コーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)とは・意味

目次

  1. コーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)とは
  2. CSDDDが注目される背景
  3. CSDDDの詳細
  4. CSDDDの課題
  5. まとめ

1 コーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)とは

コーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令(Corporate Sustainability Due Diligence Directive、CSDDDもしくはCS3D)とは、欧州で一定以上の事業規模を持つ企業に対して、人権や環境に対する悪影響のデューデリジェンスの実施を義務付ける指令です。2024年4月に欧州議会によって採択され、7月に発効されました。

デューデリジェンスとは、投資先の価値やリスクを財務・法律などのさまざまな観点から調査することです。CSDDDは、人権・環境にフォーカスを当て、企業とその子会社、バリューチェーンをデューデリジェンスの対象としています。

社会と環境の観点から企業活動がバリューチェーン全体に与える影響を精査することで、企業が人権・環境課題に取り組みやすくなること、生活者が十分な情報を得たうえで持続可能性に配慮した製品・サービスを購入できるようになること、途上国を含むバリューチェーン上のステークホルダーが持続可能な事業や投資を行いやすくなること、といった効果につながると期待されています。

CSDDDの主な適用対象

EU企業 EU域外企業
従業員数平均1,000人超かつ直近事業年度のグローバルでの年間純売上高が4.5億ユーロ超 EU域内での年間純売上高が4.5億ユーロ超
連結財務諸表を採用した(あるいは採用すべきだった)事業年度において、①を満たす企業グループの最終親会社 直近事業年度の前の年度で、連結ベースで①を満たす企業グループの最終親会社

また、EU域内でフランチャイズ契約やライセンス契約を締結している、EU域内のロイヤリティ収入やグローバル売上高が大きい企業にも適用されます。

このように、適用対象は欧州企業に限らず、EU域内の事業規模の大きい域外企業も含まれます。日本企業も大手企業を中心に適用対象となる可能性があるのです。

(※参照:European Commission「Corporate sustainability due diligence」)
(※参照:EY「欧州サステナビリティ・デューデリジェンス指令の採択 本指令のポイントと日本企業への留意点」)
(※参照:西村あさひ法律事務所「EU コーポレートサステナビリティ・デューディリジェンス指令の EU 官報掲載、2024年7月25日発効へ(速報版)」)

2 CSDDDが注目される背景

EUでは、2018年に「非財務情報開示指令(Non-Financial Reporting Directive、NFRD)」が、そして2023年に「企業サステナビリティ報告指令(Corporate Sustainability Reporting Directive、CSRD)」が発効されました。サステナビリティに関する企業の情報開示に関する枠組みが、徐々に整備されています。

その中でCSDDDは、CSRDに基づいて企業が報告する内容を補完し、明確にするためのものとして位置づけられています。CSRDが情報開示と透明性の向上を目的としているのに対し、CSDDDは環境や社会面でのデューデリジェンスを実施し、バリューチェーン上の悪影響の軽減に取り組むことを求めています。

二つの制度が相互に作用し合うことで、企業が持続可能性に対するリスク要因の特定と改善に取り組み、透明性を向上させると期待されています。

(※参照:Deloitte「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)の最終条文の概要」)
(※参照:EY「欧州サステナビリティ・デューデリジェンス指令の採択 本指令のポイントと日本企業への留意点」)

3 CSDDDの詳細

具体的には、CSDDDは適用企業に対し、以下のデューデリジェンス義務を求めています。

デューデリジェンス義務の内容

  1. デューデリジェンスに関する方針・リスク管理体制の構築
  2. 人権・環境に関する悪影響や潜在的なリスクの特定と評価
  3. 潜在的なリスクと悪影響の防止・軽減と、悪影響の最小化・停止
  4. 苦情処理メカニズムの構築や運用
  5. デューデリジェンス方針、各措置の有効性に関するモニタリング
  6. デューデリジェンスの取り組みに関する報告

リスクや悪影響の特定に加えて、影響を最小化させるための対策やモニタリングを実施することを義務付けているのが特徴です。

デューデリジェンスの範囲

デューデリジェンスは、自社だけでなくバリューチェーンも対象です。

  • 上流側|自社が製造・提供する製品やサービスの設計、製造、供給などに関わるビジネスパートナーの活動(原材料や製品の設計、調達、製造、輸送、保管、供給、製品やサービスの開発)
  • 下流側|製品の流通・輸送・保管に直接的に関わるビジネスパートナーの活動

CSDDDに違反した場合は、民事責任が発生する恐れがあります。適用企業のグローバルの年間売上規模に応じた罰則が科される可能性もあり、企業は慎重な対応が求められます。

(※参照:EY「欧州サステナビリティ・デューデリジェンス指令の採択 本指令のポイントと日本企業への留意点」)

CSDDDの適用スケジュール

CSDDDは、次のスケジュールのように徐々に企業に適用される見通しです。

EU企業 EU域外企業
発効後3年後
(2027年7月以降)
従業員数5,000人超、グローバル年間純売上高15億ユーロ超 EU域内での年間純売上高
15億ユーロ超
発効後4年後
(2028年7月以降)
従業員数3,000人超、グローバル年間純売上高9億ユーロ超 EU域内での年間純売上高
9億ユーロ超
発効後5年後
(2029年7月以降)
上記以外の企業 上記以外の企業

4 CSDDDの課題

早い企業は2027年から、CSDDDが適用される見通しです。CSDDDにより示された義務は最低遵守事項として位置づけられているため、EUの各加盟国は各国の法律を整備する際にCSDDDの義務水準から下げることはできません。

そのため、従来ドイツのサプライチェーン・デューデリジェンス法やフランスの注意義務法など各国の規則に対応を行ってきた企業でも、CSDDDに対応するためにこれまで以上に広い範囲でのデューデリジェンス義務が求められる可能性があります。

日本企業も、EU域内の年間売上高が4.5億ユーロを超える企業については、CSDDDへの対応が必要です。適用初年度に向けて、デューデリジェンスの準備や対応策の検討が望まれます。

(※参照:EY「欧州サステナビリティ・デューデリジェンス指令の採択 本指令のポイントと日本企業への留意点」)
(※参照:西村あさひ法律事務所「EU コーポレートサステナビリティ・デューディリジェンス指令の EU 官報掲載、2024年7月25日発効へ(速報版)」)
(※参照:日本総合研究所「EU人権・環境デューディリジェンス指令採択を巡る混乱とその背景」)

5 まとめ

CSDDDを通じて、EUは域内の一定規模以上の企業に対してバリューチェーン上の環境・人権リスクの洗い出し、リスク管理方針の整備や軽減のための対応策検討について取り組むことを求めています。またCSRDとあわせて取り組まれることで、各企業のリスク要因や対策が開示され、投資家や顧客、ステークホルダーに対する透明性向上にも貢献するでしょう。

短期的には、企業にとってデューデリジェンスの実施やリスク要因への対策などでコストが増加する恐れがあります。一方で、各企業がリスクを認識して対策を進めることにより、バリューチェーンを通して事業活動がより持続可能なものとなることが期待されます。

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伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。