アパート経営は30年などの長期的な運用期間になることも少なくない資産運用の方法です。長くアパート経営を行っていると、通常、経年劣化により徐々に家賃が下落していき、収益性が低下していきます。このような家賃下落に備えて、アパート経営を検討する際は家賃下落のリスクをシミュレーションしておき、堅実に経営を継続できるかどうか投資判断をしていくことが大切です。
この記事では家賃の下落の傾向や家賃相場の調べ方、物件管理に強いアパート会社を紹介します。家賃下落を抑えたアパート経営を考えるうえで、本記事を参考にしてください。
目次
- アパートの家賃の経年に伴う下落率は?
- 家賃相場の調べ方とは?
2-1.不動産ポータルサイトで調べる
2-2.不動産会社などのレポートを参考にする
2-3.仲介会社・管理会社に聞き込みを行う - 家賃の下落を抑える工夫とは?
3-1.耐久性の高い物件で運用する
3-2.設備の充実した物件で運用する
3-3.計画的な大規模更新で品質を維持
3-4.賃貸需要が見込める地域でアパート経営をする - 家賃下落・管理に強いアパート会社
4-1.シノケンプロデュース
4-2.アイケンジャパン - まとめ
1 アパートの家賃の経年に伴う下落率は?
アパートは経年劣化に伴い年数と共に家賃が下落する傾向にあります。ただし、その下落率は市場環境や立地、時期などにより異なるため、一概に「何年で何%下落する」と決まっているものではありません。今回は、二つのレポートをもとにアパートの下落率を紹介します。
一つめは、2013年に公表された三井住友トラスト「経年劣化が住宅賃料に与える影響とその理由」です。こちらでは、築年数ごとに1年あたりの下落率をアットホーム社の当時のデータを用いてシミュレーションしています。
これによると、築0年~築2年ほどは家賃が微増する結果となっています。単身者向け物件(シングル)の場合で新築が100に対して103となります。その後築10年くらいまでは下落スピードが早く、その後20年くらいまでが緩やかに下落し、その後はほぼ横ばいという結果です。
単身者向け物件の新築家賃=100としたときの家賃水準の推移
- 新築|100
- 築2年|103
- 築10年|89
- 築20年|83
- 築24年|83
出所:三井住友トラスト「経年劣化が住宅賃料に与える影響とその理由」
これによると、最初の10年間で新築時の家賃から11%下落し、さらに20年までに17%下落するという計算です。1年あたりで換算すると最初の10年が平均1.16%、次の10年間が平均0.70%下落していく計算となります。
もう少し最近の検証として、総務省統計局物価統計室による「借家家賃の経年変化について-消費者物価指数における家賃の品質調整に関する調査研究-」というレポートがあります。こちらは平成30年に実施されたものです。
統計学を用いて、1年あたりの家賃の下落率を回帰分析にて算出したものです。なお、全国の住宅を検証対象としています。
これによると、2017年時点での木造共同住宅(いわゆる木造アパート)の1年あたりの経年による家賃下落率は平均で-0.8%です。なお、RC造りなどが含まれる非木造の場合は-0.66%となっています。
以上の先行事例をふまえると、家賃の1年あたりの下落率は概ね0.7%~1.1%程度、木造アパートの場合は平均すると0.8%程度と考えられます。さらに、築浅~10年程度の期間は家賃の下落率が加速する可能性があります。
出所:三井住友トラスト「経年劣化が住宅賃料に与える影響とその理由」、総務省統計局物価統計室「借家家賃の経年変化について-消費者物価指数における家賃の品質調整に関する調査研究-」
2 家賃相場の調べ方とは?
