自宅を売却する理由は様々あると思いますが、売却したお金は、翌年の確定申告に備えてある程度残しておくことが大切です。売却後にかかる譲渡所得税は数百万円から1,000万円を超えることもあるため、手持ちの現金が足らず、税金が支払えないと後悔するケースも少なくありません。
そこで今回は自宅売却にかかる税金の種類と、売却後の注意点、税制の特例など活用できるお得な制度をご紹介していきます。自宅の売却を検討している方や、具体的にどの程度の金額を残しておけばいいのかわからないという方はぜひご参考ください。
目次
- 自宅の売却にかかる税金
1-1.譲渡所得税と譲渡所得
1-2.減価償却費の計算の仕方 - 譲渡所得税は自宅の所有期間で大きく変わる
2-1.自宅売却による所得は「分離課税」
2-2.所有期間は「5年以下」か「5年超」か - 譲渡費用の計算で注意したいポイント
- 自宅売却ではお得な「特別控除」が受けられる
4-1.課税譲渡所得6,000万円以下で「マイホーム軽減税率」を適用
4-2.3,000万円の特別控除を受けられる
4-3.転勤で住んでいなかった自宅を売却する時には注意
4-4.「買い替え」で受けられる特例 - まとめ
1 自宅の売却にかかる税金
自宅を売却した時、取得費(=購入時にかかったお金)よりも最終的に売却で得られた金額が多かった場合には、譲渡所得税のほか、売却益の有無に関わらず印紙税や登録免許税などが発生することになります。
1-1 譲渡所得の求め方
譲渡所得税とは譲渡所得に課せられる「住民税」「所得税」などの総称で、利益が出た場合に支払わなければならない税金です。譲渡所得は次のように求めます。
譲渡所得=譲渡価格-(取得費+譲渡費用)
譲渡価格とは「自宅の売却額」、取得費とは「自宅購入にかかった費用」、譲渡費用とは「売却にかかった費用」などを指します。なお、取得費については単純に「購入時の金額」とはならない点に注意が必要です。
住宅などの建物は年数が経過すれば古くなり、老朽化していきます。つまり購入当初より建物の価値が落ちるため、取得費を計算する際は劣化分を購入金額から差し引く必要があります。これを減価償却と言います。
譲渡所得税は、「経年劣化により価値が低下した住宅をいくらで売却したのか」で大きく税額が左右されることになります。
1-2 減価償却費の計算の仕方
建物価値の減少分は「減価償却費」を計上して求めることができます。ただし建物の構造によって計算方法は異なります。
たとえば木造住宅の場合、新築時から22年が経過すると建物の価値は会計上ゼロになると考えられています。この22年という年数を“法定耐用年数”と呼び、中古住宅を購入した場合の残存耐用年数は次のように計算します。
残存耐用年数=(法定耐用年数-経過年数)+(経過年数×20%)
築5年で購入した木造住宅を売却する場合、購入時の残存耐用年数は次の通りです。
(法定耐用年数22年-経過年数5年)+(経過年数5年×20%)=18年
減価償却費の求め方は、耐用年数に応じて「償却率」というものが決まっており、償却率に「購入してから経過した年数」を掛けて、さらに「購入金額の建物分」を掛け合わせます(※下記計算式の0.9とは建物の残存価格のことで、一般的に取得額の10%とされています)。
減価償却費=建物購入代金×0.9×償却率×経過年数
なお購入金額の建物分の比率は、購入時の契約書や固定資産税評価額などで確認することができます。上記例の築5年の木造住宅の場合、18年が経過すると建物の価値はゼロになります。つまり売却時には、取得費用は土地分のみとなります。
また譲渡費用(自宅を売却する際に生じた手数料や収入印紙税など)は経費として売却金額から差し引くことができるため、減価償却費と合わせて購入代金から差し引いた金額が譲渡所得となり、プラスになれば譲渡所得税が発生することになります。
2 譲渡所得税は自宅の所有期間で大きく変わる
減価償却費を考慮して計算した結果、自宅の売却で利益が生じた場合、どのように税額が決まるのかを見ていきましょう。
2-1 自宅売却による所得は「分離課税」
