マンション投資で物件を選ぼうとする場合、どのような点に注意したら良いのかは、誰もが悩む問題であると思われます。そして、数ある注意点の中で、「利回り」という用語が頻繁に使用され、複数の物件を比較する際の重要な判断基準とされています。しかし、利回りは、計算方法の違いにより結果が異なってくるため、戸惑う方も少なくありません。
本記事では「そもそも利回りとはなにか」「なぜNOI利回りが重要なのか」などについて解説します。さらに、物件選定におけるおすすめ活用法や注意事項もご紹介します。
- 利回りとは
- NOI利回りの活用事例と重要性
2-1.表面利回りとNOI利回りとの比較
2-2.NOI利回りの重要性
2-3.NOI利回りの注意点
2-4.物件選びとNOI利回りの活用 - まとめ
1.利回りとは
はじめに、利回りの定義およびその計算方法について見ていきます。
1-1.表面利回りとは
利回りとは、投下資金に対する収益の割合をあらわすものです。賃貸用不動産では「物件購入価格に対する年間家賃収入の割合」です。計算式は次のとおりです。利回りは「表面利回り」とも呼ばれています。
表面利回り=1年間の家賃収入÷不動産の購入価格×100
なお1年間の家賃収入は、「満室状態」での収入を想定しています。投資用不動産の購入にあたり、広告や業者の説明などに出てくる利回りは、通常、表面利回りを指しています。
ところで、表面利回りは、不動産の収益性を的確にあらわしているといえるのでしょうか。
賃貸用不動産では、満室状態が永久に続くことはほぼありません。また最終的な収益は家賃収入から維持管理費などの支出を差し引いて求めます。さらに、物件購入にかかる投下資金は物件自体の価格だけを指すのではなく、諸経費も含めた金額となります。
したがって、表面利回りだけでは、「不動産収益の実態を正確に把握することが難しい」と言われています。
1-2.NOI利回りとは
そこで参考になるのが「NOI(Net Operating Income=ネット・オペレーティング・インカム)」と呼ばれるもので、営業純利益を意味しています。
NOIは、満室状態での想定家賃収入に空室となる比率を加味し、さらに維持管理費などの支出を差し引いたあとの実質的な収益をあらわすことができます。
したがって、不動産の収益性を実態に即してみると次のような計算式になります。
NOI利回り={1年間の満室家賃収入×(1-空室率)-1年間の維持管理経費)}÷(不動産の購入価格+不動産の購入にかかる諸経費)×100
この実質的な利回りが、「NOI利回り」または、「ネット利回り」「純利回り」などといわれています。NOI利回りは、投下資金に対する収益の割合をより具体的にあらわすことができます。
なお、空室率は、不動産の「特定時点での空室率(空室戸数÷全体戸数)」や、「年間の空室率{(空室戸数×空室期間)÷(全体戸数×365日)}」を使うことが多いようです。
また、1年間の維持管理費には、年間の固定資産税や管理会社に支払う管理費、建物や部屋・設備の修繕費用、火災保険料、マンション共用部の光熱水費、入居者募集・契約や退居にかかる費用などが含まれます。
しかし、減価償却費や住宅ローン金利は含まれません。減価償却費は定率法・定額法などの選択次第で数値が変動し、また、住宅ローンの金利はローンを借りる人と借りない人とで計上の有無が異なってくるためです。このような不確定要素を含めないことで、NOI利回りでは、不動産自体の客観的・現実的な収益性が数値化されるといわれています。
一方、不動産の購入にかかる諸経費には、不動産取得税や仲介手数料、登記費用などが含まれます。
NOI利回りで考慮する空室率、諸経費
空室率 | 特定時点での空室率:空室戸数÷全体戸数 |
年間の空室率:「空室戸数×空室期間」÷「全体戸数×365日」/td> | |
物件維持管理経費 | 固定資産税、管理費、設備修繕費用、火災保険料、マンション共用部の光熱水費、入居者募集費用、退去費用 |
購入諸経費 | 不動産取得税、仲介手数料、登記費用/td> |
2.NOI利回りの活用事例と重要性
ここでは、事例を使い、NOI利回りの具体的な計算を行います。さらに、NOI利回りの活用法や重要性、NOI利回りを使う場合の注意点について見ていきます。
2-1.表面利回りとNOI利回りとの比較
以下に賃貸用不動産の投資事例をあげています。投資先の候補として、AとBの2物件があると仮定します。
事例1
計算項目 | A物件 | B物件 |
---|---|---|
1年間の満室家賃収入 | 250万円 | 280万円 |
1年間の維持管理経費 | 35万円 | 40万円 |
購入価格 | 2500万円 | 3000万円 |
購入にかかる諸経費 | 200万円 | 250万円 |
空室率 | 30% | 10% |
この数値をそれぞれ前述の計算式に入れ、表面利回りおよびNOI利回りを求めると、次のようになります。
表面利回り
・A物件
1年間の満室家賃収入250万円÷不動産の購入価格2500万円×100=10.0(%)
・B物件
1年間の満室家賃収入280万円÷不動産の購入価格3000万円×100≒9.3(%)
NOI利回り
・A物件
{1年間の満室家賃収入250万円×(1-空室率0.3)-1年間の維持管理経費35万円}÷(不動産の購入価格2500万円+不動産の購入にかかる諸経費200万円)×100≒5.2(%)
・B物件
{1年間の満室家賃収入280万円×(1-空室率0.1)-1年間の維持管理経費40万円}÷(不動産の購入価格3000万円+不動産の購入にかかる諸経費250万円)×100≒6.5(%)
それぞれの表面利回り、NOI利回りをまとめると次のようになります。
計算項目 | A物件 | B物件 |
---|---|---|
