2024年に障害者差別解消法が改正されます。これまで「努力義務」とされていた、事業者による合理的配慮が義務化させるのが主な変化のひとつです。不動産業においても、接客の場面などでは一層の配慮が求められます。
不動産業において同法が適切に機能すると、ハンディキャップを持つ方の内見や入居検討が促進される可能性も。アパート経営者としても、そのような方に配慮した経営を考えてみましょう。今回の記事では改正障害者差別解消法について、不動産業の側面からまとめました。
目次
- 改正障害者差別解消法の改正
1-1.障害者差別解消法とは?
1-2.改正により事業者の「合理的配慮の提供」が義務化 - 不動産業における障害者差別解消法の影響
2-1.不当な差別的扱いの禁止
2-2.合理的配慮の提供 - アパート経営において配慮すべきポイント
3-1.バリアフリーに配慮した物件での経営
3-2.ハンディキャップを持つ方の差別をしない
3-3.合理的な配慮につとめる - 投資用アパートについて相談しやすい不動産会社
4-1.シノケンプロデュース - まとめ
1 改正障害者差別解消法の改正
そもそもの障害者差別解消法は2016年にすでに施行されている法律で、ハンディキャップを持つ方々に対して、合理的な配慮をもとめる法律です。同法が改正されて、2024年4月から施行となります。まずは、もともとの障害者差別解消法と今回の改正についておさえておきましょう。
1-1 障害者差別解消法とは?
2016年に施工された障害者差別解消法は、大きく分けて次の二つの要素について義務もしくは努力義務を与えています。
- 不当な差別的取扱の禁止
- 合理的配慮の提供
公的機関や事業者による「不当な差別的扱い」を禁止しています。たとえば、次のように、正当な理由なくハンディキャップを持つ方へサービス提供や利用時間、利用範囲などを制限する行為が禁止となりました。
- 受付対応の拒否
- 本人の意思を無視して付き添い・介助者とコミュニケーションを取る
- 学校の受験・入学の拒否
- 「障害者向けのサービスがない」として対応しない
明示的な差別を禁止しても、ハンディキャップのある方は、社会の中にはバリアによって生活しづらい場合があります。
公的機関や事業者(ただし当時は事業者は努力義務)は、負担が重くなりすぎない範囲で、バリアを取り除く配慮が求められます。これが「合理的配慮の提供」です。
(※参照:内閣府「平成28年4月1日から障害者差別解消法がスタートします」)
1-2 改正により事業者の「合理的配慮の提供」が義務化
2024年4月の改正では、事業者の「合理的配慮の提供」について義務化されたのが大きな変更点のひとつです。
行政機関等 | 事業者 | |
不当な差別的扱い | 禁止 | 禁止 |
合理的配慮の提供 | 義務 | 努力義務⇒ 義務化 |
(※参照:内閣府「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されます!」)
内閣府が提供するリーフレットによると、合理的配慮とは次のように定義づけられています。
行政機関等と事業者が、その事務・事業を行うに当たり、個々の場面で、障害者から「社会的なバリアを取り除いてほしい」旨の意思の表明があった場合にその実施に伴う負担が過重でないときに社会的なバリアを取り除くために必要かつ合理的な配慮を講ずること
(※引用:内閣府「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されます!」)
合理的配慮については決まった提供方法があるとは限らず、ハンディキャップのある方と事業者・行政機関との間で対話を深めながら、その時どきで適切な対応方法を検討・実践していく必要があります。
合理的配慮の例として、リーフレットでは次のようなケースが紹介されています。
物理的環境への配慮(例:肢体不自由)
【障害のある人からの申出】
飲食店で車椅子のまま着席したい。
【申出への対応(合理的配慮の提供)】
机に備え付けの椅子を片付けて、車椅子のまま着席できるスペースを確保した。
(※引用:内閣府「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されます!」)
意思疎通への配慮(例:弱視難聴)
【障害のある人からの申出】
難聴のため筆談によるコミュニケーションを希望したが、弱視でもあるため細いペンや小さな文字では読みづらい。
