2023年投資環境まとめ 株式・為替総括、各国動向(米・日・欧・中・印)について解説

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相場の格言では、卯年の株価は跳ねるとされています。格言通り、卯年2023年の株式相場は世界的に好調でした。

日本では、日経平均株価がバブル崩壊後の高値を更新するなど、大型銘柄を中心に史上高値を更新した銘柄が目立っています。一方で、ロシアによるウクライナ侵略が続くなか、10月には中東情勢が緊迫化、中国経済の鈍化が鮮明となるなど、相場にとっての悪材料もあります。

2024年は、相場の格言では辰巳天井と呼ばれ、株式相場が天井をつけやすい年とされているため、卯年は株式の仕込み年と考えられます。

本稿では、2024年に向けて、2023年の投資環境振り返ってみましょう。

※データ基準日は全て2023年11月24日です。
※本記事は2023年11月24日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。


目次

  1. 2023年の主な出来事
    1-1.2023年1月
    1-2.2023年2月
    1-3.2023年3月
    1-4.2023年4月
    1-5.2023年5月
    1-6.2023年6月
    1-7.2023年7月
    1-8.2023年8月
    1-9.2023年9月
    1-10.2023年10月
    1-11.2023年11月
  2. 2023年の年初から2023年11月24日までの市場動向
    2-1.株式市場
    2-2.債券市場
    2-3.為替市場
    2-4.コモディティ市場
  3. 各国の投資環境
    3-1.米国
    3-2.日本
    3-3.欧州
    3-4.中国&インド
  4. まとめ

1.2023年の主な出来事

2023年の主な出来事を振り返ってみましょう。

1-1.2023年1月

日本

  • 10年国債クーポンを0.5%に引き上げ(2022年4月以降:0.2%)

米国

  • パーティー用品専門店「パーティ・シティー」が、米連邦破産法第11条の適用を申請。
    インフレに伴う売上低迷と経費増加が経営を圧迫

1-2.2023年2月

米国

  • FRBが政策金利を4.5%から4.75%に引き上げ

欧州

  • ECBが政策金利を2.00%から2.50%に引き上げ

中国

  • 全人代が開催され習近平主席が再選、異例の3期目へ

米国

  • FRBが政策金利を4.75%から5.00%に引き上げ
  • SVB(シリコンバレー銀行)破綻

欧州

  • ECBが政策金利を2.50%から3.00%に引き上げ
  • UBSによるクレディ・スイス買収
  • クレディ・スイスのAT1債が無価値に

日本

  • 東京証券取引所が、プライム市場とスタンダード市場に上場する約3,300社に対し、株価水準を分析し、改善するための具体策を公表するよう要請。
    特に、PBR1倍を割り込む企業(1800社)を問題視

1-4.2023年4月

米国

  • 生活雑貨販売大手の「ベッド・バス・アンド・ビヨンド」が、米連邦破産法第11条の適用を申請

日本

  • ユニゾHDが民事再生法申請

1-5.2023年5月

トルコ

  • エルドアン氏が大統領に再当選

米国

  • FRBが政策金利を5.00%から5.25%に引き上げ
  • ファースト・リパブリック・バンク破綻
  • 米大手ブライダル小売店「デイビッド・ブライダル」が、米連邦破産法第11条の適用を申請

欧州

  • ECBが政策金利を3.00%から3.25%に引き上げ

1-6.2023年6月

欧州

  • ECBが政策金利を3.25%から3.50%に引き上げ

インド

  • モディ首相アメリカ訪問

1-7.2023年7月

米国

  • FRBが政策金利を5.25%から5.50%に引き上げ

欧州

  • ECBが政策金利を3.50%から3.75%に引き上げ

日本

  • 日銀が金融政策を一部修正。
    それまで変動幅をゼロ%の目標値から±0.5%程度としていたが、±0.5%程度を目途とすると柔軟化した上で、プラス1%までの利回り上昇を容認
  • 科学技術振興機構(JST)は、資産10兆円規模の「大学ファンド」の2022年度の運用成績が、604億円の赤字だったと発表。
    運用成績はマイナス0.6%

