財産が高額になればなるほど、相続する人の納税負担は重くなります。相続財産のなかですぐに現金化できないものが多ければ、多額の納税資金を調達したり、物納するなどの苦労も多いでしょう。そのため、相続をする人(被相続人)は生前のうちに相続税対策をしておく必要があります。本記事では相続税対策として効果のある不動産投資法をご紹介します。また、相続時における評価計算方法をケース別に説明するので、不動産相続を検討している人はぜひ参考にしてみてください。
- 1 不動産投資の相続税対策としての有効性
- 2 不動産投資の相続時の評価計算方法
- 2-1 自身の利用に止まるケース
- 2-2 土地の評価について
- 2-3 建物の評価について
- 2-4 賃貸用等で利用したケース
- 2-5 賃貸用の土地の評価について
- 2-6 賃貸用の建物の評価について
- 3 相続税対策としてのおすすめの不動産投資法
- 3-1 相続税を抑える3つのタイプ
- 3-2 カンタン!投資法
1 不動産投資の相続税対策としての有効性
現金や有価証券を相続するさい、時価に応じて相続税が決まります。そのため、相続する現金が多いほど、それにかかる税金も高額になります。
一方、相続税の対象となる不動産は、実勢価格(時価)よりも低い「路線価」「固定資産税評価額」で評価されます。路線価とは市街地の土地の価値を算定する方法であり、固定資産税評価額は建物の価値を算定する方法です。不動産の価値は現金と異なる方法で評価されるため節税効果があります。
相続税は、被相続人が保有していた資産などの「プラスの財産」から借金などの「マイナスの財産」を差し引いた正味の相続財産に課税されます。プラスの財産には「現金・預金」「国債・社債・株式等の有価証券」「生命保険金・土地・建物」などがあり、マイナスの財産にはローン等の「借入金」「未払金」などがあります。
正味の相続財産価格の算定では各財産の評価が異なる場合があり、現金・預金、有価証券は時価で、不動産は一定の基準で評価されます。不動産は現金などで相続する場合より評価が下がりやすいため、相続税額が少なくすむわけです。
また、購入した不動産を第三者に貸すとその財産評価額はさらに低く評価され相続税をさらに減少させることができます。詳細は「2-4 賃貸用等で利用した場合」で述べます。
2 不動産投資の相続時の評価計算方法
ここでは不動産を購入して「自身の利用にとどまる場合」、「賃貸用として利用した場合」の2つに分けて、不動産の相続時の評価計算方法を紹介します。
2-1 自身の利用にとどまるケース
土地と建物についてその相続時の評価方法を確認しましょう。
2-2 土地の評価について
土地の評価額は、多くの場合市街地では「路線価方式」で、市街地以外では「倍率方式」で評価されます。
・路線価方式
路線価方式とは、土地が面している道路に設定されている「路線価」に土地の面積を乗じて算出する方法です。ただし、複雑な形状を有する土地などは補正が加えられることもあります。したがって、評価額の計算式は次のようになります。
土地の評価額=路線価(補正率が反映された)×土地の面積
なお、一般的に路線価方式で評価される場合は実勢価格の70~80%程度の価格になるケースが多いです。
・倍率方式
倍率方式は路線価格が定められていない土地に適用され、固定資産税評価額に国税庁で定められている倍率を乗じて算出されます。その計算式は次のとおりです。
土地の評価額=固定資産税評価額×倍率
固定資産税評価額は実勢価格の60~70%程度の価格になることが多いとみられています。
なお、路線価や倍率の情報は国税庁のホームページで、固定資産税評価額については都税事務所や市(区)役所もしくは町村役場で確認することができます。
2-3 建物の評価について
建物財産の評価額は固定資産税評価額そのものになります。
一般的に建物の固定資産税評価額は建築費用の50〜70%程度の評価となることが多く、相続税対策に有効です。
2-4 賃貸用等で利用した場合
賃貸等で利用する場合は不動産の評価がさらに下がるので、節税対策につながります。
2-5 賃貸用の土地の評価について
賃貸等で利用している土地の相続税の評価額は、自身の利用にとどまる場合よりもさらに50%以上の減少が期待できます。
・貸宅地
貸宅地とは、他人に土地を貸してそこに家を建てられる借地権などの権利が存在する宅地のことで、貸宅地の価額はその宅地上の権利区分に応じて評価されます。借地権の目的となっている宅地の評価額の計算式は次のとおりです。
「自用地としての価額-自用地としての価額×借地権割合」=自用地評価額×(1-借地権割合)
*自用地評価額は「2-1 自身の利用にとどまる場合」と同様です。
例えば、自用地評価額が2,000万円で借地権割合が60%の場合、相続税の土地評価額は2,000万円×(1-0.6)=800万円となるわけです。
なお、定期借地権等の目的となっている宅地の場合は「定期借地権等の残存期間に応じた割合」で計算されます。
・貸家建付地
貸家建付地とは、所有する土地に貸家を建築しそれを他者に貸し付けている場合の土地のことです。貸家建付地の評価額は、次の計算式で行われます。
貸家建付地の評価額=自用地評価額-自用地評価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合
上記の借地権割合および借家権割合は、地域で異なるため路線価図や評価倍率表での確認が必要です。借家権割合は一律30%と定められています。賃貸割合は賃貸している家屋の全部屋数のうち実際に賃貸している部屋数の割合と考えたらよいでしょう。
例えば、路線価が20万円、面積が100㎡、借地権割合が60%の土地に10部屋ある賃貸アパートを建て、8部屋を実際に賃貸している場合の相続時の土地評価額は次のように計算されます。
評価額=(20万円×100㎡)-2,000万円×0.6×0.3×0.8=1,712万円
