国際民間航空のカーボンオフセットスキーム「CORSIA」

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一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。

目次

  1. 「CORSIA」とは
    1-1.「CORSIA」の概要
    1-2.「CORSIA」導入の背景
  2. 「CORSIA」の特徴
    2-1.二酸化炭素削減に推奨される4つのソリューション
    2-2.各国政府のICAOに対する報告義務
    2-3.航空間事業者のオフセット義務
  3. 「CORSIA」導入における3つのフェーズ
  4. 各国における取り組み事例
  5. まとめ

世界中で温室効果ガスの削減が進められる中、国際航空部門の二酸化炭素排出は全体の約2%を占めており、迅速な対策が必要とされています。

この背景から、「国際民間航空機関(ICAO)」は2016年総会で「CORSIA」というカーボンオフセットスキームを採択。2021年からは88カ国を中心に運用が開始されました。現在の参加国・地域は100を超え、CORSIAの取り組みは益々広がりを見せています。

今回は、国際民間航空のカーボンオフセットスキーム「CORSIA」について、その概要や特徴などを詳しく解説していきます。

①「CORSIA」とは

1-1.「CORSIA」の概要

「CORSIA」は「Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation」の略で、日本語では「国際民間航空のカーボンオフセットスキーム」と訳されます。2016年の「第39回ICAO総会」で採択され、排出量の削減を目指す市場メカニズム制度として導入されました。

ICAO自体は、1944年に「国際民間航空条約(シカゴ条約)」を基に設立された国連専門機関。国際民間航空の安全で順序だった発展や、公平な国際航空運送業務の運営を目的としています。ICAOは、国際航空運送の安全・保安やハイジャック対策を含むテロ対策などのための条約の制定のみならず、国際的な標準やガイドラインの作成も行っています。そして、CORSIAのように、国際航空業界の環境問題や気候変動対策も議論し、積極的に取り組んでいます。

CORSIAの制度の下では、航空会社はサスティナブルな航空燃料(Sustainable Aviation Fuels)を導入し、二酸化炭素の排出量を「ベースライン」以下に抑えることが求められています。ベースラインを超える排出がある場合、航空会社は「カーボンクレジット」を取得し、「カーボンオフセット」を実施することが義務づけられています。この取り組みにより、ICAOは航空業界のカーボンニュートラル達成を目指しています。

1-2.「CORSIA」導入の背景

2010年、ICAOは「2020年以降、国際航空からの二酸化炭素の総排出量を増加させない」というグローバルな目標を設定しました。その実現のため、2018年に「CORSIA制度」という規制的な枠組みを導入。これにより、航空会社はサスティナブルな航空燃料の導入や、新しい技術や運航方法を採用して、排出量をベースライン以下に抑えることが要請されました。

2021年からは日本を含む複数の国でCORSIAが試験的に導入されましたが、2024年以降はこれが義務的になる予定です。また、2022年の「第41回ICAO総会」でベースラインの基準が更新され、2024年以降は2019年の排出量の85%を新しい基準として設定しました。

さらに、2050年までのカーボンニュートラル達成を目指すという長期目標も採択され、航空業界の環境への貢献が一層強化されることとなりました。CORSIAは、航空分野の二酸化炭素排出削減のための国際的枠組みとして、今後も大きな役割を果たすでしょう。

②「CORSIA」の特徴

2-1.二酸化炭素削減に推奨される4つのソリューション

2010年、ICAOは「2020年以降の国際航空による二酸化炭素総排出量の増加を防ぐ」という目標を定めました。この目標の実現に向け、ICAOは以下の4つのソリューションを提案しています。

①新型機材などの新テクノロジーの導⼊
例として、ANAグループとボーイング社が共同で開発したボーイング787型機は、炭素繊維複合材の採用により、軽量化とエンジン性能の向上を実現しました。これにより、旧型のボーイング767型機と比較して、燃費効率が約20%向上しています。このような技術革新により、環境への負荷を低減する運用が推奨されています。

②運航方法の改善
従来のジグザグ飛行航路を、直線的な航路に変更することで、エネルギーの効率的な利用が期待されます。また、「省エネ型下降方式」という、エンジン推力を抑えて継続的に降下する方法を採用することで、より省エネとなる飛行が可能です。

③代替燃料の使用に向けた取り組み
CORSIAは代替燃料の使用を推奨しています。中でも「バイオジェット燃料」が注目を集めています。これは微細藻類や木質系セルロースから作られる航空燃料で、従来のジェット燃料と混ぜて使うことができる「ドロップイン型」として実用化されています。

④市場メカニズムの活⽤
先述の3つのソリューションだけでは、完全なカーボンニュートラルは実現困難とされています。そのため、市場メカニズムを利用した温室効果ガス削減制度が提案されています。航空会社は自らの二酸化炭素排出量を計算・報告し、設定された目標値を超える場合は、クレジットを購入するという仕組みです。これがCORSIA制度となり、2021年から2035年にかけて、約25億トンのクレジット需要が予測されています。

