好景気が続くアメリカでは住宅価格の上昇も続いており、国内外を問わず不動産投資家から熱い視線を集めています。またアメリカ不動産は日本の物件と比べると土地に対する建物の価格比率が高く、また築古でも値段があまり下がらない傾向にあることから節税効果が高いため、富裕層を中心に人気があります。
しかし、株式や不動産価格が上昇しすぎたことで、一部では2019年からバブル崩壊が始まるのではとの声もささやかれています。そこで今回はアメリカの不動産投資を検討している方のために、メリットと今後注意したいリスクについてわかりやすく解説します。
目次
- 現在のアメリカ不動産投資市場
1-1.住宅需要が不動産相場を牽引
1-2.経済成長とドル高円安 - アメリカ不動産投資の3つのメリット
2-1.不動産投資ローンが使える
2-2.節税効果が高い
2-3.中古市場が日本よりも成熟している - アメリカ不動産投資で注意するべき5つのリスク
3-1.「学区」選びリスク
3-2.住宅診断リスク
3-3.物件のメンテナンスリスク
3-4.金利上昇リスク
3-5.減価償却費リスク - まとめ
1 現在のアメリカ不動産投資市場
2007年からの住宅価格下落に伴うサブプライムローン問題と、翌年のリーマンブラザーズの破綻によりアメリカの住宅価格は大きく下落しましたが、2010年以降は世界経済の回復とともに上昇に転じました。米スタンダード・アンド・プアーズの発表によると、18年11月時点の全米住宅価格指数は24ヶ月連続で過去最高を更新しています。
1-1 住宅需要が不動産相場を牽引
アメリカの人口は2017年から2022年までに3.6%増加すると予測されています。また国連世界人口統計によれば、総人口は2050年までに2017年の3.24億人から3.89億人に増加するとされます(国連経済社会局人口部「World Population Prospects」より)。
現在のアメリカの不動産市場はこのような人口増加による強い住宅需要によって支えられています。
また市場に出回る住宅数が減少していることも相場を押し上げる要因となっています。2018年第三四半期の住宅着工件数は123万件で、第一四半期から約80万件の減少となりました(米国センサス局より)。
住宅を売却しても価格が上昇しているために、買い手は簡単に見つからないのではという懸念から買い替えを控える動きが出てきており、供給数の減少に拍車をかけています。
1-2 経済成長とドル高円安
海外不動産の魅力のひとつは「為替差益」が得られることです。物件の家賃収入や売却時のお金は現地通貨で得ることになりますが、円に換算した時に円安に振れていれば為替差益を得られることになります。
例えば1ドル100円で1万ドルの現金を持っているとすると、1ドルが120円に上昇すれば120万円で換金することができます。購入時よりもドル高円安が進行していれば利益につながるということです。
為替相場は経済動向や2国間の金利差などで変動しますが、日本とアメリカの場合、金利差がドル高円安を進行させています。2018年11月時点で日本の政策金利は0.10%ですが、アメリカは2.25%となります。
アメリカは好景気によるインフレを抑制するため、FRB(連邦準備制度理事会)が2015年から何度も政策金利を引き上げてきました。インフレが起これば貨幣価値が下落し、景気の過熱にもつながります。そこで銀行の金利を引き上げ、企業の設備投資を抑制し、個人消費も減少へ誘導するわけです。景気の過熱を抑制してバブルの崩壊を回避することにもつながります。
アメリカは2020年には利上げを終了させる見通しを立てていますが、景気の動向によっては高金利が続く可能性もあります。ただし、不動産投資の視点からすれば外貨を得る投資活動としてプラスに働く状況ではあるため、アメリカ不動産投資が活況な理由のひとつとなっています。
2 アメリカ不動産投資の3つのメリット
アメリカ不動産投資のメリットを次の3つのポイントに分けてご紹介します。
- 不動産投資ローンが使える
- 節税効果が期待できる
- 中古市場が日本よりも成熟している
それぞれ見ていきましょう。
2-1 不動産投資ローンが使える
日本国内では海外の不動産を担保にお金を貸してくれるところが少ないため、海外の不動産を購入する際に、住宅ローンを組むのは難しくなります。また現地銀行でローンを組む場合でも、現地での収入証明やクレジットヒストリー(返済の履歴)がなければ信用を得るのは難しいのが実情です。
