βアクティビズム(ベータアクティビズム)とは・意味

目次

  1. βアクティビズム(ベータアクティビズム)とは?
  2. βアクティビズムが注目される背景
    2-1 個別企業のパフォーマンス(α)
    2-2 市場全体のパフォーマンス(β)
  3. βアクティビズムの例
    3-1 ユニバーサルオーナー
    3-2 具体例
  4. βアクティビズムの課題と展望
  5. まとめ

1 βアクティビズム(ベータアクティビズム)とは?

βアクティビズム(ベータアクティビズム)とは、個別企業の株価向上ではなく現実社会がプラスの方向に動くよう、投資家が社会課題に対して働きかけを行うことです。

例えば、特定の株式を売買したり銘柄選択をしたりすることにとどまらず、より持続可能な社会と資本市場の実現に向けて、関係者間の協調体制を構築したり、ロビー活動など公共政策に影響を与えたり、スチュワードシップ責任のもと目的を持った対話(エンゲージメント)を行ったりすることなどが挙げられます。

2 βアクティビズムが注目される背景

株式投資の代表的な理論の一つに、1950年代に登場した現代ポートフォリオ理論(Modern Portfolio Theory、MPT)があります。MPTでは、株式投資の収益率の計算を、「個別企業のパフォーマンス(α、アルファ)」と「市場全体のパフォーマンス(β、ベータ)」の二つに分けて考えています。

2-1 個別企業のパフォーマンス(α)

MPTが重要視するのは「個別企業のパフォーマンス(α)」です。投資の収益率を上げるために、投資家が個別企業のパフォーマンスを分析し、個別企業に対してCEOの選出、合併や子会社の売却、資本配分など働きかけをし、収益拡大や株主還元を求める「αアクティビズム」の姿勢を追求しています。

2-2 市場全体のパフォーマンス(β)

これに対し、「β」の重要性を指摘したのが、2021年に出版された「Moving Beyond Modern Portfolio Theory」(ジョン・ルコムニク氏、ジェームズ・P・ホーリー氏著、日本語訳「『良い投資』とβアクティビズム、MPT現代ポートフォリオ理論を超えて 」)です。

同書では、MPTが構築された1950年代当時と比べ、現代アメリカでは投資家が個人から機関投資家に移り、投資家の存在が市場や社会に対して与える影響力が高まったこと、「α」より「β」の方が投資リターンに与える影響が高い傾向にあること、「α」と「β」は排他的な関係ではなく連続的な関係にあることなどを指摘しました。

そして、気候変動、人種・ジェンダー問題、所得格差、環境問題といった非財務的な社会課題が「β」に影響を与えていることを踏まえ、個別企業だけでなく現実社会全体がプラスの方向に動くよう、課題そのものに対して働きかける「βアクティビズム」の重要性を提唱したのです。

(※参照:Frontier Eyes Online、松岡真宏氏著「2023年はESGにとって波乱の年? 「『良い投資』とβアクティビズム」発刊に寄せて」)
(※参照:ジョン・ルコムニク氏、ジェームズ・P・ホーリー氏著「Moving Beyond Modern Portfolio Theory」、日本語訳「『良い投資』とβアクティビズム、MPT現代ポートフォリオ理論を超えて 」)

3 βアクティビズムの例

βアクティビズムにおいて特に影響力を有するのが、「ユニバーサルオーナー」と呼ばれる大口の資産運用機関です。世界有数の年金基金である、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)や、ノルウェーの政府年金基金グローバル(Government Pension Fund – Global)がその一例です。

3-1 ユニバーサルオーナー

ユニバーサルオーナーがβアクティビズムに取り組む理由として、保有する一部の企業が自社の収益拡大のために環境や社会を損ねる事業活動を行った場合、その企業の株価が上昇したとしても、他の企業や経済社会全体が不利益を被ってしまい、ユニバーサルオーナーの投資ポートフォリオ全体がダメージを受けてしまう恐れがあるためです。

運用資産の長期的な投資収益拡大は、GPIF等の被保険者の利益につながります。そのため、持続可能な社会と資本市場の構築を目指すβアクティビズムは、ユニバーサルオーナーにとっても重要な取り組みと言えます。

(※参照:GPIF「投資原則・行動規範等-4」)

3-2 具体例

クライメート・アクション100+

βアクティビズムの例として、グローバルな機関投資家による気候変動イニシアチブ「クライメート・アクション100+(Climate Action 100+)」が挙げられます。温室効果ガスの排出量の多い企業に対し、カーボンニュートラル実現に向けた取り組みを促す投資家のイニシアチブです。