【申出への対応(合理的配慮の提供)】
太いペンで大きな文字を書いて筆談を行った。
(※引用:内閣府「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されます!」)
ルール・慣行の柔軟な変更(例:学習障害)
【障害のある人からの申出】
文字の読み書きに時間がかかるため、セミナーへ参加中にホワイトボードを最後まで書き写すことができない。
【申出への対応(合理的配慮の提供)】
書き写す代わりに、デジタルカメラ、スマートフォン、タブレット型端末などで、ホワイトボードを撮影できることとした。
(※引用:内閣府「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されます!」)
以上のように、そのときどきの要望や状況に応じて臨機応変な対応が求められます。
2 不動産業における障害者差別解消法の影響
不動産業でも、当然に障害者差別解消法の遵守が義務付けられます。さまざまな領域で配慮が必要ですが、直接的には仲介業者が顧客と相対するときに留意が必要です。
障害者差別解消法のふたつの軸である「不当な差別的扱いの禁止」と「合理的配慮の提供」について、それぞれ不動産業のケースにおきかえて考えてみましょう。
2-1 不当な差別的扱いの禁止
全国賃貸住宅経営者協会連合会が作成したリーフレットでは、不当な差別的扱いとして次のような例がまとめられています。
- 物件一覧表や物件広告に「障害者不可」などと記載する。
- 緊急時に電話による連絡ができないという理由のみをもって入居を断る。
- 障害があることやその特性による事由を理由として、契約の締結等の際に、必要以上の立会者の同席を求める。
- 障害者に対して、客観的に見て正当な理由が無いにもかかわらず、「火災を起こす恐れがある」等の懸念を理由に、仲介を断る。
- 一人暮らしを希望する障害者に対して、一方的に一人暮らしは無理であると判断して、仲介を断る。
(※参照:全国賃貸住宅経営者協会連合会「障害者差別解消法について充分にご理解いただき障害のある方々への適切なご配慮にお努めください」)
物件の広告に「障がい者不可」などの表現で検討の余地を一切なくすことは、差別的表現のひとつとされます。物件検討の入り口から排除するのではなく、仲介業者として誠実に対話をし、その方の理想を叶える最適な物件を提供するよう努力しなければなりません。
また、障害を理由に仲介対応を断ることは、客観的に正当な理由がない限り禁止されています。たとえば「一人暮らしは不可能」「階段のある物件には入れない」と一方的に決めつけて仲介を断ったり、仲介物件を著しく制限する行為は禁止です。
そのほか付添人、仲介人とばかりコミュニケーションを取って、本人の意思を確認しない、確認しても聞き入れない行為も「差別的扱い」にあたります。ハンディキャップを持つ方にも、健常者と同等の仲介サービスを提供するべく、配慮していかなければなりません。
2-2 合理的配慮の提供
不動産仲介業者においては、ハンディキャップを持つ方に合理的な配慮をする必要があります。明示的な差別がなされていなくとも、不動産仲介サービスを受けるうえで不自由や不便を感じる場面があれば、それを取り除く努力を怠ってはいけません。
ハンディキャップを持つ方が要望を示せば、可能な限り配慮をする方法があります。また、彼らが不自由・不便を強いられるポイントがあれば、たとえ差別に当たらないとしても、それらを取り除く対策を積極的に立てる必要があります。
全国賃貸住宅経営者協会連合会が作成したリーフレットには、合理的配慮を提供する方法としてつぎのような事例がまとめられています。
- 障害者や介助者等からの意思の表明に応じて、最寄り駅から物件までの道のりを一緒に歩いて確認したり、1軒ずつ屋内の様子を手を添えて丁寧に案内する。
- バリアフリー化された物件等への入居が円滑になされるよう、住宅確保要配慮者居住支援協議会の活動等に協力
- 国の助成制度等を活用して適切に、改修された住戸等の紹介を行う
(※参照:全国賃貸住宅経営者協会連合会「障害者差別解消法について充分にご理解いただき障害のある方々への適切なご配慮にお努めください」)
そのほか「前例がありません」「特別扱いできません」「もし何かあったら」など、漠然としたリスクを理由に断るのは、ハンディキャップを持つ方との対話において避けるべきです。
