2024年の不動産市場では、マイナス金利政策の解除、都心マンションの高騰、相続登記の義務化など様々なトピックがあり、市況が大きく動いた年でした。また、2025年からは不動産市況がどのように変化するのか、様々なポイントから動向が気になっている方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では2024年の不動産市場の動向を振り返り、2025年の不動産投資でどのようなポイントに注視していくべきか今後の予測をしていきます。不動産投資の戦略をどのように立てるべきか悩んでいた方、これから不動産投資を始めようと情報収集をしている方は参考にしてください。
目次
- 2024年の不動産市況の振り返り
1-1.不動産価格の推移
1-2.人口動態
1-3.相続登記の義務化
1-4.マイナス金利政策の解除と金利動向
1-5.円安による不動産市場への影響
1-6.ロシアのウクライナ侵略とエネルギー価格の高騰 - 2025年の不動産市場における投資戦略の立て方
2-1.金利上昇リスクに備えた物件選び
2-2.社会増により人口が増える投資エリアの選定
2-3.キャピタルゲインを狙った不動産投資 - まとめ
1.2024年の不動産市況の振り返り
1-1.不動産価格の推移
2024年も引き続き、国内全体の不動産価格は上昇傾向にありました。国土交通省が公開している不動産価格指数を見ると、マンションの価格が突出して上昇していることが分かります。
2013年以降にマンション価格が大きく伸びている背景としては、日本銀行が「量的・質的金融緩和」を導入したことが主な要因です。2016年1月には、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を導入し、金融機関が保有する日本銀行当座預金の一部にマイナス0.1%のマイナス金利が適用され、さらにマンション価格を大きく押し上げることになりました。
しかし、マンション価格だけが200%以上も大きく上昇している中で、住宅総合の価格は20%程度の上昇幅にとどまっています。戸建てや住宅地と比較してマンション価格が大きく上昇している背景には、マンションは駅近くなど都市部へのアクセスの良い立地に建てられることが多いことが要因の一つとして挙げられます。主要都市のマンション価格の推移について詳しく見てみましょう。
中古マンションの価格推移(70㎡あたりの中古マンション価格)
※東京カンテイ「プレスリリース(2024年12月23日)」を参照し筆者作成
こちらの図は、東京カンテイ「プレスリリース(2024年12月23日)」を参照した、2018年7月~2024年7月までの中古マンションの価格推移(70㎡あたりの中古マンション価格)です。東京23区、横浜市、さいたま市、千葉市、大阪市、名古屋市、神戸市の主要都市では全てマンション価格が上昇傾向にあることが分かります。しかし、2024年に着目すると特に東京23区の上昇率が高くなっており、千葉市、神戸市では価格が下落しています。2024年は東京23区のマンション価格が特別大きく上昇した年であったと見ることができるでしょう。
マンション価格が大きく上昇している背景には、ニーズが局所的に集中していることで都市部の不動産価格が上昇していると見ることができます。東京のマンション価格が他のエリアと大きく異なるポイントとしては、他府県と比較して23区内は人口の増加率も高く、底堅い賃貸ニーズが不動産価格を下支えしていることが原因の一つと考えられるのです。
1-2.人口動態
日本全国の人口動態としては減少傾向にあり、新型コロナウイルスの感染拡大が起きた2020年以降は年間で約40万人~60万人の人口減少が起きています。人口減少は不動産価格の下落を招く大きな要因となり、実際に地方では空き家問題が深刻化している状況です。(※参照:国土交通省「空き家政策の現状と課題及び検討の方向性」)
一方、日本全体では人口減少が起きている中でも、東京都などの一部都市では不動産価格が上昇しています。この原因としては、以下2つのポイントがあります。
- 世帯数の増加
- 社会増(転入超過)
