生物多様性のためのファイナンス協定とは・意味

目次

  1. 生物多様性のためのファイナンス協定とは
  2. 生物多様性のためのファイナンス協定が発足した背景
  3. 生物多様性のためのファイナンス協定の5つの誓約
    3-1.協力と知見の共有(Collaborating and sharing knowledge)
    3-2.企業とのエンゲージメント(Engaging with companies)
    3-3.インパクト測定(Assessing impact)
    3-4.目標設定(Setting targets)
    3-5.情報開示(Reporting publicly on the above)
  4. 生物多様性のためのファイナンス協定の課題
  5. まとめ

1 生物多様性のためのファイナンス協定とは

生物多様性のためのファイナンス協定(Finance for Biodiversity Pledge)とは、金融を通じて生物多様性の保全と回復を目指し発足された金融機関による協定のことです。2020年に、欧州を中心とした26の金融機関(運用資産合計3兆ユーロ超)によって発足されました。その後署名機関数は増加し、2024年時点で25カ国160以上の金融機関(運用資産合計21.7兆ユーロ超)が署名しています。

署名機関は、生物多様性の保全のため、協力・知見の共有、企業とのエンゲージメント、インパクト評価、目標設定、情報開示という5つの誓約に対し取り組んでいます。発足当初に署名した金融機関は2025年に、2024年に署名した金融機関は2027年に、本協定に対する取り組み状況について情報開示を行うことが求められています。

(※参照:Finance for Biodiversity「Financial institutions launched Finance for Biodiversity Pledge during UN event」、「Finance for Biodiversity Foundation extends implementation window of the Pledge to mobilise future signatories」、「About the Pledge」)

2 生物多様性のためのファイナンス協定が発足した背景

生物多様性の喪失は、気候変動と同様に地球規模の環境問題のひとつです。生態系の破壊や砂漠化、食糧問題など様々な形で環境・経済・社会に深刻な影響を与えます。

特に自然資源に依存する多くの産業では、生物多様性の喪失が長期的な資源枯渇とサプライチェーンの不安定化を招くリスクが懸念されています。

こうした背景から、金融活動を通じて生物多様性の保全・回復を目指す誓約として本協定が発足しました。

3 生物多様性のためのファイナンス協定の5つの誓約

本協定に署名した金融機関は、次の誓約(Pledge)を守ることが求められています。

  • 協力と知見の共有(Collaborating and sharing knowledge)
  • 企業とのエンゲージメント(Engaging with companies)
  • インパクト測定(Assessing impact)
  • 目標設定(Setting targets)
  • 上記の項目に関する情報開示(Reporting publicly on the above)

3-1 協力と知見の共有(Collaborating and sharing knowledge)

金融機関同士が協力し、評価手法や生物多様性関連指標、目標設定や金融手法について知見やベストプラクティスを共有することで、生物多様性の保全に向けた取り組みを強化します。

事例や知見を共有するプラットフォームとして、EU Finance@Biodiversity Community(EU Finance生物多様性コミュニティ)や、UN PRI Collaboration Platform(国連責任投資原則コラボレーションプラットフォーム)、UNEP FI(国連環境計画・金融イニシアティブ)等のプラットフォームが挙げられます。

3-2 企業とのエンゲージメント(Engaging with companies)

生物多様性に関する基準をESG関連のポリシーや意思決定プロセスの中に組み入れるとともに、投資家として企業とのコミュニケーションと協働に力を入れ、生物多様性の保全に取り組みます。

例えば、資産運用会社の英ACTIAM(現Cardano)は、衛星データを活用し投資先企業のサプライチェーン上の森林伐採活動を調査。分析内容を企業とのエンゲージメントに取り入れ、生物多様性の観点から企業がベストプラクティスに取り組めるように働きかけています。

このように、企業活動が生物多様性に与える影響を評価し、生物多様性の保全・回復に向けて提言する活動が、エンゲージメントの例として挙げられます。

3-3 インパクト測定(Assessing impact)

金融機関の資金調達・投資活動が生物多様性に与える影響を定量的に評価し、生物多様性の喪失につながる要因を特定します。バリューチェーン全体でポートフォリオ企業を評価するために、信頼性の高いデータや方法論を用いるように努めます。

インパクト測定のツールは、EU Business@Biodiversity Platformや、生物多様性保全に取り組む仏企業CDC Biodiversite等が提供するツールが例として挙げられます。

3-4 目標設定(Setting targets)

生物多様性の保全に向けた取り組みや、喪失要因に対する働きかけに関して、具体的な行動目標を設定し公開します。

生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)や生物多様性に関する科学的根拠に基づく目標ネットワーク(Science Based Targets Network)、EU生物多様性戦略などに沿う形で、目標設定を行います。

3-5 情報開示(Reporting publicly on the above)

透明性を高めるため、金融機関による資金調達・投資活動が生物多様性に与える影響や、生物多様性保全のグローバル目標に対する進捗状況を公表します。

情報開示は、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の開示フレームワークやGlobal Reporting Initiative (GRI)の示す生物多様性に関する報告基準等に沿う形で行います。

(※参照:Finance for Biodiversity「Reverse nature loss in this decade」)

4 生物多様性のためのファイナンス協定の課題

生物多様性のためのファイナンス協定に署名する金融機関は、発足以来増加傾向にある一方、地域的な偏りを抱えています。

欧州の金融機関により発足した本協定ですが、2024年時点でも署名機関の大半が欧州を拠点とする金融機関です。北米・南米の金融機関は約30社、アジア、オセアニア、アフリカ地域の金融機関は約10社に留まります。日本の署名金融機関は、りそなアセットマネジメントの1社のみです。

協定の効果を高めるためには、より多くの地域の金融機関の賛同を得て、生物多様性に対する取り組みを積極化させることが求められます。

(※参照:Finance for Biodiversity「Signatories」)

5 まとめ

生物多様性のためのファイナンス協定は、金融機関が主導して生物多様性の保全と回復を推進するための枠組みです。協調と知見の共有、企業へのエンゲージメント、インパクト測定、目標設定、情報開示という5つの誓約を通じて、持続可能な社会の形成に貢献しようとしています。

しかし、署名する金融機関が欧州中心であるため、今後グローバルな規模で金融機関の賛同を得ていくことが望まれるでしょう。より多くの金融機関が協定に署名し、金融活動を通して生物多様性の保全と回復に働きかけていくことが期待されます。

サステナブル投資の考え方・手法・商品などに関連する用語一覧

サステナブル投資に関連する組織・枠組み

企業活動に関するサステナビリティ用語

The following two tabs change content below.

伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。