不動産の売却前にインスペクションはするべき?メリット・デメリットを解説

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2018年4月1日に宅地建物取引業法が改正されたことで、不動産を売却する場合にはインスペクションの実施について買主へ説明する義務が設けられました。

この記事では、インスペクションとは具体的に何をするものなのか、不動産の売主にとってどのようなメリット・デメリットがあるのかを解説します。

目次

  1. インスペクションとは?
    1-1.住宅を売買する前に実施する点検
    1-2.重要事項説明書に記載する義務がある
  2. インスペクションを実施するメリット
    2-1.物件の不具合を確認することで売却がスムーズになる可能性がある
    2-2.物件売却後のトラブル防止になる
  3. インスペクションを実施するデメリット
    3-1.費用と手間がかかる
    3-2.不具合が見つかった場合は修繕費用の負担が発生する
  4. まとめ

1.インスペクションとは?

日本ではこれまでインスペクションという考え方が普及していなかったため、インスペクションとは何のことなのかわからないという人もいるのではないでしょうか。インスペクションの意味や意義について解説します。

1-1.住宅を売買する前に実施する点検

インスペクションとは、主として住宅を売買する前に実施する専門業者による建物点検のことです。インスペクションは従来アメリカなど海外でよく実施されていました。

例えば、アメリカには契約適合責任という考え方がなく、物件の引渡し後に不具合が見つかった場合は、事前に確認しておかなかった買主の責任とされます。このため、アメリカで中古住宅を購入する場合は、買主が費用を負担の上あらかじめ不具合の有無を確認する慣例があります。

例えば戸建住宅では、目視できる以下のような場所について点検を実施します。

  • 建物基礎や柱など建物の構造に関わる部分
  • 屋根や外壁
  • 排水管などの水回り設備

柱や床などの点検を行っている様子

柱や床などの点検を行っている様子

※画像引用:国土交通省「改正宅地建物取引業法の施行について

点検の実施後は依頼主に報告書が提出され、修繕を要する箇所がある場合はその旨の指摘が入ります。

1-2.重要事項説明書に記載する義務がある

既に解説した通り、インスペクションは海外ではそれほどめずらしくないものの、これまで日本では不動産の売買前にインスペクションを実施するという考え方が広がっていたわけではありません。

消費者保護という観点から日本でもインスペクションを普及させるべく、2018年4月1日以降は不動産の重要事項説明書にインスペクションに関する記載を設けることが義務化されました。

インスペクションに関する記載が義務化された背景には、住宅売買に関するトラブルがなかなかなくならないという状況があります。そのほか、空き家問題などを解決するために中古住宅の流通を活性化させる、という効果も期待されています。

その一方、日本人の住宅に対する意識は新築志向が強く、中古住宅について隠れた不具合の存在などを心配する人も少なくありません。中古住宅の品質を透明化することで、意識的に中古住宅を購入しやすくする環境を整えることも、日本政府がインスペクションの普及に取り組む狙いとなっています。

2.インスペクションを実施するメリット

事前にインスペクションを実施するメリットは、物件の不具合を確認することで競合物件との差別化を図れることや、後のトラブル防止策として有効であることなどです。

2-1.物件の不具合を確認することで売却がスムーズになる可能性がある

住宅の売主が事前にインスペクションを実施しておく最大のメリットは、物件の不具合を確認することで売買後のトラブルを回避し、住宅を売りやすくなることです。

過去に国土交通省が実施した調査では、住宅を購入する際に「中古住宅を選ばなかった理由」として、隠れた不具合の有無や設備の老朽化が気になるというものを挙げた人が回答者のうち20%以上います。

中古住宅にしなかった理由

中古住宅にしなかった理由

※画像引用:国土交通省「改正宅地建物取引業法の施行について

予めインスペクションを実施しておけば、本当にその住宅に不具合があるのかといった点や、設備老朽化の程度などが可視化され、物件の不具合を確認することで売却がスムーズになる可能性があります。

