投資信託の良し悪しを判断したり、どんな投資信託なのかを詳しく把握したりできるように、各投資信託には目論見書や報告書などの様々な書類や、今までの実績データが開示されています。購入する投資信託を検討する際は、これらを読んだうえで投資判断をすることになります。
今回は、目論見書、報告書、そして投資信託の実績を示すトータルリターンなどいくつかの指標について説明します。
目次
- 投資信託の目論見書
1-1.交付目論見書
1-2.請求目論見書 - 運用報告書
2-1.交付運用報告書
2-2.運用報告書 - 投資信託の実績
3-1.トータルリターンとは
3-2.騰落率とは
3-3.シャープ・レシオとは
3-4.アルファ(α)とは - まとめ
1.投資信託の目論見書
投資信託を購入する際には、目論見書(もくろみしょ)に目を通し、運用方針やリスクを理解した上で投資することが重要です。
投資信託の目論見書には、交付目論見書と請求目論見書の2種類があります。交付目論見書は、投資する際の判断材料となる投資信託の運用方針など重要事項が記載されています。請求目論見書は、投資家が請求した場合に交付することが義務付けられているものです。投資信託を購入する際には目を通すようにしましょう。
1-1.交付目論見書
交付目論見書は投資判断に必要な重要事項を説明した書類で、投資信託を購入する前に必ず投資家に渡されます。交付目論見書は運用会社が作成し、販売会社が投資家に交付します。目論見書は投資信託協会がガイドラインを設定しており、投資家が投資信託の内容を容易に理解できるよう工夫されています。
巻頭に「ファンドの概要」欄を設け、重要情報が集約されています。商品分類として、単位型か追加型の区分、投資対象地域、投資対象資産、属性区分として投資対象資産、決算頻度、投資対象地域、投資形態、為替ヘッジなどが掲載され、投資信託の大まかな方針が理解できます。
本文には、ファンドの目的・特色、ファンドの仕組み、投資方針、手数料等及び税金、運用体制、リスク、投資対象資産、投資対象資産の評価方法、運用実績についてなど、投資家が投資信託を購入する際に参考となる情報が記載されています。
1-2.請求目論見書
ファンドの沿革のほか、投資信託の経理状況(損益計算書・貸借対照表など)、投資信託が保有している個別銘柄の損益など交付目論見書には記載されていない情報が確認できます。
2.運用報告書
運用報告書は、投資信託の決算期に作成され、投資信託を保有している投資家に交付されます。ただし、毎月決算型のように決算期間が6カ月未満の投資信託の場合は、交付は6カ月に一度と法令で定められています。
運用報告書には交付運用報告書と運用報告書(全体版)があります。
2-1.交付運用報告書
交付運用報告書には、投資信託のその期の運用成績などが記載され、投資信託を保有している投資家に必ず交付されます。基準価額の推移、投資環境の説明、今後の運用方針のほか、投資信託とベンチマークとの比較、組入れ資産の内容、純資産額などが記載されています。
投資信託を継続保有するか、売却するかという判断をする際に、交付運用報告書で情報を確認するようにしましょう。
2-2.運用報告書
運用報告書(全体版)は、作成の都度、投資家へ交付することになっていますが、投資信託の約款に運用会社ウェブサイト上に掲載する旨が定められている場合には、ウェブサイト上での閲覧が可能です。
3.投資信託の運用実績
投資信託を選ぶ際には、過去の成績を調べる必要があります。過去の運用成績が良ければ、将来の運用成績にも期待できる可能性が高いためです。
運用成績は、トータルリターンと騰落率でみることができますが、運用成績だけでは投資信託を評価することはできません。正しく評価するには、運用成績を上げるためにとったリスクを考慮する必要があるからです。正当に評価するためには投資効率を示すシャープ・レシオを用います。
シャープ・レシオは、投資信託を選ぶ上で大切な要素の一つです。シャープ・レシオが高い投資信託ほど収益率が安定していることを示しています。良い投資信託は、長期間にわたり運用成績が乱高下していないことに加え、シャープ・レシオが高いことが条件となります。
3-1.トータルリターンとは
トータルリターンとは、投資信託の一定期間内の収益率のことです。投資信託の値上がり額(値下がり額)に期間中に支払われた分配金(税引前)を足し合わせた金額を収益とし、購入価格で割って求めます。
たとえば、ある月に1万円で購入した投資信託が6カ月後に1.2万円に値上がりし、その間に分配金を150円受け取った場合のトータルリターンは、(1.2万円-1万円+150円)÷1万円×100=21.5%と求められます。つまり、トータルリターンは購入時より受け取った分配金の総計と上昇額を収益とし、当初の投資金額で割り求めるということです。
特に分配金の頻度が多い投資信託の場合には、トータルリターンが投資の参考になります。特別分配金(元本払戻金)が支払われている可能性が高いため、投資信託の価格が低迷する傾向があるからです。
3-2.騰落率とは
騰落率とは、基準価額が過去の一定期間にどれだけ変動したかを示しています。ある月に基準価額1万円で買った投資信託が、6カ月後に基準価額1.2万円に上昇した場合、6カ月間の騰落率はプラス20%です。
計算式:(1.2万円÷1万-1)×100=20%
3-3.シャープ・レシオとは
シャープ・レシオとは投資効率を示し、大きな数値ほど良い指数です。シャープ・レシオはリスク(標準偏差=振れ幅)に対しての超過リターンを測る値です。計算式は投資信託の(収益率-安全利子率)÷リスク(標準偏差)です。安全利子率には、償還時の元本が保証されている国債の金利が用いられます。
投資信託Aと投資信託Bの収益率が同じ10%だとします。それぞれのリスクは、Aが20%、Bが5%の場合のシャープ・レシオを、安全利子率を0.1%として求めると、以下のようになります。
・投資信託A=(10%-0.1%)÷20%=0.495
・投資信託B=(10%-0.1%)÷5%=1.98
シャープ・レシオは、投資信託Aが0.495、Bが1.98です。BがAよりも投資効率が高い投資信託だと分かります。
リスクとは、価格の振れ幅のことで、投資信託の基準価額が期間平均価額から大きく変動すればするほど標準偏差が大きくなり、小さいほど標準偏差は小さくなります。投資信託を選ぶ際には、できるだけ長い期間(3年以上)のシャープ・レシオを参考にするようにしましょう。
3-4.アルファ(α)とは
アルファ(α)とは、ベンチマーク(指数)を上回る運用成績(超過リターン)を示します。つまり、アルファが大きいほど、運用成績が好調な銘柄と言えます。
アクティブ運用の投資信託は、指数よりも高い収益率を目指しているため、アルファが重要な数値となります。アルファが高い投資信託は、優秀なファンド・マネージャーが運用していると考えられます。
アクティブ運用の投資信託は、インデックス運用よりも信託報酬が高い傾向にありますが、アルファが大きなファンドに投資することで信託報酬以上に収益が期待できます。シャープ・レシオが高く、アルファの高い銘柄が良い投資信託だと判断できます。
まとめ
投資信託は開示されている情報が多く、銘柄分析が比較的しやすいのが特徴です。一方、目論見書や各指標などは読み方や意味を理解していなければ内容を把握することは難しいため、事前に押さえたうえで読むことをおすすめします。
初心者のための投資信託ガイド
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藤井 理
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。
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