東南アジアの中で外国人が不動産を購入できる国は限られますが、その中でもタイとフィリピンは不動産相場の上昇で人気が高まっています。ただし、今後の不動産の開発状況や経済成長を考えれば、エリアや物件選定で注意すべき点も多いことがわかります。
そこで今回は、タイとフィリピンで不動産投資を考える際に知っておきたいポイントをご紹介します。海外不動産投資にチャレンジするさいは、利回りや為替リスク、人口動態などを総合的に判断した上で検討するようにしましょう。
目次
1 タイの不動産投資事情
交通網が発達しつつあるタイ・バンコク市内は、今後も高架鉄道スカイトレイン(BTS)の伸長計画やモノレール建設など不動産価格の上昇につながる大規模化開発が控えています。マンションの建設ラッシュも続き、価格も10年前と比較して、以下のグラフのように戸建て物件で40%、コンドミニアムは75%、土地は74%上昇しています(出典:タイ銀行)。
特にバンコク中心部では不動産人気が高く、外国人投資家だけでなく、多くのタイ人の若年層も購入しています。
このように不動産市場が活況を見せる中で、日本の大手不動産会社もタイの不動産市場に続々進出しています。三井不動産や野村不動産、東急電鉄などは高品質な物件開発を行い、タイの中間層や富裕層、そして日本人投資家にも積極的な販売活動を展開しています。
このような中、すでに不動産バブルを懸念する声も出ています。特にタイ人の家計債務(各世帯が持つ負債)はすでに2016年の時点でGDPの約8割にのぼり、銀行は不動産ローンの貸し渋りも始めています。
これからタイで不動産投資を考えるのであれば、「品質の高い物件を選ぶこと」「利便性の向上が期待できるエリアに絞ること」などがポイントになるでしょう。
1-1 タイの不動産利回り
英不動産調査会社「Global Property Guide」の最新データによると、タイの不動産の平均表面利回りは5.13%となっています(2015年時点)。
また「広さ別」の利回りは、以下のようになります。
- 40㎡ 6.36%
- 60㎡ 5.59%
- 85㎡ 6.13%
- 120㎡ 8.05%
一般的に部屋面積は広くなるほど物件あたりの総戸数は減るため、利回りは低下します。しかしタイの場合、広い物件の方が利回りは高くなっていることがわかります。
国内外の不動産の鑑定評価を行うUDアセットバリュエーションのレポートによると、タイのコンドミニアムの価格は2009年と比較すると2017年には70%近く上昇しています。バンコク中心部では特に供給量が多く、スタジオタイプと呼ばれるワンルームや1ベッドルームタイプの小規模な物件が増えていて空室も目立つようになってきています。
それでも物件価格の上昇に牽引される形で賃料も高く推移しています。タカラホームの調査によると、2008年から2015年にかけて日本人が多く居住するプロンポンからトンローエリアにおいて、賃料は120%ほど上昇しています。
コンドミニアムの価格上昇率(70%)と賃料の上昇率(120%)との違いから、表面利回りは低下していることがわかりますが、それでもタイの物件の利回りは東南アジアの新興国の中では高い水準にあるといえます。
1-2 タイの為替リスクと不動産に関わる税制
タイはGDP(国内総生産)の約3分の2を輸出が占めているため、米トランプ政権の動きによっては大きな影響を受ける可能性もあります。その結果、通貨バーツの変動リスクも高いと言えるでしょう。
1990年代はタイの年間成長率は約9%ありましたが、1996年には貿易収支が赤字に転落、そして97年のヘッジファンドによる空売りでタイバーツは大幅に下落しました。当時タイ銀行は外貨準備の切り崩しで買い支えましたが、ヘッジファンドの空売りに耐え切れず、ついに自国通貨を変動相場制へと切り替えました。その結果、1ドル24.5バーツだったレートは98年には56バーツまで下落しました。
このようにタイの通貨は外的要因によって変動する要素が大きいため、不動産投資においても為替リスクも大きいと考えられます。
タイの不動産購入に関する税制
タイで不動産を購入する際にかかる税金などを見ていきます。
まず、タイには固定資産税はありません。相続税は5%~10%、売却益課税は課税所得に応じて税率が変わりますが、5%~35%となります。他に特定事業税があり、不動産所有後5年以内に売却すると不動産価格あるいは公示価格の高い方に対して3.3%が発生します。個人取引の消費税は0%、印紙税は0.5%です(2018年時点、最新情報はジェトロ「タイの税制」などをご確認下さい)
1-3 タイの人口動態と経済成長
