Climate Action 100+とは・意味

目次

  1. Climate Action 100+とは
  2. Climate Action 100+が着目されている背景
  3. Climate Action 100+対象企業のケーススタディ
    3-1.AMERICAN ELECTRIC POWER
    3-2.トヨタ自動車
  4. Climate Action 100+の課題
  5. まとめ

1 Climate Action 100+とは

Climate Action 100+は、脱炭素化社会の実現において重要度の高い上場企業に焦点を当てて、企業との対話やエンゲージメントの強化を図る投資家主導のイニシアティブです。運用資産総額が68兆ドルにのぼる700以上の投資家が、本イニシアティブに参加しています。ネットゼロ目標の達成に向けて、企業ガバナンスの強化や開示状況の改善、移行計画の実施などを投資家として促し、各社の長期的な企業価値向上を目指しています。

2024年3月時点、重点企業(Focus List)として挙げられているのは170社程度。気候変動リスクの低減に大きな影響力を持つ、大手製造業や石油・ガスなどのエネルギーセクター、航空セクター等が名を連ねています。日本企業としては、トヨタ自動車、日立製作所、三菱重工、日産自動車、日本製鉄など。

重点先に選ばれた企業は、投資家との対話を通じてネットゼロへの移行に向けた取り組みを進めることが期待されています。

(※参照:Climate Action 100+「2023 年の最新の進捗状況」「FOCUS LIST HISTORY」「COMPANIES」)

2 Climate Action 100+が着目されている背景

Climate Action 100+は、以下の5つの投資家ネットワークによって取りまとめられています。本イニシアティブの運営委員会は、この5つのネットワークに参加するCEO等によって構成されているのです。

  • 気候変動に関するアジア投資家グループ (AIGCC)
  • Ceres
  • 気候変動に関する投資家グループ (IGCC)
  • 気候変動に関する機関投資家グループ (IIGCC)
  • 責任投資原則 (PRI)

2017年の立ち上げ当初は、2017年から2022年までという5年間のイニシアティブの予定でしたが、その後2030年まで延長されました。

Climate Action 100+が対象とするのは、炭素排出量の多いグローバルな大手企業です。こうした企業に対し、脱炭素目標達成への経営陣のコミットメントや移行計画の実行を働きかけることで、企業単体だけでなく、各地域、各事業セクターの脱炭素化につなげることが狙いです。

2023年時点では、対象企業170社のうち、77%の企業が少なくともスコープ1および2の排出量を2050年までにネットゼロにすることを約束。93%が取締役会委員会で気候変動に関するリスクと機会をモニタリングし、90%がTCFD提言(気候関連財務情報開示タスクフォース)に沿った情報開示を約束しています。

3 Climate Action 100+対象企業のケーススタディ

Climate Action 100+は、投資家と企業のエンゲージメントのケーススタディを紹介しています。今回は、その中から二つの事例をみてみましょう。

3-1 AMERICAN ELECTRIC POWER

アメリカン・エレクトリック・パワー(AEP)は、アメリカの大手電力事業者の一社です。同社は、2045年までにネットゼロを達成することを目指しています。

Climate Action 100+の投資家らは、同社のネットゼロ移行計画において気候関連のロビー活動が重要であると位置づけ、同社とのエンゲージメントの際も優先事項として取り扱ってきました。またAEP社も、気候関連ロビー活動の透明性を高めることに関心を持っていました。自社と同じエネルギーセクターにおけるベストプラクティスを研究し、同業他社と比較した際の自社の位置づけを理解したいという意欲を持っていたのです。

AEP社は、Climate Action 100+、そして本イニシアティブのデータ・パートナーであるInfluenceMapの協力を得て、2023年5月に業界団体の気候関連のロビー活動報告書を初めて発表しました。

報告書には、気候対策に対する同社の立場の開示、業界団体との関係、またロビー活動と同社の政策的立場を評価する方法論等が含まれています。また、同社の気候関連目標や利益目標に沿ったロビー活動にリソースを投入するために、投資家と協力した活動についても報告されています。