2022年時点で、世界で700社以上の投資家が参加し、参加投資家が管理する資産総額は68兆ドルに及ぶ規模となりました。温室効果ガス削減の注力対象となっているのは世界166社の企業で、そのうち75%が2050年までのネットゼロに対するコミットメントを表明しています。

イニシアチブを通して、企業に対し、ガバナンス体制の強化や、バリューチェーン全体での温室効果ガス削減の取り組み、またネットゼロ実現のための実行計画を含めた情報開示を促しています。

(※参照:Climate Action 100+

ブラックロック社フィンクCEO

その他の例として、世界有数の資産運用会社ブラックロック社のラリー・フィンクCEOが挙げられます。フィンクCEOは、2007年、2008年の世界金融危機以降、投資先企業の経営者に向けて、社会課題の解決など長期的な目的を持ち事業活動に取り組むよう毎年メッセージを発信しています。例えば、2022年は以下のようなCEOメッセージが発信されました。

パーパスをステークホルダーとの関係の基盤と位置付けることが、長期的な成功の鍵となるでしょう。

(ブラックロック社が)サステナビリティを重視するのは、環境保護主義者だからではなく、資本主義者であり、お客様の受託者であるためです。

またフィンクCEOは、気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)や、サステナビリティ会計基準審議会(SASB)の提言に沿った情報開示を企業に要請するなど、ESG情報開示のための基準設定を促す働きかけを行っています。

その一方で、ブラックロック社は環境対応への遅れなどが指摘されることもあります。例えば、先述のクライメート・アクション100+への参加を表明したのは2020年ですが、その時点で既に370社以上の同業他社が参加しており、比較的遅いタイミングでの参加となったことが度々指摘されています。また、過去にブラックロック社が気候変動関連の株主提案10件に対し、1件しか支持していないこと等を理由に、国際的なサステナビリティNGO団体Ceresは、2019年に発表したグリーン投資関連の資産運用会社に対する評価で、同社の評価を48社中43位としました。

このように、ユニバーサルオーナーは、その影響力の大きさからリーダーシップや発信力を通して社会課題解決を促す役割が期待される一方で、βアクティビストとして発言だけでなく具体的なアクションやコミットメントが求められていると言えます。

(※引用:ブラックロック社「ラリー・フィンク 2022 letter to CEOs:資本主義の力」)
(※参照:GreenBiz「BlackRock goes green? Investment giant joins Climate Action 100+ amid controversy」)
(※参照:Ceres「As Climate Change Causes a Maelstrom of Financial Risks and Opportunities, is Your Money Manager Prepared to Weather the Storm?」)

4 βアクティビズムの課題と展望

持続可能な社会やESG投資の観点から期待が寄せられるβアクティビズムですが、課題もあります。

・βアクティビズムには、従来αアクティビズムで求められた投資関連取引やポートフォリオ構築を超えたテクニックが求められること
・重大な社会課題は根本原因も重大であることが多く、投資家の一時の取り組みで課題解決に至るとは限らないこと
・βアクティビズムには、投資行為(株式売買など)以外の活動も含まれるものの、投資家が投資行為以外のβアクティビズムを行った場合、政治的だと批判を受けることがあること
・社会課題には政治的な問題も含まれていることも多く、βアクティビズムとしての正当性を明確にする必要があること
・βアクティビズムが私利私欲のために利用されないよう、様々なステークホルダーとの相互持続性によるガバナンスが必要であること

(※参照:ジョン・ルコムニク氏、ジェームズ・P・ホーリー氏著「Moving Beyond Modern Portfolio Theory」、日本語訳「『良い投資』とβアクティビズム、MPT現代ポートフォリオ理論を超えて 」)

5 まとめ

このように、個別企業の短期的な業績改善や投資収益改善ではなく、長期的な視野で社会全体の善を追求するのが「βアクティビズム」です。従来の投資理論では想定されていなかった、非財務情報に関わる社会・環境面の課題に対する取り組みを含むことから、政治的だと批判されたり、また私利私欲のために利用されないよう、βアクティビズムの正当性やガバナンス体制の確保が求められたりするなど、βアクティビズムの定着には課題が残ります。

しかし、企業活動の目的として、短期的な利益ではなく、環境問題や社会問題の解決を目指すよう、投資家が企業、政府、社会に対して働きかけをすることで、社会全体、及び、投資先企業の持続可能性につながり、投資家としても安定した投資収益を得られるといった、持続可能な取り組みとなることが期待されています。

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