「従来の投資と比べて高リターンが狙える」「個人投資家が比較的少額から非上場企業に投資できる」チャンスとして、「株式投資型クラウドファンディング」に注目度が高まっています。オルタナティブ・ファイナンス(※1)として利用する中小企業も増加傾向にあり、海外の株式投資型クラウドファンディングからは上場や買収に至るスタートアップも生まれています。
※1:銀行からの融資やVCからの出資に代わる資金調達手段
本稿では、海外の株式投資型クラウドファンディング動向や、プラットフォームを解説します。
※本記事は2023年11月29日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- 株式投資型クラウドファンディングの概要
1-1.メリットとデメリット - 世界のECF市場規模が20億ドルに
- 米国・英国の動向
3-1.米国
3-2.英国 - ユニークな欧米プラットフォーム4選
4-1.Fundify(米国)
4-2.Angel Funding(米国)
4-3.Spreds(ベルギー)
4-4.Yieldstreet(米国) - 日本から海外のクラウドファンディングに投資できる?
- まとめ
1.株式投資型クラウドファンディングの概要
株式投資型クラウドファンディング(Equity Crowdfunding、以下ECF)とは、未上場企業が不特定多数の個人投資家から少額ずつ資金を集め、出資と引き換えに非上場株式を提供する仕組みを指します。
1-1.メリットとデメリット
各国により仕組みや規制は異なるものの、通常、企業と投資家の両方に次のようなメリットとデメリットがあります。
企業側
メリット | デメリット |
---|---|
銀行やVC(ベンチャー・キャピタル)から融資を受けられない企業でも、資金を調達しやすい | 調達額に上限がある |
幅広い投資家から資金が調達できる | 手数料がかかる |
各個人投資家が投資できる金額が制限されているため、経営権を握られにくい | |
自社の知名度向上につながる |
投資家側
メリット | デメリット |
---|---|
個人投資家が比較的少額から非上場企業に投資できる | 投資額が制限されている |
高リターンが期待できる | 上場企業に比べて投資リスクが高い |
節税制度が利用できる | 自由に売却できない(譲渡制限がある) |
※表はForbes「Equity Crowdfunding: What Is It & How Does It Work?」を参照に筆者作成
2.世界のECF市場規模が20億ドルに
日本においてもECFへの関心が高まる中、世界のECF市場は急速に拡大しています。
ケンブリッジ大学ジャッジ・ビジネス・スクールの報告「The 2nd Global Alternative Finance Market Benchmarking Report」によると、2020年の世界のECF市場規模(※中国を除く)は20億ドル(約2,940億7,432万円)に達しました。企業による資金調達法や投資家層が多様化している現在、さらなる成長が期待されています。
3.米国・英国の動向
それではここで、ECFが先行している米国と英国の動向を見てみましょう。
3-1.米国
米国における2020年のECF年間調達総額は、2016年の988%増に値する2億7,200万ドル(約399億9,680万円)規模に成長しました。市場をけん引しているのは、「Our Crowd(アワ・クラウド)」、「Wefunder(ウィーファンダー)」、「Republic(リパブリック)」、「StartEngine(スタートエンジン)」などの主要プレーヤーです。
参照:フロリダ・アトランティック大学「EQUITY CROWDFUNDING TRACKER」
米国は、規制面で厳格なスタンスをとっている国の1つでもあります。米国内でのECFは米国証券取引委員会(SEC )の監視下にあり、JOBS法(※)が適用されています。
※Jumpstart Our Business Startups Actは、2012年に成立した新規事業活性化法で、ECFが合法化された
また、投資上限は年間最大500万ドル(約7億3,536万円)、企業による調達額は年間最大100万ドル(約1億4,708万円)と定められており、SECの承認を受けた資金調達プラットフォームの利用が義務付けられています。
参照:SEC「Crowdfunding」
参照:Forbes「Equity Crowdfunding: What Is It & How Does It Work?」
3-2.英国
クラウドファンディングは英国の高成長エコシステムの柱の1つとなっており、近年は全投資取引の2割を占めています。
2021年のECF関連の国内取扱件数は537件と、過去10年で7,100%増加しています。同国の代表的なECFプラットフォームである「Seedrs(シーダーズ)」と「Crowdcube(クラウドキューブ)」の2社だけでも、それぞれ総額1億9,800万ポンド(約369億6,665万円)と1億2,600万ポンド(約235億1,726万円)の資金を調達しました。Seedrsは2022年にRepublicに買収されましたが、2023年11月現在も運営を継続しています。