1-8.2073年8月

米国

  • 物流大手「イエロー・コーポレーション」が、米連邦破産法第11条の適用を申請

1-9.2023年9月

欧州

  • ECBが政策金利を3.75%から4.00%に引き上げ

日本

  • 東証に、これまで上場を認められていなかったアクティブ運用型のETFが上場。
    銘柄:PBR1倍割れ解消推進ETF、政策保有解消推進ETF、NEXT FUNDS日本成長株アクティブ上場投信、NEXT FUNDS日本高配当アクティブ上場投信MAXIS高配当日本株アクティブ上場投信、上場Tracers米国債0-2年ラダー(ヘッジ無し)

1-10.2023年10月

米国

  • 薬局大手の「ライトエイド」が、米連邦破産法第11条の適用を申請

中東

  • ハマスが、対イスラエル大規模作戦を実施

日本

  • 日銀が金融政策を再修正、長期金利上限メドを1%に拡大
  • プライム市場から、無審査でスタンダード市場に移行できる特例措置を申請した177社を公表。
    約2,200社あった旧東証1部企業のうち、338社が自主的にスタンダード市場に移行

1-11.2023年11月

米国

  • シェアオフィス大手「WeWork」が、米連邦破産法第11条の適用を申請

欧州

  • UBSがAT1債を発行

2.2023年の年初から2023年11月24日までの市場動向

2023年の年初から2023年11月24日までの、株式・債券・為替・コモディティ市場の動きを振り返ってみましょう。

2-1.株式市場

2023年の年初から2023年11月24日までの、先進国(日米欧州)主要株式指数の騰落率で最も高かった指数は、米国ナスダック指数の36.16%、次が日経平均の28.86%、その次はTOPIXの26.39%です。ユーロ圏では、イタリアのMIB指数が24.15%と、ドイツDAX指数の15.12%を大きく上回っています。

新興国では、アルゼンチンのメルバル指数が354.07%、トルコのXU100指数が44.49%と高い成長率が確認されています。

なお、円貨換算での騰落率は円安が進行したため、米国や欧州指数の騰落率がかさ上げされています。米国のナスダック指数の円貨換算騰落率は55.18%と、現地通貨ベースの36.16%から19%程度高くなっています。

一方、トルコリラやアルゼンチンペソについては、円高が進んでいるため、株式指数の円貨換算指数騰落率は現地通貨ベースよりも低い値となります。

トルコXU100指数の円ベース騰落率は6.72%で、現地通貨よりも約37%低くなります。

2-2.債券市場

主要先進国の10年国債利回りは上昇しています。各国の政府が金融引き締め政策を維持していることが背景にあります。

米国10年国債利回りは、2022年12月末の4.42%から4.46%に、ドイツ10年国債が2.57%から2.64%、英国10年債は3.66%から4.27%に、日本では0.42%から0.77%に上昇しています。

2-3.為替市場

為替市場では、円安(2022年末比)が進みました。円はドルに対し13.73%、ユーロに対し16.42%、スイスフランに対し19.42%、ポンドに対しては18.85%下落しています。

主要国の中央銀行が政策金利を引き上げているものの、日本銀行は依然としてマイナス金利政策を維持しており、金利差が拡大したためです。ドル円相場との相関が強い日米2年国債金利スプレッドは、2022年末の4.38%から4.88%に拡大しています。

なお、日本円は新興国通貨に対しても下落しており、ブラジルレアルに対し22.95%、メキシコペソに対し29.92%、インドルピーに対しては12.70%弱含んでいます。一方、円高が進んだ通貨としてはトルコリラが挙げられ、26.10%円高が進んでいます。

2-4.コモディティ市場

商品26品目の指数として組成されているCRB指数は、2022年末とほぼ同水準で推移しています。金価格が10%程度上昇したものの、原油、銅、銀、天然ガス、小麦、とうもろこし、大豆が大きく下落したことが要因です。

金価格は、ロシアのウクライナ侵攻の長期化、イスラエル問題など地政学リスクの高まりや、中国での経済・政治不安から金需要が高まっていることが考えられます。

円安進行により、円貨換算ではCRB指数は、2022年末に対し11.77%上昇しました。金が25.18%、原油は7.42%上昇しています。

3.各国の投資環境

ここでは、国別の投資環境を見ていきましょう。

3-1.米国

米国株式市場では、利上げ打ち止め観測から金融政策に敏感なハイテク銘柄を中心に上昇傾向が鮮明となっています。

債券市場では、国債の利回りが逆イールド(期間が長い債券利回りが期間の短い国債より低い状態)を形状するなか、2年、3年国債や社債が投資家に好まれているとみられます。