家賃相場は2024年現在において、不動産取引価格と比べて個人が容易に入手できるデータが乏しいのが特徴です。
たとえば、不動産取引価格であれば、国土交通省がリリースした「不動産情報ライブラリ」で特定地域の過去の取引情報のデータセットが入手できますが、いまのところそのようなデータソースはありません。
そのため、基本的には不動産ポータルサイトで情報収集をするか、不動産会社などが公表している統計・レポートに頼る必要があります。
2-1 不動産ポータルサイトで調べる
いま借りることのできる物件の賃料を調べるなら、SUUMOなどの不動産ポータルサイトを利用するのが一つの方法です。現代のポータルサイトは利便性が高く、地域や最寄り駅からの徒歩での所用時間、築年数や間取りなど細かい条件で物件候補の家賃をみることができます。
自分が建てようとしている、もしくは運営しているアパートに近い条件を入力すれば、適切な物件の家賃水準を確認できるでしょう。
これらのポータルサイトは、本来は「物件を借りようとしている人」向けのものです。そのため、データをダウンロードして独自に集計・分析しやすい仕組みにはなっていません。
検索範囲が広いとヒット数が膨大になり、全ての情報を見切れない可能性が高いでしょう。自分が保有している、もしくはこれから保有予定のアパートの条件に近い形で具体的に絞り込んで、情報量を減らして確認するのが有効な方法といえます。
2-2 不動産会社などのレポートを参考にする
いくつかの不動産関連事業者が、定期的に家賃相場に関するレポートを公開しています。たとえば、アットホームでは「『定期借家物件』の募集家賃動向」を定期的に調査して、公表しています。こうしたレポートは、全国や都市・エリア単位など大きな範囲での家賃相場を集計しているケースが多く、歴年ごとの変化、築年数や物件構造別の相場など、個人では集計が難しい視点での相場も公表しています。
家賃の相場観を掴むうえでは、こうしたレポートや調査資料を参考にするのが有効です。一方で、細かい地域の動向を見るには不向きなので、不動産ポータルサイトから確認できる現在の家賃水準の情報と組合わせて活用しましょう。
2-3.仲介会社・管理会社に聞き込みを行う
実際に運用を検討している物件がある段階では、仲介会社・管理会社に聞き込み調査を行うことも有効です。仲介会社・管理会社では、実際に入居付けを事業として行っていることから周辺エリアの賃料相場についても詳しく、入居者から選ばれやすい間取りや設備、エリアなどの情報も調べることが可能です。
注意点としては、仲介会社・管理会社は無償で情報提供することになってしまうため、必ずしも対応してもらえるとは限らないということです。将来的に仲介や物件管理を委託する可能性があるといった段階であればスムーズに対応してもらえることもあるため、相手方にもメリットがあるような提案ができるように準備してから、聞き込み調査を行っていきましょう。
3 家賃の下落を抑える工夫とは?
経年に伴う家賃の下落を完全に止めることはできませんが、市場平均と比べて下落を緩やかにする余地はあります。次に紹介する方法を実践して、可能な限り家賃を維持しましょう。
3-1 耐久性の高い物件で運用する
経年と共に家賃が下がる大きな理由の一つは「建物は経年と共に劣化していく」ことが前提となっているためです。建物が劣化すれば住居環境が悪化し、耐震性などの面で災害に対するリスクも脆弱になる可能性があります。
裏を返すと、耐久性の高い物件は経年の影響を抑えられるため、資産価値が維持されやすいといえます。たとえば、耐震面の対策については、高い耐震性能を持ったアパートで賃貸経営を行う方法も検討できます。高い耐震等級をクリアしている物件は、木造・RC造りにかかわらず、年数が経っても高い安全性を保った賃貸経営が可能です。
3-2 設備の充実した物件で運用する
設備が最新鋭で充実した物件を選ぶのも有効な手段の一つです。経年と共に家賃が下がる要因として、設備が時代遅れとなって新しい物件として居住性が下がることもあります。
その時々において人気の設備や最新鋭の設備を積極的に導入すれば、経年による競争力の低下を抑えられるでしょう。新築当時の設備に気を配るだけでなく、リフォームの際などに設備をそのときの最新のものにアップデートするのも有効です。
3-3 計画的な大規模更新で品質を維持
建物の経年劣化を食い止めるうえでは、適切な大規模更新を計画的に行っていくことが大切です。いたずらにコストを削減せずに、外観や居住性を維持するうえで必要な修繕を行う必要があります。
経年劣化が本格化してきたら、リノベーション・リフォームを一新して快適に暮らせる内装に作り変えるのも有効です。賃貸経営の期間中も、経年劣化による影響を抑えるうえで必要な対策を進めましょう。
修繕やリフォームはまとまった資金が必要になるため、経営開始前から計画を建てておいて、必要資金を貯めておくことも必要です。
3-4 賃貸需要が見込める地域でアパート経営をする
家賃の下落を抑えるうえでは、立地選びも重要です。賃貸需要が旺盛で、競合物件が需要に対して少ない地域は、年数が経っても賃貸需要を獲得しやすく、家賃の下落を抑えやすくなります。反対に需要が乏しい地域は空室が増えてしまうため、競争力の面で不利になりやすい築古物件は家賃下落リスクが高まります。
また、賃貸需要・人口動態を検証する際は現在の動向だけでなく、将来の動向も加味して立地を選ぶ必要があります。物件の年数が経過する中、人口減少が想定される地域では需要の減退によりさらに賃料が下落しやすくなるためです。将来も人口流入が期待でき、賃貸需要が旺盛と期待される地域を選びましょう。
