アパート経営では、2025年サブリース問題が近年話題にのぼっています。これは、過去10年ほどの法改正や社会環境の変化により、2025年にサブリース契約の賃料引き下げが相次ぐリスクです。月々の収支の減少要因となるため、サブリース契約でアパート経営を行なっている方は、早めの対策が必要です。
今回の記事では、2025年サブリース問題の背景と対策について紹介します。
目次
- 2025年サブリース問題とは?
- 2025年サブリース問題に関する過去の経緯
2-1.2015年の相続法改正とサブリース契約の急増
2-2.築10年は賃料減額の一つの節目となることも
2-3.団塊の世代の高齢化が空室リスクの上昇に - 2025年サブリース問題に対する対策は?
3-1.引き下げ水準が正当なものかを交渉
3-2.繰上げ返済による残債の処分
3-3.物件売却を検討するのも一案 - まとめ
1 2025年サブリース問題とは?
「2025年サブリース問題」とは、サブリース契約における賃料の引き下げリスクが2025年に高まると予測されている問題です。
サブリースは相続法が改正された2015年ごろから急増した契約形態です。サブリース契約では、契約当初は5年程度、その後は2年ほどのサイクルで契約賃料を見直す契約が多いため、2015年に経営を始めたオーナーの中には、2025年に賃料見直しが入る方も多いと想定されています。
2025年は、かつて団塊の世代と呼ばれた人口のボリュームゾーンを形成する年代が後期高齢者になっており、賃貸需要が大きく剥落すると想定されるのです。今後も日本全体では人口減少が想定されるなか、地域によってはサブリース業者による賃料引き下げ要求が増えると考えられます。
サブリース契約でのアパート経営では、1区画あたりのサブリース契約賃料×戸数が自動的にその物件の収入となります。サブリース契約賃料の引き下げは、月々のキャッシュフローに大きな影響を及ぼす可能性があるのです。
2 2025年サブリース問題に関する過去の経緯
2025年サブリース問題は、2015年の相続法改正を契機に多くの不動産所有者が土地を手放したため、サブリース契約によるアパート経営が増加したことが背景にあります。2025年サブリース問題の背景と経緯について整理しましょう。
2-1 2015年の相続法改正とサブリース契約の急増
2015年に、相続税の改正法案が可決され、2016年より施行されました。この法案の重要な変更としては相続税の基礎控除額が大幅に引き下げられたことです。(参照:国税庁「相続税 改正」)
- 改正前:5,000万円+1,000万円 × 法定相続人数
- 改正後:3,000万円+600万円 × 法定相続人数
たとえば法定相続人が1人の場合、改正前は6,000万円以内であれば相続税がかかりませんでした。しかし、改正後は3,600万円から相続税が発生する計算です。特に首都圏をはじめとした都市部では、この改正により新たに相続税が発生する方が急増しました。その結果、相続税対策のために不動産を売却する動きも加速したのです。
売却された物件の一定割合は、新築アパートなどに建て替えられて、個人投資家などに積極的に販売されました。販売が滞って値崩れが起こるのを防ぎ、また初心者の方でも不動産経営に取り組めるように、サブリース契約によるアパート経営を提案する業者が急増したのです。
2-2 築10年は賃料減額の一つの節目となることも
サブリース契約は賃料改定のサイクルが2〜5年程度に設定されているため、10年間経過した物件の多くは一度以上の賃料改定を受けていると考えられます。中でも、築10年と言うのは、しばしば賃料減額交渉を進める契機の年となります。築10年あたりから築浅物件として入居者を募るのが難しくなり、新築当初と比べて賃料が下落しやすくなるためです。
築10年を契機に最終的な入居者の賃料下落が懸念されるなかで、サブリース契約の賃料にも引き下げ要求がなされる場合が多いと言えます。
