ブルーボンドとは・意味

目次

  1. ブルーボンドとは
  2. ブルーボンドが注目される背景
  3. ブルーボンドの発行事例
    3-1.アジア開発銀行(2021年)
    3-2.商船三井(2023年~2024年)
  4. ブルーボンドの課題
  5. まとめ

1 ブルーボンドとは

ブルーボンドは、海洋環境や資源を維持しながら持続可能な経済活動を行う「サステナブル・ブルー・エコノミー」の実現を目指すファイナンス手法のことです。同じくサステナブルファイナンスである、グリーンファイナンス(環境金融)の一種として数えられています。

2018年にセーシェル共和国が初めてブルーボンドを発行。2022年にはマルハニチロが日本初のブルーボンドによる資金調達を行いました。

国際資本市場協会(ICMA)ら国際金融団体が策定した「Bonds to Finance the Sustainable Blue Economy」(持続可能なブルーエコノミーの資金調達のための債券に関する実務者ガイド)によると、ブルーボンドの対象プロジェクトとして以下の8つが挙げられています。

  • 沿岸気候の適応と回復力
  • 海洋生態系の管理・保全・回復
  • 持続可能な沿岸・海洋観光
  • 持続可能なマリン・バリューチェーン
  • 海洋再生可能エネルギー
  • 海洋汚染
  • 持続可能な湾岸
  • 持続可能な海洋輸送

(※参照:R&I「ブルーファイナンスの評価方法を公表」)
(※参照:野村グループ「サステナブル・ブルーエコノミー実現に向けたファイナンス」)

2 ブルーボンドが注目される背景

地球の表面はおよそ70%が海で占められており、海の経済、環境、社会的価値は無視できません。国際的な環境保全団体であるWWFのレポートによると、海洋資源には以下のような資産的価値があります。

  • 水産資源(海産物、マングローブ、サンゴ礁、海藻)|6.9兆ドル
  • 海上交通|5.2兆ドル
  • 豊かな海岸線|7.8兆ドル
  • 二酸化炭素吸収能力|4.3兆ドル
  • 合計|24.2兆ドル

しかし、ブルーファイナンスの規模は依然として限定的です。SDGsの目標「14. 海の豊かさを守ろう 」というゴールの達成に向けて、世界全体で年間約1,745.2億ドルが必要である一方で、毎年255億ドルほどしか確保されていないという指摘もあります。

こうした中、ブルーボンドの共通認識が醸成されるよう、2022年1月に国際金融公社(IFC)が「ブルーファイナンスのガイドライン」を策定。2023年9月には、ICMA、IFC、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)、国連グローバルコンパクト(UNGC)、アジア開発銀行(ADB)が、「Bonds to Finance the Sustainable Blue Economy」(持続可能なブルーエコノミーの資金調達のための債券に関する実務者ガイド)を発表しました。

また、ブルーボンドの透明性を高めるため、債券の発行にあたり第三者からの評価を取得することが推奨されています。日本国内では格付投資情報センター(R&I)や日本格付研究所(JCR)など複数の機関がブルーボンドの評価を受け付けています。

R&Iは、ICMAらが策定した実務者ガイドに加え、ICMAグリーンボンド原則への適合性も確認にしたうえで評価を行っています。グリーンボンドのフレームワークと同様に、ブルーボンドのフレームワークでは以下の要素が考慮されています。

  • 資金使途の特定|調達資金をどのようなプロジェクトに投じるか
  • プロジェクトの選定と評価|プロジェクトの選定理由や期待される海洋への効果
  • 資金の充当状況を管理|償還までの資金管理の方法
  • レポーティング|プロジェクトや資金の充当状況などに関する投資家への情報発信内容や方法

乱獲や環境破壊などの課題を抱えるなかで、海の資源を保全し持続可能な海洋環境を実現するために、積極的で透明性の高い投資が期待されているのです。

(※参照:野村グループ「サステナブル・ブルーエコノミー実現に向けたファイナンス」)
(※参照:WWF「REVIVING THE OCEAN ECONOMY The case for action – 2015」)
(※参照:R&I「ブルーファイナンスの評価方法を公表」)
(※参照:環境省「グリーンボンド原則(Green Bond Principles: GBP)」)

3 ブルーボンドの発行事例

ブルーボンドの発行事例について、次の2つを紹介します。

  • アジア開発銀行(2021年)
  • 商船三井(2023年~2024年)

3-1 アジア開発銀行(2021年)

