ユニバーサルオーナー(ユニバーサルオーナーシップ)とは・意味

目次

  1. ユニバーサルオーナー(ユニバーサルオーナーシップ)とは
  2. ユニバーサルオーナーが注目される背景
  3. ユニバーサルオーナーの主な事例
    3-1.GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)
    3-2.第一生命
  4. ユニバーサルオーナーの今後の展望
  5. まとめ

1 ユニバーサルオーナー(ユニバーサルオーナーシップ)とは

ユニバーサルオーナー(ユニバーサルオーナーシップ)は、巨額の運用資産を持ち、幅広い産業や資産に分散投資する機関投資家のことです。「全ての」という意味を持つ「ユニバーサル(Universal)」と所有者を意味する「オーナー(Owner)」からなる造語です。

もともとは、特に大口の年金投資家を意図した概念でした。年金投資家は、多数の加入者から集めた資金を多様な資産に投じるため、まさにユニバーサルオーナーの性質を持ちます。

現代では大手の生命保険会社や損害保険会社、アセットマネジメント会社などもユニバーサルオーナーとみなされるケースもあります。

ユニバーサルオーナーは、資産が巨額で投資先を分散しているため、経済・市場の動きに大きな影響を及ぼすのが特徴です。また、ユニバーサルオーナーは投資方針や意思決定をするうえで、個別の業績・株価などより経済・市場全体の成長を重視します。

(※参照:QUICK「機関投資家のESG投資とエンゲージメント-ユニバーサル・オーナーシップ論と実践-」)
(※参照:日本総研「CSRを巡る動き:ユニバーサルオーナーの考え方が広まる」)

2 ユニバーサルオーナーが注目される背景

経済や社会全体の持続的な発展を重視するユニバーサルオーナーは、近年ESG投資に目を向けるようになりました。経済・社会の健全な発展は、やがてユニバーサルオーナー自身の投資資産の成長に還元されるためです。

環境汚染や温室ガス排出による温暖化、人種差別などの社会問題や企業のガバナンス不全など、社会・経済の健全な成長を阻害する課題は多々存在します。ユニバーサルオーナーの多くは、これらの社会・経済発展の阻害要因を取り除くために、ESG課題の解決に率先して取り組みます。

近年のESG投資が普及する一つの契機となった国連のPRI(Principles for Responsible Investment、責任投資原則)の起草者にも、アメリカやカナダ、ノルウェー、フランスなど世界各国の大口の年金基金が名を連ねています。ユニバーサルオーナーは、サステナブルな社会の実現に向けて重要な役割を果たしているのです。

(※参照:三菱UFJ信託銀行株式会社「サステナブル投資の基礎 シリーズ 責任投資原則の成り立ち」)

3 ユニバーサルオーナーの主な事例

日本にも、ユニバーサルオーナーに該当する機関投資家は複数存在します。ここでは年金を運用するGPIFと、大手生命保険会社の第一生命の事例を紹介します。

3-1 GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)

GPIFは、日本の公的年金(厚生年金・国民年金)の積立金を運用する法人です。運用資産残高は約219兆円(2023年第2四半期末時点)にものぼります。2015年にPRIに署名し、受託資産の運用を通じたESG課題の解決に積極的に取り組むユニバーサルオーナーの一つです。

GPIFは、年金制度の健全な維持・発展も役割の一つであるため、100年後までの超長期を見据えて運用戦略を立てています。

また、PRIの理念を実践すべく、およそ200兆円の全資産(2022年度時点)についてESGを考慮して運用先を決めていて、そのうち12.5兆円はESG関連の指数に連動させて運用しています。

(※参照:GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)「2023年度の運用状況」、「2022年度ESG活動報告」)

3-2 第一生命

大手生命保険会社でも、運用資産が巨額になればユニバーサルオーナーの性質を持つものと考えられます。たとえば、第一生命は2022年3月末時点で運用資産38兆円という巨額の運用資産残高を有する大手生命保険会社です。

生命保険では保険金支払いのために長期安定した運用が重視されるため、公社債を中心に多数の資産に分散投資しています。第一生命の投資の意思決定においては、社外委員が過半数を占める「責任投資委員会」の審議を通じて行っています。

また、2022年7月末時点で1.4兆円をESGテーマ型投資に充てています。そのほか、投資先など200社以上、3年累計では国内株式ポートフォリオにおける約88%の企業と対話(エンゲージメント)をし、ESGの課題解決に資する経営を積極化すべき働きかけを行ってきました。

(※参照:日本取引所グループ「機関投資家のESG投資 第一生命保険株式会社」)

4 ユニバーサルオーナーの今後の展望

ユニバーサルオーナーは、今後も資産運用を通じてESG課題の解決や持続可能な社会の形成の牽引役となると期待されます。社会や経済の持続的な発展は、ユニバーサルオーナー自身の健全な資産の成長に直結するからです。

ただし、ユニバーサルオーナーの投資判断が社会に大きな影響をもたらす点には留意する必要があります。ユニバーサルオーナーの投資判断は、ほかの多くの投資家の指針や参考になるため、大きな投資のトレンドを生み出す可能性があります。

万が一、彼らがESGにとって望ましくない資産へ投資してしまったり、本来促進されるべき事業が投資先に選定されなかったりするなど投資判断を誤ってしまうと、ESG課題の解決が阻害される恐れがあります。

ユニバーサルオーナーにあたる機関投資家は、経済や社会へのインパクトを認識した上で、投資先や投資方針に関する慎重な判断が求められます。

また、個人投資家および中小の機関投資家は「ユニバーサルオーナーの投資方針だから」といって鵜呑みにせず、自分で投資先を分析して、ESG課題の解決に資する企業や事業へ投資することが大切です。

5 まとめ

ユニバーサルオーナーの投資資産は巨額であり、かつ多様な資産に分散投資されています。そのため、彼らの投資方針は社会・経済の発展に大きな影響をもたらします。

ユニバーサルオーナーは、個別企業のパフォーマンスではなく社会・経済全体の発展を重視し、投資方針や投資先を選別しています。

社会・経済の健全な発展に資するため、ユニバーサルオーナーの多くが積極的に、ESGテーマ型投資やエンゲージメントなどを実践しています。今後もますます、サステナブルな社会の実現を牽引するユニバーサルオーナーの役割は重要性を増していくことでしょう。

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伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。