・小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例は、被相続人等が事業用または居住用に利用している宅地等のうち、一定の要件を満たす場合に限度面積まで評価額が80%または50%減額されるという特例です。
アパートや駐車場等に賃貸している土地のほか、自宅用の土地、自営業者の事務所や工場の土地などが対象で親族等が相続すると評価額が以下のように減額されます。詳しくは国税局HP等でご確認ください。
相続の対象となる土地 | 相続人 | 限度面積 | 減額割合 |
---|---|---|---|
貸付事業用宅地等に該当する宅地など | 事業を継承する親族 | 200㎡ | 50% |
被相続人の居住に利用していた宅地など | 配偶者、同居または生計を同一にしている親族等 | 330㎡ | 80% |
貸付事業以外の事業用の宅地など | 事業を継承する親族 | 400㎡ | 80% |
*上記内容は平成29年4月1日現在の法令によるもので、相続の開始のあった日が「平成27年1月1日以後」の場合です。最新情報は国税庁のサイトをご参照下さい。
例えば、路線価が30万円(補正済み)、土地の面積100㎡、貸付事業として使用している土地の小規模宅地等の特例による評価額は次のとおりです。
土地の評価額=30万円×100㎡×(1-0.5)=1,500万円
・貸家建付地と小規模宅地等の特例の併用
貸家建付地として評価される土地は、小規模宅地の特例に該当すればその貸付事業用宅地としての適用も受けられます。
小規模宅地の特例に該当する場合の評価の手順は、貸家建付地としての評価額を計算した上で、その評価額に小規模宅地の特例の計算式を適用することになります。
上記の貸家建付地の例に小規模宅地等の特例を適用すると、貸家建付地の評価額1,712万円に50%の減額を反映させることになり、その結果評価額は856万円となるわけです。
貸家建付地の評価額=(20万円×100㎡)-2,000万円×0.6×0.3×0.8=1,712万円
小規模宅地の特例の減額分=1,712万円×(1-0.5)=856万円
2-6 賃貸用の建物の評価について
相続する建物がアパート等の貸家として利用されている場合、その建物の固定資産税評価額から「その建物の固定資産税評価額×借家権割合×賃貸割合」を控除して評価額が求められます。
例えば、建物の固定資産税評価額が1,000万円、借家権割合が30%、賃貸割合が90%である場合の財産評価額は以下のとおりです。
評価額=1,000万円-1,000万円×0.3×0.9=730万円
3 相続税対策としてのおすすめの不動産投資法
ここでは相続税対策としてどのような不動産投資をしたらよいかの参考となる投資方法を紹介します。
3-1 相続税を抑える3つのタイプ
相続税を抑えるための不動産投資の方法としては、次の3つの方法が挙げられます。
- A 土地を買って自宅を建て、そこに相続人とともに暮らし相続させる
- B 土地を買ってその土地を第三者に借地権付き等で貸し、その状態で相続させる
- C 土地を買ってその土地にアパート等を建て、部屋を第三者に賃貸し、その状態で相続させる
Aの場合、小規模宅地等の特例を利用できれば土地の評価額を8割引きにできるので効果は高いといえるでしょう。
Bの場合も借地権割合が大きい地域なら土地の評価額を6、7割減少させることも可能でこれも効果は高いです。しかし、長期に渡って借地権を付与する場合、土地の所有者は好きなように利用できなくなるというデメリットもあります。
Cの場合はBよりも土地の評価額は高くなりますが、Bよりも土地を利用しやすく、賃貸収入を得やすいというメリットがあります。ただし、賃貸管理の手間やコストが発生するのでその点を考慮しておくことが重要です。
3-2 カンタン!投資法
投資対象で比較的容易なのはマンションです。投資した不動産を他者に利用させる場合、前述の「土地を買ってその土地を第三者に借地権付き等で貸し、その状態で相続させる方法」「土地を買ってその土地にアパート等を建て、部屋を第三者に賃貸し、その状態で相続させる方法」が候補となります。土地の価格が高い場合、資金面でのハードルが高くなりますが、マンションなら土地の価格は比較的安く済むでしょう。また、管理面でも部屋数の多いアパート等の建物よりマンションの1室のほうが管理コストは少なくなるので有利といえます。
・投資マンションの検討ポイント
以下のポイントを考慮してマンション投資を考えましょう。
- 購入時期:不動産価格が低く安定している時期など
- 市街地:郊外よりも都心などの市街地
- 駅から近距離:駅に直結するなどできるだけ駅に近い
- 大規模マンション:総戸数の多いマンション
- タワーマンション:階数の多いマンション
- ファミリー向けの部屋:ワンルームより有利
・タワーマンション
上記の条件に合致するタワーマンションならより効果の高い相続対策になり得ます。
タワーマンションは利便性に加え、優れた眺望の点で高層階の部屋ほど市場価格は高くなります。一方、部屋数の多いタワーマンションの土地や建物の評価額は低く抑えられるため、市場価格との差が大きく一般的なマンションよりも高い節税効果が期待されるのです。
ただし、平成29年度の税制改革で平成30年以降に建築される20階以上の新築タワーマンションでは中間層以上の高層階になるほど税負担が重くなるので注意しましょう。
まとめ
このように相続税の対象となる不動産は、実勢価格よりも低い算定方法で評価されるので、現金などで相続するより節税効果があるわけです。土地の場合は実勢価格の約70~80%で評価され、建物の場合は建築費用の約50~80%の評価となり、さらにそれを第三者に貸すと各々の評価が下がります。土地にアパート等を建てて部屋を貸すと有効な相続対策になりますが、資金面で難しい場合などはマンションへの投資が有力な候補になるでしょう。
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