個別の状況に応じて、ハンディキャップを持つ方のニーズに最大限応え、さらに健常者と同等の仲介サービスを提供するためにできることを柔軟に考えていく態度が求められます。
3 アパート経営において配慮すべきポイント
障害者差別解消法の改正を踏まえて、アパート経営においてもハンディキャップを持つ方に配慮した経営が求められます。
これからの物件選びや保有する物件のリフォームのほか、ハンディキャップを持つ方からの内見、問い合わせ対応についても適切な対応が求められます。
3-1 バリアフリーに配慮した物件での経営
まず第一に、物件自体がハンディキャップを持つ方に配慮した構造をしているのが理想です。段差が少ない、通路が広い、視覚・聴覚にハンディがあっても使える設備の設置など、多方面にわたる配慮の余地があります。
これから新たな物件を入手しようと考えている方は、バリアフリーに配慮した物件を選ぶのが有効な選択となります。
また、すでに物件所有をしている方も、リフォームやリノベーション、大規模修繕の際などにハンディキャップを持つ方に寄り添った物件のアレンジができないか考えてみましょう。
バリアフリーに配慮した物件は、高齢者の入居需要を集めるうえでも有効な対策のひとつです。ハンディキャップを持つ方だけでなく、オーナーにとってもメリットのある対策といえるでしょう。
3-2 ハンディキャップを持つ方の差別をしない
不動産オーナーにも「不当な差別的扱い」をしない配慮が求められています。たとえば、ハンディキャップを持つ方の内見や入居契約を合理的な理由なく断ってはいけません。
それぞれのハンディをふまえた物件のリスクや注意点は適切に説明しつつも、内見や入居の希望についてはあくまで本人の意思を尊重する必要があります。
現実的にはオーナーではなく管理会社が相対するケースも多いと想定されるため、管理会社とも連携して、不当な差別を絶対にしないように注意しましょう。
3-3 合理的な配慮につとめる
不動産オーナーは、合理的な配慮をする義務についても怠ってはいけません。内覧や契約の時にはハンディキャップを持つ方と可能な限り対話をして、要望があればかなえるように努める必要があります。
本人と会話する機会が限られる場合は、紹介した仲介会社とも連携して、配慮するポイントを検討しましょう。
たとえば、物件の特徴を説明する際には、ハンディキャップを持つ方の事情を踏まえたうえで、安心して暮らせるポイントと注意すべき点をまとめるのが有効です。
ささいな点では、身体が不自由でもゆとりをもって内見できるよう、時間を長めに確保するのも有効な配慮のひとつとなります。
そのほかでは、耳が不自由であれば筆談を使用する、逆に目が不自由であれば、物件の特性についてより丁寧・細やかに話すなど、配慮できるポイントは多数あります。
4 投資用アパートについて相談しやすい不動産会社
4-1 シノケンプロデュース
「シノケングループ」の100%子会社で、一般投資家向け賃貸住宅経営のパイオニアとして知られています。すでに7,000棟以上の販売実績があるほか、グループでは高齢者向け住宅のサービス展開を行っているのも特徴です。
シノケンプロデュースは入居者向けコールセンター(24時間365日8カ国語対応)で、高齢者の方などにも手厚い対応を行っています。高齢になるほど身体障害者の割合が高くなると言われており、高齢者への対応がしっかりしている会社は障害のある方への配慮についても期待できます。
また、シノケンでは近年原則すべての物件にIoTを導入しています。IoT設備はスマートフォンでの遠隔操作で室内の設備を操作できるため、特に移動に困難をともなう障害のある方にとって比較的暮らしやすい住まいとなります。
5 まとめ
改正障害者差別解消法の施行により、事業者にもハンディキャップを持つ方への合理的な配慮が義務付けられています。
不動産領域で特に大きな影響を受けるのは仲介会社ですが、オーナーについても、所有物件選びやリフォーム・リノベーションおよび内見・契約において適切な配慮が求められます。
ハンディキャップを持つ方と正しく対話をして、彼らが快適に住める環境の提供に貢献しましょう。物件選びや建設において悩む場合には、今回紹介したような実績のある不動産会社に相談するのもひとつの方法です。
伊藤 圭佑
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