GX経済移行債とは・意味

目次

  1. GX経済移行債とは
  2. GX経済移行債が注目される背景
  3. GX経済移行債の枠組みと発行状況
    3-1.GX経済移行債のフレームワーク
    3-2.GX経済移行債の発行状況・発行計画
  4. GX経済移行債の課題と展望
  5. まとめ

1 GX経済移行債とは

GX経済移行債は「グリーン・トランスフォーメーション経済移行債」といい、脱炭素社会への移行を推進するプロジェクトのための資金を調達する債券です。2024年2月に日本の財務省が国債の一種として発行しています。

国債としての銘柄名は「クライメート・トランジション利付国庫債券」です。2023年度は、入札形式で総額1.6兆円(各年限0.8兆円)の5年債と10年債が発行されました。2024年度も計1.4兆円をめどに、入札方式で5年債と10年債が発行予定です。

GX経済移行債の発行にあたり、日本政府は資金使途やレポーティング方法に関する枠組みとして「クライメート・トランジション・ボンド・フレームワーク」を整備。国際標準への準拠状況について、評価機関から認証(セカンドパーティ・オピニオン)を取得しています。

2023年度の発行の際は、以下の二社から評価を取得しました。

  • 株式会社日本格付研究所(JCR)
  • DNV ビジネス・アシュアランス・ジャパン株式会社

(※参照:財務省「クライメート・トランジション利付国債」)
(※参照:内閣官房「GX経済移行債発行に関する関係府省連絡会議(第5回)資料」)

2 GX経済移行債が注目される背景

2050年カーボンニュートラル実現と、産業競争力の強化と経済成長を両立させていくために、日本では10年間で150兆円を超えるGX投資が必要だと政府はみています。

GXの先行投資を支援するため、2023年に「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)」が施行されました。同法に基づき、10年間で20兆円規模のGX経済移行債が発行される予定です。

資金使途を環境改善への取り組みに限定したグリーンボンドや、企業によるトランジションボンド(移行債)は海外でも例がありますが、国による移行債は2024年2月に発行されたGX経済移行債が世界で初めてです。

2024年度以降も発行が予定されており、日本でのトランジション・ファイナンスの拡大やGX推進の後押しとなることが期待されています。

(※参照:財務省「クライメート・トランジション利付国債」)
(※参照:内閣官房「GX経済移行債発行に関する関係府省連絡会議(第5回)資料」)
(※参照:経済産業省「トランジション・ファイナンス」)

3 GX経済移行債の枠組みと発行状況

それでは、GX経済移行債の枠組み「クライメート・トランジション・ボンド・フレームワーク」と、GX経済移行債の発行状況をみてみましょう。

3-1 GX経済移行債のフレームワーク

GX経済移行債は、以下の調達資金使途を前提としています。

  1. エネルギー効率
  2. 再生可能エネルギー
  3. 低炭素・脱炭素エネルギー
  4. クリーンな運輸
  5. 環境適応商品、環境に配慮した生産技術及びプロセス
  6. 生物自然資源及び土地利用に係る持続可能な管理、サーキュラーエコノミー

(※参照:内閣官房「GX経済移行債発行に関する関係府省連絡会議(第5回)資料」)

例えば、2024年2月に発行された初回債の主な用途として、以下が挙げられます。

  • グリーンイノベーション基金事業
    企業の社会実装投資のコミット等を条件に、水素還元製鉄等の革新的技術を研究開発支援
  • 革新的GX技術創出事業(GteX)
    全固体電池、燃料電池(水素関連技術)、バイオものづくり等のGXに繋がる基礎研究支援
  • 経済環境変化に応じた重要物資サプライチェーン強靭化支援事業
    蓄電池・部素材の設備投資支援等、パワー半導体の製造関連の設備投資支援
  • 住宅の断熱性能向上のための先進的設備導入促進事業等

(※参照:内閣官房「GX経済移行債発行に関する関係府省連絡会議(第5回)資料」)

この他、フレームワークでは「GX経済移行債発行に関する関係府省連絡会議」を軸とした投資プロジェクトの選定・評価プロセス、資金の使用状況や投資インパクトに関する報告方法についてもまとめられています。

3-2 GX経済移行債の発行状況・発行計画

GX経済移行債は、2024年2月に5年債と10年債の国債が発行されています。

10年債の発行条件

  • 発行額:7,995億円
  • 発行日:2024/2/15
  • 償還日:2033/12/20
  • 発行条件は入札により決定
  • 応募者利回り:0.740%

(※参照:財務省「10年クライメート・トランジション利付国債(第1回)の入札結果(令和6年2月14日入札)」)

5年債の発行条件

  • 発行額:7,998億円
  • 発行日:2024/2/28
  • 償還日:2028/12/20
  • 発行条件は入札により決定
  • 応募者利回り:0.339%

(※参照:財務省「5年クライメート・トランジション利付国債(第1回)の入札結果(令和6年2月27日入札)」)

また、今後もGX経済移行債の発行が予定されています(2024年5月時点)。2024年5月発行予定の債券についてはスケジュールも決まっています。

  • 2024年5月28日:10年債、3,500億円程度
  • 2024年7月:5年債、3,500億円程度
  • 2024年10月:10年債、3,500億円程度
  • 2024年1月:5年債、3,500億円程度

(※参照:財務省「クライメート・トランジション利付国債」)

4 GX経済移行債の課題と展望

日本で必要とされる150兆円規模のGX投資のうち、GX経済移行債は20兆円規模。残り130兆円規模は民間投資による捻出を期待されています。

しかし、GX経済移行債の発行は2024年2月に始まったばかりです。そのため現時点では、調達資金を活用したインパクトの大きさや、民間企業への波及効果は未知数です。

また、脱炭素化への移行を支援するトランジション・ファイナンスに対して、炭素排出量の多い事業・企業が事業を存続させるための支援となってしまう恐れがあると、海外では批判的な意見も見受けられます。

こうした否定的なイメージを払拭し、トランジション・ファイナンスを普及させるために、移行への投資が脱炭素社会の実現に資するものであることを示すことが求められるでしょう。移行目標や移行戦略が科学的に裏付けられた内容であること、調達資金の使用状況に対するモニタリングやガバナンス体制を整えること、また資金使途やインパクトについて積極的に報告・開示を行うことが望まれます。

GX経済移行債が民間投資の呼び水となるよう、今後の取り組みに期待が寄せられています。

(※参照:野村資本市場研究所「GX経済移行債の発行開始と今後の論点」)

5 まとめ

GX経済移行債は、日本政府が2050カーボンニュートラル実現を目指し、10年で150兆円規模のGX投資を後押しするために発行が始まった国債の一種です。世界初の政府が発行するトランジション・ボンドです。

2024年2月に初回債が発行され、政府によるトランジション・ファイナンスの資金調達額は10年間で20兆円となる見通しです。GX経済移行債が呼び水となって官民連携によりGXが進み、経済成長を伴った脱炭素社会の実現が期待されます。

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伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。