税金は収入に対してそのまま課税されるわけではありません。「課税」とは、税金のもととなる「課税所得」に対して決められた税率を掛けて税金を算出することです。課税所得は、収入を得るために要した経費を引き、そこからさらに控除額を引いて計算します。
会社員の場合、会社から受け取った給料の額から「みなし経費」と呼ばれる給与所得控除を差し引き、そこから生命保険料や個人年金掛金などを控除として差し引くことで課税所得が求められます。
会社員であっても、確定拠出年金やふるさと納税などで生じる各種控除を活用すれば課税所得を少なくすることができます。また、年間で支払った医療費が10万円を超えれば、その超過分も控除として計上することができます。
給料以外に所得を得ていれば確定申告で給与所得と合算し、損失となるものがあれば給与所得から引く(=損益通算する)ことも可能です(事業所得や不動産所得など、一部の所得に限ります)。
しかし、自宅を売却した時に利益が出た場合は、上記例と同様に給与所得と合算することはできません。不動産の売却により生じる譲渡所得は「分離課税」という、給与所得などとは別に課税される制度になっているからです。
2-2 所有期間は「5年以下」か「5年超」か
自宅を売却したことで生じた利益(=譲渡所得)に対する税率は、所有期間で次のように異なります。なお、ここでの所有期間は「売却した年の1月1日現在」で判断されますので、例えば6月で物件購入から5年を過ぎる場合などは、その翌年にならなければ税率が変わらないので注意しましょう。
- 5年以下:所得税30%、住民税9%
- 5年超:所得税15%、住民税5%
さらに確定申告の際には、所得税に対して2.1%の復興特別所得税を乗じた金額を加算します。所有期間によって税率が違う理由は、不動産を短期間だけ所有して売却することで利益を得る、いわゆる“土地ころがし”を抑制するためです。
自宅の場合、短期間だけ所有したあとに売却すれば、減価償却費は少なく、売却金額は高くなるため売却益も大きくなります。さらに毎年支払う固定資産税の負担も少なく、税率が高くなっても手元に残るお金は多くなるでしょう。そうなると不動産相場が高騰するため、不動産価格の安定化を目的として所有期間で税率が分けられているのです。
3 譲渡費用の計算で注意したいポイント
自宅を売却した際の譲渡所得の計算では、売却に関わる費用を経費として差し引くことができます。具体的には不動産会社に支払う仲介手数料や登記費用、印紙税や測量のための費用などがあります。
ほかにも売却のために室内をクリーニングした費用なども計上できますが、居住期間中にクリーニングや修繕をした場合、その費用は自宅の維持管理に使ったものとみなされるため、譲渡費用に含むことはできません。
そのため自宅の売却を検討する段階までにクリーニングするのではなく、不動産会社と媒介契約を結んだ後に行うと費用計上することができます(税務署または税理士に相談は必要です)。
小さなことですが、少しでも高い価格で売却しようと修繕などを行う場合、クリーニングや修繕の時期にも注意することが大切です。
4 自宅売却ではお得な「特別控除」が受けられる
自宅を売却しただけで税金が重くのしかかるのは納得できないという方は多いですが、お得な「特別控除」の制度もあることを知っておきましょう。
4-1 課税譲渡所得6,000万円以下で「マイホーム軽減税率」を適用
自宅を売却するまでの所有期間が5年を超えた場合、譲渡所得の税率は所得税15%(+復興特別所得税0.315%)・住民税5%となりますが、所有期間が10年を超えている場合には、さらに税率が下がります。
課税譲渡所得(譲渡収入金額-取得費-譲渡費用)のうち、6,000万円以下の部分に関しては、所得税率10%(+復興特別所得税率0.21%)、および住民税4%になります(ただし6,000万円を超える部分に関しては5%超となる)。
ここで“マイホーム”の定義について確認しましょう。10年超の「マイホーム軽減税率」控除を受けるためには、以下の条件をすべて満たす必要があります。
- 現在主として住んでいる自宅
- 居住しなくなってから3年を経過した年の年末までに売却するもの
- ②の範囲内で家屋を取壊した日から1年以内にその敷地を売却する契約を交わしているもの
- 転勤などの単身赴任の場合には、配偶者などが居住している家屋
