J-クレジットとは・意味

目次

  1. J-クレジットとは
  2. J-クレジットが注目される背景
  3. J-クレジットの創出・オフセット事例
    3-1.J-クレジット創出事例|沖縄綿久寝具株式会社
    3-2.J-クレジットオフセット事例|大分ガス
  4. J-クレジットの課題と展望
  5. まとめ

1 J-クレジットとは

J-クレジットとは、省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの活用によるCO2排出削減量や、森林管理によるCO2の吸収量を、日本政府がクレジットとして認証する制度です。

同制度の活用により、J-クレジットの創出者(中小企業、農業者、森林所有者、地方自治体等)は、自身のCO2排出削減・吸収の取り組みにより取得したクレジットを売却することで資金を得られます。一方、J-クレジットを購入する企業や自治体は、カーボンオフセット、CSR活動、経団連カーボンニュートラル行動計画の目標達成や、温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)・省エネ法(エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律)の報告などにクレジットを活用できます。

同制度は、2013年度に国内クレジット制度とオフセット・クレジット(J-VER)制度を一本化して成立されました。経済産業省・環境省・農林水産省が制度運営を行っています。

J-クレジット制度を通して資金が循環されることで、中小企業・自治体等の省エネ・低炭素投資が促進されると期待されています。

(※参照:経済産業省「J-クレジット制度」)
(※参照:J-クレジット制度事務局「J-クレジット制度について」、「制度概要」)

2 J-クレジットが注目される背景

2015年に開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約締約国会議)で、2020年以降の温室効果ガス排出削減のための国際枠組みである「パリ協定」が採択されました。日本では2021年に、2050年カーボンニュートラルに向けた「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」が閣議決定され、また地球温暖化対策計画が5年ぶりに見直され閣議決定されています。

地球温暖化対策計画では、国内の様々な主体によるCO2排出削減・吸収対策を推進する「分野横断的な施策」としてJ-クレジット制度を位置づけています。本計画では、2030年度のJ-クレジットの認証量目標が、従来の1,300万t-CO2から1,500万t-CO2に引き上げられました。カーボンニュートラルに向けた移行期を含め、J-クレジット活用によるカーボンオフセット推進が期待されているのです。

その後2023年2月、グリーントランスフォーメーション(GX)実現に向けた基本方針が閣議決定され、GX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案)が成立。温室効果ガス排出量取引制度の本格導入を含む「成長志向型カーボンプライシング構想」が掲げられました。

その一環で、2023年10月には東京証券取引所にカーボン・クレジット市場が開設され、J-クレジットの市場取引が開始。売買の区分は、省エネルギー、再生可能エネルギー(電力)、再生可能エネルギー(熱)、再生可能エネルギー(電力及び熱混合)、森林、その他の 6 分類があります。

従来のクレジット創出者・購入者間の相対取引と異なり、市場で取引されることで炭素価格が明確に示され、価格の上昇が脱炭素化推進のインセンティブにつながることが期待されています。

(※参照:外務省「2020年以降の枠組み:パリ協定」)
(※参照:経済産業省「J-クレジット制度」)
(※参照:JETRO「GXリーグで始まる新しい日本のカーボンプライシング」)
(※参照:大和総研「東証カーボン・クレジット市場の動向と今後の市場活性化に向けた課題」)

3 J-クレジットの創出・オフセット事例

J-クレジットの公式Webサイトで紹介されている、J-クレジットの創出事例と、オフセット事例について紹介します。

3-1 J-クレジット創出事例|沖縄綿久寝具株式会社

沖縄綿久寝具株式会社では、もともと重油や都市ガスを燃料としたボイラーを使用していました。これらを、LNGを主燃料とする高効率ボイラーに変換することにより、エネルギー使用量の削減と熱効率の改善を達成しました。

この結果、CO2排出量を約25%・年間約1,800t-CO2の削減に成功しています。この取り組みに対しJ-クレジットを創出し、沖縄県内の他の事業者や自治体に売却することで、今後さらに高効率機器の設備投資を進めるための資金源としています。

