アパート経営を検討する際、木造・鉄骨造・RC造のどれを選ぶべきかは、多くの投資家が悩むポイントです。構造の違いは、単なる「建物の強度」や「見た目の印象」だけでなく、アパートの経営戦略に大きくかかわる論点です。
建築コスト、減価償却を活用した節税効果、融資条件、そして出口戦略に至るまで、構造の差異は経営のあらゆる局面に影響を及ぼします。選択次第で、月次のキャッシュフローや税引後利益の推移が大きく異なる点に留意が必要です。
本記事では、木造・鉄骨造・RC造を「コスト・耐用年数・融資」という3つの視点から整理し、各構造がどのような属性の投資家に適しているのかを体系的に解説します。
目次
- アパート経営において「構造選び」が重要な理由
1-1.構造によって初期コスト・修繕コスト・収支のブレ幅が変わる
1-2.構造は「税控除効果」とデッドクロスの到来タイミングを左右する
1-3.構造によって融資期間・金利条件が変わり投資戦略が変化する - コスト・耐用年数・融資条件の比較
2-1.木造・鉄骨造・RC造の建築コストと利回りの違い
2-2.法定耐用年数と実務上の融資期間の考え方
2-3.金融機関が構造別に重視する評価ポイント - それぞれの構造がおすすめな人
3-1.木造アパートが向いている投資家の特徴
3-2.鉄骨造アパートが向いている投資家の特徴
3-3.RC造アパート・マンションが向いている投資家の特徴 - まとめ
1 アパート経営において「構造選び」が重要な理由
アパート経営における構造選定は、単に建物の仕様や好みで決定すべきものではありません。構造の種類は、投資開始時の資金計画から、運営期間中の収支、将来の税務処理や出口戦略(売却)に至るまで、事業の全フェーズに深く関与するためです。
各構造の特性を理解せずに投資を開始すれば、「想定よりも返済負担が重い」「節税効果が早期に消失した」「売却時の市場評価が低い」といった課題が後年顕在化するリスクがあります。まずは、なぜ構造選びが経営の要諦となるのか、その理由を整理します。
1-1 構造によって初期コスト・修繕費用・収支の安定性が変わる
木造・鉄骨造・RC造の間には、建築コストに顕著な差が存在します。一般的に木造は建築費が比較的安価であり、初期投資額(イニシャルコスト)を抑制しやすい構造です。対してRC造は、堅牢性が高い反面、建築コストが高額となりやすく、取得に必要な総投資額は膨らむ傾向にあります。
この初期コストの多寡は、利回りと資金繰りに直結します。物件価格が高額になれば、表面利回りは木造に比べRC造の方が低くなるのが一般的です。また、借入額の増加に伴い月々の元利返済額も大きくなるため、キャッシュフローの圧迫要因となり得ます。
さらに、ランニングコストである修繕費の発生傾向も異なります。木造は比較的軽微な修繕が頻発しやすい一方、RC造は頻度こそ低いものの、大規模修繕時の防水工事や外壁補修などが高額になりやすい特徴があります。ただし、RC造は躯体の耐久性が高いため、長期的な視点での資産価値維持には優位性があります。
短期的な収益性を追求するか、長期的な資産の安定性を重視するかによって、選択すべき最適解は異なります。
1-2 構造は「税控除効果」とデッドクロスの到来タイミングを左右する
構造選びが重視される主たる理由の一つに、減価償却費による税控除効果が挙げられます。減価償却とは、建物の取得費用を法定耐用年数にわたり分割して経費計上する会計上の仕組みであり、不動産所得の圧縮に寄与します。
法定耐用年数は構造ごとに定められており、木造は22年、鉄骨造は骨格材の厚みにより19年〜34年、RC造は47年です。耐用年数が短い構造ほど、単年度あたりに計上できる減価償却費が大きくなり、高い税控除効果を早期に享受できます。
しかし、減価償却期間の終了後には注意が必要です。経費計上できる減価償却費がなくなり、かつローンの元金返済額が経費にならないことから、帳簿上の黒字に対して手元資金が不足する「デッドクロス」と呼ばれる現象が発生しやすくなります。
短期集中の税控除効果を狙うのか、長期間にわたる緩やかな効果とキャッシュフローの安定を狙うのか、自身の財務状況と照らし合わせる必要があります。
1-3 構造によって融資期間・返済負担が変わり、投資戦略が変化する
金融機関がアパートローンを審査する際、建物の構造は極めて重要な評価指標です。原則として、法定耐用年数が長い構造ほど融資期間を長期に設定しやすく、結果として単年度の返済負担を抑制できる傾向にあります。
例えば、耐用年数の長いRC造であれば、30年以上の長期融資を組むことで月々の返済額を平準化しやすくなります。一方、木造など耐用年数が短い構造では、融資期間が短縮されるケースも多く、月々の返済額が相対的に高くなる点に留意が必要です。
これは単なる「借入の可否」にとどまらず、運営中のキャッシュフロー(手残り現金)の安全性に直結します。想定賃料収入と返済額のバランス(DSCRなど)を考慮し、最適な構造を選択することが肝要です。
2 コスト・耐用年数・融資の比較