4-2 3,000万円の特別控除を受けられる
マイホームに定義される自宅を売却した場合には、課税譲渡所得からさらに3,000万円を控除することができます。つまり売却益が3,000万円以下であれば、所得税・住民税ともに課税されないことになります。
「3,000万円特別控除」は所有期間に関わらず適用されるため、所有期間が5年以下の短期譲渡であっても同じ金額を控除することができます。ただし、控除した結果、課税所得がマイナスになっても分離課税となるため、給与所得などと合算することはできません。
4-3 転勤で住んでいなかった自宅を売却する時には注意
転勤が多い人は、控除対象の「マイホーム」の条件に該当するかどうかで、住んでいない期間の長さに注意する必要があります。たとえば転勤のために家族全員が引っ越しをして、自宅を空き家のままにしておく、あるいは人に貸しているというケースは多いですが、居住しなくなってから3年を経過する日の年内に売却しなければ、マイホームとは認められません。
ただし家族のうちの誰かひとりでも居住していれば問題ありません。ただし確定申告の時に、自宅に住んでいた生計を一にする親族の住民票や、譲渡した家屋と現在生活している家屋の登記謄本などを提出することになるため、忘れずに準備することが大切です。
4-4 「買い替え」で受けられる特例
自宅を買い替えした場合、譲渡所得税を売却時に支払わずに済む特例があります。ただし、「売却価格よりも高い価格の住宅に買い替える」ことが条件となります。
たとえば4,000万円で購入したマンションを3,000万円で売却したものの、減価償却費などを考慮したところ500万円の譲渡所得が生じたとします。通常であれば500万円に対して所得税・復興特別所得税・住民税が課税されます。
一方、売却価格の3,000万円よりも高い3,500万円のマンションに買い替えた場合、売却で得られた500万円の譲渡所得は、3,500万円で購入したマンションを売却する時まで繰り延べることができます。これを「買い替え特例」と言います。
つまり買い替え時には税金を支払う必要はないですが、買い替えた自宅を売却する際には、前回の500万円という譲渡所得を合算することになります。たとえば「3,500万円で購入したマンション」を売却した時に譲渡所得がマイナスになった場合、前回の譲渡所得500万円と合算すると税金は安くなります。
もちろん譲渡所得がプラスであればさらに課税額は大きくなります。買い替え特例は非課税になるのではなく、あくまで「繰り延べされる」だけ、ということに留意してください。
また、買い替え特例を利用するためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 居住期間がトータルで10年以上であること
- 直近の2年間に3,000万円控除や10年超の軽減税率特例を受けていないこと
- 売却価格は1億円以下
- 買い替え先の建物が床面積50平米以上
- 買い替えは自宅を売った年の前年から翌年の3年以内であること
- 売却した翌年に確定申告をすること
- 売却先は親子・夫婦・生計を一にする親族などではないこと
仮に買い替えた住宅の価格が売却した金額よりも低い場合に買い替え特例を利用した場合、「売却した価格」と「買い替えた住宅の価格」との差額が収入金額とみなされます。そこで次のような計算によって譲渡所得が算出され、課税されることになります。
A 収入金額=所有していた自宅の売却額-買い替えで取得した自宅の金額
B 必要経費=(所有していた自宅の取得費+譲渡費用)×(収入金額A÷自宅の売却金額)
譲渡所得金額=A-B
5 まとめ
自宅を売却した場合、翌年に確定申告をして税金の計算をします。そのために、所得税・住民税をどのくらい支払う必要があるのかを事前に把握することが必要です。
自分で確定申告をする場合には、特例を受けられることを知らずに後悔することがないよう、しっかりと頭に入れておきましょう。
HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム
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