目次
- サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)とは
- SFDRが注目される背景
- SFDRが求める開示内容と適用スケジュール
3-1.SFDRが求める開示内容
3-2.SFDRの適用スケジュール - SFDRの課題
- まとめ
1 サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)とは
サステナブルファイナンス開示規則(Sustainable Finance Disclosure Regulation、SFDR)は、2021年にEUで施行されたサステナブルファイナンスに関する情報開示規則です。金融セクターの投資プロセスにおけるサステナビリティ関連の情報開示の透明性を向上させ、環境への貢献度を実態以上に大きく見せてしまうリスク(グリーンウォッシング)を回避することを目的としています。
EUの金融市場参加者(金融資産の運用を行う資産運用会社等)と金融アドバイザー(投資アドバイスを提供する証券会社等)を、規則の対象としています。EU域外の金融機関であっても、EUの投資家に金融商品を販売している場合は対象に含まれます。
なお、EUでは2023年に、企業サステナビリティ報告指令(Corporate Sustainability Reporting Directive、CSRD)が発効されています。SFDRは金融セクターを対象とした規則であるのに対し、CSRDはEU域内の企業とEUにおける売上高の大きいEU域外の企業が対象です。SFDR、CSRDどちらもサステナビリティ関連の情報開示規則であり、EUにおけるサステナビリティ推進のための枠組みです。
(※参考:European Commission「Sustainability-related disclosure in the financial services sector」)
(※参考:EY「サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)が金融機関にもたらす影響 ~高まるグリーンウォッシュへの懸念~」)
(※参考:CDP「CDP INSIGHT NOTE – EU sustainability reporting」)
2 SFDRが注目される背景
2018年1月、欧州委員会は「EUの持続可能な成長へのファイナンスに係るアクションプラン2018」を採択。EU域内でサステナブル投資加速への期待が広がるとともに、サステナビリティ観点からの投資リスク管理や透明性改善の重要性が指摘され始めました。
サステナブル投資やESG運用の手法は多岐にわたり、共通定義がなく、投資家が適切な情報を得ることが容易ではなかったためです。
その後2019年12月にSFDRが成立され、2021年に施行。EU金融市場においてアクティブな金融機関等を対象とした情報開示フレームワークが設けられました。金融機関による情報開示の透明性が向上することでグリーンウォッシングを防ぎ、サステナビリティに資する事業やプロジェクトへの投資促進につながると期待されています。
グリーンウォッシングは、EUだけでなく各国の規制当局からも問題視されています。そのため、こうした情報開示フレームワーク制定の動きはグローバルに波及すると予想されます。
(※参考:EY「サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)が金融機関にもたらす影響 ~高まるグリーンウォッシュへの懸念~」)
3 SFDRが求める開示内容と適用スケジュール
3-1 SFDRが求める開示内容
SFDRは金融市場参加者および金融アドバイザーに対し、法人レベルおよび金融商品レベルでの情報開示を求めています。各条項には、開示対象、開示項目、開示内容、開示方法、開示場所、開示時期・頻度がまとめられています。
法人レベルの開示
- 第3条|サステナビリティ・リスクの方針
金融市場参加者は、投資意思決定プロセスにサステナビリティ・リスク(金融商品の価値に悪影響を与えうる環境・社会・ガバナンス関連のリスク)を反映する方針について情報を開示すること。また金融アドバイザーは、投資・保険に関するアドバイスを行う際にサステナビリティ・リスクを反映する方針について情報を開示すること。 - 第4条|法人レベルでサステナビリティに与えうる負の影響(Principal Adverse Impact、PAI)
投資の意思決定・投資アドバイスがサステナビリティに与えうる負の影響に関する情報と、自社の対応、デューデリジェンス方針や報告方針について開示すること。 - 第5条|サステナビリティ・リスクの反映と報酬方針
報酬方針にサステナビリティ・リスクがどのように反映されているかを示す情報を開示すること。
金融商品レベルの開示
- 第6条|サステナビリティ・リスクの反映
金融市場参加者と金融アドバイザーは、サステナビリティ・リスクが投資判断に組み込まれる方法や金融商品のリターンに及ぼす可能性のある影響などについて契約前に情報開示をすること。 - 第7条|金融商品レベルでサステナビリティに与えうる負の影響(PAI)
金融商品がサステナビリティに与えうる負の影響について情報開示をすること。 - 第8条|環境性・社会性を促進する金融商品
