グラスゴー金融同盟(Glasgow Financial Alliance for Net Zero、GFANZ)とは・意味

目次

  1. グラスゴー金融同盟(Glasgow Financial Alliance for Net Zero、GFANZ)とは
  2. GFANZが着目されている背景
  3. GFANZ 2023 Progress Report
    3-1.新興国地域における気候変動対策のための投融資促進
    3-2.ネットゼロへの移行計画主流化の動き
    3-3.GFANZネットワークの拡大
  4. GFANZの課題
  5. まとめ

1 グラスゴー金融同盟(Glasgow Financial Alliance for Net Zero、GFANZ)とは

Glasgow Financial Alliance for Net Zero(グラスゴー金融同盟、GFANZ)は、2050年までに温暖化ガス排出量の実質ゼロを目指す金融セクターの有志連合です。排出量実質ゼロにコミットする金融機関数を増やし、脱炭素社会への移行を実現するにあたって金融セクター全体が抱える課題に対処することを目的としています。

国連の気候変動対策・ファイナンス担当事務総長特使、マーク・カーニー氏の提唱により、2021年にイギリスのグラスゴーで開催された第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)で発足されました。同氏はGFANZ共同議長も務めています(2023年末時点)。

(※参照:GFANZ「About us」)

2 GFANZが着目されている背景

GFANZには、運用会社の連盟であるNet-Zero Asset Managers Initiative(NZAM)や、銀行の連盟であるNet-Zero Banking Alliance(NZBA)など、ネットゼロに取り組む8つの金融セクターの連盟が加盟しています。

  • ネット・ゼロ・アセットオーナー・アライアンス (NZAOA)
  • ネット・ゼロ・アセット・マネージャーズ・イニシアティブ (NZAM)
  • パリ・アラインド・アセット・オーナーズ (PAAO)
  • ネットゼロ・バンキング・アライアンス (NZBA)
  • ネットゼロ・インシュアランス・アライアンス (NZIA)
  • ネットゼロ・フィナンシャル・サービス・プロバイダーズ・アライアンス (NZFSPA)
  • ネットゼロ・インベストメント・コンサルタンツ・イニシアティブ (NZICI)
  • ベンチャー気候同盟 (VCA)

金融機関数でみると、50ヶ国以上から675以上の金融機関が加盟しています(2024年4月時点)。銀行やアセットマネジメントだけでなく保険や金融サービスプロバイダーなども含まれており、多面的な金融領域の企業が連携することで、ネットゼロ実現に向けた金融支援の促進が期待されています。

GFANZが発足された2021年のCOP26では、GFANZの加盟団体が協調することで脱炭素に向けて100兆ドル(約1京3,300兆円、当時)の資金拠出が可能となると公表され、注目を集めました。

(※参照:GFANZ「About us」、日本経済新聞「グラスゴー金融同盟(GFANZ)」)

3 GFANZ 2023 Progress Report

GFANZは、金融セクターのネットゼロ移行に向けた取り組み状況について、定期的にレポートを発行しています。ここでは、2023年12月末に公表されたProgress Reportをもとに、GFANZの進捗状況を簡単に紹介します。

3-1 新興国地域における気候変動対策のための投融資促進

GFANZは世界銀行、国際通貨基金、各地の開発銀行などの金融機関と連携し、新興市場および開発途上国において気候変動対策に資する投融資を後押ししています。

例えば、インドネシアとベトナムでは、「公正なエネルギー移行パートナーシップ(Just Energy Transition Partnership、JETP)」の推進など、気候変動対策に関する投資計画の策定を支援しています。JETPとは、パートナー国における化石燃料や排出量の高いインフラからの早期切り替えや再生可能エネルギー等への投資支援を、ドナー国が連携して行うパートナーシップです。ベトナムのJETPは155億ドル(約2兆4,000億円)規模にのぼり、石炭から再生可能エネルギーへの段階的な移行など、電力セクターにおける排出量削減支援が行われています。

またインドとコロンビアでは、「気候変動ファイナンス・リーダーシップ・イニシアティブ(Climate Finance Leadership Initiative、CFLI)」を支援。2023年、CFLIインドは、電気自動車やサーキュラーエコノミー、グリーン水素の分野での金融ソリューションを発表しました。約65億ドル(約1兆円)規模の資金動員の可能性があると言われています。

CFLIコロンビアは、再生可能な代替技術の導入、送電網へのレジリエンス強化など、12の気候変動金融・政策ソリューションを提供予定。こうした取り組みによる金融効果は、約20億ドル(約3,000億円)規模と試算されています。

3-2 ネットゼロへの移行計画主流化の動き

2022年GFANZは、ネットゼロ移行計画(Net-zero Transition Plan、NZTP)策定の枠組みに関する金融機関向けガイダンスを発表しました。世界各国の金融セクターが、GFANZのNZTPフレームワークをもとに移行計画を策定し、任意の情報公開を行っています。今後数年間で、さらに250を超える金融機関が移行計画の策定や情報公開を開始すると期待されています。

G7やEUをはじめとする各国の政策・基準立案者も、ネットゼロ実現に向けた取り組みを積極化させています。例えば、英国の移行計画タスクフォースは、GFANZの枠組みをもとに移行計画の開示フレームワークを策定し、2023年10月に発表しました。また米国財務省は、2023年10月に「ネットゼロ金融・投資原則(Net-Zero Finance and Investment Principles)」を発表。ネットゼロへのコミットメントと移行計画の透明性を高めるため、金融機関向けの規則としてNZTPフレームワークを元に策定されました。