通貨はドル高傾向にあり、世界の資金は米国に集まっているようです。

金融政策と背景

米国では、利上げ打ち止めが市場のコンセンサスになりつつあります。FRB(米連邦準備制度理事会)がインフレ率の上昇を抑えるために利上げを実施しました。2023年は4度の利上げが実施され、政策金利の誘導目標レンジを2022年末の4.25%~4.5%から5.25%~5.5%に引き上げられました。

FRBは、雇用の最大化、物価の安定化、適切な長期金利水準の維持を実現し、その結果として米国経済を活性化することを目標としています。

2023年は相次ぐ利上げや、原油価格の下落等によりインフレ率は下落基調にあり、9月の消費者物価指数は年率換算で3.7%と、2022年末の6.45%から大幅に低下しています。

雇用賃金動向をみると、平均時給(前年比)は2022年3月の5.6%をピークに鈍化傾向にあり、2023年10月には4.1%まで低下しています。失業率は増加傾向にあり10月の失業率は3.9%と約2年ぶりの水準に上昇しました。

インフレ率は低下しているものの、目標の2%を大きく上回っている状態です。FRB高官は、インフレ率が下落から上昇に反転し、インフレ率の上昇基調になった場合、再度利上げに踏み切る用意があるとしています。

株式市場

米国株式市場は、ハイテク関連銘柄を中心に順調に推移していました。ハイテク銘柄中心のナスダック総合指数の騰落率が36.16%とS&P500指数の18.75%、ダウ工業平均の6.77%の騰落率を大きく上回っています。

2022年末からChat GPT等AIの進展に伴い、株式市場ではAI関連銘柄が上昇し、NVDAやマイクロソフトの株価が史上最高値を更新し、高値圏で推移しています。この結果として、NASDAQコンピュータ指数の騰落率が59.90%、半導体指数であるSOX指数の騰落率は48.02%と、コンピュータや半導体関連指数の上昇が米国株式市場を牽引しています。

米国株式市場が好調だった背景には、中国リスクの高まりから投資家が中国・香港市場から資金を引き上げ、米国株式に投資していることも考えられます。

一方、地方銀行株関連の株式指数は軟調に推移しています。3月にテクノロジー企業を中心とするスタートアップ企業やベンチャーキャピタルとの取引を中心に営んでいた、シリコンバレーバンク(SVB)が突然破綻しました。ずさんなALM管理が表面化し、大口預金者が預金を引き出したことが破綻要因です。

この波紋で、米国中堅銀行のシグネチャー銀行も破綻に追い込まれました。中小銀行への不信感から預金の流出が続き、その結果、株価が低迷しています。NASDAQ銀行指数がマイナス19.83%、KBW銀行株指数はマイナス18.02%と、多くの指数がプラス推移するなか、大きく下落しています。

債券・クレジット市場

クレジット市場では、企業倒産が増加傾向にあるなか、大きなインパクトはありませんでした。

米国では、金利上昇や景気減速を背景に、企業倒産件数が増加傾向にあります。2023年の大型倒産をみると、1月にパーティ・シティーがインフレに伴う売上低迷と経費増加で倒産、4月には生活雑貨大手のベッド・バス・アンド・ビヨンドが金融不安下での資金調達難による経営の行き詰まり、8月にはトラック輸送大手のイエロー・コーポレーションが労使対立悪化により廃業に追い込まれ、破産法の申請をしました。

投資適格債ETFの水準は、2022年12月末を100とした場合102.77、ハイイールド債ETFは、同107.07と投資適格債ETFの上昇率を上回っています。投資家がハイイールド債を好んで投資していることが分かります。

クレジット市場では、利上げ局面下で国債との金利差がより大きなハイイールド債に資金が流れており、ハイイールド債のクレジットスプレッドは縮小傾向にあります。

投資不適格とされるBBの5年債では、年初2.75%で推移していたスプレッドが2.35%度に縮んでいます。

3-2.日本

金融政策と背景

日本では、4月に日銀総裁が黒田総裁から植田総裁に交代しました。金融政策は黒田路線に変更はなく、マイナス金利政策とイールド・カーブ・コントロール(YCC)により長期金利の水準をコントロールしています。

世界各国の中央銀行が金融引き締めに政策をとるなか、日銀も国内インフレ率の上昇や経済回復を背景に、徐々に金融政策の正常化を進めています。

日銀は7月の金融政策決定会合で、長期金利の変動幅の上限について、市場の動向に応じて0.5%程度としてきた上限を超えることを容認し、さらに10月には10年国債の上限を1%めどとしました。この政策で、2022年12月末に0.4%程度だった日本の10年国債利回りは0.8%程度に上昇しています。