2-2.各国政府のICAOに対する報告義務

CORSIAに参加する国の政府は、所管の航空事業者に関する体制や報告内容をICAOへ報告する必要があります。詳しくは:

  • 事業者からの「モニタリング計画」の確認と承認
  • 「モニタリングレポート」からの排出量の確定
  • 確定した排出量に基づき、オフセット量を計算し航空事業者に伝達
  • 航空事業者の「キャンセル報告書」を基にICAOへの報告

2-3.航空間事業者のオフセット義務

参加する民間事業者は、二酸化炭素の排出量に関する監視、削減、オフセットの義務があります。具体的な活動は以下の通り:

  • 排出量の「モニタリング計画」の作成と国への提出
  • 「モニタリング計画」に従い排出量を監視
  • 監視結果のレポート化、検証を受けた後、政府へ報告
  • 必要なクレジットの利用と、4月末までの排出ユニットキャンセル報告書の国への提出

③「CORSIA」導入における3つのフェーズ

CORSIAの取り組みは3つのフェーズに分かれています:2021年〜2023年の「パイロットフェーズ」、2024年〜2026年の「第一フェーズ」、そして2027年〜2035年の「第二フェーズ」。

ここでは、それぞれのフェーズについて詳しく説明していきます。

1.パイロットフェーズ(試験期間)

2021年〜2023年の間のパイロットフェーズでは、排出量の取り組みは全国が対象ですが、カーボンクレジット制度はICAOの参加国のみが自発的に選べます。2021年の開始時には、日本を含む90か国が参加を表明しており、これらの国は定められたオフセット量を満たす必要があります。

オフセットの対象となるのは、両方の出発・到着国がCORSIA参加国である国際フライトの航空会社です。また、オフセット義務量は3年ごとに算出され、2021年〜2023年の期間に関しては、2025年7月末までに達成しなければなりません。

このフェーズでのオフセットは、高成長率を持つ途上国を考慮し、全セクターの増加分を各航空会社が公平に分担します。

2.第一フェーズ
2024年〜2026年の第一フェーズでも、ICAOの参加国は自発的にCORSIAに参加できます。オフセット義務量の取り決めもパイロットフェーズと同じです。

3.第二フェーズ
2027年からの第二フェーズでは、特定の例外国を除き、すべてのICAO加盟国が参加が義務付けられています。2027年〜2029年は、前の2フェーズと同じオフセット方法が採用されますが、2030年からは、各航空会社の排出削減の努力を反映し、排出が多い企業に更なる負担が増える仕組みが採用される予定です。

④各国における取り組み事例

1.日本
日本には、再生可能エネルギーの利用や省エネルギー設備の導入によるCO2排出の削減、さらに森林の適切な管理によるCO2の吸収を「クレジット」として認証する「J-クレジット」という制度が存在します。このJ-クレジットは、カーボンオフセットや経団連カーボンニュートラル行動計画の目標達成など、多岐にわたる用途で活用されています。

2022年、日本はCORSIAの適格プログラムとしてJ-クレジット制度の認定を求めましたが、一度は「再申請を要する」との結果が出され、2023年3月に再申請を実施しました。この制度がCORSIAの適格プログラムとして認証されれば、日本の国際航空における排出量削減の取り組みが加速されると期待されています。

具体的な取り組みとして、ANAグループは2050年までのカーボンニュートラルを目指し、2030年度までには2019年度比で10%以上のCO2排出削減を目標としています。彼らはサスティナブルな航空燃料(SAF)の導入を中心に、技術革新や排出権取引、ネガティブエミッション技術の導入など、複数のアプローチでこの目標達成を目指しています。

2.アメリカ
アメリカでは、世界最大級の旅客運送数を誇る航空会社「アメリカン航空」が2022年7月12日に、CORSIA認定付きの「サスティナブルな航空燃料(SAF)」を航空業界として初めて商業航空に導入したことを発表しています。

今回導入されたCORSIA認証付きのSAFは、フィンランドを拠点とするエネルギー企業「ネステ(Neste)」が開発したものであると発表されており、実際の商業航空便に世界で初めて取り入れられたとして大きな話題となりました。

また、アメリカン航空はCORSIAを含むICAOの活動に賛同し、義務量に応じてクレジットを活⽤予定であるとも語っており、今後の取り組みに注目が集まっています。

⑤まとめ

CORSIAはICAOが提唱する国際航空のカーボンオフセットプログラムで、その取り組みが国際的に進行中です。

日本もCORSIA適格プログラムとしてJ-クレジット制度の認定を申請中であり、航空部門からの排出を削減してカーボンニュートラルを目指す動きが進められています。現在はCORSIAへの参加が自主的ですが、将来的には義務化される予定です。CORSIAの取り組みについて、興味があればぜひ詳しく調べてみてください。

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中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12