不動産経営の戦略として更新料を無料にするかどうか迷う方も多いのではないでしょうか。以前まで2年間ごとに更新料を請求する賃貸物件が主流でしたが、近年では更新料を無料にする戦略を取り入れている賃貸も増えてきています。
そこで、当記事では不動産経営で更新料を無料にすることで得られるメリットや、注意したいデメリットなどを紹介していきます。
目次
- 不動産経営で更新料が設定されている背景
- 不動産経営で更新料を無料にするメリット
2-1.退去理由となる要因を減らすことができる
2-2.入居率が上がり空室リスクが低くなる
2-3.長期目線では家賃収入が多くなるケースも
2-4.入居者との金銭トラブルを減らすことができる - 不動産経営で更新料を無料にするデメリット
3-1.管理会社へ委託している場合は更新料の負担が必要
3-2.更新料による収入が無くなる - 不動産経営で更新料を交渉された時の対処方法
4-1.まずは更新料の値下げ交渉の理由を伺う
4-2.入居率・時期・エリアによって対応・拒否を判断
4-3.入居者へ更新料に納得してもらうエビデンスを提示 - まとめ
1.不動産経営で更新料が設定されている背景
賃貸不動産で更新料が設定されている理由としては、多くの場合、1〜2年ごとに設けられている賃貸契約の更新に伴う手数料として徴収する文化が根付いているためです。
例えば、国土交通省の「民間賃貸住宅に係る実態調査」によると、更新料を徴収する理由のアンケート結果(複数回答)では「一時的金収入」が53.0%、「長年の習慣」が50.4%を占めています。
また、賃貸契約が2年契約である理由としては、借家賃貸法の第二十九条に一年未満の賃貸契約は期間の定めが設けられていないことが要因の1つです。
期間を一年未満とする建物の賃貸借は、期間の定めがない建物の賃貸借とみなす。(借地借家法:第二十九条)
1年以上の賃貸契約は貸主の都合で契約を解除を行い、賃貸契約を終了することができません。結果として1年以上の賃貸契約は大家都合でいつでも退去させることができないため、借主を守る法律としても機能しています。
また1年での賃貸契約は短すぎるため、貸主・借主の両者が納得する2年契約が現在では主流です。加えて火災保険や保証会社の契約も2年間契約で結ばれていることが多く、更新料として管理会社や大家がまとめて徴収する場合もあります。
このような文化的背景や事務処理の都合から、2年契約の契約更新ごとに長年の習慣として更新料の支払いを求めている賃貸が多いというのが、賃貸で更新料が設けられている背景となります。
2.不動産経営で更新料を無料にするメリット
2-1.退去理由となる要因を減らすことができる
不動産経営で更新料を無料にすることで得られるメリットとして、退去理由となる要因を減らすことができる点があげられます。
入居者の方の中には、更新料が発生する前に引っ越しを行い更新費用の負担を回避したい心理が働くことがあります。そこで更新料を無料にすることで入居者の退去するきっかけを減らし、長く入居してもらえるように対策することができるのです。
更新料の無料化は、入居者の退去要因を減らし、入居期間をできるだけ長く見込みたい場合に検討できる施策の1つでしょう。
2-2.入居率が上がり空室リスクが低くなる
更新料を設定している賃貸が多い中、更新料が設けられていない物件は家賃の出費をおさえることができる借主(入居者)にとっても魅力的な賃貸物件となります。
そのため、更新料を設定している物件と比較すると訴求力があり、高い入居率を期待することもできるでしょう。
入居者の募集時にも「更新料無料」として、ネット広告などでアピールすることができるのも大きな強みです。特に周囲に同条件のライバル物件が多いエリアや、需要の少ないエリアなど空室リスクの高い物件ほど、更新料無料は選択肢として候補となる戦略の1つです。
2-3.長期目線では家賃収入が多くなるケースも
更新料を設けなかった場合、結果として長期目線では更新料を設定しないケースと比較した場合に家賃収入が多くなるケースもあります。
例えば、更新料が設けられている賃貸で頻繁に退去者が発生する物件の場合、原状回復費用や新規入居者の仲介手数料といった費用が退去のたびに発生します。
筆者自身の物件(戸建・DIY物件)も退去費用の発生や空室期間といったリスクへ対策するために、更新手数料を設けず運用を行いました。結果として、更新料を設けず長期で入居してもらう物件のほうが総合的な家賃収入が多くなるケースがある点も不動産経営で押さえておきたいポイントです。
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2-4.入居者との金銭トラブルを減らすことができる
更新料は家賃とは別に入居者へ請求する費用のため、入居者との金銭トラブルの引き金になり得る要因となります。更新料を設定しないことにより、このようなトラブルの原因をなくすことが可能です。
例えば、周囲価格より低めの家賃を設定し更新料を高めに設定する戦略を採用しているケースでは、更新手数料の存在を忘れていた入居者が支払い遅延・未払いを引き起こすといったトラブルが想定されます。実際に更新料を支払わない入居者によるトラブル事例も多く、トラブル対応によって時間的な負担が伴うこともあります。