国内インフレ率の上昇の背景には、為替が円安傾向にあることがあります。世界ではECB(欧州中央銀行)やBOE(イングランド銀行)など多く国で利上げを進めるなか、日本との金利差が拡大したことによって、円安が進んでいます。そのため、輸入依存度の高い日本では値上げが相次ぎました。

資材の多くを輸入に頼っている建築・住宅業界でも、資材原料価格の高騰の影響が出ています。住宅価格は人件費上昇や円安の影響から高騰しており、東京23区の新築マンション平均価格は1億円を超えました。

新築マンション価格の上昇により、中古マンションの需要が高まり中古物件価格も上昇しています。好立地の高級マンションの多くは、海外投資家の投資先として注目度が高まっています。特に、中国人富裕層の資金逃避先として、東京や大阪の物件が物色されています。

一方で、日本国民の消費意欲は低迷しています。大企業では大幅な賃上げが実施されているものの、名目賃金の上昇率が物価上昇率を下回っており実質賃金が低下、賃金と物価の好循環は起きていない状況にあるためです。

株式市場

日経平均株価は、バブル崩壊後の高値を更新し、大型銘柄が株式市場をけん引しています。株価上昇のきっかけの一つになったのは、3月に東京証券取引所がプライム市場とスタンダード市場の上場企業に対し、約6割の企業がROE8%未満で、PBR1倍割れであることを指摘し、当該企業に対し、資本コストや株価を意識した経営の実現にむけた計画策定・開示を要請したことです。

この要請により、自社株買いや増配が期待できることから、PBR1倍割れのバリュー銘柄に注目が集まりました。MSCI JAPANバリュー株指数の騰落率は31.78%と、MSCI JAPANグロース指数の23.47%を大きく上回っています。MSCI JAPANバリュー株指数の騰落率は、日経平均株価(騰落率28.86%)をアウトパフォームしています。

日本株の見直し買いも入り、東証プライム全体上場企業の16%にあたる約260社は2023年に入って上場来高値を更新しています。

買いの主体は外国人投資家です。日本のデフレ脱却、PBR1倍割れ企業への株価対策要請、中国・香港市場からの株式投資資金撤退が背景とした、ポートフォリオの日本株比率引き上げなどを理由に、外国人投資家による日本株の需要が高まっています。

また、2024年から新しいNISA制度が始まることも、株価上昇要因に挙げられます。非課税枠が1,800万円(成長投資枠は最大1,200万円)に拡大されることや、非課税期間が恒久化されるため、個人金融資産1,117兆円(2023年6月末)とされる現金・預金から株式や投資信託へ資金が移動する可能性が高く、株式市場にフォローの風が吹いているためです。

若い世代の株式市場参加者が増加傾向にあり、新しいNISA制度のスタートを機に、株式ブームが起きる可能性があります。

金融庁によると、2023年6月末時点でNISA口座数が前年末比7.8%増の1,941万口座に増加しました。現行のNISA口座は2024年1月から始まる新NISA口座へ引き継がれるため、1月に向け口座数が増加しているようです。

参照:金融庁「NISA・ジュニアNISA口座の利用状況に関する調査結果の公表について

債券・クレジット市場

日銀は金融市場の正常化を目指しています。

日銀は、マイナス金利政策とイールドカーブコントロール政策により、10年国債の利回りをコントロールしています。2023年には、7月と10月に日銀が金融政策の修正に踏み切りました。日銀は長期金利の上限を1%とし、さらにそれまでの連続指値オペを通しての厳格な金利コントロールから大規模な国債買い入れと、機動的なオペ運営で金融操作を行う方針に転換し、実施的に1%を超える金利上昇を容認しました。

国債利回りの変化(2022年末)を残存期間別に分析すると、上昇幅は2年国債が0.03%、5年国債が0.12%、10年債が0.35%、20年債が0.19%、30年債が0.07%、40年債は0.03%と、10年国債利回りが他の年限よりも大きく上昇しています。

社債市場では、2023年4月にユニゾHDが資金繰りの悪化から民事再生法を申請したため、同社社債がデフォルトしました。負債の多くは主に地方銀行が負っており、なかでも北國銀行は引き当てや担保で保全されていない貸出金があったことから、決算を延期する事態に追い込まれました。