核家族世帯(夫婦のみ世帯、夫婦と子世帯、ひとり親と子世帯)の増加により、人口減少している反面で日本の世帯数は増加しています。国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)の概要」によると、2020年の一般世帯総数は4,885万世帯で,1995年の4,390万世帯から495万世帯へ増加しており、また1世帯あたりの人員も減ることでコンパクトマンションの需要が増加しています。
また、東京都のマンション価格が突出して上昇している背景には世帯数の増加に加えて人口の社会増も関係しています。2024年における東京都の人口推移を見ると、2024年1月時点では14,105,098人、12月時点では14,200,331人となっており、1年で合計95,233人増加しており、引き続き人口増加傾向にあります。このような増加は東京の出生率が高いということではなく、東京から引っ越す転出者よりも他府県から東京に住み始める転入者の方が多い転入超過が原因となっています。
世帯数の増加と転入超過による人口の社会増によって東京都のマンション需要は年々増しています。このような背景もあり、東京都のマンション価格が突出して上昇していることの原因となっています。
東京都の人口(推計):毎月
月 | 総数(人) | 前月の増減(人) |
---|---|---|
2024年1月 | 14,105,098 | – |
2月 | 14,103,551 | -1,547 |
3月 | 14,101,583 | -1,968 |
4月 | 14,133,086 | +31,503 |
5月 | 14,170,275 | +37,189 |
6月 | 14,177,173 | +6,898 |
7月 | 14,176,774 | -399 |
8月 | 14,187,176 | +10,402 |
9月 | 14,183,261 | -3,915 |
10月 | 14,192,184 | +8,923 |
11月 | 14,202,541 | +10,357 |
12月 | 14,200,331 | -2,210 |
※参照:東京都の統計「東京都の人口(推計):毎月」
1-3.相続登記の義務化
少子高齢化に伴って地方の空き家問題が深刻化したことで、2024年4月1日から相続登記の申請が義務化されました。
(1)相続(遺言も含みます。)によって不動産を取得した相続人は、その所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。
(2)遺産分割が成立した場合には、これによって不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内に、相続登記をしなければなりません。
またこれは努力義務ではなく、義務に違反した場合は10万円以下の過料が課されることとなっています。これまで以上に厳しい制度設計から所有者不明の土地・物件を積極的に流動化していきたい意図が見え、不動産市場に供給される物件数も増えると期待されますが、施行されてから1年未満ということもあり、2025年1月時点で不動産価格や流通量などに大きな影響は見られていません。
1-4.マイナス金利政策の解除と金利動向
※日本銀行「長・短期プライムレート(主要行)の推移 2001年以降」
2024年3月に2016年から始まったマイナス金利政策は解除されました。これは、マイナス金利政策の目的であった「2%の物価安定の目標」の実現が見通せるようになったためです。(※参照:日本銀行「金融政策」)
一方、マイナス金利政策が解除されて金利が上がると、調達コストが上昇することで不動産価格が大きく下落してしまう可能性があります。「不動産価格の推移」で解説したように、マイナス金利政策の解除後も現時点では不動産価格の大きな下落は見られておらず、日銀は緩やかに利上げを実行するスタンスを示しています。日本のインフレ率をみると、まだ日銀が目標としている前年比2%を安定的に上回っており、今後継続して利上げが行われる可能性があると言えるでしょう。
1-5.円安による不動産市場への影響
USD/JPY(2024年1月~2025年1月)
※画像引用:Iinvesting.com