タイの人口は2005年頃まで順調に増加しましたが、その後はほぼ横ばい状態が続き、2016年は6898万人となっています。IMF(国際通貨基金)の推計では2018年には6918万人になると予測されています。
意外かもしれませんが、タイでは少子高齢化が進んでいます。人口ピラミッドを見ると、日本と同じ「つぼ型」になりつつあり、高齢化率は2025年には25%を超えると見られています。
また、出生率では1991年に人口を維持するために必要な2.08人を下回り、2015年には日本とほぼ同じ1.5人となっています。
タイの経済成長
2016年の名目GDPは約4071億ドルとなり、2000年と比較すると3倍ほどの水準に達しています。IMF予測では2022年には約5857億ドルにまで達すると見込まれています。少子高齢化とはいえ15歳から64歳の生産年齢人口は増加しており、タイの生活水準は上昇する余力があることを表していると考えられます。
また、国策として工業化を推進し、税制優遇措置を講じて外資系メーカーを誘致していることも経済成長力の強さにつながっています。東南アジア最大の自動車生産国として、今後も経済成長が期待できる国といえます。
1-4 外国人がタイに不動産投資をする場合の法規制
外国人がタイで不動産を購入するうえで知っておきたい知識は以下のとおりです。
まずタイでは外国人は土地を購入することはできません。ただ、例外として4000万バーツ(およそ1億3400万円)以上を投資資金として保有していれば、1ライ(1600㎡)までの土地を購入することができます。
タイでは、外国人はコンドミニアムであれば購入し保有することが認められています(コンドミニアム法より)。1棟のコンドミニアムの総床面積あたり、外国人が所有できるのは49%までです。
ただしコンドミニアムを購入するためには、購入資金に関する証明が必要となります。その申請の手順は、
- 物件の購入価格を上回る外貨をタイの口座へ送金
- その銀行で外貨送金証明書を取得
- その証明書をもって土地局で購入資金の証明を取得
といった流れになります。なお現地人の名義を借りて土地を取得すると、土地法により罰金が科されるので注意が必要です。
2 フィリピンの不動産投資事情
富裕層や海外駐在員が購入するフィリピンの高級コンドミニアムの㎡単価は、東京都心の最高級マンションと比較すると4分の1ほどとなります(Global Property Guideより)。外国人がフィリピンで購入できる不動産はコンドミニアムか、タウンハウスと呼ばれる低層の連棟式集合住宅になりますが、コンドミニアムの場合にはプレビルドでの契約が一般的です。
これは計画から完成まで3~5年かかる物件を購入するものですが、多くの場合、工事が進むごとに値段が上がっていきます。中古を購入する場合には一般に情報が出回ることが少ないため、仲介業者からの紹介で物件を探すことが多くなります。
物件購入にお勧めのエリアは首都マニラ、なかでもビジネスの中心地として知られるマカティ市です。このエリアは高級住宅地で日本人向けのコンドミニアムも多く建設されています。このほか外国人駐在員が多く住むタギッグ市、カジノリゾートの開発が進む湾岸エリア、リゾート地として有名なセブ島などもおすすめのエリアです。
2-1 フィリピンの不動産利回り
マニラでのコンドミニアムの平均賃貸利回りは年6.1%(2016年)となっています(Global Property Guide)。これはアジアでも高い水準ですが、その理由には人口増加による「住宅需要の高さ」と、人口流入による「空室率の低さ」などが挙げられます。
カナダの不動産会社「Colliers Internationa」の調査によると、マニラ首都圏の空室率は2017年6月の時点で10.9%程度、海外駐在員が多く住むマカティ市は12.7%となっています。賃料の推移を見ると、コンドミニアムが過剰供給状態にあることから賃料は徐々に下落しています。
しかし、中国のIT企業や台湾の企業が生産拠点としてフィリピンにこぞって進出していることから、利回りは今後も期待できるといえるでしょう。
2-2 フィリピンの為替リスクと不動産に関わる税制
海外不動産投資で注意が必要なのは為替リスクですが、フィリピンの場合はどうでしょうか。
たとえばリーマンショック後の金融危機では多くの新興国通貨が下落しましたが、フィリピン・ペソはわずか6.2%の下落にとどまりました(対米ドル)。また2017年度はアジア圏のほとんどの国で通貨は米ドルに対し上昇しましたが(平均5.44%の高騰)、ペソはわずかな下落となりました。
またアジア圏の通貨の平均変動率が1.5%であるのに対してペソは0.9%と小幅です。つまり、ペソは他東南アジア通貨と比較して安定しており、為替リスクがあまりないことがわかります。