アジア開発銀行(ADB)は2021年の9月10日に、以下のオーストラリア(豪)ドルおよびニュージーランド(NZ)ドルの2通貨建てのブルーボンドを発行しました。

  • 10年債|2億1,700万NZドル(およそ1億5,100万米ドル相当)
  • 15年債|2億800万豪ドル(およそ1億5,100万米ドル相当)

二つとも海外の債券ですが、日本の第一生命や明治安田生命などが購入しています。

2019年にADBは「海洋保全と持続可能なブルー・エコノミーのための行動計画」を発表しており、同計画の一環としての資金調達です。ADBによるグリーン&ブルーボンド・フレームワークの下で、同債券は発行されました。なお、同フレームワークは、グリーンボンド投資フレームワークの主要な環境評価機関であるシスロ(CICERO)よりセカンドパーティ・オピニオンを取得しています。

調達資金を原資に、廃棄物の海洋流出を防ぎ、温室効果ガス排出量の削減を目指すモルディブの廃棄物発電プロジェクトや、農薬や肥料を管理することで海洋環境汚染の削減を目指す中国のグリーン農業支援プロジェクトなどへの融資を行う計画です。

ADBは2024年までに少なくとも50億ドルの投融資や技術協力を提供する計画で、アジア・太平洋地域における海洋環境保護のための持続的な投資を目指しています。

(※参照:アジア開発銀行「ADB、初の海洋投資向けブルー・ボンドを発行」)

3-2 商船三井(2023年~2024年)

2024年1月19日、商船三井は同社にとって初のブルーボンドを発行しました。

発行に向けたフレームワークの整理は2023年から進められており、2023年12月にはブルーボンドフレームワークを公表しています。こちらは円建ての債券で、5年債・発行額200億円です。

アセットマネジメントOneや三菱UFJアセットマネジメントのほか、信用金庫、信用組合など多数の投資家が購入しています。同社が整理したブルーボンドフレームワークは、JCRよりセカンド・オピニオンを取得しています。

商船三井では、2023年に策定したグループ経営計画「BLUE ACTION 2035」で「海洋・地球環境の保全」をサステナビリティ課題(マテリアリティ)の一つとしています。

同計画に基づき、環境課題解決への投資額を2023年度から2025年度の3年間で計6,500億円規模としており、ブルーボンドによる資金調達は、その計画実行を推進するためのものです。

(※参照:商船三井「海運業界として世界初となるブルーボンドの発行を決定」、「ブルーボンド(第26回無担保社債)の発行に関するお知らせ」)

4 ブルーボンドの課題

2022年に日本でもブルーボンドの発行が始まりましたが、世界で見てもブルーボンドの歴史は浅く、グリーンボンドと比べて依然として規模が限定的です。2022年時点のBloombergの集計によると、グリーンボンドが2021年だけで80兆円発行されたのに対して、ブルーボンドは2018年から2022年累計で2,800億円ほどでした。また、2023年初期の時点で、サステナブル債券市場におけるブルーボンドの割合は0.5%未満でした。

理由の一つとして、海洋環境に限らず自然環境の保全を目的とするグリーンボンドとどのようにすみ分け、投資家に対してブルーボンドへの投資意義をどのように説明していくかなどが課題となっています。

また、海は広大であるがゆえに、投資による環境改善効果(インパクト)の測定が難しいといった指摘もあります。海の酸性度などで評価するのか、海のどのエリアを評価するのか、また何をもって改善効果とするのかなど、今後の議論が必要とされています。

(※参照:Bloomberg「「ブルーボンド」船出、日本で初の発行へ-グリーンとの線引き課題に」)
(※参照:フィデリティ投信「ブルーボンド市場にどう資金を呼び込むか」)

5 まとめ

海洋資源の保護や環境改善に資金使途を限定するブルーボンドは、グリーンボンド(環境金融)のです。2018年に世界で初めて発行され、日本では2022年に初めて発行されました。

国際的な金融団体によるガイドラインが発表され、金融機関等によるフレームワークの整備も始まっています。また、格付け機関などの第三者機関が評価やオピニオンを出すための体制構築も行われています。

グリーンボンドと比べると市場規模はまだ限定的であるものの、日本でも発行事例が出始めており、ブルーファイナンスの普及を通じた海洋保護の活動の積極化が求められています。

サステナブル投資に関連する用語一覧

サステナブル投資に関連する組織・枠組み

企業活動に関するサステナビリティ用語

The following two tabs change content below.

伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。