2024年のドル・円の価格推移を見てみると、米国との金利差によって一時は1ドル160円を超えるような強い円安傾向になっていました。円安が継続すると海外の投資家から見て日本不動産の割安感が増して積極的な投資が行われるようになるため、不動産価格の上昇の要因となります。実際に、JLL「インベストメント マーケット サマリー 2024年第1四半期」によると、世界の都市別ランキングで、東京は2024年第1四半期の不動産投資額が76.5億ドルで1位となっています。円安が継続するのであれば、今後も海外投資家からのニーズも増加していくと考えられます。
1-6.ロシアのウクライナ侵略とエネルギー価格の高騰
※画像引用:資源エネルギー庁「世界的なエネルギーの需給ひっ迫と資源燃料価格の高騰」
2021年以降のエネルギー価格高騰は、不動産市場にも大きな影響を与えています。この価格高騰の背景には、新型コロナウイルスからの経済回復、地政学的緊張、化石資源の不足などが絡み合い、エネルギー供給が逼迫したことが挙げられます。特に2022年、ロシアのウクライナ侵攻によって天然ガスや石油、石炭の価格は歴史的高値を記録し、各国の経済活動に広範な影響を及ぼしました。
エネルギー価格高騰は建築コストを押し上げるため、このような政情リスクは不動産市場にも直接的に影響を与えています。一方で2025年1月20日に第47代アメリカ合衆国大統領として再就任するドナルド・トランプ氏はウクライナ支援に消極的な姿勢を見せており、早期停戦に向けた施策を実施する可能性が高まっているのです。2024年はエネルギー価格も徐々に落ち着いていますが、早期停戦が実現することでさらに価格が抑えられるといったシナリオも想定できます。
出典:資源エネルギー庁「世界的なエネルギーの需給ひっ迫と資源燃料価格の高騰」
2.2025年の不動産市場における投資戦略の立て方
2-1.金利上昇リスクに備えた物件選び
マイナス金利政策の解除により金利上昇リスクが高まっているため、ある程度の金利が上昇しても問題の無い物件選びが重要になってくると言えます。金利が上昇すると毎月のキャッシュフローを圧迫してしまうため、長期的に保有することが難しくなってしまうケースもあるためです。つまり、2025年の不動産市場においても、金利の上昇が投資の成否を左右する重要な要因となることが予想されます。
金利上昇によって毎月のローン返済額が増加するとキャッシュフローが圧迫される可能性があるため、長期的に賃料収入が期待できるエリアの物件を選ぶことが有効です。例えば、都心部の賃貸需要が豊富に見込まれるエリアであれば、インフレに連動して物件価格や賃料相場も上昇することが見込まれるため、インフレ対策として実施される金利上昇のリスクにも対応しやすいと言えます。
また、金利が上昇すると不動産市場全体の買い手が減少し、資産価値が下落するリスクが高まります。金利の上昇トレンドでも値下がりせず、スムーズに売却ができる流動性の高い物件が投資に適していると言えるでしょう。この場合も流動性が高い都心部での物件が投資先の候補となりますが、すでに投資エリアが決まっているのであれば不動産情報ライブラリなどを活用し、実際の取引量の推移や物件タイプなども調査されておくと良いでしょう。
2-2.社会増により人口が増える投資エリアの選定
2025年の不動産投資戦略を立てるうえでは、人口流入が続くエリアの特性を分析することが重要です。社会増が起きる地域にはいくつかの共通点があります。例えば、東京23区やその周辺地域、産業拠点としての開発が進むエリア、または利便性の高い交通網が整備されている地域などです。これらの地域では、新たな雇用の創出や働き方の変化により人口増加が見込まれ、それに伴って住宅需要も拡大します。
反対に現在の人口が多いエリアであっても、人口流出が続いているのであれば現況の入居率を保つことができず、長期的には収支マイナスになってしまうリスクが高いと言えます。投資エリアを選定する際は、過去の人口推移や年齢層なども調査し、中長期的な投資判断を行えるように注意しましょう。情報収集には、統計データや自治体の計画書を活用することが効果的です。転入出の動向や人口増加率、地域の開発計画などを調査し、社会増が期待できるエリアを客観的に分析することで、投資の成功確率を高めることができます。
エリア選定時には、社会増の持続性も検討材料に含めるとよいでしょう。近隣に有名大学がある、もしくは大企業の工場があるなど特定の要因によって人口増が見込まれている場合、それらの撤退などで効果が薄れると賃貸需要が減少するリスクがあります。これを回避するためには、エリアの産業や人口動態、自治体による施策など、長期的に社会増を支えうる要因が存在するかを確認することが大切です。