表面利回り | 10.0% | 9.3% |
NOI利回り | 5.2% | 6.5% |
まず、両物件の表面利回りで比べると、A物件は10.0%、B物件は9.3%となっており、A物件の方が有利にみえます。これは、A物件の購入価格がB物件よりも500万円安いことによる影響が大きいからと考えられます。利回りをよくするためには、購入価格を下げることが効果的ということが数字からもわかります。
次に、NOI利回りで比べてみると、A物件は5.2%、B物件は6.5%となっており、逆にB物件が有利になってしまいました。1年間の維持管理経費および不動産の購入にかかる諸経費の両項目ともにB物件のほうが多いにもかかわらず、NOI利回りが有利になった理由は、空室率にあると推測できます。
空室率はA物件の30%に対してB物件は10%となっており、B物件のほうが空室は少ない物件ということが予想できます。このため、表面利回りではA物件が有利でも、NOI利回りで比べるとB物件のほうが「収益性に期待が持てる」結果となりました。
2-2.NOI利回りの重要性
前述の事例では、表面利回りで有利にみえる物件が、NOI利回りでみると不利となってしまいました。投資用不動産を購入するときは、専門の不動産仲介業者に頼るのが一般的です。業者側は仲介実績を上げたいという事情から、候補の物件を少しでも有利にみせるため、よく表面利回りを使用します。
そのため、物件を選ぶときは表面上の数字に惑わされることなく、できるだけ候補物件の実態に近い数値を算出する必要があります。NOI利回りを積極的に活用し、その結果をみて総合的に判断していくことが望ましいといえます。
2-3.NOI利回りの注意点
NOI利回りを活用する場合に気をつけたいのは、それを算出するための基礎となる項目のデータを細かく調べなければならないということです。
「実質」なのに「想定」?
1年間の満室家賃収入や空室率は、中古物件の場合、所有者から情報を得ることができます。しかし新築物件の場合は、過去の実績がないため、数字を想定するしかありません。
さらに、1年間の維持管理経費にかかる項目は多くあり、細かく調べ上げようとすると相当の労力が必要です。また、建物や部屋・設備の修繕費用などは年によって大きく変動する可能性があるため、やはりある程度は想定値となってしまいます。
このように、本来は不動産収益の実態に近づけるはずのNOI利回りは、その算出が手間なうえ、計算の基礎に想定値が入ってしまうということを念頭に置く必要があります。
将来性や発展性は反映されていない
NOI利回りを算出するためには、過去の実績数値を参考にせざるを得ないわけですが、このことから生じる課題もみえてきます。それは、中古物件では過去や現在の空室率を算出基礎とするため、立地エリアの将来性や発展性という、「将来に向かっての要素が反映されづらい」ということです。立地エリアの将来性や発展性などの要素は、物件の魅力に直接結びつき、入居者募集や空室率に反映される可能性が高いといえます。
このことから、将来の募集や空室率に影響を及ぼしそうな要素は、NOI利回りとは別の視点で検討して、判断材料に入れておく必要があります。
物件選びではNOI利回りだけに頼るのではなく、総合的な視点で調査・判断していかなければならないと考えられます。
2-4.物件選びとNOI利回りの活用
前述の事例では、表面利回りやNOI利回りの数値に大きく影響を及ぼした項目は、物件購入価格と空室率でした。したがって、実際の物件選びにおいても、この2項目を中心に着眼していくことが重要と思われます。
廉価物件ばかりに注目してはダメ
物件購入価格は数字自体が大きいため、その金額の差はNOI利回りの数値結果に大きく影響します。そのため気をつけたいのは、NOI利回りを重視するあまり「購入価格が廉価であることを最優先にしてしまう」ことです。立地エリアや建物・部屋の魅力度を犠牲にして、期待値の低い物件を購入しないよう注意が必要です。
立地エリアや建物・部屋の魅力度を犠牲にすると、将来の空室率増加につながりかねません。実際に賃貸が稼働したあとのNOI利回りはあまり期待できないものになる可能性があるといえます。
同等な条件の物件同士であれば価格の低いほうを優先すべきだと思われますが、不動産の物件選びはNOI利回りを比較したうえで、立地エリアや建物・部屋の魅力度も総合的にみて判断することが必要です。
今後は空室対策が重要
国土交通省が公表した「建築着工統計調査」によると、平成28年の全国貸家総数は41万8,543戸で前年比 10.5%増、5年連続の増加となっています。人口減少社会を迎えるなかで、賃貸住宅は供給過剰の傾向にあるともいわれており、今後の不動産投資では、空室対策が重要な課題になると考えられます。立地エリアや建物・部屋の魅力度などの重要性が今後高まり、将来の空室率の増加を防ぐポイントになる可能性が高いと思われます。
また、物件購入価格や空室率以外の項目では、1年間の維持管理経費が新築と中古の物件では大きく異なります。中古物件は新築に比べて建物や部屋・設備の修繕費用が膨らみやすいことは、念頭に入れておく必要があります。
3.まとめ
これまで不動産投資における利回りの意味や活用方法についてみてきました。
物件選定の際には、表面上の数字のみではなく、できるだけ物件の実態を把握できる客観的な数値データを使うことが大切です。
そのため、NOI利回りを積極的に活用していくとともに、立地エリアの将来性や建物・部屋の魅力度なども加味したうえで総合的に判断し、物件を選別していくことが重要だと考えられます。
HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム
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