サブリースは以前「家賃保証」「賃料保証」と謳って提案がなされた時期もありますが、このような表現は「家賃は空室に関わらず下落しない」と誤認されやすく、2020年12月15日より、賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の一部、いわゆるサブリース新法が施行されました。新法では、サブリース契約のメリットのみを強調し、賃貸事業のリスクを過少に見せるような誇大広告は、契約内容などの誤認を招くものとして禁止しています。
2015年頃に契約をした方はサブリース新法の施行前の段階で提案を受けていることになり、誤認されている方も少なくありません。この点を誤認して契約していた場合、思わぬ形でキャッシュフローが減少して困るオーナーも想定されます。
サブリース新法について
2020年に「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」が制定され「賃貸管理業者の登録義務」と「サブリース事業運営の規制」が整備されました。いわゆるサブリース新法により、賃貸管理業者は、以下の要件を満たした上での、国土交通省への登録が義務づけられました。
- 業務管理者(宅地建物取引士など)の専任
- 管理受託契約前の重要事項説明書交付と説明および契約書の交付
- 業者資金と管理委託するオーナー資金の分別管理
また、サブリース業者は以下の規定を遵守して運営しなければならないことになっています。
- 誇大広告の禁止や不当な勧誘の禁止
- サブリース事業に係るマスターリース契約前の重要事項説明書交付と説明および契約書の交付
さらに、以下の情報を伝達した上で契約することも義務付けられました。
- 将来的に家賃が変更(減額)される可能性
- オーナーからの契約解約は正当事由が必要
これらはあくまで、事業者がきちんとリスク面について誤認させることなく、サブリース事業を提案するための規制です。オーナーの賃料減額リスクがなくなるわけではなく、過去と比べてオーナーが簡単に解約できるようになる法律でもありません。サブリース新法によって2025年サブリース問題が解決したわけではないので注意しましょう。
2-3 団塊の世代の高齢化が空室リスクの上昇に
2025年は団塊の世代が後期高齢者となる時期です。団塊の世代とは、第一次ベビーブームが起きた1947年〜1949年に生まれた人たちを指す言葉です。逆算すると、2025年にはすべての団塊の世代に属する方が75歳以上となります。
これを機に賃貸暮らしをやめて、家族との同居や高齢者施設へ移る人が増えて来ると想定されます。日本全体で一気に賃貸需要が減少するため、特に高齢化が進む地域を筆頭に空室率の上昇が想定されるのです。空室の発生は、サブリース契約の家賃の引き下げを進める材料となりえます。
3 2025年サブリース問題に対する対策は?
借地借家法の観点からは、サブリース契約は借り手に当たる業者の権利が強く保護されるため、家賃引き下げを完全に拒否するのは難しい現状があります。
一方で、周辺の賃料水準などを踏まえて正当な引き下げでなければ、引き下げ幅を縮小するよう交渉する余地はあります。また、残債の処分が進んでいるなら、物件を売却するのも一つの選択肢となるでしょう。
3-1 引き下げ水準が正当なものかを交渉
サブリースは、その契約形態から、借り手である業者の権利が保護されるシステムです。具体的には業者側から賃料の減額請求ができます。借地借家法32条に基づくと、本質的にはオーナーからの増額請求も可能ですが、オーナーと業者には情報の非対称性があるため、実情としては業者からの減額請求が一方的になされるケースが多いのが実情です。
請求が正当なものであるにもかかわらずオーナーが応じなければ、一方的に契約解除される可能性もあります。この点は各サブリース契約を確認して、解約の要件やルールがどのようになっているか見ておきましょう。
なお、いきなり業者が契約解除するといま住んでいる入居者の対応や、解除後の物件管理の負荷が大きくなります。物件を所有したまま契約解除に進むのは、代わりの管理会社が見つかっていて、かつ既存入居者の対応等で損害が生じないという特殊なケースでない限り得策とは言えないでしょう。
賃料の引き下げ請求が来た時には、その引き下げが妥当なものかを確認した上で、もし不当な引き下げだと考えられる場合は、引き下げ幅を縮小できないか交渉してみましょう。減額請求の効力は強いように見受けられますが、不当な引き下げ要求については、認められなかった判例が複数存在します。