為替市場

為替は、円安が続いています。円はドルだけではなく、多くの通貨に対し下落しています。円の下落率(2022年12月末比)は対ドルで13.9%、対ポンドで18.8%、対スイスフランで19.4%、対ユーロで16.4%、対豪ドルでは10.0%、円が下落しています。

日本円は新興国通貨に対しても下落し、対ブラジルレアルで22.9%、対メキシコペソで29.9%、対南アランドで3.4%、インドルピーでは12.7%の円安が進んでおり、円の価値は下落傾向にあります。

日銀がマイナス金利政策をとるなか、各国の中央銀行は、高インフレを背景として利上げを実施しました。日本国債利回りと各国の国債利回りの差が拡大したため、円安が進行しました。

この円安により、インバウンド消費が拡大しています。旅行収支は、インバウンド消費の回復で、8月は2,582億円の黒字と前年同月の約12倍となりました。

参照:ロイター「インバウンド黒字で補えないデジタル赤字、円安促す構造変化

訪日外国人客数が2023年10月には251万人となり、前年同月(49.8万人)の5倍に膨れ上がっています。訪日外国人客数は、新型コロナが世界に拡大する直前の2020年1月以来の人数です。

観光庁によると、訪日外国人旅客数の増加に伴い外国人消費が増加しており、2023年7-9月期は1兆3,904億円(2019年同期比17.7%増)であり、一般客一人当たりの旅行支出は21.1万円と推計されました。

参照:観光庁「訪日外客数(2023 年 10 月推計値)
参照:観光庁「2023年7-9月期の全国調査結果(1次速報)の概要

3-3.欧州

金融政策や出来事

欧州中央銀行(ECB)は、2022年12月末に2.0%だった政策金利を段階的に引き上げました(2023年2月2.5%→3月3.0%→5月3.25%→6月3.50%→7月3.75%→9月4.0%)。背景には高止まりしていたインフレ率が挙げられます。政策金利の相次ぐ引き上げに伴い、通貨が強くなったため、インフレ率は低下傾向にあります。

欧州市場では、3月に経営難に陥ったクレディ・スイス銀行が、UBSに買収されました。この買収で、クレディ・スイス株を保有していた投資家はクレディ・スイス株22.48株につきUBS株1株を割り当てられました。

一方、クレディ・スイスが発行していたAT1債(永久劣後債)に対し、スイスの金融監督機関である連邦金融市場監督機構(FINMA)は、AT1債170ドルを無価値化する決定を下しました。通常は、企業が破綻すると債券が株式よりも債務保全面で優先されるものの、クレディ・スイスのケースでは株式が優先されたため、投資家がこの決定に反発し、FINMAを相手取りスイスの連邦行政裁判所に提訴しました。

日本においては、AT1債を国内証券会社10社余りが、富裕層や法人を中心に約2,000口座を販売しました。中でも、三菱UFJMS証券が約950億円を販売していました。このデフォルトにより、ゲーム開発会社が41億円分を損失計上するなど、波紋が広がりました。

AT1債市場においては、クレディ・スイスのAT1債が無価値となった影響で、AT1債の発行ができなくなる事態に陥りました。その後、AT1債市場も落ち着きを取り戻し、2023年11月にはUBSがAT1債を35億ドル起債し、順調に販売されたようです。

株式市場

欧州株式市場は、イタリアやギリシャの株式指数が主要国のドイツやフランスの上昇率を上回っています。騰落率はイタリアが24.1%、ギリシャが35.3%に対し、ドイツが15.1%、フランスは12.6%です。ECBは9月に利上げ打ち止めの可能性を示唆しており、株式市場に資金が流入しているようです。

債券・クレジット市場

クレディ・スイスのAT1債が無価値となったため、AT1債不信が広がりました。株式を保有する株主よりも、債券を保有する債権者の方がより大きな損失を負うという異常事態が生じたたことが、投資家の不信につながりました。

為替市場

為替市場では、ユーロやポンド、スイスフランなどが買われています。特に、スイスフランは過去最高の170円台を付ける場面もありました。スイスフラン高の背景には、イスラエルとハマスの大規模な衝突が起きたことによる地政学リスクの高まりから、安全資産とされるスイスフランへの資金流入があります。