米国同様、英国のECFも厳格に規制されています。英国金融行動監視機構(FCA)は500万ユーロ(約8億661万円)を超える取引に対して目録見書規則を適用しているほか、プラットフォームごとに異なる規則を課しています。
参照:Beauhurst「The State of UK Equity Crowdfunding in 2022」
4.ユニークなプラットフォーム4選
海外のECFは他にも多数あります。ここでは、ユニークな4つのプラットフォームをご紹介します。
4-1.ECFをシンプルに「Fundify(ファンディファイ)」
「Fundify(ファンディファイ)」は、米国居住者・法人が僅か1ドル(約147円)からスタートアップに投資できる、テクノロジー主導型ECFプラットフォームです。
投資家に代わり、将来有望なスタートアップに投資してくれるという仕組みなので、気軽にマイクロ投資を始めたい人でも利用しやすい点が魅力です。2023年11月29日時点では、4万3,000人を超える投資家が同プラットフォームを介して、SNSアプリ「Tribefy(トリベファイ)」などに投資しています。
参照:Fundify HP「Fundify」
4-2.動画に特化した「Angel Funding(エンジェル・ファンディング)」
「Angel Funding(エンジェル・ファンディング)」は、米国の無料動画ストリーミングサービス企業「Angel Studio(エンジェル・スタジオ)」が運営するECFプラットフォームです。映画やTVシリーズの製作プロジェクトを対象としており、中には短期間で120%のリターンを叩き出したプロジェクトもあります。
2023年11月現在、利用は国内の投資家のみに限定されています。
参照:Angel Funding HP「Angel Funding」
4-3.サステナビリティ要素を組み込んだ「Spreds(スプレッズ)」
「Spreds(スプレッズ)」は、ベルギーのECF・融資クラウドファンディング(Debt Crowdfunding:DCF)・プラットフォームです。資産規模に関わらず、「誰もが世界をより良いものへ改善するビジネスに、簡単に投資できる機会を提供する」「透明性と教育、分散投資を通じて、投資リスクの軽減を支援する」ことを目指しています。
投資家は、テクノロジーから醸造、ウェルネスまで、ECF は15万ユーロ(約2,420万円)、DCF は10万ユーロ(約1,613万円)以上の資金調達を目標とする多様なプロジェクトに投資できます。
参照:Spreds HP「Spreds」
4-4.多様なオルタナ投資ができる「Yieldstreet(イールドストリート)」
「Yieldstreet(イールドストリート)」は、アートや不動産、VC、プライベートクレジット(※)など、多様なオルタナティブ資産に投資できる米国のECFです。
※非公開で組成・交渉が行われる投資商品
最低投資額1万ドル(約147万円)、認定投資家向けの取引が中心ですが、2020年に設立された「Prism Fund(プリズム・ファンド)」は非認定投資家も利用可能です。2011年の設立以来、総額39億ドル(約5,734億円)の資金を調達しています。
参照:Spreds HP「Spreds」
参照:CNBC「Want to invest outside of the stock market? Yieldstreet lets you invest in art, real estate and more」
5.日本から海外のクラウドファンディングに投資できる?
スケールが大きく、世界中から投資家が集まる海外のクラウドファンディングは、企業にとっても投資家にとってもメリットがあります。
しかし、前述の通り、投資型クラウドファンディングは金融商品取引対象であり、国により規制が異なる点に注意が必要です。また、多くのプラットフォームは国外居住者、或いは適格投資家であることが投資条件となっています。
近年は、海外の事業やプロジェクトに投資できる日本国内のプラットフォームも増えているため、海外のプロジェクトに投資してみたい方は、そうしたプラットフォームの利用を検討してみると良いかもしれません。
6.まとめ
オルタナティブ投資やオンライン投資の需要拡大を追い風に、世界のクラウドファンディング市場は今後さらなる成長が期待できる分野です。日本においても、より幅広い層の投資家に投資のチャンスを提供する意図で、ECFプラットフォームが増加する可能性が考えられます。
しかし、一方では、「投資した企業が破たんする」「利益配当がない・時間がかかる」といったリスクもあるため、念入りなリサーチの元、長期的な視線から投資先を選ぶことが重要となるでしょう。
アレン琴子
最新記事 by アレン琴子 (全て見る)
- データセンター液体冷却技術とは?サステナブルなデータセンター・インフラ整備のカギを握る最新技術を解説 - 2024年12月10日
- 家庭・キャリアの両立の課題を解決するには?ワーク・ライフ・バランスを改善する海外スタートアップの取り組みを紹介 - 2024年12月10日
- 2025年のインパクト投資市場トレンドは?スタートアップとVCの新たな可能性を解説 - 2024年12月10日
- 次世代亜鉛電池がエネルギー貯蔵革命を起こす?再生可能エネルギーを加速する海外の最新事例も紹介 - 2024年9月25日
- トランジション・ファイナンスの現状と課題は?世界の動向とカーボンニュートラルに向けた最新事例も紹介 - 2024年9月25日