また、法改正によってインスペクションの実施有無を買主へ事前説明することが義務化されましたが、これはインスペクションの実施を義務付けるものではありません。インスペクションを実施していない場合は、その旨を重要事項説明書へ記載すれば問題ないこととなっています。

つまり、競合となる物件が必ずしもインスペクションを実施しているわけではありません。このため、事前にインスペクションを実施しておけば、競合物件との差別化を図ることも可能です。また、インスペクションを行うことで競合との差別化を図れれば、周辺相場より多少高値で売り出しても売れる可能性もあるでしょう。

2-2.物件売却後のトラブル防止になる

不動産を売却する場合、売主は買主に対して契約適合責任を負います。契約適合責任とは、売買契約の内容と実際に引き渡す不動産の状態とを一致させる責任のことです。

売主は契約適合責任を負う関係上、引渡し後一定期間内に隠れた不具合が見つかった場合は、売主の費用負担の上で修繕等をする必要に迫られます。

しかし、先にインスペクションを実施しておけば、不具合の有無が明確になるため後に買主と修繕などに関するトラブルが起こる可能性を抑制することに繋がります。その他、売買契約で契約不適合責任の範囲や期間などを交渉しやすくなる点もメリットです。

【関連記事】契約不適合責任をわかりやすく解説!売主が注意したい3つのポイントも

3.インスペクションを実施するデメリット

不動産の売主が事前にインスペクションを実施するデメリットは、費用や手間が発生することと、場合によっては建物の修繕を求められることなどです。

3-1.費用と手間がかかる

不動産の売却にあたってインスペクションを実施する最大のデメリットは、費用と手間がかかることです。費用については対象となる建物の規模や業者によって異なりますが、最低でも数万円以上となります。

また、必ずしも点検実施時の立会いが求められるわけではありませんが、業者の契約や内容の確認など、いくらかの手間がかかってきます。

そのほか、先にインスペクションを実施していたとしても、不動産の売却期間が長期化してしまった場合は再度の実施に迫られる可能性もあります。インスペクションを実施しても、実施後1年以上が経過してしまうと実施状況を重要事項説明書に記載できません。

中古住宅であれば、売り出し始めてから売却が完了するまでの期間は3~6ヶ月が目安なりますが、物件の需要や価格によってはそれ以上の時間がかかることもあります。インスペクションのメリットを活かすためには、早期に売却を完了できるように販売戦略を立てることも必要です。

3-2.不具合が見つかった場合は修繕費用の負担が発生する

インスペクションを実施する2つ目のデメリットは、不具合が発覚した場合に修繕費用の負担が発生する点です。

買主へ交付する重要事項説明書にインスペクションを実施済と記載する場合は、その調査報告書も添付して交付することになります。不具合が発覚した場合の修繕にまで法律上の義務が及んでいるわけではありません。

しかし、重大な不具合を放置していると買い手がつく可能性が低くなってしまうことも考えられます。また、放置することで不具合が拡大する可能性もあり、場合によっては建物が建築基準法の違反状態になってしまう懸念もあります。

インスペクションを実施するメリットはあるものの、結果的に修繕を要することで不動産売却の利益が減ってしまう可能性もあります。後のトラブル回避に繋がりますが、売却前に費用や手間がかかってしまうという点は、インスペクションのデメリットと言えるでしょう。

まとめ

住宅購入者の中古住宅に対する意識として、隠れた不具合の存在などを不安視する人は少なくありません。こうした背景から、インスペクションは買主に物件の状態について知ってもらい、売買後のトラブルを回避しやすくなるメリットがあります。

しかし、実施に当たっては費用と手間がかかるほか、要修繕箇所が見つかった場合は修繕費用もかかる可能性もあるので要注意です。インスペクション実施自体は義務化されていないため、売却を依頼する不動産会社への相談もしながら検討してみましょう。

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