通貨ユーロは、金融政策が正常化したことが好感され、堅調に推移しています。

3-4.中国&インド

中国

中国では、3月に全国人民代表大会で3期目の習近平政権が発足しました。最高司令部は、習派で固められました。

習近平国家主席は、台湾統一の実現を目指していることから、中国と台湾の軍事衝突リスクの、更なる高まりが予想されています。投資家による中国離れが進んでいます。

また、米国との関係性も重要となっています。米国は、先端半導体を中心とした経済制裁措置を取っています。先端半導体は軍事転用の恐れがあるとして、ファーウェイなどへの輸出規制を強めています。

中国経済はゼロコロナ政策で失策し、不動産バブル崩壊により苦境に立たされています。中国恒大集団に続き、不動産最大手のカントリー・ガーデンのドル建て債もデフォルトに陥りました。

こうした経済失速から中国の若年層(16~24歳)の失業率は、2023年6月には21.3%となり、2018年の公表開始以来の最高水準に達しています。

西側諸国との対立が高まるなか、中国で反スパイ法が改正され、スパイ行為の範囲が拡大されました。この法改正により、日本人が懲役12年実刑判決を受けたため、中国でのビジネスに係る外国人に不安が広がり、中国からの企業撤退が進んでいます。

外資系企業の中国での事業縮小が続いているためか、中国の対内直接投資は2023年7~9月に1998年のデータ開始以降で初のマイナスとなりました。

外国人投資家がメインとなっている香港市場では、香港ハンセン指数やハンセンH株指数の年初来騰落率はマイナス10%超を記録しました。世界各国の株式指数がプラス圏で推移する中、マイナス圏で推移しています。

インド

インドの経済成長は著しく、世界中が注目しています。世銀によると、インドの実質成長率(2023年4月~2024年3月)を6.3%と予想しています。この成長率はG20加盟国で2番目に高く、新興国の平均値の約2倍に達しています。

参照:ロイター「世銀、インドの今年度成長予測6.3%で据え置き

インドは人口が増加しており、今後も高い成長率が期待できます。インドの人口は、2023年半ばには中国を抜き世界最多になると国連の人口担当部が発表しています。

参照:ロイター「インド人口が世界最多に、年央ごろ中国を290万人上回る=国連

米国との関係強化のために、6月にはモディ首相が米国を訪問し、バイデン米大統領との首脳会談で防衛や通商面での強力を深めることで合意しています。

また、モディ首相は、グーグルやアップル、オープンAIら米ハイテク企業の幹部と夕食会を開き、インドへの企業誘致を進めています。

アップルは、2025年までにiPhone生産の25%をインドに移管すると発表しました。半導体大手のマイクロン・テクノロジーはインドに半導体組み立て・テスト工業を建設すると発表し、テスラは最低3,000億円程度の初期投資をする方向で動いています。インド市場の拡大が期待されます。

インド株式指数はNifty50、センセックス指数の騰落率(年初来)はそれぞれ9.3%、8.4%です。

4.まとめ

2023年は、先進国を中心に中央銀行は利上げを継続しました。欧米では、インフレ率が低下傾向にあるため、市場では利上げ打ち止め観測が出ています。

株式市場では、利上げ打ち止め観測により、株価は上昇傾向にあります。米国市場では、金利に敏感なハイテク株の上昇が目立っています。

日本株式市場では、PBR1倍割れ企業に対し、東京証券取引所が株価の改善要請をしたため、配当金の増額や自社株買いの期待から、関連銘柄が物色されています。また、2024年から始まる新しいNISAは日本での株式ブーム起爆剤となる可能性を秘めています。

2024年は、相場格言では辰巳天井と呼ばれ、株式相場が天井をつけやすい年とされているため、卯年は株式を仕込み年と考えられます。

為替市場では円の独歩安となりました。対スイスフランが史上最高値を付けました。

日本国内では、円安効果でインバウンド消費が回復しました。外国人投資家による不動産投資も好調のようです。

相場の格言では、卯年の株価は跳ねるとされています。格言通り、卯年2023年の株式相場は世界的に好調だったと言えるでしょう。

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藤井 理

大学3年から株式投資を始め、投資歴は35年以上。スタンスは割安銘柄の長期投資。目先の利益は追わず企業成長ともに株価の上昇を楽しむ投資スタイル。保有株には30倍に成長した銘柄も。
大学を卒業後、証券会社のトレーディング部門に配属。転換社債は国内、国外の国債や社債、仕組み債の組成等を経験。その後、クレジット関連のストラテジストとして債券、クレジットを中心に機関投資家向けにレポートを配信。証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト、AFP、内部管理責任者。