不動産投資において物件の収益性を見極めるにはどんな指標を用いればよいのでしょうか?多くの人は、「利回り」が思い浮かぶでしょう。もちろん、利回りも一つの指標ではありますが、実はそれでは不十分です。実態に即した収益性を見極めるための指標が必要です。それがイールドギャップです。
- 1 イールドギャップとは何か?
- 1-1 不動産の収益性はイールドギャップで決まる
- 1-2 今は不動産バブルか?過去のイールドギャップと比較すると
- 2 イールドギャップの適正を見極める
- 2-1 表面利回りと実質利回り
- 2-2 イールドギャップの目安は?
- 2-3 投資期間でキャッシュフローに大きな違い
1.イールドギャップとは何か?
イールドギャップは、「投資物件の利回り」から、「不動産投資ローンの金利」を引いて求めた差のことをいいます。例えば、物件価格5000万円で年間家賃収入が400万円の場合、物件利回りは、400万円÷5000万円=8%になります。仮に、不動産ローンの金利が2%だとすると、イールドギャップは、8(%)−2(%)=6%ということになります。
■イールドギャップ(%)=投資物件利回り(%)-不動産投資ローン金利(%)
投資の世界では、「投資利回り」と「長期金利」との差を意識して投資判断を見極めるのが一般的です。長期金利で代表的なのが「10年国債利回り」です。この2つを比較したとき、その金融商品の「投資利回り」より「長期金利」が高ければ、単純な話、「投資はやめて10年国債を買ったほうが得だ」ということになります。
不動産投資は借入金により運用しますので、投資物件の利回りと借入金の金利の差額を見ることで収益性を判断します。「収益性」について詳しく見ていきましょう。
1-1.不動産の収益性はイールドギャップで決まる
物件の収益性を見極めるうえでイールドギャップは重要な指標となります。
イールドギャップを基準に考えると、投資利回りが10%を超えるような高利回り物件であっても、ローン金利が高ければイールドギャップは低くなります。イールドギャップが低いと、将来、家賃が下落したり、金利が上がったりすれば、さらにイールドギャップは低くなり、収益性が悪化する可能性が高くなります。
逆に、投資利回りが低くてもローン金利も低ければイールドギャップは高くなります。この場合、投資利回りが低いため、他の投資家が見向きもしなかった物件のなかから、収益性の高い物件を発見することも可能になります。
1-2.今は不動産バブルか?過去のイールドギャップと比較
ここ数年、地価の上昇が続いています。三大都市圏で上昇が始まり、地方の中核都市、さらに地方へと上昇トレンドは広がりを見せています。国土交通省が決める公示価格の最高価格は、すでにバブル期を超えました(2018年3月現在)。
東京都心部では、再開発が目白押しで、「すでにバブルになっている」という声もささやかています。しかし、単に地価が上がっただけで、「バブルの頃と状況が異なる」といった意見もあります。
では、実際のバブル期と今との違いは何か。イールドギャップを見比べて違いを検証してみます。
バブル期のイールドギャップはマイナス
1990年頃、バブル絶頂期での都心の不動産投資利回りは2%程度のものもあったと言われています。それに対してローン金利は8%超えのときもありました。つまり、イールドギャップはマイナスです。それでも不動産が買われていたのは、値上がり益を期待していたからです。長期に保有して、家賃収入による利益を目的としたインカムゲインではなく、売買によって利益を得るキャピタルゲインが目的だったとされます。
2018年現在は、低金利の時代です。投資利回りが低くても、ローン金利が低いので、イールドギャップは確保できます。つまり、インカムゲイン目的の長期投資に期待が持てるといえます。このようにバブルの頃とは状況が異なるのです。
1-3.不動産投資は信用取引と似ている?
不動産投資は多額のローンを組んで投資します。利回りだけではなく、イールドギャップに注目して投資判断を見極めるのがポイントです。
株式投資では、例えば、信用取引を利用すれば、元手の約3倍の資金で株を売買することも可能です。これを「レバレッジを効かせる」と言います。しかし、信用取引はリスクも大きくなります。株式投資で失敗している人の多くが、この信用取引で失敗しているとされます。初心者のうちは手を出さないほうが無難でしょう。
不動産投資も、頭金の何倍ものローンを組んで投資するわけですから、実質的に信用取引と同じといえます。ただ、不動産投資は株式投資と比べると価格の変動性が数分の一から数十分の一と小さい(不動産の価格変動は、1年で数%~大きくても10%程度)ので、都心のワンルームマンション投資などであれば、投資額は大きくなりますがリスクを抑えながら投資を進めることが可能です。
一方、不動産投資でリスクを取ってリターンを大きくしたいという方は、株式投資以上のレバレッジを効かせることもできます。一つの投資物件がうまく軌道に乗れば、次の投資物件に対してもローンが組みやすくなり、次々とレバレッジを効かせることが可能です。
2.イールドギャップの適正を見極める
イールドギャップは何%が適正なのか。不動産投資は個別性が高いという特徴があります。物件ごとに立地も違えば、建物の仕様も違います。一つとして同じ物件はありません。それだけに、収益性を見極めるのは難しいため、「イールドギャップは何%が適正だ」と一概には言えません。ただし、ある程度の基準を持って判断していくことは大切なことです。
以下では、適正なイールドギャップについて考えてみます。
2-1.表面利回りと実質利回り