また、長期的に人口増が起きているエリアであれば、新築マンションが立てられたり、賃料相場も上昇しているケースがあります。過去の物件供給量や賃貸履歴なども検証し、中長期のトレンドで賃貸需要が増加しているのかどうか推し量ってみると良いでしょう。
2-3.キャピタルゲインを狙った不動産投資
インフレや円安、それらに伴った金利の上昇という局面では、キャピタルゲイン(売却益)に着目した不動産投資戦略も有効です。中長期的にキャッシュフローを得る投資方法は低金利の環境に依存しており、金利上昇局面では投資開始時の収益性を保つことが難しくなるためです。
反対に、2024年のマイナス金利政策の解除は強いインフレ傾向や円安に関連したものであり、インフレ期には不動産価格は上昇します。また円安も海外投資家の参入を招くため、都心部の不動産市場においては追い風要因となっています。金利上昇も相まって、2025年以降の不動産市況では、キャピタルゲインを狙った投資戦略が一つの選択肢となってくると言えるでしょう。
なお、キャピタルゲインを得るには「購入時よりも高値で売却しなければならない」と考えてしまう方も多いと思いますが、実際には物件の値下がりスピードよりもローンの返済スピードの方が早い状態(アンダーローン)であれば売却益を得ることが可能です。
例えば、価格2,000万円の物件をフルローンで購入し、毎月のローンの返済額が5万円、賃料収入が6万円、5年後に1,500万円で売却したという条件で検証してみましょう。
- 月々の返済額(総額):5万円
- ローン金利:年率1.5%で設定
- 融資年数:30年
- 返済期間:5年間 = 60ヶ月
- 5年後のローン残高:約1,250万円(12,501,990円)
5年後のローン残高は約1,250万円であるため、1,500万円-約1,250万円=約250万円のキャピタルゲインを得ることができます。(※諸費用や税金を考慮していません)
このように、購入時よりも値下がりが起きている物件であっても、賃料収入によってローン返済がしっかりと行えている場合ではキャピタルゲインを得ることができます。一方で、ローン返済よりも早いスピードで値下がりが起きている状況(上記の例では1,000万円以下)であれば、キャピタルゲインを得られないということになります。
注意点として、キャピタルゲインを狙った不動産投資では、低利回りであっても値下がりが起きにくい物件選びが重要となってきます。人口増によって豊富な賃貸需要が見込めるエリアでは利回りが低くなりやすく、フルローンではキャッシュフローがマイナスになってしまう物件が多いという点はデメリットです。
また、キャピタルゲインを狙った不動産投資は、賃貸契約によって獲得見込みの高い賃料収入と異なり、売却時点での不動産市況に大きく依存します。例えば、インフレを抑えるために急激に金利が上昇してしまう局面では全ての不動産価格の下落リスクが高まり、想定通りの価格で売却できない可能性もあります。
キャピタルゲインを狙った不動産投資を検討する際は、不動産価格が大きく値下がりしてしまっても、次の売却のチャンスまで長期的に耐えられるようなシミュレーションが重要です。与信枠ギリギリまで物件を保有していると、空室時のマイナスに耐えられず長期保有が難しくなることがあります。自身の投資余力や資産状況も鑑みながら、慎重に投資検討していくことも大切です。
まとめ
2024年の不動産市場は、マイナス金利政策の解除や相続登記義務化、円安など多くの要因が重なり動きの大きい年となりました。マンション価格は都市部を中心に引き続き上昇する一方、地方では人口減少による価格下落が進行しています。
2025年に向けては、金利上昇や人口動態の変化を踏まえた投資戦略が求められると言えるでしょう。特に東京23区のように社会増が見込まれる都心部では、引き続き不動産投資が検討しやすいエリアとして注目されます。このような市況では、キャピタルゲインを狙った不動産投資も選択肢となり得るでしょう。
HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム
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