目次
- スチュワードシップ・コードとは
- スチュワードシップ・コードが注目される背景
- 日本版スチュワードシップ・コードの現状
3-1.日本版スチュワードシップ・コード再改訂版
3-2.コーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コード - スチュワードシップ・コードの展望
- まとめ
1 スチュワードシップ・コードとは
スチュワードシップ・コードとは、「責任ある機関投資家」としての諸原則を定めたものです。株式など有価証券へ投資する機関投資家が、投資先の企業との対話を通じて持続的な成長を促し、顧客・受益者へ健全なリターンを還元するという、機関投資家としての責任を果たすための行動原則がまとめられています。
機関投資家とは、たとえば以下のように法人形態で資産運用を行っている主体をいいます。
- 年金基金
- 証券会社
- 銀行
- 保険会社
- アセットマネジメント会社
スチュワードシップ・コードは、2008年の金融危機をきっかけにイギリスでまとめられ、日本でも金融庁により「日本版スチュワードシップ・コード」が策定されました。
法的拘束力を持たない自主規制ではありますが、スチュワードシップ・コードを受け入れる場合は、各原則に従うか、従わない合理的な理由を説明しなければならないという「コンプライ・オア・エクスプレイン」のルールが適用されます。
コードを受け入れるかは各機関投資家の任意ですが、日本では受け入れ機関数が着実に増加しています。2014年5月時点では127機関だったのに対して、2023年9月末時点では329機関まで増加しました。
(※参照:日本取引所グループ「『ESG情報開示実践セミナー』スチュワードシップ・コード再改訂のポイント」)
(※参照:金融庁「スチュワードシップ・コードの受入れを表明した機関投資家のリストの公表について(令和5年9月30日時点)」)
2 スチュワードシップ・コードが注目される背景
2008年のリーマンショックによる金融危機を踏まえ、2010年にイギリスでスチュワードシップ・コードは策定されました。投資リスクの低減にあたり、投資先企業の評価・監視など、機関投資家によるガバナンスへの取り組みの重要性が改めて認識されたためです。
スチュワードシップ・コードでは、投資先企業のリスク・機会を正確に把握し、また建設的な対話(エンゲージメント)を通じて企業の持続的な成長を促すことで、顧客・受益者に最善の利益を還元することを、機関投資家の責務の一つと定義づけています。
また、近年ESG投資への関心が高まる中、サステナビリティ推進においてもスチュワードシップ・コードを実践することが期待されています。より持続的な発展に資する経営を行うよう投資先企業に促すことで、中長期的な企業価値の向上と、顧客・受益者の投資リターン拡大に繋がると考えられているためです。
(※参照:日本取引所グループ金融商品取引法研究会「日本版スチュワードシップ・コード -英国コードとの比較を中心として-」)
3 日本版スチュワードシップ・コードの現状
日本版スチュワードシップ・コードは、2014年に策定された後、何度か改訂されています。2023年11月時点では、2020年3月の再改訂が最後の改訂です。
2020年3月の再改訂では、ESG要素を含む中長期的な持続可能性(サステナビリティ)を考慮し投資先企業と対話等を行い、企業価値向上に努めることが機関投資家の責任として追記されています。
3-1 日本版スチュワードシップ・コード再改訂版
日本版スチュワードシップ・コードの概要は次の通りです。
-
機関投資家は、
- スチュワードシップ責任を果たすための「基本方針」を策定し、これを公表すべき。
- 顧客・受益者の利益を第一として行動するため、「利益相反」を適切に管理すべき。
- 投資先企業のガバナンス、企業戦略等の状況を的確に把握すべき。
- 建設的な対話を通じて投資先企業と認識を共有し、問題の改善に努めるべき。
- 「議決権行使」の方針と行使結果を公表すべき。
- 顧客・受益者に対して、自らの活動について定期的に報告を行うべき。
- 投資先企業に関する深い理解に基づき、適切な対話と判断を行うための実力を備えるべき。
-
機関投資家向けサービス提供者は、
- 機関投資家がスチュワードシップ責任を果たすにあたり、適切にサービスを提供するように努めるべき。
(※引用:日本取引所グループ「『ESG情報開示実践セミナー』スチュワードシップ・コード再改訂のポイント」)
3-2 コーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コード
日本の上場企業に対しては「コーポレートガバナンス・コード」というルールが2015年にまとめられています。こちらは、事業会社があらゆるステークホルダーに配慮して、中長期的に健全な事業成長を目指して行動することを求めた原則です。
金融庁や日本取引所グループは、金融機関がスチュワードシップ・コード、事業会社がコーポレートガバナンス・コードをそれぞれ遵守することを求めています。二つの原則が両輪となり、サステナブルな経済・金融の発展につながることが期待されています。
4 スチュワードシップ・コードの展望
金融庁及び東京証券取引所は、スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードを一体で継続的にフォローアップしています。2015年以降フォローアップ会議は28回を数え、両原則を受け入れる事業会社・機関投資家の拡大や、実効的なガバナンスの定着に向けた施策などの議論が行われています。
スチュワードシップ・コードを受け入れる金融機関は徐々に増えていますが、その一方で年金基金の受け入れが進んでいないという指摘もあります。2020年時点では、スチュワードシップ・コードを受け入れている277の機関投資家のうち、年金基金は32機関にとどまっています。その後、2023年9月末時点で82機関まで増加していますが、年金基金等アセットオーナーのスチュワードシップ活動の範囲を明確にするなど、受け入れ機関数の増加に向けた取り組みが今後も期待されます。
(※参照:金融庁「スチュワードシップ・コードの受入れを表明した機関投資家のリストの公表について(令和5年9月30日時点)」、「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」)
(※参照:日本取引所グループ「『ESG情報開示実践セミナー』スチュワードシップ・コード再改訂のポイント」)
5 まとめ
スチュワードシップ・コードは、中長期的な企業価値の向上のため、投資先企業との建設的な対話や経営の監視を機関投資家に求める行動原則です。事業会社向けのコーポレートガバナンス・コードと並び、ガバナンスの強化と持続的な企業成長を促すための行動原則として位置づけられています。
ESG投資への関心が高まる中、より多くの機関投資家によるスチュワードシップ・コードの実践が期待されます。
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伊藤 圭佑
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