更新料を無料にすることで、物件管理で経営者の負担となるトラブルの原因自体を無くすことができるのもメリットの1つです。
3.不動産経営で更新料を無料にするデメリット
3-1.管理会社へ委託している場合は更新料の負担が必要
更新料を無料にするデメリットは、管理会社へ委託している場合には大家自身が更新料を負担するケースがある点でしょう。
管理会社は更新手数料を報酬として設けているケースが多く、この場合、取り分を大家との「1:1」で設けているケースが殆どです。
そのため、更新料を無料にする場合には、本来入居者が負担する管理会社への費用を大家が負担する必要があります。特にアパートやマンションといった部屋数の多い物件では、総合的な更新料の大家負担額が大きくなることが想定されるでしょう。
もしくは更新料を無料で設定する代わりに、家賃に上乗せすることで管理会社への支払いを補填するといった戦略が求められます。更新料無料の戦略は管理会社へ委託を行わずに戸建物件で自己管理を行うケースなど、管理する世帯が少ない賃貸に向いた戦略となる点に注意が必要です。
3-2.更新料による収入が無くなる
更新料は定めた期間で一定収入を見込める仕組みのため、家賃収入として軽視できない収益となります。無料に設定した場合には、更新料による収入が見込めません。
そのため、更新料を設定したケースと設定していないケースで入居期間の同条件で比較した場合には、更新料を設定しているケースのほうが収益も多くなることが予想されるでしょう。
比較的空室リスクが低い人気エリアの場合には、更新料を設けた場合のほうが総合的な利回りアップも想定することができます。
一例として京都では1〜2ヶ月分の更新料・更新事務手数料を求める物件が数多く、全国各地と比較すると賃貸の更新手数料が高めに設けられている文化を持つ特殊なエリアです。
※参照:国土交通省「民間賃貸住宅に係る実態調査」
このようなエリアで敢えて更新料を無料にする手段で強みを持たせるのも戦略の1つとなりますが、自身が運営する物件にその他の強みがある場合には、本来獲得できていたはずの収益を失う恐れがあります。
特に管理会社へ物件の管理を依頼しているケースでは、長期間の入居が続いた場合に更新料を設定した賃貸は更新料が設けられた賃貸より収益が低くなる点に注意が必要でしょう。
4.不動産経営で更新料を交渉された時の対処方法
4-1.まずは更新料の値下げ交渉の理由を伺う
入居者からの更新料の値下げ交渉といった対処に関しては、まずは値下げ交渉を行う理由を伺いましょう。理由次第で1度だけ更新料の値下げに応じたりなどの相談や、入居者側に明確な事情がなければ断ったりすることができるためです。
中古不動産の買付・売却を経験したことがある方であれば、指値交渉でのやり取りを思い出すとイメージしやすいでしょう。例えば、入居時にはなかった設備不良や環境の変化など、入居者が値下げ交渉を行う理由によってはその問題の解消を手伝うことで、交渉を取り下げてくれることも期待できます。
4-2.入居率・時期・エリアによって対応・拒否を判断
理由を伺った上で物件の入居率や時期、エリアといった総合的な情報を踏まえた上で対応か拒否を判断することもできます。また、更新手数料の交渉を断っても、すぐに次の入居者が見込める時期やエリアであれば、拒否判断を行うのも不動産経営者が取れる打ち手の1つでしょう。
また、新型コロナウィルスの影響といった一時的な環境の変化により入居者の職務に影響が出ている場合、問題の少ない入居者であれば1回限りで受け入れるのも検討したい選択肢です。
4-3.入居者へ更新料に納得してもらうエビデンスを提示
更新料の値下げ交渉を拒否する場合には、具体的に値下げが行えないことが伝わるよう、エビデンスを提示するのも入居者に納得してもらうために施しておきたい対策です。
例えば、管理会社に相談して周辺エリアの賃料相場や更新料設定の有無などを確認し、競合と比較して劣後していないことを示してみるのも良いでしょう。更新料が理由で退去を検討している方であれば、納得感を持って入居を続けてもらえる期待も持てます。
理由もなく値下げ交渉の拒否を行った結果、入居者側は納得がいかず更新料に不満を抱えた結果として退去へと繋がることもあります。値下げ交渉に応じれない場合であっても、できるだけ丁寧に回答することを心がけておくと良いでしょう。
まとめ
不動産経営で悩ましい更新料の設定問題や交渉への対応方法については、各投資家の所有する物件の立地条件やタイミングによって取るべき打ち手が変化します。
地方エリアや不人気のエリアなど、空室リスクが高い物件では長期間の入居を見込むために、あえて更新料無料へ設定するのも不動産経営で選択肢の1つとしておさえておきたい戦略の1つです。
今後不動産投資を検討している方は、借主からの更新料の交渉が行われる可能性を踏まえた上で、自身の物件に適切な更新料の設定を決定していきましょう。
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