しかしアメリカ不動産の場合、日本国内の銀行でアメリカの不動産を担保に融資をしている金融機関が複数あります。例えば「日本政策金融公庫」はすでに日本国内で法人として不動産投資をしている場合、アメリカの不動産購入時にローンを引くことができます。
基準金利は2018年6月の時点で年率2.06%から2.55%となり、融資限度額は7,200万円です。さらに担保は不要で、借入期間は20年以内と好条件ですが、審査基準は厳しいことで有名です。
次に、東証プライム上場企業のオープンハウスもアメリカ不動産への投資に積極的で、グループ会社のアイビーネットが融資面をバックアップしているため、融資を活用してアメリカでの不動産投資をスタートすることが可能となっています。アイビーネットの融資プラン「プラチナモーゲージ70」を利用すれば、購入するアメリカ不動産を担保として物件金額の最大70%相当まで融資を受けることが可能です。(*年収や年齢、資産状況などにより条件は異なります。)
他にも、日本国内の不動産を担保にしてアメリカでの不動産購入に対し融資をしている金融機関として「オリックス銀行」もあります。担保の対象は首都圏・近畿圏・名古屋市・福岡市の居住用不動産であることが条件となります。金利は2018年6月時点で変動型が年率3.675%、5年固定が3.500%などとなっています。借入期間は1年以上35年以下です。
2-2 節税効果が期待できる
海外不動産への投資でも確定申告は日本で行うことになるため、日本のルールに従って建物分の減価償却を行います。節税効果を期待したアメリカの不動産投資で主な対象となるのは中古の木造一戸建てや木造アパートです。
日本の場合、木造住宅は築年数の経過によって資産価値が下落し、20年ほど経過すればその価値はほとんどなくなります。つまり中古で一戸建てを購入すると建物分の価格はごくわずかなので、減価償却費もほとんど計上できません。
一方、アメリカの不動産の場合、日本ほど中古の一戸建てやアパートは資産価値が落ちません。逆に築年数の経過によってその価値を高める物件もあります。メンテナンスをして快適に暮らせる状態であれば、築古物件でも建物の価値はさほど落ちないため、減価償却費も十分に計上することができます。
さらに、アメリカの不動産は土地に対して建物の価格比率が高い(※)という特徴もあります。木造住宅の中古となれば減価償却期間が短いため、短期間で大きな経費計上が可能となります。またアメリカの不動産需要は人口増加を背景に近年高まる一方のため、売却時にもそれほど値下げをせずに買い手を探しやすいのもメリットです。
※たとえば、日本で土地:建物の比率が7:3の物件が、アメリカでは土地:建物が3:7となるケースもあります。
2-3 中古市場が日本よりも成熟している
アメリカ不動産市場の基盤となるのが中古の一戸建て住宅です。投資家にとっては「節税効果が期待できる」「資産価値が落ちにくい」などの魅力があることなどから、アメリカの中古市場は日本よりもはるかに成熟しています。
アメリカの不動産はMLS(Multiple Listing System)という日本のレインズに当たる物件情報システムに登録されています。過去の取引履歴から税金、評価額の履歴、近隣の学校の偏差値レベル(実はこれが不動産投資では大きなポイントになる)、近隣の評価額といったものまで、物件情報はかなり詳細に記録されています。
中古物件を売買する際には、売り手と買い手の双方にバイヤーあるいはブローカーがついて価格の交渉などを行い、売買代金の受け渡しは取引の安全性を担保するエスクロー会社を仲介します。
ただし、アメリカは契約主義の社会で、日本よりも訴訟が盛んに行われる文化があります。そのため高額な不動産売買の契約書では細部までフォローする必要があり、信頼できる弁護士への依頼が欠かせません。また自身でもしっかりと現地の法律を勉強しておくことが大切です。
3 アメリカ不動産投資で注意するべき5つのリスク
アメリカでの不動産投資に関わるリスクは次の通りです。
- 「学区」選びリスク
- 住宅診断リスク
- 物件のメンテナンスリスク
- 金利上昇リスク
- 減価償却費リスク
それぞれ見てきましょう。
3-1 「学区」選びリスク
一般的な不動産投資の物件選びでは、資産価値の上昇や賃貸需要の増加が見込めるエリアの選定が重要なポイントとなりますが、アメリカの場合、「学区」に関する知識が必要不可欠となります。アメリカは日本よりもエリアによって治安の良し悪しに差が生じます。そして治安が良いエリアは賃貸需要も高く、不動産の価値は落ちにくくなります。
