ネガティブスクリーニングとは・意味

ネガティブスクリーニングとは・意味

目次

  1. ネガティブスクリーニングとは
  2. ネガティブスクリーニングが注目される背景
  3. ネガティブスクリーニングの主な取り組み・内容・例
    3-1.かんぽ生命のネガティブスクリーニング
    3-2.第一生命のネガティブスクリーニング
  4. ネガティブスクリーニングの主な課題・今後
  5. まとめ

1 ネガティブスクリーニングとは

ネガティブスクリーニングは、ESGの観点から望ましくない企業や事業への投資を排除するESG投資手法の一つです。近い考え方として投資方針に「Exclusion(排除・除外)」を掲げる機関投資家もいます。

ESGより以前からある考え方である「Social Responsible Investment(SRI、社会責任投資)」が生まれた1920年代から実践されてきた投資方法です。元々は「罪ある株式(sin stocks)」とも呼ばれている、アルコールやたばこ、ギャンブル製品などを除外する動きから始まりました。

やがて、反社会的なものや非倫理的なものを製造・販売する事業を除外する動きへ広がり、現在ではESGの概念と統合して化石燃料を多く消費する産業、環境破壊を引き起こす産業を除外する動きに発展しています。

ネガティブスクリーニング対象となる代表的な銘柄は以下のとおりです。

  • アルコール
  • ギャンブル
  • たばこ
  • 軍事兵器
  • 成人向け娯楽
  • 化石燃料
  • 原子力発電

ただし、上記全ての要素を一様に除外するとは限りません。特にアルコール・化石燃料などには、世界を代表する大手企業も複数存在します。

ネガティブスクリーニングを実践している投資家でも、これらの業種についてはESG的な取り組みなどを評価して投資を継続するケースも少なくありません。
(※参照:PRI「スクリーニング」)

2 ネガティブスクリーニングが注目される背景

ネガティブスクリーニングは、ESG投資の拡大した2010年代よりも前から存在する銘柄選別手法でしたが、ESG投資が広がる中で改めて注目されました。Sustainable Japanによると、投資残高別で見たときに2018年までは7つあるESG投資手法の中でもっとも多額の投資が行われていました。

近年は後述の課題を背景に、財務情報とESGに関する非財務情報を組み合わせて投資評価する「ESGインテグレーション」を導入する機関投資家が増加しています。2020年時点では、ネガティブスクリーニングは、ESGインテグレーションに次いで2番目に多く取られているESG投資手法となっています。

(※参照:Sustainable Japan「【金融】世界と日本のESG投資「GSIR 2020」の統計。世界のESG投資割合は35.9%に伸長」)

3 ネガティブスクリーニングの主な取り組み・内容・例

日本でも、ネガティブスクリーニングを実践していることを、様々な機関投資家が表明しています。しかし、個別企業を批判する意図はないため、「ネガティブスクリーニングを行う産業や業種」は示されている一方、スクリーニングにより除外された企業名は明示されないケースがほとんどです。

3-1 かんぽ生命のネガティブスクリーニング

かんぽ生命では「ESG投資の手法・投資事例」において、ネガティブスクリーニングで特定の産業を投資ユニバース(投資銘柄群)から排除していると表明しています。

非人道的兵器(クラスター爆弾、対人地雷、生物兵器、化学兵器)は、無差別に甚大な被害を与えることから、それらの兵器を製造する企業への投資を行いません。
石炭火力発電はCO₂を多く排出し、気候変動への影響が懸念されることから、発電効率にかかわらず、これに係る、国内外の新規のプロジェクトファイナンスへの投資を行いません。

(※引用:かんぽ生命「ESG投資の手法・投資事例

3-2 第一生命のネガティブスクリーニング

第一生命も、ESG投資方針の一環としてネガティブスクリーニングを実践して社会の持続的発展に貢献するスタンスを示しています。

第一生命のネガティブスクリーニングの対象

スクリーニング対象分野 対象資産
特定の兵器製造関連
(クラスター弾、生物兵器、化学兵器、対人地雷、核兵器等)
株式投資
プロジェクト・ファイナンス
債券投資
不動産投資
企業融資
化石燃料による新規の火力発電所関連事業
(石炭・石油・ガスを含む)
石炭採掘事業
プロジェクト・ファイナンス

(※引用:第一生命「ESG投融資」)

第一生命では、スクリーニング対象分野によって対応を分けています。兵器製造企業は全面的に投融資を控えている一方で、火力発電や石炭採掘の企業については、ESG取り組み状況などに応じて、プロジェクト・ファイナンス以外の投資実行が可能な枠組みになっています。

4 ネガティブスクリーニングの主な課題・今後

長い歴史があり、ESG投資手法としても定着しているネガティブスクリーニングですが、その一方で、以下のような課題もあります。

  • 対応が消極的なため「ESG投資」として扱うことに異論もある
  • ESGへの貢献を促す「対話」の余地がなくなる

ネガティブスクリーニングは「ESG投資ではない」と考える団体も一部あります。たとえば「NPO法人日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)」などが、ネガティブスクリーニングをESG投資として扱わない立場を示しています。

その理由として、ESGの観点から望ましくない企業や事業への投資を避けるだけでは、サステナブルな世界の実現に対する貢献度は小さくなるという考えや、投資分析を行う前に投資対象から一律外しているため「ESG投資」とは言えない、といった考え方からです。また、投資対象から除外された企業は、投資家と対話して改善する機会を得られません。一度対象外と判断された企業は、いつまでも評価の低いまま取り残される恐れがあります。

ESGへの貢献性が高い事業や企業をスクリーニングし積極的に投資をしたり、企業との対話を通じてよりESGに貢献できる事業を展開するよう促したりするなど、投資家として積極的な関与があった方がより望ましいと考えられています。

こうした課題を解決するために、ネガティブスクリーニング以外の銘柄選別手法を合わせて取り入れる等の対応が取られています。また、ESG投資を積極的に行う年金・生命保険会社等の機関投資家は、次のような手法を実践して、より積極的なESG投資を模索しています。

  • インテグレーション|財務情報とESGなどに関する非財務情報を組み合わせて投資評価する方法
  • エンゲージメント|企業への対話や議決権行使により、投資先に改善を促して価値向上を目指す方法

参考:NPO法人日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)「ネガティブ投資・インパクト投資はESG投資ではない/ESG投資の定義#1

5 まとめ

ネガティブスクリーニングは、社会や未来の世代にとって望ましくないと考えられる事業への投資を控える投資手法の一つです。ESGの観点で課題のある産業や企業への投資を排除する、というわかりやすさが特徴といえます。

世界中で多くの投資家が取り入れているESG投資手法ですが、その消極的な姿勢から、ESG投資とは認めないという考え方もあります。インテグレーションやエンゲージメントなど、他のESG銘柄選別手法と組み合わせることで、より積極的にESG課題の解決に貢献することが期待されます。

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伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。