LCA(Life Cycle Assessment)とは・意味

目次

  1. LCA(Life Cycle Assessment)とは
  2. LCAが重視される背景
  3. LCAの実践例
    3-1.キャノン|LCA開発マネジメントシステムの構築
    3-2.マツダ|LCAに関する学会発表を実施
  4. LCAの課題と今後の展望
  5. まとめ

1 LCA(Life Cycle Assessment)とは

LCA(Life Cycle Assessment)は、製品のライフサイクル全体の環境や社会、経済への負荷を定量評価する方法です。製品のライフサイクルには、原料調達、生産、流通、消費・利用、廃棄・リサイクルといったプロセスが含まれます。

LCAは、国際標準化機構(ISO)にて国際規格として標準化されています。具体的には、次の2つの基準において、LCAの実施方法が定められています。

  • ISO 14040(JIS Q14040):原則及び枠組み
  • ISO 14044:要求事項および指針

ISO規格は、製品そのもの、または製品の生産や品質管理といった組織活動を管理する仕組み(マネジメントシステム)に関する規格です。ISOに準拠したマネジメントを行いISO認証を得ることで、国際的な基準を満たしている点をステークホルダーに対し示すことにもなるのです。

LCA評価を行うにあたり、評価対象となる製品に関して、投入される資源やエネルギー(インプット)と、生産される製品や排出物(アウトプット)のデータを収集し、環境への影響を評価する必要があります。ISO規格では、以下のプロセスで実施するよう定めています。

  1. 目的と調査範囲の設定:調査の実施理由や評価対象を明確にする
  2. インベントリ分析:ライフサイクルの各ステージにおけるインプット・アウトプットデータを収集する
  3. 影響評価(インパクトアセスメント):様々な指標や評価モデルを用いて、インベントリ分析のデータから社会や環境に対する潜在的な影響を明らかにする
  4. LCAの解釈:調査の目的に照らし合わせて影響結果を評価する

(※参照:ISO「ISO standards for life cycle assessment to promote sustainable development」)
(※参照:一般社団法人日本化学工業協会「ライフサイクルアセスメント(LCA)-なぜやるの いつやるか」)

2 LCAが重視される背景

1960年代に、コカ・コーラ社が自社の飲料容器について、再利用可能な瓶と使い捨て容器の環境影響評価を実施したことが、LCAの始まりだと言われています。加えて、1970年代の石油危機のさなか、エネルギー効率に優れた製品を開発するため、様々な企業がLCAを使い始めるようになりました。

そして1980年代以降、LCAを行う手法やプロセスが徐々に確立され、1997年にISO 14040が発行。2006年のISOの見直し作業により、現在のISO 14040と14044に再編されています。

このように長い歴史を持つLCAが、環境・社会インパクトを評価する手法として近年再認識されています。温室効果ガス排出量や、エネルギー・資源の使用量など、製品の環境・社会インパクトを評価するうえで、一部のプロセスだけを評価してもインパクトの全体像を見られないためです。

たとえば、使用するときには環境負荷が低いと評価される製品でも、製造時に大量の二酸化炭素を排出したり、廃棄時に有害ガスを発生させたりする場合、製品ライフサイクル全体でみると、環境負荷を抑えた効果は限定的である可能性もあります。

LCAに基づき製品ライフサイクル全体でのインパクトを定量的に評価することで、ライフサイクル全体で環境や社会への負荷低減に資する製品の開発や生産、販売が期待されます。

(※参照:一般社団法人日本化学工業協会「ライフサイクルアセスメント(LCA)-なぜやるの いつやるか」)
(※参照:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「LCA」)

3 LCAの実践例

日本でも、複数の企業がLCAを実践して、企業活動や新たな製品生産に役立てています。ここではその中からキャノンとマツダの事例を紹介します。

3-1 キャノン|LCA開発マネジメントシステムの構築

キャノンは、LCA開発マネジメントシステムを構築し、製品開発から情報公開までを管理しています。製品の開発・設計段階から環境インパクトの算定を行い、CO2排出量削減など環境負荷低減目標の達成に取り組んでいます。

同社は、一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)が運営する「エコリーフ環境ラベルプログラム」を利用し、自社製品のライフサイクル全体における環境負荷の見える化を行っています。製品のカテゴリーに応じてISO規格に基づいてLCA算定を行った後、評価結果に対して第三者検証を受けて合格した製品について環境ラベルを使用できるという仕組みです。地球温暖化に関する評価は「カーボンフットプリント(CFP)ラベル」、地球温暖化だけでなく資源消費など複数の環境影響指標の開示は「エコリーフラベル」と分かれています。