まず、イールドギャップを算出する、投資物件の利回りについてですが、大きく分けて2つあります。「表面利回り(グロス利回り)」と「実質利回り(ネット利回り)」です。利回りとは、投資額に対してどれだけのリターン(収益)があるかを示したものですが、まずはこの指標を一つの投資判断の目安とします。
表面利回り
表面利回りは、単純に年間の家賃収入を物件価格で割ったものです。
■表面利回り(%)=年間家賃収入÷物件価格×100
ケースA:年間家賃収入が300万円で物件価格が4,000万円なら、10%。
ケースB:年間家賃収入が400万円で物件価格が5,000万円なら、8%。
ケースC:年間家賃収入が400万円で物件価格が1億円なら、4%。
この場合、単純に利回りが高いケースAの物件が良いのかというとそうとは限りません。「利回りとリスクは比例する」といわれます。高利回り物件は郊外にあったり、空室になりやすかったりする場合が多いからです。数字だけ見れば、ケースAは地方や郊外の物件、ケースCは都心の物件と推測することができます。
また、表面利回りはあくまで参考程度のもので、実際の収益に結びつく数値ではありません。しかし、収益物件の広告にでている利回りは、ほとんどが表面利回りです。一般的に不動産の利回りと言えば、この表面利回りになります。
実質利回り
単純計算の表面利回りに対して、実際の収益性を表したのが「実質利回り」です。表面利回りで収益性を判断できないのは、「家賃が全額利益にはならない」からです。
アパート経営、マンション経営は経費がかかります。「修繕費」「共有部分の水道光熱費」「管理会社への管理費」「固定資産税」などさまざまです。また、物件購入時にも「不動産取得税」「登記費用」「不動産仲介手数料」「金融機関手数料」などがかかります。表面利回りはこれらの費用のことは考慮していません。
そこで、現実的な利益はいくらなのかを示す指標が「実質利回り」というものです。利回りの計算に、さまざまな諸費用を考慮して算出します。
■実質利回り(%)=(年間家賃収入-年間諸経費)÷(物件価格+購入時諸経費)×100
先のケースBに当てはめてみます。仮に年間諸経費が100万円、購入時諸経費が300万円かかったとします。
ケースB:(400万円-80万円)÷(5,000万円+300万円)=6%
物件Bの表面利回りは8%、実質利回りは6%ということになります。
また、実質利回りは、築年数などで大きく変わってくる可能性があります。例えば、新築の場合は修繕費がほとんどかかりません。一方、築30年の物件なら大規模リフォームの費用がかかり、実質利回りはかなり低くなってしまいます。つまり、表面利回りが同じ8%の物件があっても、築年数で実質利回りは変わってくるということです。
表面利回りだけではなく、実質利回りを見極めながら投資判断をしていくことが大切です。
2-2.イールドギャップの目安は?
イールドギャップは、表面利回りで計算します。広告には表面利回りで出ていますので、そのほうが目安としては計算しやすいでしょう。前述のとおり、表面利回りは「都市部か地方か」「築年数が浅いか古いか」で変わってきます。
大まかな目安としては次のとおりです。
表面利回りの目安
都市部:築浅3~4%、築古7~8%
地方:築浅6~7%、築古10%~
イールドギャップを計算するには、ローン金利がどの程度かが問題です。メガバンクなどでは初心者には融資が下りることは少なく、地方銀行や信用金庫などを利用するのが一般的です。この場合も物件の仕様や築年数、頭金をいくら入れるかなどで変わってきます。相場としては1.5%〜4.5%になる場合が多いでしょう。そうなると、都市部の築浅の物件では、イールドギャップがマイナスになってしまうので、無理だと判断できます。
ローン金利は、物件にあらかじめ設定されていて、不動産販売会社から提示される場合もあります。どの銀行ならどの位の金利で融資が受けられるのかを知ることが大切です。
また、表面利回りでイールドギャップを求め、ある程度絞られてきたら、実質利回りでもイールドギャップを計算してみるといいでしょう。実質利回りは、表面利回りより2%以上低くなる可能性があります。イールドギャップも、その分低くなるでしょう。実質利回りでのイールドギャップなら1%~2%をまず基準として考えるのがよいでしょう。
2-3.投資期間でキャッシュフローに大きな違い
不動産投資はさまざまな指標を総合的に判断する必要があります。表面利回りと実質利回りの違い、それによるイールドギャップの指標、そして、もう一つ大切なのがキャッシュフローです。
イールドギャップによる投資判断で注意したいのは、ローン期間について考慮されていない点です。イールドギャップが同じでもローン期間が違えば月々の返済金額は変わってきます。つまり、ローン期間が20年なのか30年なのかで、月々のキャッシュフローが大きく異なるのです。
例えば、月に100万円の家賃収入、諸経費等が20万円、ローンの返済額が50万円なら、実質手元に残るのは30万円です。ローンの返済額が60万円なら手元に残るのは20万円。ローンの返済額が70万円なら手元に残るのは10万円です。
また、ローン期間だけではなく、金利が上昇したり、修繕費が予定以上にかかったりしても、キャッシュフローは低減します。
いくら帳簿上で利益がでていても、キャッシュフローがマイナスだと手元の資金が毎月減っていくことになります。ローン期間の違いによるキャッシュフローも十分に検討することが大切です。
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HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム
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