべて劣化対策等級3に適合しています。
まとめ
住宅性能表示制度は目に見えにくい住宅の性能を、第三者が評価する制度です。国が住宅性能に対して評価を行うため、新築や中古に関わらず、住宅を購入する際に参考にすることができます。
アパート経営会社でも住宅性能表示制度を活用して、物件の性能を高める取り組みを行っています。長期にわたって運営していくアパート経営においても、耐久性や劣化しにくさなどが数値化されて評価されていることで、経営判断に役立てることができるでしょう。
倉岡 明広
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