ペソが安定している理由には、フィリピンの経済自体が中国やアメリカとの貿易に依存していない点が挙げられます。さらに在外フィリピン人(OFW)の大半が海外で稼いだ外貨をフィリピンに送金してペソに両替していることも、変動率の低さにつながっているとみられています。このような外貨送金額はGDPの8%以上に相当しています。
フィリピンの不動産購入に関する税制
次にフィリピンにおける不動産に関する税制を見てみます。まず国税は次のとおりです。
フィリピンの税金 | フィリピンの税率 | |
---|---|---|
移転税 | 0.5% (物件価格に対して) |
|
キャピタルゲイン税 | 5~6% (売価と評価額を比較して高い額に対して) |
|
印紙税 | 1.5% (売価と評価額を比較し、高い額に対して) |
|
登録税 | 0.25% (物件価格に対して) |
|
付加価値税 (消費税) |
(約320万ペソ以上の物件に対し課税) | |
所得税 | 外国人非居住者 | 25% |
外国人居住者(TIN非取得者) | 30% | |
外国人居住者(ビザ取得者:年間滞在期間180日以上) | 5%~32% | |
相続税 | 5~20% |
(参考:Hallohallo home「不動産に関わる税金と諸経費」)
次に地方税は以下のとおりです。
- 不動産税:1.7%(評価額に対して)
- 特別教育基金:1.0%(評価額に対して)
- 固定資産税:2~2.5%(評価額に対して)
2-3 フィリピンの人口動態と経済成長
フィリピンは2015年に総人口が1億人を突破し、世界の人口ランキングで12位となりました。出生率は3.14%と高く、高齢層よりも若年層が多く、人口増加が見込める理想的なピラミッド型の分布となっています。
15歳から64歳の生産年齢人口は2015年時点で全人口の63.5%を占めており、2050年には約1億人にまで増加すると予測されています(経済産業省より)。
フィリピンの経済成長
2017年の国内総生産(GDP)は前年比6.7%増加しており、東南アジアではトップクラスです。その背景には英大手銀行HSBCの調査によれば「政府支出が経済成長に貢献している」と述べられています。
また、英調査会社大手PwCが発行する経済レポート「The World in 2050(2050年の世界)」によると、2050年のフィリピンの実質GDPは2010年の10倍以上となる1兆6880億ドルにまで拡大すると予測されています(日本は2017年時点で4兆8721億ドル)。これは東南アジアでは最大規模で、世界では第16位となります。
非常にポジティブな成長可能性を秘めたフィリピンに対して、大手格付け会社フィッチは2017年11月、長期信用格付けを「トリプルBマイナス」から「トリプルB」に引き上げています。
2-4 外国人がフィリピンに不動産投資をする場合の法規制
外国人がフィリピンで不動産投資する際、土地は購入できない点に注意です。ただし配偶者がフィリピン人の場合、配偶者名義で購入することは可能です。あるいは現地法人を設立して法人名義で購入することもできます。その場合、「現地法人はフィリピン人所有株の比率が60%以上であること」「会社の代表はフィリピン人であること」が必要です。
外国人がコンドミニアムを購入する場合、1室を区分登記して所有することができます。ただし建物内での外国人保有率の割合が40%を超えないことが条件となります。また、購入後、賃貸する場合は国内源泉所得に対して5〜32%の個人所得税がかかります。転売するさいには印紙税1.5%、不動産移転税約0.75%、キャピタルゲイン税6%などがかかります(2018年時点、最新情報はジェトロ「タイの税制」などをご確認下さい)。
3 まとめ
タイは不動産相場の急速な上昇により多くの外国人が資金を投じていますが、すでにバンコク中心部などは空室率も上昇しており、今後の賃貸運用の利回りは低下するとも言われています。またタイバーツは変動しやすく、為替リスクが大きいことにも注意が必要です。今後、タイで不動産を購入するさいは、品質が高く、人気のある物件を吟味する目を一層養う必要があるでしょう。
一方でフィリピンの場合には、為替リスクは低いものの、やはり不動産市場の過熱感には注意が必要です。ただし人口増加率の高さと堅調な経済成長を背景に、今後も利回りは期待でき、魅力ある投資市場といえるでしょう。
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HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム
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