不動産投資において、収益性を測る重要な指標の一つである「イールドギャップ」。これは物件の「実質利回り」と「借入金利」の差を指し、投資家が手にする利益の源泉となるものです。
しかし昨今、世界的なインフレ傾向や金融政策の転換に伴い、国内でも金利上昇の圧力が強まっています。借入金利の上昇はイールドギャップの縮小を意味し、従来の投資セオリーが通用しづらい局面を迎えています。
本記事では、金利上昇局面における不動産市況の変化を分析するとともに、縮小するイールドギャップといかに向き合い、長期的な資産価値を維持すべきかについて解説します。
1.金利上昇局面で縮小する「イールドギャップ」の状況
不動産投資の成否を分けるイールドギャップですが、ここ数年でその環境は劇的に変化しました。
かつては1%台後半で推移していた投資用ローンの金利が、現在は2%〜3%近くまで上昇するケースも見られます。一方で、都心部の物件価格は高止まりしており、表面利回りは低下傾向にあります。4〜5年前であれば4%近く確保できていた実質利回りが低下し、同時に金利が上昇したことで、イールドギャップは急速に縮小しています。
一般的に、健全な賃貸経営には一定以上のイールドギャップが必要とされますが、物件選びを誤ると、この差が1%を切る、あるいはマイナス乖離(逆ザヤ)となるリスクも生じています。特に、家賃下落圧力が強いエリアや、設定家賃が相場より高く設定されているサブリース物件などでは、金利上昇のインパクトを吸収できず、収益構造が破綻する懸念があります。
このような市況下において、投資家はどのような視点で物件を選定すべきなのでしょうか。都内の中古マンション投資市場に詳しい専門家に話を伺いました。
2.株式会社エイマックス 宮地氏に聞く「イールドギャップ」確保の戦略
今回は、東京23区の中古マンション投資に特化し、厳格な物件選定で知られる株式会社エイマックスの宮地氏に取材を行いました。宮地氏によれば、目先の表面利回りにとらわれることなく、将来的な「家賃のアップサイド(上昇余地)」を見据えることこそが、イールドギャップを確保する鍵です。
エイマックス 宮地 英氏 プロフィール
- 國學院大学法学部を卒業後、新卒で大手銀行系不動産会社の営業職に従事。その後メガベンチャー不動産投資会社に入社し、社内トップの実績を残す。投資用マンション販売実績日本一である天田浩平氏の想いに共感し、創業メンバーとしてエイマックスに入社。現在はコンサルティング部部長として活動中。
2-1.地方高利回り物件に潜む「見せかけのイールドギャップ」
イールドギャップを確保しようと、表面利回りの高い地方都市(広島、岐阜、福岡など)の物件や一棟アパートに関心を寄せる投資家は少なくありません。地方は土地値が安く、建築規制も都心ほど厳しくないため、新築物件の供給が容易です。
しかし、宮地氏は地方物件への投資について、需給バランスの観点を考慮に入れる必要があると話します。
「地方都市では人口減少により賃貸需要が減退しているエリアも多くあります。そうした中で供給が増え続ければ、必然的に空室率は上昇し、家賃相場は下落します。現時点での表面利回りが高く、計算上のイールドギャップが取れていたとしても、5年後、10年後に家賃が下落すれば、そのギャップは消失し、収支は悪化します」
目先の数値上の利回りだけでなく、将来にわたってその収益性を維持できるかどうかが重要です。
2-2.「東京」が選ばれる構造的理由と家賃の上昇圧力
対照的に、東京都内は構造的な「需要過多」の状態にあります。15歳から29歳の若年層が年間数十万人規模で流入し続けている一方、ワンルームマンション規制などの条例により、新規供給は年間数千戸程度に留まっています。
「東京では圧倒的な需要に対して供給が追いついていません。そのため空室リスクが極めて低く、家賃には上昇圧力がかかっています。購入時のイールドギャップが小さくても、将来的に家賃が上昇すれば、運用期間中の利回りは向上し、売却時にはキャピタルゲイン(売却益)として還元されます」(宮地氏)
金利上昇局面においては、家賃を上げることでイールドギャップを維持・拡大できるエリアかどうかが、資産防衛の決定的な差となります。
3.長期的なイールドギャップ維持のための物件選定基準
将来的な家賃上昇と資産価値の維持を狙うためには、東京ならどの物件でも良いわけではありません。宮地氏によると、長期的な視点に立った厳格な選定基準が必要となります。
3-1.エリア選定基準
東京都内であっても、エリアによってポテンシャルは異なります。賃貸需要が堅調で、資産価値が落ちにくいエリアを見極める必要があります。
- 推奨エリア:山手線の内側および周辺、京浜東北線沿い(横浜・川崎エリア含む)。城北エリアでは南北線が利用可能な北区(赤羽・王子)など。
- 慎重な判断が必要なエリア:都心へのアクセスが劣る区部周辺地域や、賃貸需要が弱いエリア。
また、駅からの距離は「徒歩10分以内」が必須条件となります。立地条件は変更できない要素であるため、妥協すべきではありません。
3-2.物件スペックと管理状況
建物自体のスペックや管理状況も、将来のコスト変動要因として重要です。
- 構造:耐震性・耐火性に優れ、法定耐用年数が長いRC(鉄筋コンクリート)造を選定。木造は災害リスクや遮音性の観点から避ける傾向にあります。
- 規模:総戸数20戸以上を目安とする。小規模物件は、将来的に修繕積立金が大幅に値上がりし、実質利回りを圧迫するリスクが高くなります。
- 管理状況:「重要事項調査報告書」を確認し、修繕積立金の改定計画や管理会社の管理体制を精査します。
3-3.キャッシュフローの捉え方と出口戦略
都内の優良物件において、フルローンを活用した場合、月々のキャッシュフロー(手残り)はマイナスになるケースが一般的です。これについて宮地氏は下記のように語ります。
「現在の状況においては、キャッシュフローのマイナス分を単なる赤字と捉えるのではなく、将来の資産形成のための積立投資のようなものと考えるのが良いのではないでしょうか」
家賃収入によってローンの残債は着実に減少し、純資産は拡大していきます。さらに、家賃上昇による売却益が期待できる東京の物件であれば、トータルの投資リターンはプラスになる可能性が高くなります。
金利上昇により、不動産投資におけるイールドギャップの確保は以前よりも難易度が増しています。しかし、それは投資の機会が失われたことを意味しません。
目先の利回りやキャッシュフローのみに囚われるのではなく、5年後、10年後の市場環境を見据え、「家賃が上昇するエリア」「資産価値が維持される物件」を選定すること。これが、不確実な市況下においてイールドギャップを守り、資産を最大化するための合理的な戦略と言えるでしょう。
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HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム
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