ポジティブ・インパクト・ファイナンスとは・意味

目次

  1. ポジティブ・インパクト・ファイナンスとは
  2. ポジティブ・インパクト・ファイナンスが着目されている背景
  3. ポジティブ・インパクト原則について
    3-1.定義
    3-2.枠組み
    3-3.透明性
    3-4.評価
  4. ポジティブ・インパクト・ファイナンスの課題
  5. まとめ

1 ポジティブ・インパクト・ファイナンスとは

ポジティブ・インパクト・ファイナンスは、国連環境計画金融イニシアティブ(The United Nations Environment Programme Finance Initiative、UNEP FI)が提唱する、環境や社会課題にポジティブな影響を与えるビジネスに対する投融資のことです。

UNEP FIは、経済・環境・社会という持続可能な開発の3側面のいずれかで、潜在的なマイナスの影響を緩和し、かつプラスの影響を与えるビジネスに対する投融資として、ポジティブ・インパクト・ファイナンスを定義しています。

例えば再生可能エネルギーは、炭素排出を抑制するという環境面でプラスの影響が期待されます。また、新たな雇用を生み出し、エネルギーへのアクセスを拡充させるという経済面や社会面のプラスの影響も見込まれます。一方で、近隣への騒音公害や鳥類など周辺生物の生存への脅威といったマイナスの影響も想定されます。

このように、ポジティブ・インパクト・ファイナンスは、持続可能性という観点から様々な事象の関連性を踏まえて分析し、多角的にプラス面とマイナス面を評価した上で投融資を行う手法です。

(※参照:UNEP FI「UNEP FIの概要」、「ポジティブ・インパクト・ファイナンス原則 SDGs達成に向けた金融の共通枠組み」)

2 ポジティブ・インパクト・ファイナンスが着目されている背景

UNEP FIによると、SDGs達成のためには2030年までに年間約5兆ドルから7兆ドル(約770兆円から930兆円)の資金が必要です。主に以下の領域が挙げられます。

  • インフラ
  • クリーンエネルギー
  • 水と衛生
  • 農業

資金調達方法として、ブレンドファイナンスやクラウドファンディング、グリーンボンドやサステナビリティボンドなど、環境的・社会的指向とされる様々な金融商品も登場しています。しかし一方で、ポジティブ・インパクトに必要な調達金額は十分にカバーされていない状況が続いていました。

このような背景から、2015年10月にUNEP FIによって「ポジティブ・インパクト宣言」が行われました。銀行や投資家などの金融セクターに対し、SDGsの達成には経済・環境・社会の側面から総合的に検討されたインパクトに基づくアプローチが必要だと提唱したのです。

そして、必要資金と調達額のギャップを解消するための第一歩として、2017年に発表されたのが「ポジティブ・インパクト・ファイナンス原則」です。

ポジティブ・インパクト・ファイナンス原則を通して、銀行、投資家、監査会社や格付け会社等の役割を明確にし、企業、政府、市民社会それぞれがポジティブなインパクトを最大化できるような支援が提供されることを目的としています。

(※参照:UNEP FI「ポジティブ・インパクト・ファイナンス原則 SDGs達成に向けた金融の共通枠組み」)

3 ポジティブ・インパクト原則について

ポジティブ・インパクト原則は、次の4項目から成り立っています。

  1. 定義
  2. 枠組み
  3. 透明性
  4. 評価

それぞれの内容について順に紹介します。

3-1 定義

ポジティブ・インパクト・ファイナンスは、「ポジティブ・インパクト・ビジネスのための金融」であり、経済・環境・社会の側面でマイナス影響を緩和しプラスの貢献をもたらすことを目的としています。

本原則はすべての金融商品カテゴリーに適用されますが、セクター別の原則ではありません。

  • ローン(法人、個人、地方自治体、国家、銀行間取引、プロジェクト関連)
  • 債券
  • 株式
  • メザニン
  • 短中期債券、クレジットリンク債/ローン