- 空室発生を理由とした賃料減額請求が認められなかった裁判例:千葉地方裁判所平成20年5月26日判決(平成17年(ワ)第1967号))
- 逆ざや状態を理由とした賃料減額請求が認められなかった裁判例(東京高等裁判所平成23年3月16日判決(平成22年(ネ)第6377号))
たとえば、当初の収支予測が過度に楽観的で空室発生によりすぐに業者に損失が出るようなスキームでは、引き下げが認められないケースがあります。周辺の賃料相場と照らし合わせて、合理的ではない引き下げ水準だった場合、物価が高騰しているのに逆行して大幅な引き下げを要求されたなど、合理性に欠ける引き下げについては、交渉をする余地があるでしょう。
3-2 繰上げ返済による残債の処分
引き下げ幅の減額交渉が難しい場合は、支出を減らして収支を改善できないか検討してみましょう。不動産投資においては、しばしば不動産ローンの返済が重い負担となり、収支の圧迫要因となっています。手元資金に余裕があり、残債の繰上げ返済が可能なら、返済により収支を改善できないか検討してみましょう。
貯蓄が減ってしまうので悩ましい判断になりますが、ローンは余裕があるなら早期に返済してしまった方が、金利負担を抑えられるため、投資期間全体で見た時のコストを減らせます。金利が高く利息が経営の負担となっている場合には、黒字を維持できる水準となるまでローンを返済するのも選択肢の一つとなります。
3-3 物件の売却を検討するのも一案
物件の売却により投資を終了させるのも一つの方策となりえます。経営期間がある程度経過していれば、残債が相応に減っていると考えられます。売却してしまうことにより、手元のキャッシュを残した状態で投資を終えられる可能性があるでしょう。その後赤字の状態で経営を継続するよりも、トータルで見て投資成績が向上する可能性があります。
ここで検討すべきは、サブリースを解約して売却するか、サブリース契約ごと売却するかの判断です。物件のスペックやサブリースの契約内容にもよって判断は異なりますが、売却を検討せざるを得ない状態なのであれば保証賃料も当初より大きく減額されていることが予想されるため、サブリース契約を解約した後に客付けを行い、問題をクリアにした段階で売却活動を行った方が市場では高く売却できる余地があります。
ただし、解約は自由にできるわけではなく、借主である業者の承諾が必要です。一定程度前に解約通知が必要だったり、違約金が発生したりするケースもあります。思わぬ形で売却できない事態に陥らないように、まずは契約内容の確認から始めるのが得策です。
業者が解約に応じてくれない時には、やむをえずサブリース契約を残したまま売却することも検討できます。次にアパートを所有するオーナーは、サブリース契約を保持して経営を引き継ぐ形となります。
サブリース契約は次の投資家の経営の自由を奪うものなので、市場相場より割安に取引される可能性があります。ただし、残債を処分してもなお現金が残るのであれば、割安な価格であっても売却により後の赤字を防ぐことができます。経営を継続する場合と比較検討して、最善の手段を取りましょう。
4 まとめ
2025年サブリース問題は、過去の相続税の改正や団塊の世代の高齢化などによって引き起こされる、サブリース契約の賃料引き下げリスクです。サブリース契約は基本的に借り手の交渉力の方が強くなるため、リスクを念頭においたうえで対策を取りましょう。
なお、減額交渉が行われても過度な引き下げは認められない場合があります。不動産会社に引き下げの根拠を確認しながら、根拠の合理性が乏しい時には、引き下げ幅の抑制を交渉してみましょう。また、残債の繰上返済による収支の改善や、物件売却の検討などが有効な対策となります。
サブリース契約を利用していると、変動しない賃料に慣れてしまっている方も少なくありません。本来、アパート経営は収支の悪化リスクがあるものであることを前提に、堅実な経営を心がけることが大切です。
伊藤 圭佑
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