世界のカーボンクレジット取引所、主要3箇所の特徴を解説

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一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。

企業や団体の間で注目が高まっている「ボランタリークレジット」を背景に、多くの証券取引所がボランタリーカーボンクレジット市場を開設しています。実際、温暖化ガス排出量実質ゼロを目指す企業が次々に参入したことを受けてその市場規模はますます拡大を見せており、アメリカの「マッキンゼー・アンド・カンパニー」の分析によると、2030年には世界で最大1800億ドル(約24兆円)という、2020年比でおよそ600倍にも成長する可能性があると発表されています。

そこで今回は、現在話題の世界のカーボンクレジット取引所について、それぞれの概要や特徴などを詳しく解説していきます。

目次

  1. カーボンクレジットとは
    1-1.カーボンクレジットの概要
    1-2.カーボンクレジット開発の背景
    1-3.カーボンクレジットの種類
  2. GXリーグ
    2-1.取引所の概要
    2-2.GXリーグの特徴
  3. 米シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)
    3-1.CMEの概要
    3-2.CMEの特徴
  4. 香港証券取引所(HKEX)
    4-1.HKEXの概要
    4-2.HKEXの特徴
  5. まとめ

①カーボンクレジットとは

1-1.カーボンクレジットの概要

カーボンクレジットは、温室効果ガスの排出削減をクレジット化する仕組みで、企業間での取引が可能です。これにより、企業は温室効果ガスの排出削減が困難な場合、クレジットを購入して排出量を相殺できます。

クレジットのカテゴリーは主に「回避・削減」や「吸収・貯蓄」に分けられ、多様なプロジェクト、例えば森林保護や植林、農業活動、エネルギー関連活動などから生まれています。日本の「J-クレジット」のような政府主導型と、民間組織が発行する「ボランタリークレジット」の2種類があり、特に後者の市場が拡大しています。

1-2.カーボンクレジット開発の背景

カーボンクレジットが開発された背景としては、近年深刻化している地球温暖化などの気候変動問題があります。

地球温暖化に関する報告書である「IPCC第5次評価報告書」においては、有効な温暖化対策をとらなかった場合、21世紀末(2081年~2100年)の世界の平均気温は20世紀末ごろ(1986年~2005年)と比べて2.6~4.8℃ほど上昇し、厳しい温暖化対策をとった場合であっても0.3~1.7℃上昇する可能性が高いと言われています。さらに、平均海面水位は、最大82cm上昇する可能性が高いと予測されているなど、地球温暖化は我々にとって早急に解決すべき世界的な問題となっています。

このような背景から、温室効果ガスの排出を管理・削減する手段としてカーボンクレジットが開発されました。排出権の売買により、国や企業は柔軟に排出量を管理できるようになり、効率的な環境対策の推進が期待されています。

1-3.カーボンクレジットの種類

カーボンクレジットの取引市場は多岐にわたり、その中でもボランタリークレジットの領域には様々な評価基準やプログラムが存在します。今回は、特に代表的な4つのボランタリークレジットを取り上げ、その概要や特徴について解説します。

①Verified Carbon Standard(VCS)

2005年に「WBCSD」と「IETA」をはじめとする企業団体によって設立されたVCSは、現在「Verra」というアメリカの団体によって管理されています。VCSは、ボランタリークレジットの中で最も取引量が多いとして知られています。そのクレジットの創出方法としては11のカテゴリー(エネルギー/工業プロセス/建設/農業/家畜など)が認められており、それに該当しない新たな方法論の提案も受け付けられています。

②Gold Standard(GS)

「WWF(World Wide Fund for Nature)」をはじめとする国際的な環境NGOが2003年に設立したGSは、サスティナブルな開発への貢献が保証されるという点で注目されています。特に、国連の「CDM」や「共同実施(JI)」のようなプロジェクトの品質認証も行っています。

③American Carbon Registry(ACR)

1996年に「Winrock International」というNPO法人によって設立されたACRは、世界初の民間クレジット登録機関として知られています。特に、厳格なカーボンオフセット基準や方法論の開発においての強みがあります。

④Climate Action Reserve(CAR)

カリフォルニア州が2001年に設立した「California Climate Action Registry」を元にしています。CARは、多部門のステークホルダーと共同で厳格な基準を設定し、透明性と品質の高いクレジットの発行を実現しています。

これらのボランタリークレジットは、各々が独自の特徴と強みを持ち合わせています。次に、世界各地の証券取引所におけるカーボンクレジット取引所の詳細について紹介します。

②GXリーグ

引用:GXリーグ

2-1.取引所の概要

「GXリーグ」とは、日本の経済産業省が2022年に始動した、カーボンニュートラル実現に向けた新制度です。

2020年、日本政府は気候変動対策として、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目標とした「2050年カーボンニュートラル」を宣言しました。この目標実現のため、経済産業省は企業が主導する「グリーントランスフォーメーション(GX)」の推進が必要と考え、GXリーグを設立しました。

このリーグは、GXに意欲的に取り組む企業を中心に、産業界、学術機関、官公庁が協力して経済社会全体の変革を目指すプラットフォームとなっています。具体的には、2050年の持続可能な社会の実現に貢献する企業の連携を促進する場として活動しています。

