インパクトレーダーとは・意味

目次

  1. インパクトレーダーとは
  2. インパクトレーダーが開発された背景
  3. インパクトレーダーの活用方法
  4. インパクトレーダーの課題
  5. まとめ

1 インパクトレーダーとは

インパクトレーダーとは、国連環境計画・金融イニシアティブ(United Nations Environment Programme Finance Initiative、UNEP FI)が提案する、ポジティブ・インパクト金融において総合的にインパクトを把握するためのツールです。ポジティブ・インパクト金融とは、持続可能な開発を実現するため経済・環境・社会の側面でマイナス要因を緩和し、プラスの貢献をもたらす金融手法のことです。

インパクトレーダーは、持続可能な社会の形成に影響を与える領域を分類した「インパクトカテゴリー」をもとに構築されています。インパクトカテゴリーの活用により、以下の目的が実現されることを目指しています。

  • SDGsの基盤となる持続可能な開発のニーズ(マクロ)を把握し、持続可能な開発に対する財務的な寄与についての定義および測定ができるような指標(ミクロ)を提供するための基礎を提供する。
  • 金融機関が、持続可能な開発に関する3つの側面にまたがるマイナスの影響とプラスの影響を特定できるようにし、総合的なインパクト分析を行うことができるようにする。

(※引用:UNEP FI「インパクトレーダー 包括的なインパクト分析のためのツール」)

2018年開発当時、インパクトカテゴリーは「People(社会)」「Planet(環境)」「Prosperity(経済)」の3つの分類で構成されていました。その後2022年に改訂された際、インパクトの基盤となる以下の「3つの柱」に見直されています。

  • Society(社会):個人に与えるインパクト
  • Environmental(環境):自然環境に与えるインパクト
  • Economic(経済):社会経済に与えるインパクト

3つの柱には、「人格と人の安全保障」「サーキュラリティ」「健全な経済」など12のインパクトエリアが紐づています。さらに、「紛争」「児童労働」や「廃棄物」「資源強度」、「セクターの多様性」など34のインパクトトピックが整理されています。

銀行などの金融機関は、各インパクトカテゴリーにおいて、自らの投融資がどのようなプラス・マイナスの影響をもたらすかを評価します。

(※参照:UNEP FI「インパクトレーダー 包括的なインパクト分析のためのツール」)
(※参照:環境省「UNEP FI 『インパクトレーダー』改訂版」)

2 インパクトレーダーが開発された背景

2015年、国連にて持続可能な開発目標(SDGs)が採択されました。SDGsの達成には、インフラやクリーンエネルギー、水や衛生、農業などへの投資として、2030年までの期間、年間およそ5〜7兆ドルが必要であると試算されています。

しかし、2015年時点の金融の枠組みでは、SDGsを達成するために必要な規模の資金調達に対応できないと懸念されていました。そこで、SDGs達成に必要な資金調達を呼びかけるため、UNEP FIはポジティブ・インパクト金融を提唱しました。

SDGsの達成に資するようなポジティブ・インパクト金融を金融機関がより実践しやすくなるよう開発されたツールが、インパクトレーダーです。インパクトレーダーの活用により、金融機関は投融資先のインパクトをポジティブ・ネガティブ両面から評価でき、ポジティブなインパクトをもたらす活動への積極投資につながると期待されています。

(参照:UNEP FI「ポジティブ・インパクト金融原則 SDGs達成に向けた金融の共通枠組み」)

3 インパクトレーダーの活用方法

インパクトレーダーは、すべてのカテゴリーにおいてポジティブとネガティブインパクト双方を評価することを重視しています。何らかのポジティブ・インパクトを与える投資であったとしても、ネガティブな要因を引き出す可能性を常に考慮することが求められているのです。また、一つの分野だけでなく、他の分野との相互関連性についても考慮することが求められています。

一方で、具体的なインパクトの特定手法・分析手法については、ある程度金融機関に裁量があるのが特徴です。UNEP FIは、活用方法については以下の「必須対応事項」と「柔軟性のある事項」に整理しています。

必須要件

  • 全てのカテゴリーの検討
  • 全てのカテゴリーでポジティブなインパクトを検討
  • 全てのカテゴリーでマイナスの影響を考慮
  • 金融商品やサービスの提供に先立って、設計過程における事前影響の検討
  • インパクトカテゴリーを用いて、(特定された、あるいは潜在的な)インパクトを評価・モニタリングし報告する

柔軟性

  • カテゴリー別のインパクトを特定するために用いられる具体的な枠組みとプロセス
  • ポジティブ・ネガティブインパクト特定の手続き
  • カテゴリーごとのインパクト識別に続き、金融機関、商品・サービス、業務ごとに分析の種類や詳細度を特定
  • インパクト分析を実施するためのカテゴリー・サブカテゴリーおよびそれぞれお方法に付随する指標

(※引用:UNEP FI「インパクトレーダー 包括的なインパクト分析のためのツール」)

4 インパクトレーダーの課題

インパクトレーダーは、投融資が与えるインパクトをSDGs達成に必要な側面から分析するためのカテゴリーを提供しています。しかし、インパクトの測定には、量的・質的に十分な情報にアクセスできるかどうか、またそれぞれのインパクトカテゴリーに応じた測定手法を金融機関が活用できるかどうかも関わってきます。

またポジティブ・インパクト金融を促進するためには、金融機関の役割はインパクトレーダーをもとに投資インパクトを評価し情報開示するだけにとどまりません。継続的なモニタリングと投融資先との対話により、ネガティブなインパクトの抑制とポジティブなインパクトの創出を促していくことが期待されます。

ポジティブ・インパクト金融の拡大には、投融資先との対話や継続的なモニタリング体制を整備するなど、インパクトレーダーの評価内容を有効活用するための継続的な取り組みが必要です。

(※参照:UNEP FI「インパクトレーダー 包括的なインパクト分析のためのツール」)
(※参照:一般財団法人 北陸経済研究所「SDGsの目標達成に貢献するポジティブ・インパクト・ファイナンス」)

5 まとめ

インパクトレーダーは、各金融機関がポジティブ・インパクト金融を実践しやすくなるよう開発された、自社の投融資を社会・環境・経済の観点からインパクト評価するためのツールです。

インパクトレーダーを活用し、金融機関が投資インパクトの評価と投融資先との積極的な対話をしやるくなることで、ポジティブ・インパクト金融のさらなる促進が期待されます。

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伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。