ポジティブ・スクリーニングとは・意味

目次

  1. ポジティブ・スクリーニングとは
  2. ポジティブ・スクリーニングが注目される背景
  3. ポジティブ・スクリーニングの主な取り組み・内容・例
    3-1.第一生命のポジティブ・スクリーニング
    3-2.三井住友DSアセットマネジメントのESG投資信託
  4. ポジティブ・スクリーニングの主な課題・今後の展望
  5. まとめ

1 ポジティブ・スクリーニングとは

ポジティブ・スクリーニングとは、同業種あるいは投資対象の企業・団体同士を比較して、ESGへの取り組み状況に関する評価が相対的に高い企業に投資をする手法です。「ベスト・イン・クラス・スクリーニング」と呼ばれる場合もあります。

投資先候補となる企業のESG評価を、投資家自身が厳密に行うのは必ずしも容易ではありません。そのため、評価機関が発表しているESG指数(インデックス)やESG格付け評価が活用されています。

たとえば、グローバルな投資市場で用いられる指数として、以下が挙げられます。

  • FTSE4Good Index
  • Dow Jones Sustainability Index(DJSI)
  • Carbon Disclosure Project(CDP)

また、日本株に用いられる指数の例として、世界最大の年金基金であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、3つの日本株のESG指数を選定し運用をしています。

  • FTSE Blossom Japan Index
  • MSCI ジャパンESGセレクト・リーダーズ指数
  • MSCI 日本株女性活躍指数(WIN)

(※参照:PRI「スクリーニング」)
(※参照:野村アセットマネジメント「ESG投資の7つの手法(サステナブル戦略)について」)
(※参照:GPIF「ESG指数を選定しました 」)

2 ポジティブ・スクリーニングが注目される背景

ポジティブ・スクリーニングと対照的なESG投資手法として、ネガティブ・スクリーニングが挙げられます。ネガティブ・スクリーニングは、ESGの観点から望ましくない企業や事業への投資を控える手法です。

世界持続可能投資連合(Global Sustainable Investment Alliance、GSIA)が発表する投資手法別のESG投資残高調査(2022年)によると、2022年時点で、「エンゲージメント・議決権行使」や「ESG統合」などのESG投資手法に次ぐ規模の投資額を有します。

しかし、投資を控えるだけでは、サステナブルな世界の実現に対する貢献度は小さくなる恐れがあるという指摘もあります。これに対し、ポジティブ・スクリーニングは、他社と比較してESGパフォーマンスが高いと評価される企業に投資することで、社会や環境に対してよりポジティブなインパクトを与えることを目的とした投資手法です。

GSIAの調査では、ポジティブ・スクリーニングによる投資額は5,740億ドル、ESG投資全体(約30兆ドル)のおよそ1.9%です。2022年時点の投資額は限定的であるものの、ESGを後押しする投資手法として、ポジティブ・スクリーニングの今後の成長が期待されています。

なお、「ネガティブ・スクリーニング」については、こちらの用語集を参考にしてください。
ネガティブスクリーニングとは・意味

(※参照:GSIA「Global Sustainable Investment Review 2022」)
(※参照:PRI「スクリーニング」)
(※参照:GSIA「Global Sustainable Investment Review 2022」)

3 ポジティブ・スクリーニングの主な取り組み・内容・例

日本では、大手生命保険会社の第一生命と三井住友DSアセットマネジメントにて、ポジティブ・スクリーニングを取り入れる動きが見られます。それぞれの事例をみてみましょう。

3-1 第一生命のポジティブ・スクリーニング

第一生命では、ESG投資手法の一つとしてポジティブ・スクリーニングを導入しています。

日本の投資先については、FTSE Blossom Japan Index、MSCI ジャパンESGセレクト・リーダーズ指数、MSCI 日本株女性活躍指数(WIN)など、複数のESG指数を参照して、投資対象の銘柄群を選定します。

そのうえで、自社で個別企業を調査・評価し、独自にランク付けをしています。ポートフォリオを構築する際に、ランクをもとに投資比率をコントロールする仕組みです。

また、海外企業への投資では、MSCI-ACWI指数(MSCI社による世界の株式を対象とした株価指数)の構成銘柄の中から投資対象を選定し、MSCI社のESG指数を参照し、投資ウエイトを決定しています。
(※参照:第一生命「ESG投融資、ポジティブスクリーニング」)

3-2 三井住友DSアセットマネジメントのESG投資信託

三井住友DSアセットマネジメントは、三井住友フィナンシャルグループに属するアセットマネジメント会社で、投資信託の運用などを手がけています。

複数のESGファンドを運用していますが、そのうちの一つ「三井住友・日本株式ESGファンド」はおもにポジティブ・スクリーニングにより、銘柄選別、ポートフォリオ構築を行っています。

同ファンドは、公開情報による銘柄分析と同社のアナリストによるESG評価を組み合わせているのが特徴です。そのうえで、企業価値の向上が期待される日本株式に積極的に投資する方針を採っています。

(※参照:三井住友DSアセットマネジメント「サステナブルプロダクト認定基準」)
(※参照:三井住友DSアセットマネジメント「三井住友・日本株式ESGファンド 投資信託説明書(交付目論見書)」)

4 ポジティブ・スクリーニングの主な課題・今後の展望

ポジティブ・スクリーニングは、ESGへの取り組みを促進する投資手法として期待はされつつも、実践する投資家および投資額が少ないのが課題です。

その理由として、ポジティブ・スクリーニングには、ESGに取り組む企業を比較、評価するための高い技術や専門知識が求められることが挙げられます。また、ESGへの取り組みを裏付ける情報が十分に公開されていない場合、インタビューなどの情報収集を含む実務を担う人材が必要となります。投資候補となる企業の事業内容への理解や、ESGインパクトの評価における高い分析能力も求められることから、実践は容易ではありません。

しかし、評価機関の公開するESG指数やESG格付け評価などの活用によりポジティブ・スクリーニングが今後普及すると、ESG評価の高い企業に投資資金が流れ、ESGに対する取り組みが一段と加速するのではないでしょうか。

(※参照:大和ハウス工業「7つの手法【1】ネガティブ・スクリーニングとポジティブ・スクリーニング」)

5 まとめ

ポジティブ・スクリーニングは、ネガティブ・スクリーニングと対照的な投資手法で、ESG評価の高い企業や団体などに積極的に投資する手法です。

投資家自身が企業のESGに対する取り組みを細かく評価するのには容易ではなく、MSCIやFTSEなどの評価機関が運営するESG指数をもとに投資判断を行うケースが多いといえます。

主に機関投資家に採用されている手法ですが、三井住友DSアセットマネジメントのファンドのように、投資信託を活用することで個人投資家でも実践する余地があります。

他のESG投資手法と比べて投資額の少ない手法ですが、ESGへの取り組み加速に向けて、ポジティブ・スクリーニングの今後の普及が期待されます。

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伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。