ESGとは環境(Environmental)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の頭文字をとって作られた言葉です。気候変動問題や人権問題などの世界的な社会課題が顕在化している中、企業が長期的な成長を目指す上で、ESGの観点での配慮ができていない企業は、投資家などから企業価値毀損のリスクを抱えているとみなされます。
投資の世界においてもESGの考えは浸透しています。ESGに配慮した企業に対してのみ投資をする「ESG投資」は世界的に非常に普及しています。
日本の機関投資家では、2020年9月に第一生命保険株式会社が外国株式運用のベンチマークにESG指数(MSCI ACWI ESGユニバーサル指数)を採用することを発表しました。ESG投資のさらなる高度化に向けた取り組みを行なっています。
またアセットマネジメントONE株式会社が委託会社である「グローバルESGハイクオリティ成長株式ファンド」はESG投資ファンドです。ポートフォリオ構築にあたって投資アイデアの分析・評価や個別企業の競争優位性・成長・ESGへの取り組みなどの評価に基づき選定した質の高いと考えられる企業の中から、市場価格が理論価格より割安と判断される銘柄を厳選して投資を行ないます。2022年3月時点において9,500億円程度の純資産総額となり、個人投資家が投資するファンドの中で、最も人気の商品の一つとなっています。
今回は、ESG投資で先進的な取り組みを行なっている海外金融機関の動向やESG投資を行なうにあたって使われるESGデータ・スコア等について解説します。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- ESG投資にあたってのESGデータ・スコアの活用
- 海外金融機関の具体的な取り組み
2-1.オペレーションの持続性
2-2.コミュニティの発展の援助
2-3.気候及び社会持続性に向けたソリューション - まとめ
1.ESG投資にあたってのESGデータ・スコアの活用
ESG投資にあたって投資先候補となる企業のESGに関連する取り組みについて定量的に評価する方法として、ESGスコアが活用されるケースが一般的です。ESGに関連するデータは、一般的でないデータも多く、開示する媒体も統一されていません。
ESGスコア算出は、ESGデータをアンケートや公開情報から収集及び分析するために非常に労力がかかる作業です。ESGデータの収集及び分析を外部専門機関であるESG評価機関に委託して、ESGスコアを取得しているケースが大半となります。
ESGスコアは、ESG評価機関があらかじめ定めた評価項目に沿って、企業の公開情報やアンケートから評価対象企業のESGに対する取り組み情報を収集し、各ESG評価機関のスコアリングモデルに従って算出されます。
機関投資家はESGスコアを活用して、投資意思決定プロセスや投資先への議決権行使を行なっています。たとえばGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)はESG指数へのパッシブ運用を行なっています。
ESG指数の構成銘柄やESGスコアは公表され、多くの上場企業はESG指数に自社が含まれているかどうか、ESGスコアの業界内の位置づけ等への関心が高まりました。また、日本の大手金融機関でもESG関連の重要テーマにおいて、継続的な対話を通して改善が見られないような企業の代表取締役選任に対して反対する方針を示すなど、ESGの重要性は高まっています。
2.海外金融機関の具体的な取り組み
具体的に海外金融機関がESGに対する取り組みをどのように行っているのか、JPモルガンチェースグループを例に見ていきましょう。
- オペレーションの持続性
- コミュニティの発展の援助
- 気候及び社会持続性に向けたソリューション
それぞれの取り組みについて見ていきましょう。
2-1.オペレーションの持続性
JPモルガンチェースグループは、業務上のオペレーションが及ぼす環境を最小化することが、会社全体の持続性を保つ重要な戦略の一つと考えています。
具体的な取り組みを5つ紹介します。
- 年ごとにカーボンニュートラルとなるようにオペレーションに取り組む
- 世界中の拠点で必要とされる電源供給の100%を再生可能エネルギーで補う
- スコープ1(自社及び関連企業先から直接排出されるもの)とスコープ2(購入している電気供給先から間接的に排出されるもの)に分類される温暖化ガスの排出を2017年対比で40%減少させる
- 2025年までにオンサイト(自社社員が働くオフィスビル等の電力を同敷地内で設置される再生可能エネルギーで賄うこと)の再生可能エネルギー及びオフサイト(外部)の長期契約型再生可能エネルギーで、再生可能エネルギーに関する目標の70%を達成する
- 2025年までに社用車などを電気自動車に切り替える
金融機関のビジネスの特性上、JPモルガンチェースが環境に及ぶす影響は、主に総計5500ものオフィスビルや支店及びデータセンターにおけるオペレーションから生じます。上記のような取り組みによって、世界最大級の金融機関がグローバルで業務を行う際の責任を遂行しています。
2-2.コミュニティの発展の援助
JPモルガンチェースは、関連コミュニティに投資することは、自分達のビジネスの一部であり、コミュニティの長期的な健全さは力強い経済を持続させるために重要であると考えています。
具体的な取り組みとして、1)ラテンコミュニティに100万ドルの寄付等により、新型コロナウイルスの感染拡大期の中で住宅環境の安定をサポート、2)280億ドルもの金額を、低所得者向けに一般向けの住居のための貸し出し及び投資を行なうことで、結果的に35万戸もの住居の建設に携わってきました。
新型コロナウイルスの感染拡大前から、一般向けの住居に対するアクセスは難しいものになり、富裕層との非富裕層の格差は明確でした。新型コロナウイルス感染拡大前から黒人やラテン系の人々の環境は悪化し、30%以上の収入が住居費に使用されるという状況になりました。取得可能な住居を提供することは必要不可欠になってきています。
その中で、JPモルガンチェースは、非富裕層向けの住居の普及に向けて昔からコミットしており、住宅の専門家や包括的な金融のソリューションを提供することで、コミュニティの発展に貢献してきました。
2-3.気候及び社会持続性に向けたソリューション
私たちが直面している持続的な環境に対するソリューションは、地球や世界中のコミュニティにとって非常に重要なものになっています。特に気候変動は喫緊の解決すべき課題です。ビジネスリスクとして益々捉えられるようになっていました。
JPモルガンチェースは、会社のグローバルビジネスの展開や各専門家により、ローカーボンやより包括的に持続可能な経済への移行をサポートできるソリューションの普及に向けて、第一人者として取り組んでいます。具体的には、2021年初頭から2030年末までの10年間で、気候変動に対処し、持続的な社会の発展に貢献するために2.5兆ドルもの資金を融資及び援助することを目標としています。
3.まとめ
ESGという概念は数十年前から導入されていました。気候変動もあり、ここ数年でESGへの注目が高まっています。
投資の世界においてもESGに関する取り組みをしていない企業はESG銘柄とみなされずベンチマークから除外されるような状況です。ESGを意識しない企業はESGを意識している企業と比較して株価が伸びづらくなることが考えられます。投資決定を行なう際にESGの観点から企業選定を行なってみると面白いでしょう。
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