しかしブローカーやエージェントにおすすめの学区を直接聞いても、明確な回答を得られないでしょう。アメリカではFair Housing Act(公正住宅取引法)という規定があり、住宅購入や賃貸取引において人種や宗教、性別や出身国などで差別をしてはならないと定められています。
そして学校の成績というランキング分けには、人種差別につながる可能性があることから、はっきりと学区の良し悪しには言及しないというスタンスが取られています。
そのため物件を選ぶときは不動産情報システム(MLS)を使って、学区と評価に関する情報収集に努めることをおすすめします。実際、高収入世帯は学区の良いところで家を探しており、その結果、周辺の住宅相場は上昇する傾向があります。
3-2 住宅診断リスク
アメリカで不動産を購入する場合、買主と売主が条件について合意してから物件を引き渡すまで30~45日程度かかります。その間、買主はホームインスペクター(住宅診断士)を雇い、購入物件についての調査を依頼します。
調査内容は室内の設備や建具の不具合、水回りの状態やシロアリの痕跡など多岐にわたります。何らかの不具合が見つかれば、買主は売主に対して修繕を依頼することができます。
売主が修繕などに応じない場合には、買主は取引をキャンセルすることができます。その場合、手付金は全額返却されるのが一般的です。ホームインスペクションが終了するまで違約金を払うことなく取引をキャンセルできるのは、海外投資家にとって嬉しいシステムといえます。
仮に購入後に重大な瑕疵が見つかれば紛争に発展することもあります。トラブルを回避するためにも、アメリカ不動産を購入する際は信頼できるホームインスペクション業者を探しましょう。
3-3 物件のメンテナンスリスク
前述した通り、アメリカ不動産は築古物件でも適切にメンテナンスすることで資産価値を落とさず、売却することが可能です。
ただしメンテナンスでは、多額のリフォーム費用をかけても売却金額に上乗せできなければ損失につながることもあるため注意が必要です。売却によるキャピタルゲインを狙うためには適切にメンテナンスをすることが重要ですが、リフォームにかけた費用に対するリターンが得られるような工夫が必要となります。
あるいは部屋の増築などするとコストがかさみ、売却金額に転嫁させれば金額もかなり高くなります。買い手がつかない価格になるほど過度にメンテナンスしないようにバランスを考える必要があります。
3-4 金利上昇リスク
FRBは2018年12月、政策金利の誘導目標を2.25−2.50%に引き上げることを決定しました。今後もインフレを懸念した金利引き上げが続く可能性があり、現地で住宅ローンを組んでいれば、返済額が増加し、収益率を低下させることになります。そのため金利動向には常に気を配ることが大切です。
また、現在は日本の低金利とアメリカの高金利が円安傾向につながっていますが、日本もいつまで低金利政策を続けるかは不透明です。政策金利を引き上げることになれば日米の金利差も縮まるため、円高に振れる可能性があります。円高になれば外貨資産を持っていると不利になり、円安になるまで待つか、別の資産運用方法を模索する必要が出てきます。
3-5 減価償却費リスク
アメリカの中古一戸建ては節税効果が高いことで富裕層を中心に人気があります。築年数の古い物件であれば、最短4年で大きな金額の減価償却費を計上できるのも嬉しいメリットです
ただし売却時には、計上した減価償却費の分を購入価格から差し引いて不動産所得を算出することになります。つまり購入金額を大きく減算するため、あまり値上がりしていなくても譲渡所得が高くなります。譲渡所得金額が増加することで相応の税額が課されることに留意が必要です。
4 まとめ
2018年12月にFRBは4回目の利上げを発表しました。依然としてアメリカ経済は強さをみせており、不動産相場もさらなる上昇が期待できます。日本との金利差は円安につながるので、これから不動産投資を始める方にとって追い風になるともいえます。
アメリカ不動産は日本の不動産よりも減価償却が大きく取れるメリットがあり、税効果が期待できます。一方、学区選びや日本とは異なる経済事情など独特のリスク要因もありますので、セミナーなどで事前に勉強を行った上で検討することをおすすめします。
HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム
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