4 家賃下落・管理に強いアパート会社
シノケンプロデュース、アイケンジャパンはどちらもデザイン性と居住性に優れたアパートを開発・販売してきた不動産会社です。それぞれ詳しくご紹介します。
4-1 シノケンプロデュース
シノケンプロデュースは、土地の選定から企画、設計、施工、引き渡し後の賃貸管理まで一貫したサービスを提供するアパート建築会社です。一般投資家向け賃貸住宅経営のパイオニアとしても知られており、アパート供給棟数は自社施工で7,000棟を超えています。「賃貸住宅に強い建築会社ランキング」(全国賃貸住宅新聞)の「年間アパート開発棟数部門」では、9年連続No.1の実績があります。
2023年3月末時点で、グループ会社のシノケンファシリティーズがの管理戸数は47,000戸以上(2023年12月末時点)、入居率98.56% (2023年年間平均入居率)となっています。このような入居率の高さは、5,000店舗以上(2024年5月時点)の仲介業者と提携し、良好な関係を築いていることも要因の一つです。
資産性の高い「ハーモニーテラス」を好立地で開発・販売
シノケンでは、土地を自社で探して入手し、その場所に自社開発のアパートを新築して販売します。土地は将来にわたり賃貸需要が期待できる好立地を厳選しているため、土地なしからでも安心してアパート経営を始められます。
また、シノケンの現在の基幹ブランド「ハーモニーテラス」は、デザイン性と居住性の双方にこだわった建物です。競争力を維持して将来にわたって賃料水準を維持しやすい物件といえます。
デザインでは「ヨーロッパに見られる高級列車の客室をイメージさせるようなワンランク上の居住性」を追求し、入居者からの高評価、高稼働率を実現してきました。
さらに、機能についてもその時々の人気の設備を標準設定として開発しています。最近では全ての物件にIoTを導入して、スマートフォンで空調・照明や施錠・解錠を操作できる機能を有しています。
物件管理も対応可能
シノケンでは自社が販売した物件の管理も行なっています。近年の入居率は平均で99%以上と、空室リスクを抑えて健全な経営を実現しているのが特徴です。物件管理では清掃や入退去者の管理、家賃徴収などあらゆるアパート管理業務を一任してくれます。
さらに、シノケンではサブリース契約も行なっています。空室の有無に関わらず原則として一定期間にわたって同額の賃料が手に入るため、空室リスクの影響の抑制効果が期待できます。
シノケンのアパートの耐震性に関する取り組み・実績
- 創業以降に自社施工したアパート約7,000棟のうち、倒壊・半壊・液状化による倒壊被害はゼロ
- 耐震構造に制震装置をプラスすることで、地震の揺れを吸収・制御することで最大60%軽減
- 制振装置により建物の倒壊、壁などの損傷も抑えることができる
- 建物の復元力が高いため繰り返す余震に効果的
4-2 アイケンジャパン
アイケンジャパンは、「堅実なアパート経営」をモットーに「グランティック」「レガリスト」などのアパートブランドを全国で展開する不動産会社です。2023年12月末時点で、アパート開発棟数1257棟の実績があります。
賃貸管理の実績として9,136戸(2023年12月時点)の管理を行っており、入居率99.3%(2023年年間実績)となっています。オーナーの負担が大きく、効果が一時的なフリーレントや家賃の値下げを行わずに高い入居率を維持しているのも特徴です。
好立地・高品質な物件を供給
アイケンジャパンは、土地の取得から自社で行う不動産会社です。原則として駅から徒歩15分以内の利便性の高い場所から、賃貸需要が期待できる優良な土地を厳選して仕入れ、防音性や遮音性、セキュリティ性にも配慮した高品質なアパートを開発します。
たとえば、各住戸間を水廻りで仕切って、さらに角部屋にすることにより、防音効果を高めています。オートロックの導入や内廊下構造により防犯性の向上を実現させています。物件に入ったあとに雨風をしのげるのも特徴です。また、建物の裏などにはライトを設置して死角をなくしています。
デザイン性とセキュリティ性に細部までこだわって「シンプルかつ高級感」があるデザインで「住み心地のよいアパート」を追求しているのが特徴です。
物件管理は24時間体制で入居者のサポートが可能
物件管理においては、24時間体制で入居者のサポートが可能です。入退去者の管理や家賃回収、清掃や定期的なメンテナンスなどアパート経営をフルサポートしています。トラブル処理や近隣住民との意見調査などにより、入居者トラブルへの対策も万全です。
管理物件の入居率99.3%(2023年年間実績)と高く、空室リスクを抑えたアパート経営が期待できます。空室リスクの抑制は、賃料下落の抑制や収益性の維持にもつながっています。
アイケンジャパンのアパートの耐震性に関する取り組み・実績
- キソゴムにより地震による建物の揺れを最大30%~50%軽減
- 地震時の横揺れ、台風時の横からの強風などに耐えられるように、変形に抵抗するための耐力壁を多く使用
- 建築基準法で定められている基準の約1.3倍の強度
5 まとめ
アパート経営において、家賃の下落は重要なリスクの一つです。過去の統計によると、1年あたりで1%前後の家賃下落が想定されます。
経年による家賃下落を、完全に食い止めるのは困難です。一方で、立地や物件選びの工夫、適切な物件管理を通じて、家賃の下落を抑えるのが堅実なアパート経営におけるポイントの一つといえます。
伊藤 圭佑
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