3-2 枠組み

ポジティブ・インパクト・ファイナンスを実行するためには、投融資先のポジティブ・インパクトを特定しモニタリングする枠組みが必要です。

たとえば、以下のようなポイントで整備が必要です。

  • ポジティブ・インパクトを判断するプロセス、基準、方法を設定
  • ポジティブ・インパクトの適格性判断に、ESGリスク管理プロセスを適用する
  • 金融商品が有効性を発揮する期間全体にわたりインパクト達成状況をモニターする
  • ポジティブ・インパクト・ファイナンスの実行に必要なスキルをもつスタッフを適切に配置する
  • セカンドオピニオン・第三者による保証を求めることが推奨される
  • プロセスを定期的に見直し・適宜更新する。

3-3 透明性

ポジティブ・インパクト・ファイナンスを提供する銀行や投資家、金融機関は、以下の点について透明性の確保と情報開示が求められています。

  • 資金調達を行ったプロジェクト、プログラム、投融資先の事業体が意図するポジティブ・インパクト
  • 適格性に関する判断と、インパクトをモニタリング・検証するプロセス
  • 資金調達を行ったプロジェクト、プログラム、投融資先の事業体が実際に達成したインパクト

3-4 評価

ポジティブ・インパクト・ファイナンスにおけるインパクト実現度合いを、適切に評価する必要があります。評価は社内の内部監査や第三者機関(監査会社、リサーチ会社、格付会社など)を通じて行うことを想定されています。

たとえば、次のようなポイントが評価基準として考えられています。

  • 多様なポジティブ・インパクトがもたらされるか
  • 大きなインパクトがもたらされるか
  • 投下資本に対して相対的に大きいインパクトが得られているか
  • 公的資金や寄付が民間で最適に使用されているか
  • 追加性の度合い(例えば他の未達・未対応領域への展開に役立つか)

(※参照:UNEP FI「ポジティブ・インパクト・ファイナンス原則 SDGs達成に向けた金融の共通枠組み」)

4 ポジティブ・インパクト・ファイナンスの課題

ポジティブ・インパクト・ファイナンスの規模を拡大するには、大きく二つのポイントが課題となると考えられます。

一つ目は、「インパクトウォッシュ」というインパクトが実体より誇張されたり虚偽をされたりしている活動への投融資を避けることです。銀行、投資家、各ステークホルダーが原則に沿った運営を行い、事前に第三者評価機関とインパクトウォッシュ・リスクやインパクト評価におけるKPI設定について確認するなど、リスクを避ける取り組みが求められるでしょう。

二つ目は、各金融機関、各金融セクターが、ベストプラクティスを追求し続けることです。社会・環境・経済の側面でインパクトが特定されているか、また中長期的な視点により多様なステークホルダーとの関連性を踏まえてインパクト分析がされているかなど、投融資前だけでなく投融資後のモニタリングプロセスでも検証しより良いアプローチを採用することが、ポジティブ・インパクトの拡大につながると考えられます。

SDGsの達成のために2030年まで継続的かつ積極的な投資が求められる中、以上のような課題に取り組むことで、よりポジティブなインパクトが拡大することが望まれます。

(※参照:商工金融「ポジティブ・インパクト・ファイナンスへの取り組みの現状と今後の展望・課題」)

5 まとめ

SDGs達成に向けて、投資によるインパクトを多角的に検証し、プラス面とマイナス面を加味しながら投資判断を行うポジティブ・インパクト・ファイナンスの普及拡大が望まれます。ポジティブ・インパクト・ファイナンス原則を通して、金融機関やステークホルダーの役割が明確となり、投資プロジェクトごとに期待されているインパクトの内容や評価が関係者間で可視化、共有されることで、より大きなポジティブ・インパクトに資する投資となるでしょう。

金融機関らによるプロジェクト選定、金融商品の開発や効果的なインパクト評価・モニタリング体制構築など、インパクト・ファイナンスの枠組みの整備が進むことが期待されます。

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伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。