企業サステナビリティ報告指令(CSRD)とは・意味

目次

  1. CSRDとは
  2. CSRDが注目される背景
  3. CSRDの開示項目
  4. CSRDの今後の展望
  5. まとめ

1 CSRDとは

CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive:企業サステナビリティ報告指令)は、2023年1月に発効されたEUのサステナビリティに関する情報開示規制です。2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロ(Climate Neutral、気候中立)を目指す、欧州グリーンディールの取り組みの一つとして整備されました。 EU加盟国は、CSRDに準拠した法制度の整備が求められています。企業形態により適用開始時期が異なりますが、早ければ2024年1月1日に開始する会計年度から適用が始まります。

CSRDでは、サステナビリティ事項における企業の業績・財務のインパクトに加えて、企業活動が環境・社会に与えるインパクトの評価・開示が求められます。CSRDに対応することで、企業経営そのものの変化につながるよう設計されており、また開示対象となる企業も幅広いことから、サステナビリティ推進の後押しとなることが期待されています。

2 CSRDが注目される背景

EUは、従来「NFRD(Non-Financial Reporting Directive:非財務情報開示指令)」により、サステナビリティ情報を含む非財務情報の開示を、一定の要件を満たす企業に対して義務付けていました。しかし、開示対象の企業や開示情報の量・質が不充分であると指摘を受けていました。

CSRDでは適用範囲が拡大され、EU域内の大企業や上場企業、またEUにおける売上高の大きいEU域外の企業までが対象となりました。開示内容についても、持続可能性の観点を踏まえたビジネスモデルや戦略、期限付き目標やKPIなどが追加され、サステナビリティを企業の経営戦略と具体的な目標として反映し、開示することが求められるようになったのです。

CSRDとNFRDの比較

NFRD CSRD
対象 年平均従業員500人以上の大企業等 ・売上高・総資産・従業員数の要件を満たすEU域内の大企業
・EU域内市場の上場企業
・EU域内の売上が大きいEU域外の企業
開示要求項目 環境、社会と従業員、人権の尊重、腐敗行為と贈賄州に関する以下の事項
・ビジネスモデル
・デューデリジェンスプロセス
・ポリシー
・成果
・主要なリスクと管理方法
・KPI
サステナビリティに関する以下の事項
・リスク/機会
・ビジネスモデル/戦略
・経営・監督機関の役割
・方針
・デューデリジェンスプロセス
・ポリシー
・主要なリスクと管理方法
・KPI など

また、サステナビリティ報告の信頼性の観点から、CSRDでは第三者保証が義務付けられています。

(参考:PwC「CSRD(企業サステナビリティ報告指令)対応支援」)
(参考:日本総研「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)・欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の概要および日本企業に求められる対応」)
(参考:デロイトトーマツ「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)の最終条文の概要」)

3 CSRDの開示項目

CSRDの開示内容の詳細は、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)が定めた欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)で示されています。2023年7月に草案が採択され、CSRDと同様に2024年1月以降に適用されます。草案では、以下のような枠組みで4つトピック・12の基準にまとめられています。

ESRSで規定された開示項目

基準の種類・トピック 基準の概要
横断的基準 ESRS1:全般要求事項
ESRS2:全般開示事項
環境 ESRS E1:気候変動
ESRS E2:汚染
ESRS E3:水と海洋資源
ESRS E4:生物多様性と生態系
ESRS E5:資源の利用と循環型経済
社会 ESRS S1:自社の従業員
ESRS S2:バリューチェーン上の従業員・労働者
ESRS S3:影響を受けるコミュニティ
ESRS S4:消費者と最終顧客
ガバナンス ESRS G1:事業活動

CSRDは、今後セクター別の基準や簡略化された中小企業向けの基準を取りまとめて、追って公表する予定です。

ダブルマテリアリティ

ESRSの開示項目は多岐に渡っており、1,000を超えるデータ指標があります。しかし、企業は1,000の指標についてすべて開示する必要はありません。自社における重要性に応じて、開示項目を決定することが求められています。

CSRDにおける重要性(マテリアリティ)の判断は、企業が環境・社会に与えるインパクト(インパクト・マテリアリティ)と、環境・社会に関するリスクや機会が企業に与える財務インパクト(財務的マテリアリティ)の2種類が挙げられています。

(参考:PwC「EUにおける企業サステナビリティ報告指令(CSRD)の日本への影響 ~自社のサステナビリティへの取り組みを見直す機会と捉え、今すぐ着手を~」、「2023/11/07 欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)が最終化【速報解説】」)
(参考:日本総研「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)・欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の概要および日本企業に求められる対応」)

4 CSRDの今後の展望

CSRDは、企業形態により適用時期が異なります。次のようなスケジュールで、徐々に適用となる見通しです。

  • NFRD適用対象企業:2024年1月1日以降に開始する会計年度
  • NFRD提要対象外の大企業:2025年1月1日以降に開始する会計年度
  • 上場中小企業:2026年1月1日以降に開始する会計年度
  • EU域外の対象企業:2028年1月1日以降に開始する会計年度

日本企業にとって留意が必要なのは、要件を満たすEU域外の企業にもCSRDが適用され、ESRSに基づく情報開示が必要になる点です。具体的には、次の要件を満たす企業が対象となります。

  • EU域内における売上高が2期連続で1.5億ユーロ超
  • EU子会社が大規模企業・上場企業に該当するか、EU支店のEU域内売上高が4,000万ユーロ超

日本企業でも、EU域内に子会社があり、大規模に事業展開する企業は、CSRDやESRSの今後の動向に着目し、適用準備を進めることが求められるでしょう。

特にCSRDでは、財務的影響という一つの軸で評価可能な財務的マテリアリティだけでなく、人・環境・社会など様々な軸で影響の起こりうるインパクトマテリアリティの評価、報告が求められます。また、こうした複雑な評価・報告を、自社の主観的な内容に留めるのではなく、第三者認証を得る必要があります。

CSRD、ESRSの最新の動向を注視しながら、適用開始に向けた準備が今後求められていくでしょう。

(参考:EU「Questions and Answers on the Adoption of European Sustainability Reporting Standards
」)
(参考:PwC「CSRD(企業サステナビリティ報告指令)対応支援」)

5 まとめ

EUは、CSRDを通じてサステナビリティの開示ルールを強化し、「2050年の温室効果ガス排出実質ゼロ」というEUの長期目標達成に取り組んでいます。EU域内にて、一定以上の規模を持ち事業活動を行う場合、今後はEU域外の企業でもサステナビリティ関連情報の開示が必要になります。

EUに拠点を持つ日本企業は、CSRDの適用が始まる前に、サステナビリティに関するリスクの洗い出しや対策の策定、そして必要な情報開示を実践するための準備を進めましょう。

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伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。