(※参照:J-クレジット制度「重油焚ボイラーからLNG焚ボイラーへの更新で環境貢献をPR!」)

3-2 J-クレジットオフセット事例|大分ガス

大分瓦斯株式会社では、日常業務で都市ガスから排出されるCO2の全量をJ-クレジット購入によりカーボンオフセットしています。環境経営に関するコンサルティングなどを行うブルードットグリーン社(2024年3月株式会社エスプールブルードットグリーンに社名変更)支援のもと、森林吸収由来のJ-クレジットを購入。2023年度のCO2のオフセット量は150t-CO2でした。

(※参照:J-クレジット制度「大分ガスの日常業務におけるカーボン・オフセット」)

4 J-クレジットの課題と展望

地球温暖化対策計画、GX推進法等を通して期待が寄せられ、東証での市場取引も始まったJ-クレジット。市場が開設された2023年10月から2024年4月にかけて、市場参加者の登録数は188者から273者に増加し、一日平均売買高は実証実験時と比べて約90t-CO2増加しました。また、開設後約半年間の累計取引量は約31万t-CO2にのぼっています。

しかし、取引量は依然として少ないという指摘もあります。2015年に始まった韓国の初年の取引量は570万トン、2021年7月に全国取引が始まった中国は同年末までに1.7億トンを超えています。各国規制が異なるものの、日本の取引量が少ないことが窺えます。

その要因は幾つか考えられます。まず、J-クレジットの年間創出量が100万トン程度と規模が小さい点が挙げられます。J-クレジットは国内の排出削減に関する政府認証のクレジットであり、例えば日本企業が国外で行った排出削減は含まれません。また、民間セクターが認証する自主的なクレジット(ボランタリー・クレジット)とは異なります。

J-クレジットの取引は、自治体や地方企業、森林公社などが創出した小規模のクレジットが中心であり、多排出企業のカーボンオフセット需要を十分満たす規模ではありません。また、リアルタイムで約定を行う株式市場と異なり、本市場では注文受付時間が設定され、約定は午前1回と午後1回の1日2回と決まっています。今後取引量が増え流動性が高まり、取引の利便性が改善されることが望まれます。

つぎに、2024年時点では市場への参加は任意、各社の排出枠(キャップ・上限)もなく、排出削減の目標設定・管理も各社の自主性に任されています。脱炭素に向けた枠組み「GXリーグ」の参加企業のうち、カーボン・クレジット市場に登録しているのは50社程度と、年10万トン以上の高排出企業約100社の半数にとどまっています(2024年5月時点)。

しかし、カーボン・クレジット市場の今後の発展に向けた動きも進んでいます。排出量取引制度の発展に向けて、2024年11月に東証のカーボン・クレジット市場の取引対象に超過削減枠が追加される予定です。排出量削減目標を超過して削減できた企業と、目標達成の難しい企業との間で、超過削減枠を売買する市場です。またGXリーグにより、カーボンオフセットの適格クレジットとしてボランタリー・クレジットを含めることが検討されています。

多排出企業を含む多くの企業がカーボン・クレジット市場に参加する環境が整うことで、J-クレジットがさらに活用されることが期待されます。

(※参照:公益財団法人資本市場研究会「カーボン・クレジット市場の現状と今後の動向について」)
(※参照:日本経済新聞「東証の炭素市場、取引対象を拡大 大企業参加しやすく」)
(※参照:大和総研「東証カーボン・クレジット市場の動向と今後の市場活性化に向けた課題」)
(※参照:日本取引所グループ「制度概要」)

5 まとめ

J-クレジットは、政府認証によるカーボンクレジットです。2013年に制度として成立して以来、中小企業や自治体を中心に創出されたクレジットの取引が行われてきました。2023年には、東証のカーボン・クレジット市場で取引が開始され、価格の透明性向上や流通の促進が期待されています。

一方で、取引量は依然として限定的です。今後のカーボン・クレジット市場と制度のさらなる発展により、J-クレジット取引の活性化が望まれます。

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伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。