アパート経営における構造選定では、取得コスト・税務上の耐用年数・融資条件を複合的に比較検討することが求められます。ここでは、主要な3つの構造を切り口に、それぞれの数値を比較・整理します。
2-1 建築コストと初期投資額の違い
構造による差異が最も如実に表れるのが、建築単価および取得価格です。一般的には「木造 < 鉄骨造 < RC造」の順でコストが上昇します。国税庁が公表しているデータ(令和7年度分)を参考にすると、1平方メートル当たりの構造別工事費用は以下の通りです。
- 木造:217千円
- 鉄骨造:314千円
- 鉄筋コンクリート造:338千円
出所:国税庁「地域別・構造別の工事費用表(1m2当たり)【令和7年分用】」
木造アパートは建築コストを低く抑えられるため、同等の立地・規模であれば総投資額を圧縮可能です。これにより表面利回りが高くなりやすく、投資初期の収益性を確保しやすい構造といえます。
対してRC造は、高い耐久性・遮音性・資産価値を有する反面、建築費が高額となり、取得価格も上昇します。そのため表面利回りは低下傾向にありますが、長期保有を前提とした安定運営や、銀行評価の維持とは相性が良い構造です。
鉄骨造は木造とRC造の中間に位置し、利回りと資産性のバランスを重視する投資家に選好される傾向があります。自己資金の多寡や許容できるレバレッジ比率によって、検討可能な構造のレンジが決まってくるといえるでしょう。
2-2 法定耐用年数と減価償却のインパクト
構造選定において次に考慮すべきは、法定耐用年数の違いです。これは税法上の減価償却期間を決定づける要素であり、節税戦略の根幹をなします。
主な構造の法定耐用年数は以下の通りです。
- 木造:22年
- 鉄骨造:19年~34年(骨格材の厚みにより異なる)
- RC造:47年
建物の減価償却期間は次のように計算されます。
- 新築の場合
:減価償却期間=法定耐用年数 - 中古で法定耐用年数より築年数が浅い場合
:減価償却期間=(法定耐用年数ー築年数)+築年数×0.2% - 中古で築年数が法定耐用年数を超過している
:減価償却期間=築年数×0.2%
耐用年数が短い構造(主に木造)は、短期間で償却を行うため、単年度の減価償却費が大きくなります。高額所得者が所得税・住民税の圧縮(損益通算)を目的に木造築古物件などを選ぶのは、この仕組みを利用するためです。
ただし、償却期間が終了すると経費計上額が減少し、税負担が急増するリスク(デッドクロス)が早期に訪れます。
一方、RC造は償却期間が長いため、単年度の税控除効果は薄まりますが、長期間にわたり安定した経費計上が可能です。急激な税負担増のリスクが低く、長期的なキャッシュフロー経営に適しています。
「いつ、どれだけの節税効果が必要か」「償却終了後の出口戦略はどうするか」をシミュレーションした上で構造を選定しましょう。
2-3 融資期間・返済負担に与える影響
金融機関のアパートローン審査において、構造は担保評価の持続性を測る重要指標です。建物の物理的・経済的寿命が長いとされる構造ほど、長期の融資期間を設定しやすいのが通例です。
金融機関によっては、「法定耐用年数-築年数」や、独自の評価定数を用いた「定数-築年数」といった計算式で融資期間の上限を定めます。例えば、RC造の評価定数を55〜60年、木造を22〜30年程度とするケースが多く、RC造の方が圧倒的に長期融資を引き出しやすい環境にあります。(※数値は説明のための例示で、特定の金融機関の実際の指標を示しているわけではありません)
RC造で35年超の融資が組めれば、毎月の返済額が圧縮され、手元のキャッシュフローを厚くすることが可能です。
木造は融資期間が比較的短くなる傾向があるため、仮に同じ借入金額であれば、RC造よりも毎月の返済額負担は重くなります。ただし、前述の通り物件価格自体が割安であるため、トータルの収支バランスは物件ごとの利回りや自己資金比率によって判断する必要があります。
3 それぞれの構造がおすすめな人
アパート経営において「万人に共通する正解の構造」は存在しません。重要なのは、投資家自身の資金背景、属性(与信)、投資目的、そして想定する保有期間に対し、最も合理的な構造を選択することです。
ここでは、木造・鉄骨造・RC造それぞれについて、どのような投資戦略を持つ方に適しているかを整理します。
3-1 木造アパートがおすすめな人
木造アパートは、資金効率と利回りを重視する投資家に適しています。建築コストや取得価格を抑えられるため、限られた自己資金で不動産投資をスタートする場合や、高い表面利回りを追求する場合に有利です。
また、法定耐用年数が22年と短いため、短期間で多額の減価償却費を計上できます。不動産所得をマイナスにし、給与所得等と損益通算することで税還付を受けるといった、税務メリットを最大化したい高所得層にも選好されます。
ただし、融資期間が短くなりやすい点や、長期保有時の修繕リスクなどを考慮すると、ある程度のリスク許容度を持ち、出口戦略(売却や建て替え)を明確に描ける投資家に向いているといえます。
木造アパートの建築実績が豊富な会社は?