本レポートは、Climate Action 100+の対象とされているアメリカの電力企業の中で、InfluenceMapから最も高い評価を得ました。投資家と企業のエンゲージメントが功を奏した事例であり、アメリカの電力業界においても先進的な取り組みといえるでしょう。

(※参照:Climate Action 100+「INVESTORS ENGAGING AMERICAN ELECTRIC POWER THROUGH CLIMATE ACTION 100+ WELCOME COMPANY’S FIRST TRADE ASSOCIATION CLIMATE LOBBYING REPORT」、「2023 年の最新の進捗状況」)

3-2 トヨタ自動車

2023年、トヨタはアジア企業として初めて、Climate Action 100+の機関投資家3社による気候変動対策に関する株主提案を受けました。提案内容は、定款の規定として「気候変動問題に関する同社のロビー活動の内容を明らかにすること、そしてパリ協定の達成にどのように寄与しているかを開示すること」を追加するというものです。

以前よりClimate Action 100+の投資家らは、同社の脱炭素戦略という観点から電気自動車の販売戦略に関心を寄せていました。電気自動車生産能力の強化や、次世代電池として期待される全個体電池の開発計画、そして脱炭素移行計画に対する経営陣からの支援状況を重要視していたのです。しかし、Climate Action 100+による「ネットゼロ企業ベンチマーク評価」によると、同社の開示の充実度が100点中36点と低評価であり、投資家の期待を十分満たしていないことを課題と捉えていました。特に、同社の気候関連ロビー活動の透明性を高めることで、脱炭素戦略が経営陣から十分な支援を得られているかを確認できると考えていたのです。

こうした背景から本株主提案が行われましたが、同社の取締役会は、2021年から脱炭素関連の渉外活動について十分に報告しているとし、本提案を株主総会に付議した上で反対することを決議しました。また、本提案に対する同社投資家の支持は15%に留まりました。

Climate Action 100+は引き続き、脱炭素目標達成に向けて十分な情報開示がされ、投資家と企業間のコミュニケーションがさらに活性化することを望むとしています。

(※参照:Climate Action 100+「DECISIVE ACTION FROM TOYOTA WILL HELP DEMONSTRATE LEADERSHIP IN CLIMATE TRANSITION」)
(※参照:トヨタ自動車「株主提案に対する当社取締役会の意見について」)
(※参照:日経ビジネス「トヨタはロビー活動でEV販売損なう」 株主提案の投資家に聞く」)

4 Climate Action 100+の課題

Climate Action 100+の重点企業全てが、気候変動対策を順調に進め、十分な開示を行えているわけではありません。

例えば、石油・ガスセクターではネットゼロ基準の達成に難航している企業もみられます。2024年3月のClimate Action 100+の調査では、石油・ガスセクターにおいて、ネットゼロ基準のセクター別指標を達成した企業は19%に留まりました。地域別で見ると、北米と比べて欧州の石油・ガスセクターの方が、開示状況の改善や気候変動対策への積極的な投資がみられるという調査結果でした。

また、投資家の期待と企業の方針が必ずしも一致するとは限りません。AEPの事例は両者の方向性が一致し、画期的な成果につながった一例ですが、トヨタ自動車の事例のように投資家の提案が企業に受け入れられない場合もあるでしょう。

しかし、方向性の違いによって投資家と企業が対立するのではなく、脱炭素という共通の目標達成のために、透明性を高め継続的な対話に両者が取り組むことが期待されます。

(※参照:Climate Action 100+「CLIMATE ACTION 100+ PUBLISHES NET ZERO STANDARD FOR OIL & GAS COMPANY ASSESSMENTS ALONGSIDE ANALYSIS」)

5 まとめ

Climate Action 100+は、排出量の多い企業に対して、企業ガバナンスの強化や開示状況の改善、移行計画の実施などを、投資家が働きかけるためのイニシアティブです。

企業や事業セクター、地域により脱炭素実現へのネットゼロへの移行状況に異なるものの、Climate Action 100+の取り組みが様々なグローバル企業で具体的なアクションにつながっています。企業と投資家のエンゲージメントによって、各企業でネットゼロへの移行が進み、脱炭素社会の実現につながることが期待されます。

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伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。