ESG統合(ESGインテグレーション)とは・意味

目次

  1. ESG統合(ESGインテグレーション)とは?
  2. ESG統合が注目される背景
  3. ESG統合の5つのプロセス
  4. ESG統合の課題
  5. まとめ

1 ESG統合(ESGインテグレーション)とは?

ESG統合(ESGインテグレーション)とは、従来の財務情報だけでなく、環境、社会、ガバナンスの観点も考慮したESG投資手法のことです。以下に挙げられる、7つの主なESG投資手法の1つです。

  • ESG統合
  • ネガティブ・スクリーニング
  • ポジティブ・スクリーニング
  • 規範スクリーニング
  • サステナブル・テーマ投資
  • インパクト投資
  • エンゲージメント・議決権行使

国連による責任投資原則(Principles for Responsible Investment、PRI)は、ESG統合を、投資分析と投資決定の際に、ESGに関連する要素を組み込み、リスク管理とリターンを向上させるプロセスだと定義しています。財務要素だけでなくESG要素を考慮することで、投資リスクを抑えリターンの向上を目指しているのです。

(※参照:PRI「What is ESG Integration?」)

2 ESG統合が注目される背景

ESG統合が注目される背景には、様々な理由が挙げられます。まず、投資したお金がどのように使われているかという、透明性に対する投資顧客からの期待が高まりです。さらに近年では、気候変動などのESG要素が、投資リスクとリターンに与える影響、そしてそもそも投資が実社会に与えている影響について、顧客やステークホルダー等の認知度及び関心が高まっていることが挙げられます。

こうした流れ受けて、資産運用会社等の受託者責任(Fiduciary Duty)の観点から、ESG要素を投資プロセスに組み込むことを促すガイダンスが近年増えていることも、背景の一つです。

3 ESG統合の5つのプロセス

それでは、ESG統合はどのように取り組んだらよいのでしょうか。PRIは、以下を一例として挙げています。

  • 財務情報及びESG関連情報の分析
  • 財務観点・ESG観点から重要性の高いもの(マテリアリティ)を特定
  • 重要性の高い財務要素・ESG要素が、経済、国、業種・セクター、企業のパフォーマンス等に与え得る影響を評価
  • 重要性の高い財務要素・ESG要素を考慮したうえでの投資判断

そして、上場会社の株式投資プロセスにおける「方針」「組織統治」「投資プロセス」「スチュワードシップ」「モニタリング・レポーティング」の観点で、ESG要素を考慮するよう促しています。

方針

投資家は、責任ある投資に関する方針を掲げ、自らの意思を示し公約すること。

PRIは、1,500以上の投資家の責任問投資方針をデータベースにまとめています。PRIの署名機関は、PRIのデータベースを参照でき、様々なデータを参考にし責任投資へのアプローチの発展に活かすことが期待されています。

組織統治

健全なガバナンスを整備することで、責任投資へのコミットメントが企業によって遂行されること。

例えば、役割と責任の明確化、ESG課題に関する従業員の研修と教育、適切な手数料と報酬の取り決めなどが含まれます。

投資プロセス

アクティブ・ファンダメンタル投資、アクティブ・クオンツ投資、パッシブ投資といった、それぞれの投資スタイルに応じた投資プロセスにESG要素が考慮されること。

アクティブ・ファンダメンタル投資の場合、「分析」「バリュエーション」「ポートフォリオ構築」の3段階において、ESG要素をプロセスのコアに置くことです。まず、「分析」の段階では、気候変動などのESG課題が、地域や事業セクター、ひいては個別の株価に対してどのような影響を与えるかの分析、そして企業や事業における重要性(マテリアリティ)評価を行うことが推奨されています。

次に、「バリュエーション」の段階では、ESG要素を考慮し分析・予測のプロセスを行うことです。従来、利益やキャッシュフローなど、主要な財務指標の予測を行った後でESG要素を取り入れる調整が行われていました。しかし、ESG統合では、ESG要素を予測プロセスの中心に組み込むことが推奨されます。

そして、「ポートフォリオ構築」の段階では、ESG観点から個別企業への投資判断を行うだけでなく、その投資判断がポートフォリオ企業にESG観点で与える影響も考慮することです。例えば、ある株式の売買が、ポートフォリオ内の銘柄が行うCO2排出量削減の取り組みを阻害しないか、といった分析が含まれます。

スチュワードシップ

機関投資家として、投資の長期的なパフォーマンスと、経済・社会・環境資産の価値向上に資するため、スチュワードシップを投資プロセスに組み込むこと。

スチュワードシップとは、財産を管理することを任された者の責務のことです。目的を持った対話(エンゲージメント)、議決権行使、そしてエスカレーション・投資撤退(ダイベストメント)が挙げられます。機関投資家が、企業との対話、株主決議の提出、株主総会での議決権行使、さらにはステークホルダーや政策立案者等との対話や情報開示などに取り組み、持続可能性と資産価値の向上のために影響力を発揮することを期待されています。

モニタリング・レポーティング

投資家が、ポートフォリオのパフォーマンスをモニタリングする際に、気候変動などに関するESG指標を活用すること。

どのような投資決定が投資パフォーマンスに影響を与えたかを検証する際に、ESG要素を考慮して分析するテクニックの開発などが含まれます。例えば、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が開発と普及に取り組んでいる気候メトリックスが例として挙げられます。

(※参照:PRI「ESG integration in listed equity: A technical guide」)

4 ESG統合の課題

ESG統合は、主なESG投資手法の一つとして注目を集める一方で、依然として十分な理解が得られていないという課題もあります。

例えば、ESG統合は、ESG要素のみを考慮し財務要素を考慮しないこと、または投資パフォーマンスを犠牲にしてESGを追求することだという誤解があります。ESG統合は、財務要素とESG要素を共に組み込むことで、投資リスクの管理とリターンの向上を目指す手法です。ESG要素のみを考慮して投資対象から除外したり、リターンをあきらめたりすることを要求する手法ではありません。

また、ESG統合において重要なプロセスである、マテリアリティの特定が十分に行われていないことも挙げられます。ESG統合は、重要性に関わらず全てのESG要素を考慮するよう求めるものではありません。その企業、事業、地域等において、どのESG要素の重要性が高いかを特定することで、より適切なリソースの活用と、投資リスクの管理につながると考えられています。そのため、マテリアリティを特定するために必要なデータの収集と整備、分析と特定のためのスキル・トレーニングなどが求められるのです。

(※参照:PRI「What is ESG Integration?」、「Four areas of misunderstanding around ESG integration」)

5 まとめ

従来の財務情報だけでなく、環境、社会、ガバナンスの観点も考慮したESG投資手法である、ESG統合。ESGのために投資リターンをあきらめるのではなく、ESG要素を組み込むことで、投資リスクの管理と投資リターンの向上を目指すアプローチです。

ESG統合を実践するために、データの収集・整備や、ESG要素を投資プロセスに組み込むテクニックの開発、トレーニングなど、今後の発展が期待されます。

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