ISSBとは・意味

目次

  1. ISSBとは
  2. ISSBが注目される背景
  3. ISSBの取り組み状況(2023年11月時点)
    3-1.S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」
    3-2.S2号「気候関連開示」
  4. ISSBの展望
  5. まとめ

1 ISSBとは

ISSBとは「International Sustainability Standards Board(国際サステナビリティ基準審議会)」の略称で、イギリスで開催された2021年11月のCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)を経て設立された組織です。

ISSBは、サステナビリティ関連情報の開示に関する国際統一基準を策定する目的で、IFRS財団の下部組織として発足しました。なお、IFRS財団とは、国際的な会計基準を定める非営利組織です。

(※参照:IFRS財団「International Sustainability Standards Board」)

2 ISSBが注目される背景

近年、環境や社会課題に対する企業の取り組みや、インパクト、ガバナンスの整備状況など、サステナビリティ関連情報の開示を求める動きが進んでいます。例えば、ESG投資を推進する上で、機関投資家が投資先企業のESGに対する取り組み状況を評価したり、持続可能性を重視して企業や生活者が取引先の選定や商品の購入検討を行ったりする際などに用いられます。

サステナビリティ関連、また気候変動関連の情報開示は、様々な団体が基準やフレームワークを開発・推進してきました。気候変動開示基準委員会(CDSB)、価値報告財団(VRF)、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)などがその一例です。しかし、それぞれの組織が異なる情報開示の要件や見解を示していたため、複数の基準が混在する状況が続いていました。

2020年に、日本経済団体連合会(経団連)のESG情報開示国際戦略タスクフォースが実施したアンケートでも、アンケートに回答した全34社中22社が「開示基準を早期に統一すべき」、もしくは「統一が望ましい」と回答しています。

このように、サステナビリティ関連情報の開示基準の統一を求める声を受けて、ISSBは設立されました。2022年1月と8月に、CDSBとVRFの2つの組織はそれぞれISSBに統合されています。ISSBの発足によって基準が統一され、サステナビリティに関する情報の開示や評価がしやすくなり、投資・取引時の情報活用の促進が期待されています。

(※参照:経団連、金融・資本市場委員会、ESG情報開示国際戦略タスクフォース「ESG情報開示に関するアンケート結果の概要」)
(※参照:日本取引所グループ「ESG情報開示枠組みの紹介」)

3 ISSBの取り組み状況(2023年11月時点)

2023年6月、ISSBは、IFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」、IFRS S2号「気候関連開示」というサステナビリティ開示基準を公表しました。サステナビリティ関連情報の主な利用者として、企業の財務情報を利用する機会の多い投資家や債権者等が想定されています。

2024年1月以降に始まる年次報告期間から、二つの基準は有効になります。ただし、強制適用の時期や条件は、各法域により異なります。

3-1 S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」

S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」は、開示目的・範囲などをまとめた、サステナビリティ開示全般に関する包括的な基準書です。投資家や債権者等が、企業に対して資源提供の判断をする際に有用となる、サステナビリティ関連情報の開示を求めています。

  • IFRS S1号の目的:短期・中期・長期にわたり企業のキャッシュ・フローや資金調達に影響を与えうる、サステナビリティ関連のリスク・機会に関する開示
  • 企業の範囲:IFRS基準またはIFRS以外の基準等、どの会計基準に基づいて財務報告書を作成している企業も、IFRSのサステナビリティ開示基準を適用可能
  • 開示の範囲:企業の見通しに影響を与えうると合理的に判断される、サステナビリティ関連のリスク及び機会
  • ガバナンス: サステナビリティ関連のリスク・機会のモニタリングプロセスやガバナンス体制の開示
  • 戦略:サステナビリティ関連のリスク管理や機会の活用に対する戦略の開示
  • リスク管理:サステナビリティ関連のリスク及び機会の識別・評価・優先順位付けやモニタリングプロセスなどの開示
  • 指標及び目標:サステナビリティ関連のリスク・機会に対する企業のパフォーマンスを評価するため、目標や進捗状況を開示

また、サステナビリティ関連情報と財務情報など、情報間の関係性(コネクティビティ)を理解できるような情報を提供することを求めています。

(※参照:IFRS財団「IFRS S1 General Requirements for Disclosure of Sustainability-related Financial Information」)
(※参照:サステナビリティ基準委員会事務局「IFRS S1号及びIFRS S2号の概要」)

3-2 S2号「気候関連開示」

S2号は、サステナビリティ関連の個別テーマとして気候関連に焦点をあて、開示内容や基準を定義しています。

  • IFRS S2号の目的:短期・中期・長期にわたり企業のキャッシュ・フローや資金調達に影響を与えうる気候関連のリスク・機会への開示
  • 開示の範囲:企業がさらされる気候関連のリスク、及び、企業にとって利用可能な気候に関する機会
  • ガバナンス: 気候関連のリスク・機会のモニタリングプロセスやガバナンス体制に関する開示
  • 戦略:情報の利用者にとって理解しやすい、企業の気候変動関連のリスク管理や機会の活用に対する戦略の開示
  • リスク管理:気候関連のリスク及び機会の識別・評価・優先順位付けやモニタリングプロセスなどの開示
  • 指標及び目標:気候変動リスク・機会に対する企業のパフォーマンスを評価するため、目標や進捗状況を開示

(※参照:IFRS財団「IFRS S2 Climate-related Disclosures」)
(※参照:デロイトトーマツ「ISSBは、IFRS S2号『気候関連開示』を公表」)

4 ISSBの展望

ISSBによるサステナビリティ関連情報の開示基準の統一はまだ途上です。2023年11月時点では、基準全体の方針と個別テーマの一つである気候変動関連の開示基準が公表された段階です。今後S3・S4以降で、生物多様性等テーマ別の開示基準が整備される見通しです。

また、日本国内にはサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が存在しています。2024 年度中(遅くとも2025年3月31 日まで)に、ISSBの基準をベースに日本のサステナビリティ開示基準を公表する見通しです。

(※参照:⾦融審議会 ディスクロージャーワーキング・グループ「サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の概要」)
(※参照:サステナビリティ基準委員会、国際サステナビリティ基準審議会「サステナビリティ基準委員会と国際サステナビリティ基準審議会の代表者が日本での二者間会合を初開催 」)

5 まとめ

サステナビリティ関連情報の開示要求が高まる一方で、統一された開示要件がない状態が続き、企業や情報の利用者である投資家等が課題意識を持っていました。

基準の統一により、情報の比較可能性や透明性が向上し、サステナビリティに取り組む企業を評価しやすくなると考えられます。また、ステークホルダーからの評価を企業が意識することで、サステナビリティに向けた取り組みがより積極的に行われるといった効果も期待されています。

ISSBによる基準の統一が進められることで、サステナビリティ関連情報の開示や活用が一段と加速するのではないでしょうか。

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伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。