同社のプロダクションプリンターやオフィス向け複合機などが、SuMPO環境ラベルプログラムに登録されています。

また、CO2排出量については、事業活動に関連する他社の排出にあたるScope3のすべてのカテゴリーで排出量算定を行い、第三者認証を受けています。ライフサイクルの各ステージでCO2を削減するため、トナーの改良によるプリンター使用時の排出量削減など技術面での取り組みの他、経済産業省が推進するカーボン・オフセット制度を活用しています。

(※参照:キャノン「キャノンのLife Cycle Assessment豊かさと環境の両立へ製品ライフサイクルを通じた環境保証」、「SuMPO環境ラベルプログラム登録製品」)
(※参照:一般社団法人サステナブル経営推進機構「SuMPO環境ラベルプログラムとは」)

3-2 マツダ|LCAに関する学会発表を実施

マツダは、2009年からLCAによる環境負荷の定量的評価を行い、ライフサイクルの各段階における負荷削減に取り組んでいます。同社もまた、ISO 14040、14044に準拠した手法を採用しています。

2018年度には、世界5地域で内燃機関自動車(ガソリン車とディーゼル車)と電気自動車(EV)について、CO2排出量のLCAを実施しました。調査結果として、地域ごとの電力状況や燃費および発電効率、生涯走行距離などさまざまな要因によって、EVと内燃機関自動車の間のCO2排出における優位性が変化することを示し、論文としてまとめました。翌年2019年に、本調査内容を学会で発表しています。(学会名:The 9th International Conference on Life Cycle Management (2019年8月)、発表内容:Estimation of CO2 Emissions of Internal Combustion Engine Vehicle and Battery Electric Vehicle Using LCA)

マツダはLCAに関する調査結果を活かし、地域ごとのエネルギー事情、電力の発電構成や自動車のパワーソースの適性など、各地域の環境に適した形でのCO2削減を目指し自動車技術の開発に取り組んでいます。同社の2050年カーボンニュートラル目標達成のアプローチとして、LCA評価を活用しているのです。

(※参照:マツダ「LCA(ライフサイクルアセスメント)」、「2050年カーボンニュートラルへの挑戦」)

4 LCAの課題と今後の展望

LCAの課題は、大きく分けて二点あります。

  • 評価を行う企業の実務負担が増加する可能性がある
  • ライフサイクル全体における改善策を、自社だけでは実践できない場合がある

LCAは、製品の原材料調達から製造、消費、廃棄に至る膨大なデータを収集して定量評価しなければなりません。従来企業が集計していなかったデータ収集が必要になったり、時には他社の協力を仰がなければならなかったりします。

収集するデータの正確さや網羅性、再現性を確保するには多大なコストがかかるでしょう。また、バリューチェーン上の関係会社や取引先とのリレーションが強固でなければ、実践は容易ではありません。

さらに、LCAの結果として洗い出される改善策は、自社だけで実行できない可能性もあります。たとえば、原料調達段階における環境負荷が課題となった場合には、原料調達先の企業と交渉して改善を促さなければなりません。

業界やバリューチェーン全体を巻き込んだ環境負荷低減の取り組みは、一企業だけで進めるのは必ずしも容易ではないでしょう。企業規模や他社との関係性によっては、他社への働きかけが難しいと感じる企業もあるかもしれません。

こうした課題への対応策として、LCAを行う社内外の人材育成支援や、ISO規格と環境製品ラベルに関する認知向上や認証支援などが、今後求められるのではないでしょうか。

5 まとめ

製品の環境や社会、経済に与えるインパクトは、製造や使用などの一側面だけを見て判断するのではなく、LCAを導入して製品が生まれて廃棄されるまでの全てのプロセスを総合的に評価する必要があります。ライフサイクル全体でのインパクトの可視化は、環境負荷低減に企業が取り組む際に、課題の洗い出しや優先順位付け、対応策の検討などに活用されるでしょう。

LCAで見いだされた課題を自社だけで解決するのは限界があります。産業全体やバリューチェーン全体が協力して、製品ライフサイクルの課題解決を推進することが期待されます。

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伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。