金融商品が環境性・社会性を促進する場合、その環境的・社会的特性やベンチマークとする指標、評価方法に関して情報を開示すること。 - 第9条|サステナブル投資が主目的の金融商品
金融商品がサステナブル投資を目的とし、ベンチマークとする指標がある場合に、ベンチマークがどのように投資目的に沿っているかなどの情報を開示すること。
(※参考:European Commission「欧州議会および理事会の規則 (EU) 2019/2088 2019 年 11 月 27 日の金融サービス分野におけるサステナビリティ関連の開示について」)
(※参考:EY「サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)が金融機関にもたらす影響 ~高まるグリーンウォッシュへの懸念~」)
(※参考:野村資本市場研究所「EUのサステナブルファイナンス開示規則(SFDR)の開始 -遅延する最速規定と各社の対応-」)
3-2 SFDRの適用スケジュール
SFDRへの対応は、以下のスケジュールで進められています(2022年3月時点)。2024年6月末までに、温室効果ガス排出量のスコープ3に関する開示への対応が求められています。
- 2021年3月10日|サステナビリティへの有害な影響の特定や優先順位付けに関する、法人レベルの開示要件の適用開始(レベル1)
- 2021年6月30日|社員500名以上の大規模な金融機関による、サステナビリティに与えうる負の影響(PAI)に関するデューデリジェンス方針の公表
- 2022年12月30日まで|契約前開示における、金融商品レベルのPAI考慮の適用期限
- 2023年1月1日|法人レベルおよび金融商品レベルの定期報告に関するより詳細な開示要件の適用(レベル2)、EUタクソノミーの目標である「気候変動の緩和」「気候変動への適応」の適用日
- 2023年6月30日まで|事業体レベルのサステナビリティへの悪影響の開示、細則の適用開始
- 2024年6月30日まで|スコープ3(間接排出量)開示の期日
(※参考:EY「サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)が金融機関にもたらす影響 ~高まるグリーンウォッシュへの懸念~」)
4 SFDRの課題
SFDRにはグリーンウォッシング対策としての期待が寄せられる一方で、いくつか課題も指摘されています。
欧州委員会は2023年、EU金融市場参加者やNGO、研究者など324の団体・個人に対し、SFDRに関する調査を実施しました。調査によると、約9割の回答者がSFDRの意義や目的を支持しました。しかし一方で、約8割がSFDRの求める開示は投資家にとって十分に有用ではないと回答、またSFDRの要求事項や概念の一部が十分に明確ではないと回答しました。特にPAIを考慮する際など、質の高いデータの入手が困難である、方法論的な課題を抱えているといった回答が大半を占めています。
また、こうした開示内容の有用性に関するギャップや不明確な点が、規則としての不確実性を生み出してしまい、金融市場参加者や金融アドバイザーに対して風評被害のリスクやグリーンウォッシングのリスクをもたらしていると指摘する回答も約8割にのぼりました。
このように、概念の明確化、開示の簡素化や合理化、他のサステナビリティ関連規則との一貫性や連携を望む声が上がっています。金融市場参加者や金融アドバイザーが取り組みやすく、また投資家にとっても有用性の高い開示フレームワークとなるよう、さらなるブラッシュアップが求められているのです。
(※参考:Responsible Investor「No clear preference on SFDR fund-labelling categories, says European Commission」)
(※参考:CMS Law Now「The European Commission reports on the open and targeted consultations on the SFDR assessment」)
(※参考:European Commission「Summary Report of the Open and Targeted Consultations on the SFDR assessment」)
5 まとめ
SFDRは、EU市場におけるサステナブルファイナンスの拡大に伴い、金融セクターの投資判断プロセスや金融商品のサステナビリティへの影響に関する情報開示を促進するために設けられた規則です。
金融機関等によりSFDRに則したデータの収集や評価、情報開示が進められる中、SFDR対応上の課題も徐々に浮き彫りになってきました。グリーンウォッシングを抑止し、サステナビリティに資する事業やプロジェクトへの投融資を促進するという目的に向けて、金融市場参加者、金融アドバイザー、投資家等、サステナブルファイナンスに関わるステークホルダーにとって取り組みやすく、また有用性の高い仕組みとして磨かれていくことが期待されます。
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伊藤 圭佑
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