3-3 GFANZネットワークの拡大

GFANZは、気候変動対策に取り組む地域ネットワークの立ち上げと発展に取り組んでいます。アジア太平洋地域では、2023年5月に日本支部が、2023年8月には香港支部が設立されました。地域支部の設立により、ネットゼロ移行計画に関する知識やベストプラクティスの域内共有が促され、金融機関と政府や様々なステークホルダーとの間で、政策立案やイニシアティブにおける連携が促進されることが狙いです。

日本支部では、金融機関や政府機関からのメンバーで構成されたコンサルテーティブグループが設立されました。初年度の議長は、第一生命保険株式会社の代表取締役会長である稲垣精二氏が務めました。また日本支部のアドバイザーは、前OECD事務次長で三菱UFJ銀行顧問の河野正道氏が務めています。

またアフリカ地域では、移行ファイナンス、低炭素向け投資を促す気候ファイナンスを促進するため、新たにアフリカ開発銀行とGFANZのパートナーシップが発表されました。

このようなGFANZの取り組みも影響してか、エネルギー転換への投資は2020年対比で40%以上増加しています。なかでも再生可能エネルギーの導入は、国際エネルギー機関が2023年半ばに予想したペースよりも25%早いペースで拡大していると、GFANZは報告しています。

金融セクターによる積極投資が、再生可能エネルギー市場の成長を今後も促していくことが期待されます。

(※参照:GFANZ「2023 Progress Report 」、「グラスゴー金融同盟(GFANZ)が日本支部を設立 アジア太平洋地域のネットゼロ移行を支援」)
(※参照:外務省「ベトナムにおける「公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP)」の立ち上げに関する政治宣言について」)
(※参照:JETRO「COP28でJETP資金動員計画を発表、国際支援で脱炭素化促進」)

4 GFANZの課題

ネットゼロ実現に向けた投融資支援が期待される一方、2023年は気候変動の物理的・経済的影響が表れた1年となりました。例えば2023年の平均気温は過去最も高い年に。GFANZの推計によると、2023年の熱波は世界のGDPを0.6%押し下げる影響があったと考えられています。

依然不足している投資額

GFANZのProgress Reportにおける試算によると、依然として2050年までに約200兆ドル(約3京円)、年間約7兆ドル(約1,000兆円)の投資が不足していると考えられます。

この投資ギャップを埋めるためには、金融部門全体がネットゼロ移行に向けて積極的に動き、さらには投資やプロジェクト開発の障壁を取りのぞく政策・制度の整備が不可欠です。

気候変動を抑えるためのさらなる行動がなければ、2050年までに世界経済の価値が約23兆ドル(約3,500兆円)減少すると懸念されています。2050年にネットゼロを達成するためには、さらなる積極的な行動が求められます。

GFANZ脱退の動きへの懸念

しかしその一方で、GFANZに参画する保険会社連盟であるNZIAから、国内外の大手保険会社複数社が脱退。また、アメリカの大手銀行もGFANZからの脱退を示唆している状況です。

背景には、ウクライナ情勢をきっかけとするエネルギー危機により化石燃料からの脱却が困難となっていること、GFANZ設立時に定められていた国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の「Race to Zero(ゼロへのレース)」基準を順守することの難しさなどが一因として指摘されています。

Race to Zeroには、新規の石炭事業への融資を行わない、化石燃料企業への資金提供を制限するといった内容が盛り込まれています。エネルギー危機により化石燃料からの脱却が難しくなる中、Race to Zero基準の順守に対して一部の金融機関から反発が強まりました。これを受けて、2022年GFANZはRace to Zero順守の要件を廃止することを明らかにしました。

またNZIAに対しては、米国23州の司法長官から反トラスト法に抵触している可能性への重大な懸念を示すレターが届き、複数社の脱退に繋がったと指摘されています。脱退した各社は引き続き個社としてはネットゼロにコミットしていく方針を表明しており、今後も個社としての積極的な取り組みが期待されます。

(※参照:GFANZ「2023 Progress Report 」)
(※参照:NRI「グラスゴー金融同盟(GFANZ)設立1年で壁に:段階的な移行をしっかりと助けることが金融の役割」)
(※参照:PwC「保険会社のNZIAからの離脱をどう読み解くか」)
(※参照:Reuters「グラスゴー金融同盟、国連の脱炭素運動の要件廃止」)

5 まとめ

GFANZは、金融セクターが一丸となりネットゼロ実現に向けた投融資を支援する団体です。GFANZの取り組みにより、アジア、アフリカ地域など様々な地域で金融セクター、政策立案者等ステークホルダー間の連携が進められています。

一方で、依然として気候変動対策への投資額は不足しています。2023年には、熱波や試算上のGDPの減少など気候変動による影響も指摘されました。2050年の目標達成に向けて、世界中の金融機関のさらなる積極的な行動が期待されます。

サステナブル投資の考え方・手法・商品などに関連する用語一覧

サステナブル投資に関連する組織・枠組み

企業活動に関するサステナビリティ用語

The following two tabs change content below.

伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。