機関投資家とは、ヘッジファンド、生命保険会社、信託銀行、銀行、信用金庫、年金基金、政府系金融機関、海外投資家など、顧客や会員などから預かった大量の資金を使って株式や債券で運用を行う大口投資家のことを指します。個人投資家よりもはるかに大規模な金額で株式投資等を行なうため、機関投資家の行動が株式市場に及ぼす影響は非常に大きくなります。
株式市場における日本最大の機関投資家はGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)です。GPIFは預託された公的年金積立金の管理・運用を行なっている政府系機関投資家となります。総資産200兆円の内その半分を株式運用に振り向けています。
GPIFは投資の規模のおかげもあり、株式市場への資金流入が株価に与える影響が非常に大きく、日本銀行と並んで株式市場における「クジラ」と呼ばれています。
今回は日本の代表的な機関投資家が、ボラティリティが大きい局面でどのように動き、株式市場に影響を与えてきたのかについて解説します。また環境下において注目すべきセクターについても説明します。
※本記事は2022年5月時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
目次
1.2022年初来からの株式市場の動き
2022年は年初来から株式市場はボラティリティが激しい展開が続いています。日経平均株価も2022年1月4日に29,307.79の引け値を記録したものの、2022年4月28日時点では26,847.90となり、約8%程の下落となっています。
1月は新型コロナウイルスのオミクロン株感染拡大や米国FRBの利上げペース拡大による景気減速が懸念され、株式市場は下落しました。特に1月の後半は、バイデン大統領によりロシアによるウクライナ侵略の可能性が指摘され緊張感が高まっていく中で、VIX指数も35超になり、日経平均株価も大きく下落しました。
2月は上旬は先月の株式市場下落に対する反発もあり、上昇して始まりました。2月中旬以降はウクライナ国境におけるロシア軍の増兵などが確認されました。更に2月下旬には実際にロシア軍がウクライナ侵攻を開始したこともあり、S&P500種や日経平均株価も一時は年初来から10%超の下落を記録しました。
3月は後半にかけてロシア・ウクライナ間の紛争に係る停戦交渉に前進がみられるなどの背景から、投資家のリスク選好が改善し上昇しました。
また4月は米国の企業決算が始まる中で、ロシア・ウクライナ間紛争に係るロシアに対する経済制裁から起因したインフレーション懸念が高まり、米国FRBのパウエル議長も5月に0.5%の利上げを行なうことを示唆したことにより日本株式市場は下落しています。
2022年5月現在の株式市場は新型コロナウイルスのオミクロン変異株の感染拡大に加えて、米国中央銀行による金融緩和のテーパリング、ロシア・ウクライナ間における紛争、それに伴うインフレーション懸念などがあり、ボラティリティが大きい展開となっています。
2.2022年初来からの各機関投資家の売買動向
下記に主な機関投資家の年初来からの売買動向を見ていきましょう。
- 海外投資家
- GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)
それぞれの機関投資家について見ていきましょう。
2-1.海外投資家
海外投資家は日本国外に運用拠点を置いて売買する投資家のことを指します。企業年金基金や投資信託、ファミリーオフィス、ヘッジファンドなどが海外投資家として知られてます。日本株の売買のうち7割を海外投資家が占めていると言われており、日本株式市場に大きな影響を及ぼす機関投資家となります。
2022年の投資状況を見ていくと、日本株を大きく売り越しています。年初から2022年4月2週目までの15週のうち、買い越しになった週が5回しかなく、残り10周は売り越しとなっています。
年初の1月前半は買い越しからスタートしたものの、1月2週から2月2週まで5週連続の売り越しとなり、ロシアによるウクライナ侵攻が開始した2月4週目から再び5週連続の売り越しとなっています。
特に2022年3月の2週目には9935億円の売り越しとなり、2016年以降で最も大きな売り越しとなっています。海外投資家の売りが大きな一因となり、日本平均株価も同期間で25,000円近辺まで下落しました。最も下落が大きい週となっています。
海外ヘッジファンドの中には、リスクパリティ型(各資産クラスに対して一定のリスクとなるようにする運用方法)のクオンツ運用を行なうものも多くあります。リスクパリティ型は株式市場の下落に伴って株式のリスクも大きくなるため、株式に対する配分比率を減らすことになります。結果的に一部の海外投資家は売りが売りを呼ぶような動きをすることがあり、海外投資家の売り越しへと繋がっています。
2-2.GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)
GPIFは世界最大級の投資家であり、運用資産は200兆円程度となります。25%が日本株式、25%が海外株式に振り分けられているので、株式市場に及ぼす影響は甚大となります。
GPIFは投資をするにあたってエクゼキューションを信託銀行に委託するので、信託銀行の売買動向を追うことがGPIFの投資行動を把握するために有効です。
信託銀行の売買動向を見ると、2022年4月2週目までの15週のうち、買い越しになった週が7回、残り8周は売り越しとなっています。日経平均株価が大きく下落しているような局面において、海外投資家よりも買い越す週が多くなっています。
GPIFは全体の投資金額に対する株式への配分比率を一定にしています。しかし株式市場が下落すると株式価値が下がり、時価ベースでは株式への配分比率も低下するため、割合を調整するために株式の買いがGPIFから発生しやすくなります。
つまりターゲットとする配分比率の変更がない限りは、GPIFは常に逆張りとなるような株式の買い方をすることが多くなります。実際に2月は日経平均株価やS&P500種指数が下落しているにもかかわらず、信託銀行は6,000億円程度の買い越しとなっており、GPIFの買いが全体の買い越しの大きな要因であったと考えられます。
3.2022年の注目セクターは?
金利上昇局面中であることを考えると、現在の株式市場で注目すべきセクターは金融セクターです。米国金利は昨年の中ごろ以降から、米国FRBによる金融緩和縮小が意識されたことやインフレーション懸念により、米国金利が2%以上上昇しており、米国の金融株も昨年末までは上昇基調となっていました。
一方で日本の中央銀行である日本銀行は、日本国内での物価上昇は一時的との判断を崩さずに、4月末時点では10年日本国債の金利を0%程度に推移させることを目標にする金融緩和政策を維持しています。それがドルに対する相対的な円の価値を下落させることになり、結果的に急激な円安を招き、現在のドル円は130円程度になっています。
そのような背景から、日本銀行が円安を容認することはできなくなるような局面を迎え、物価上昇道半ばながら金融緩和政策のテーパリングを示唆し、それに伴い日本金利も上昇するというシナリオも可能性があります。
日本金利が上昇すれば三菱UFJ銀行やみずほ銀行などのメガバンクを中心に、金融セクターの大きな業績向上要因となります。それに伴い株価も上昇する可能性も十分にあるため、今後注目するべきセクターでしょう。
4.まとめ
機関投資家はその売買規模から、株式市場だけではなく債券市場やコモディティ市場などにおいても主役としてマーケットを動かしています。今後どのように市場が推移していくかを正確に予測するためにも主要となる機関投資家の運用方針等に注視していく必要があります。
基本的には機関投資家の売買状況については秘匿性が高くリアルタイムで見れるものではありません。しかし各機関投資家のプレスリリースや各情報機関が収集しているデータで機関投資家の状況については把握できるため、情報をアップデートしていくことが大切でしょう。
HEDGE GUIDE 編集部 投資信託チーム
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