目次
- ゼブラ投資とは
- ゼブラ投資が注目される背景
- ゼブラ投資の主な事例
3-1.ゼブラアンドカンパニーによるゼブラ投資
3-2.JR東日本ローカルスタートアップ合同会社によるゼブラ投資 - ゼブラ投資の課題
- まとめ
1 ゼブラ投資とは
ゼブラ投資とは、収益の最大化ではなく、社会やステークホルダー全体の幸福最大化を目指す投資方法を指します。社会との共存・共栄を重視する企業(ゼブラ企業)や事業へ投資する手法です。
ゼブラ投資は、しばしば対照的な考え方を持つベンチャーキャピタル投資と比較されます。ベンチャーキャピタル投資とは、ユニコーン企業など事業成長が期待されるベンチャー企業に投資して、短期間で高い投資リターンを追求する手法です。
VC投資 | ゼブラ投資 | |
---|---|---|
対象企業 | 急成長を目指すベンチャー企業 | ゼブラ企業 |
目的 | 収益の最大化 | 社会的インパクト ステークホルダー全体の幸福最大化 |
時間軸 | 3-5年 | 5年以上(明確な時間軸がない場合もある) |
金融手法 | 株式出資 | 株式・メザニン出資・債券など |
目指す金銭的 リターン |
ハイリターン | ローもしくはミドルリターン |
投資家の 利益創出手法 |
IPO・M&Aなどによるイグジット | IPO・M&A 配当・金利収入 コミュニティへの売却など |
ゼブラ投資は、社会との長期的な共存・共栄を目指す分、長い時間をかけて、また時には明確な投資期間を決めずに、ゆるやかなリターン獲得を目指します。
そのため、資産価格の値上がり益による「キャピタルゲイン」よりも、金利収入や配当などの「インカムゲイン」の積み上げにより投資家に収益が還元される割合が高いのも特徴です。
他者から富を奪ったり、過度な競争の末に他社を衰退させたりすることなく、投資家自身や投資先企業、そして社会およびステークホルダーの利益を共に増やす「Win-Win」の関係を目指すのが、ゼブラ投資という手法です。
(※参照:ゼブラアンドカンパニー「ゼブラ投資とは何か。VC投資との違いと、投資対象になる企業の5つの特徴」)
2 ゼブラ投資が注目される背景
ゼブラ投資は、その主たる投資先であるゼブラ企業とともに注目度が高まっています。以前から魅力的な投資先と考えられていたベンチャー企業・ユニコーン企業は、自社の成長と経営者や株主の利益を優先していますが、急成長の可能性のある企業が社会全体に充分に利益を還元できているとは限りません。
近年重視されているSDGs・サステナビリティという考え方では、全ての人が取り残されることなく持続的に発展していく社会の形成を目標としています。
ゼブラ企業は、従来のベンチャー企業・ユニコーン企業に対する考え方と一線を画し、企業経営者や投資家が社会と同じ方向を向いて共存・共栄していくことを目指しています。このような理念を持つゼブラ企業は、SDGsに対する大きな貢献ができると期待されているのです。
ゼブラ投資を通じて企業が成長すれば、社会の持続的発展にも資することから、ゼブラ投資が注目されています。
3 ゼブラ投資の主な取り組み・内容・例
それでは、具体的にどのような事例があるのでしょうか。近年ゼブラ投資を積極的に行う機関投資家が出てきており、出資や貸付、あるいは資金調達支援などさまざまな形でゼブラ企業の発展を支援しています。
3-1 ゼブラアンドカンパニーによるゼブラ投資
ゼブラアンドカンパニーは、ゼブラ企業の発展やゼブラ経営の普及を推進することを主目的とした企業です。支援の一環として、ゼブラ企業への投資も積極的に行っています。たとえば2021年には「Finance for Purpose(F4P)」として、企業の発展と社会的インパクトの両立を目指す投資事業を開始しています。
2022年に実施した1号案件では、ミャンマー農村部でマイクロファイナンスや物流サービスを提供して農村部の事業支援や地域振興を目指す企業に対して、1億円の資金調達を支援しました。