木造アパートの建築実績が豊富な会社の一社が、首都圏、福岡、大阪、名古屋、仙台など全国の主要都市でアパートを企画・開発している大手企業「シノケングループ」です。グループ会社のシノケンプロデュースのアパート販売実績は7000棟以上、同グループ会社のシノケンファシリティーズでは管理戸数50,000戸以上(2024年12月末時点)の実績があります。物件の主要エリアを大都市圏のターミナル駅から電車で30分圏内、駅徒歩10分圏内の賃貸需要が高い場所に絞ることで、入居率98.75% (2024年年間平均/自社企画開発物件)を実現しています。
シノケンプロデュースのアパートはグッドデザイン賞や住宅性能表示制度(劣化対策等級2相当)、金融機関(木造アパートで融資期間35年)など第三者機関からの評価を多数獲得しています。1990年の創立から30年以上経った2023年時点まで、震度7クラスの地震を経験しても倒壊半壊・液状化による被害が0棟という実績もあり、高い耐震性にも強みがあります。
また、アパート経営は多額の資金が必要になりますが、シノケンプロデュースは融資付けの実績も豊富で、資金をできるだけ手元に残しておきたいという方でも始めやすくなっています。
3-2 鉄骨造アパートがおすすめな人
鉄骨造(特に重量鉄骨造)は、コストパフォーマンスと堅牢性のバランスを求める投資家に適しています。木造よりも耐久性や遮音性に優れ、かつRC造ほどの高額な建築コストを要さないため、「ミドルリスク・ミドルリターン」の位置付けとなります。
法定耐用年数は骨格材の厚みによりますが(通常34年など)、木造より長い融資期間を設定できるケースが多く、返済負担を平準化しやすいメリットがあります。
木造の耐久性に不安があるものの、RC造への投資には資金的なハードルがある場合、あるいは立地条件的に中層建築(3〜4階建て)が最適な場合などにおいて、現実的かつ合理的な選択肢となります。
3-3 RC造アパートがおすすめな人
RC造アパート・マンションは、長期保有を前提とした安定経営と資産保全を目指す投資家に最適です。法定耐用年数47年という長さは、長期融資の活用によるキャッシュフローの安定化と、長期にわたる資産価値の維持を可能にします。
堅牢な構造による遮音性や断熱性は入居者満足度を高め、競争力の維持にも寄与します。また、相続税対策として資産を長期保有し、次世代へ承継する場合にも適した構造です。
一方で、物件規模が大きく取得価格が高額になるため、潤沢な自己資金や高い与信枠(属性)が求められます。「資産の拡大」よりも「資産の守り・安定」を重視するフェーズの投資家に適した構造といえるでしょう。
4 まとめ
アパート経営における構造選定は、物理的な建物の種類を選ぶだけでなく、投資全体の収益構造(ビジネスモデル)を決定する戦略的判断です。コスト、耐用年数、融資条件の相互関係を理解し、自身の投資目的に合致させる必要があります。
木造は、初期投資を抑え資金効率と節税効果を最大化したい場合に有効です。鉄骨造は、コストと安定性のバランスを重視する際の現実的な解となります。そしてRC造は、長期的な資産価値の維持と安定したキャッシュフロー経営を目指す場合に強みを発揮します。
重要なのは、各構造のメリット・デメリットを把握した上で、ご自身の財務状況や投資ゴールから逆算して「最適な構造」を導き出すことです。イメージや好みだけで判断せず、数字に基づいた客観的なシミュレーションを行うことが、不動産投資の成功確率を高める第一歩となります。
伊藤 圭佑
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