目次
1 グリーンタクソノミーとは
グリーンタクソノミー(Green Taxonomy)とは、環境面でのサステナビリティに貢献する経済活動や資産に関する定義や基準のことです。投資家や事業者が脱炭素社会とSDGsの達成に資する資産や事業への投資を行いやすくなるよう、基準を設ける動きがヨーロッパを中心に始まっています。
タクソノミ―の制定を先行するEU(欧州連合)は、欧州地域が気候危機に対応するために必要なエネルギー転換目標の達成には、年間7,000億ユーロ(7,610億米ドル相当)の投資が必要であると試算しました。環境に配慮した持続可能な投資を加速させるために、2018年に導入された「EUサステナブルファイナンス・アクションプラン」とともにEUタクソノミー(EU Taxonomy for Sustainable Activities)が提案され、2020年に採択されています。
(※参照:Institute for Energy Economies and Financial Analysis「Fact Sheet: Green taxonomies explained」、Bloomberg「The importance of global cooperation on green taxonomies」)
2 グリーンタクソノミーが重視される背景
グリーンタクソノミーの整備が進められる以前、環境面のサステナビリティについての明確な定義や基準がなく、幅広い解釈がされていました。そのため、企業の環境パフォーマンスに対する解釈や評価方法が、事業会社、金融機関、規制当局によって異なっていたり、サステナビリティへの貢献を実際よりも大きく見せる「グリーンウォッシング」のリスクがあったりしたのです。
グリーンタクソノミーを制定することにより、資産や投資の環境に対する効果やリスクへの透明度を高め、金融市場関係者が共通の基準をもって意思決定を行えるようになることを目指しています。
また事業会社も、グリーンタクソノミーを基準に情報開示やリスク分析を進めることで、自社の環境に対するインパクトやリスクを認識したうえで、より環境面で持続可能な事業モデルへの変革につなげることが期待されています。
(※参照:Institute for Energy Economies and Financial Analysis「Fact Sheet: Green taxonomies explained」、Corporate Governance Institute「What is green taxonomy?」)
3 グリーンタクソノミーの各国の推進状況
グリーンタクソノミーの整備を積極的に推進しているのはEUですが、その他の国でもタクソノミーの整備は進められています。
国・地域 | 概要 |
---|---|
EU | 2020年に採択されたEUタクソノミーでは、「気候変動の緩和」「気候変動への適応」「水と海洋資源の保護」「循環経済への移行」「汚染の予防」「生物多様性と生態系の保護」の6つの環境目標が設定されている。環境目標と産業ごとにEUタクソノミーに適格な活動を定義。また、EUが定義する「グリーン」な活動に当てはまる売上や投資など、企業の報告要件を定めている。 |
英国 | 2020年、英国版グリーンタクソノミーの導入方針を表明。EUタクソノミーをモデルに英国版タクソノミーを検討中。 |
中国 | 2015年にグリーンボンド適格プロジェクトカタログを公表し、グリーンボンドの発行基準をリスト化。2021年に改訂。 |
インド | インド証券取引委員会が、グリーンボンドの資金使途等で用いるための大まかな事業区分を公表。グリーン・ソーシャルタクソノミーを策定中。 |
オーストラリア | 2020年、Australian Sustainable Finance Initiativeがオーストラリア版タクソノミー策定を提言。 |
カナダ | カナダ規格協会が、二酸化炭素の排出量が多い8業種を対象にトランジション基準案を策定中。 |
マレーシア | 2021年に銀行と保険分野の監督当局が、気候変動緩和・適応等を対象とするタクソノミーを作成。 |
各国で基準の制定が進められることで、環境関連の情報の透明性が向上し、グリーンな事業や資産に投資しやすい環境が整備されることが期待されます。
(※参照:環境省「国内外の政策等の動向について」、Corporate Governance Institute「What is green taxonomy?」、PwC「報告義務の対象が拡大――EUタクソノミー最新動向(1)」)
4 グリーンタクソノミーの課題
グリーンタクソノミーの課題は大きく分けて3つあります。
- 米国がグリーンタクソノミーの制定に消極的な傾向にある
- 各国で基準が整備されれば、結果的に統一的な基準が不在となる恐れがある
- タクソノミー対応のためのコスト増加により企業の事業成長が減速する恐れがある
第一に、世界一の経済大国である米国では保守派の政治的反発が根強く、2024年現在、タクソノミーの制定を進める目立った動きが見られません。米国の消極的なスタンスは、グローバルレベルでのグリーン投資の基準整備を阻害するリスクがあります。
また、各国で検討が進められるタクソノミーは、先行するEUのモデルが参考にされているものの、各国の状況に応じた独自基準となります。グローバルに事業展開する企業にとってはそれぞれのタクソノミーへの対応を求められることになる可能性があります。
こうしたタクソノミー対応により、従来より実務面、財務面で企業の負担が増加し、企業にとっては事業成長に必要な資金・人材を十分に投資できなくなり、事業成長が減速するといった恐れもあります。
(※参照:Corporate Governance Institute「What is green taxonomy?」)
5 まとめ
脱炭素化社会の実現や自然資本の保護、生物多様性の保全のためには、積極的にグリーンプロジェクトへの投資が必要となります。
グリーンタクソノミーは、投資先が「グリーン」であることを評価する基準として、各国、各地域で検討が始まっています。グリーンウォッシングのリスクを抑え、環境面のサステナビリティに寄与する資産や事業への投資を後押しすることが目的です。
先行するEUでは、EU域内の一部企業に対し2024年1月以降に開始する事業年度から適用が始まっています。今後タクソノミーを整備する動きが各地に広がり、その地域・国で経済活動を行う金融機関や企業は対応を求められることになるでしょう。
(※参照:日本総研「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)・欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の概要および日本企業に求められる対応」)
サステナブル投資の考え方・手法・商品などに関連する用語一覧
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- 企業サステナビリティ報告指令(CSRD)
- グラスゴー金融同盟(Glasgow Financial Alliance for Net Zero、GFANZ)
- 国際資本市場協会(International Capital Market Association、ICMA)
- Climate Action 100+
企業活動に関するサステナビリティ用語
- LCA(Life Cycle Assessment)
- CDP(Carbon Disclosure Project)
- コーポレートガバナンス・コード
- コーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)
伊藤 圭佑
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