内10%にあたる約1,000万円はゼブラアンドカンパニーが出資し、残りはエンジェル投資、株式型クラウドファンディング、助成金などを組み合わせたブレンデッドファイナンスを実行しています。
(※参照:ゼブラアンドカンパニー「『投資家に社会的意義を説明しても、無意味だと思っていた』 クーデターで倒産危機に陥ったミャンマー企業の1億円調達から見えたもの【Finance For Purpose】」、「思いあるファイナンスで 1億円の資金調達を支援!ミャンマー政変で経営戦略を変更した新興国ゼブラ企業の『Finance For Pourpose』第一号調達事例」
3-2 JR東日本ローカルスタートアップ合同会社によるゼブラ投資
JR東日本傘下のスタートアップ投資事業である同社は、福島県の南相馬市にある「haccoba(ハッコウバ)」というクラフトサケ醸造家を支援しています。酒造場のある地域は、原発事故によって一度、人口がゼロになってしまった地域です。haccobaは、酒蔵や併設するパブを拠点にイベント開催などを通じてコミュニティを形成し、地域・文化の再興を推進しています。
JR東日本ローカルスタートアップ合同会社は、同ビジネスについて議決権を持たない「買い戻し条項付の種類株式」による出資を行っています。これは出資後数年のうちに一定以上の利益が出ていれば、価格を上乗せして買い戻す条件がついた株式です。議決権がないため、出資先企業にとっては経営の自由度を阻害される心配がありません。
JR東日本ローカルスタートアップ合同会社では、短期での高利益の実現は求めず、長期的な地域貢献が重要であると考えています。
(※参照:JR東日本ローカルスタートアップ合同会社「「JR東日本のCVCが、地域のために、地域に根差した事業の成長支援を行う「JR東日本ローカルスタートアップ合同会社」を設立。~投資第一号案件は、クラフトサケという自由な酒造りにチャレンジするhaccobaへ投資を実行~」)
(※参照:ゼブラアンドカンパニー「融資でもスタートアップ投資でもない、新しい投資の形。1000年先を見据えるhaccobaと、JR東日本ローカルスタートアップの協業」)
4 ゼブラ投資の主な課題
持続可能な社会の実現への貢献が期待される一方で、以下のような課題があります。
- 厳格なゼブラ企業の選別、またゼブラ経営理念の実現は容易ではない
- 短期での投資リターンは低下する可能性
社会と共存・共栄しあらゆるステークホルダーの発展を実現する企業や事業へ投資するのがゼブラ投資ですが、投資先を選別するのは容易ではありません。
企業が意図せざるところで、他者の利益を奪ってしまうこともありえます。たとえば、特定地域の振興を重視して事業を営んだ結果、意図せず隣町の発展を阻害してしまうかもしれません。
ゼブラ投資の投資先を検討するうえでは、その企業の理念や考え方だけでなく、実態としてどれだけ社会全体にポジティブなインパクトをもたらしているのかを分析し、ゼブラの理念を実現できる企業を選んで投資する必要があります。
また、ゼブラ投資は収益最大化を目標としておらず、社会と共に長期にわたる持続的な発展を目指す投資方針のため、短期で高利益を実現するのには不向きな投資法と言えます。
5 まとめ
SDGsを推進する投資家や企業が増える中、ゼブラ投資は注目されている投資方法の一つです。ゼブラ投資では、ゼブラ経営の理念を持つ企業群を深く分析して、事業の発展を通して社会全体にポジティブなインパクトをもたらす企業を投資先として選びます。ゼブラ企業の成長により、投資家が安定したリターンを獲得するだけでなく、持続可能な社会の実現に繋がることが期待されています。
その一方で、ゼブラ企業の選別やゼブラ経営理念の実現は容易ではありません。今後様々なゼブラ投資の事例が生まれることで、ノウハウが蓄積され、投資手法が開発されていくことが期待されます。
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伊藤 圭佑
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