2-2.GXリーグの特徴

以下は、「GXリーグ」の主な特徴を紹介します。

①多様な対話の場を提供

GXリーグは、以下の4つの場を提供し、企業や機関間の先進的な対話を促進しています。

  • 自主的な排出量取引の場(GX-ETS)
  • マーケットルール形成の場(GX WORKING GROUP)
  • ビジネスチャンスの創出・共有の場(GX FUTURE SESSION)
  • 参画企業間の交流の場(GX STUDIO)

②循環構造の構築

GXリーグは、企業の行動や意識の変革を通じて新市場を創出し、それが消費者の意識や行動の変容に繋がる「循環構造」の確立を目指しています。この構造を通じて、企業の成長とともに、生活者の幸福や環境の向上を両立させる取り組みを進めています。

③排出量調整システムの推進

カーボンニュートラル実現の取り組みにおいて、産業や国ごとの取り組みの違いや効率性の差は避けられません。GXリーグは、このような不均衡を解消するための排出量調整システムを推進しています。さらに、国間での調整も視野に入れて、「カーボンクレジット」を活用した排出量取引の新システム開発も進めています。

③米シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)

引用:CME

3-1.CMEの概要

米シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)は、CMEグループがイリノイ州シカゴで運営するデリバティブ取引所で、その取引量は世界でもトップクラスです。多様な商品群が取引されており、金利、株価指数、為替、農産物、エネルギーなどが含まれます。

2021年3月にはカーボンクレジット市場における新商品の上場を行うことで、環境対応の取引をさらに拡大しました。具体的には、グローバル排出オフセット(GEO)という商品の先物がニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)に上場されました。これにより、1000トン分のCO2排出量を相殺するクレジット取引が可能になりました。この数量は日本の国民1人当たりが年間に排出する二酸化炭素量「約9トン」の110倍に相当します。

3-2.CMEの特徴

米シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)の特徴としては以下の点が挙げられます:

①クレジット価格に関するリスクヘッジが可能

CMEの提供する先物を利用することで、企業は将来のクレジット価格の変動に対するリスクを軽減することができます。この先物を用いれば、3年先のクレジット価格を固定することが可能となり、脱炭素目標に伴う余剰クレジットの売却などのリスクを予めヘッジすることができます。

②「CBL C-GEO」先物の取り扱い

2022年には、ESG関連商品を取扱う「Xpansiv」の「CBL C-GEO」クレジットの先物も上場されました。このクレジットは、マーク・カーニー氏が推進するボランタリーカーボンクレジット市場の基準「CCP」に準拠しています。このような国際的に認知された基準に準拠した商品を取り扱うことで、CMEは高品質で信頼性のある取引環境をクライアントに提供しています。

総じて、米シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)は、多様な商品取扱いと先進的な取引環境を提供することで、国内外の多くの投資家から高い評価を受けている取引所です。特にカーボンクレジット市場への参入は、今後の環境問題に関する取引拡大の先駆けとなるでしょう。

④香港証券取引所(HKEX)

引用:HKEX

4-1.HKEXの概要

「香港証券取引所(HKEX)」は、世界の主要な証券取引所グループの1つです。この取引所は、証券やデリバティブ市場を運営するだけでなく、関連する清算機関も手がけています。2012年には、世界最大の非鉄金属マーケット、「ロンドン金属取引所(LME)」を買収。これにより、その事業の幅をさらに広げています。

HKEXは、2022年10月28日にボランタリーカーボンクレジットの取引プラットフォーム「コア・クライメート(Core Climate)」の立ち上げを発表しました。これは、企業のカーボンクレジット需要の増加に対応するためのものです。また、2022年7月5日には、多数の企業や金融機関と共同で「香港国際炭素市場協議会(HKIC)」を設立。これを通じて、香港をアジアや世界の炭素取引の中心地として確立する方針を明らかにしています。

4-2.HKEXの特徴

次に、香港証券取引所(HKEX)の主な特徴を紹介します。

①ワンストップサービス

HKEXは、参加者に対して炭素削減や除去などの国際的に認証されたカーボンプロジェクトから得られるカーボンクレジットの調達や保有、取引、決済、償却をワンストップで提供するサービスを提案しています。これにより、新たな気候変動対策のプロジェクトへの資金調達や、クオリティの高いカーボンクレジットの供給など、以前からの市場の問題への対応が可能となります。

②グレーターベイエリアのマーケット発展に貢献

香港は、9つの広東省都市とマカオと共に、経済的に急成長している「グレーターベイエリア」を形成しています。コア・クライメートはこのエリアにおけるカーボンマーケットの発展に対して、重要な役割を果たすと考えられています。当初はカーボンクレジットの現物取引のみが行われていましたが、未来にはカーボンクレジットに関連するさまざまな金融商品が開発されることが予想され、これにより市場の拡大が加速するでしょう。

⑤まとめ

世界は現在、気候変動問題への取り組みを強化しており、それに伴いカーボンクレジット取引所の役割も増しています。多くの国々がボランタリーカーボンクレジット市場を立ち上げており、その規模は日々拡大を続けています。

今回の内容から、カーボンクレジット市場に参加する際、各取引所の特色や提供しているサービスをしっかりと把握することが重要であることがわかります。それぞれの取引所が持つ独自の特性や利点を理解することで、参加者は最適な取引プラットフォームを選択する手助けとなるでしょう。

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中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12