マンションを売却した後に「確定申告が必要な場合」と「そうでない場合」があるのをご存知でしょうか。確定申告とは、1年間で得た所得を税務署に申告する制度であり、申告しなかった場合、相応のペナルティが課される場合があります。
この記事では個人がマンションを売却した後の確定申告の手順や必要書類一式、注意したいポイントについてまとめました。マンション売却を検討している方や、確定申告がよくわからないという方は、参考にしてみてください。
目次
- 確定申告とは
1-1.確定申告は課税標準と税額を申告する作業
1-2.確定申告により税額の増減が決定する
1-3.確定申告をしなかった場合のペナルティは? - マンション売却で確定申告が必要なケース・不要なケース
2-1.確定申告が必要な場合
2-2.確定申告が不要な場合
2-3.マイホームを売った時の特例について - マンション売却後の確定申告と必要書類
3-1.マンション売却時の書類を用意する
3-2.マンション取得時の書類も揃える
3-3.確定申告書を入手する
3-4.譲渡所得、課税譲渡所得、税額を計算する
3-5.確定申告書を作成して提出する - 確定申告する際の注意点
4-1.取得費を求める際の減価償却費について
4-2.譲渡所得を求める際の注意点
4-3.譲渡所得税率は所有期間で変わる
4-4.確定申告書を郵送するとき - まとめ
1 確定申告とは
日本では所得を得た場合、所得に応じた所得税と住民税を納めなければなりません。会社員の場合、基本的に所得税と住民税は給与から天引きされているため、確定申告を行ったことがないという方も多くいます。
1-1 確定申告は「課税標準」と「税額」を申告する作業
確定申告とは、毎年1月1日から12月31日までに得た収入と、それに要した経費などを計算して課税所得を算出し、その金額に応じた所得税額を申告する作業です。課税標準とは支払う税金の算出元となる基準です。課税標準をもとに最終的に納めるべき「税額」を申告することになります。
確定申告をする時期は、毎年2月中旬〜3月中旬の1カ月間で、2019年は2月18日(月)〜3月15日(金)でした。
1-2 確定申告により税額の増減が決定する
確定申告の目的は、前年の所得を正確に算出して税務署に申告することです。会社員の場合、前年末までに年末調整を行い、最終的な所得税額を計算して精算を行います。
支払った保険料などを控除し、課税所得(収入から経費を引いたもの)が少なくなれば、所得税も下がるので天引きされた税金との差額を還付してもらえます。もし年末調整を提出しなければ、自分で確定申告をしてその還付を受ける手続きをしなければなりません。
また年間10万円を超える医療費を支払っている場合にも、医療費控除というものが発生します。医療費控除は、年末調整ではなく確定申告が必要ですが、課税所得が下がるので税金の還付を受けられます。
一方、給与以外に収入を得ていた場合でも原則として確定申告で申告しなければなりません。課税所得が増えた場合には、前年に天引きされた税金よりも支払うべき税額は増えます。そして、天引きされた税金との差額をあらためて納付する必要があります。つまり、確定申告で不足分の税額を申告した時点で、それを納付するという義務が生じるというわけです。
このように、確定申告をすることで税金の還付を受けられるか、あるいは逆に納税額が増えるケースがあるということを留意しておきましょう。
1-3 確定申告をしなかった場合のペナルティは?
個人がどれほど保険や医療費にお金を支払っているのか、あるいは会社の給与以外に収入を得ているのかは税務署も会社も把握していません。
そのため、わざわざ追加で税金を納める申告をしなくてもいいのではないか、と疑問に感じる方もいると思いますが、実は税務署が「お金の流れ」を把握する手段はひとつではありません。個人の銀行口座のほか、現金で収入を得ていた場合でもそれを支払う立場の人あるいは会社からなど、様々な形で情報が伝わります。
確定申告をしていないことが判明すれば、相当額のペナルティを課せられます。無申告の加算税や延滞税など、場合によっては50%以上も納める税金が増える可能性もあります。
2 不動産売却で確定申告が必要なケース・不要なケース
マンションなどの不動産を売却したあとは、確定申告が必要な場合とそうでない場合があります。
2-1 確定申告が必要な場合
マンションなどの不動産を売却した時に、購入時よりも高く売れたなど「譲渡益」が生じれば課税されます。譲渡益とは、不動産を売却することによって発生した利益のことで、確定申告の対象になります。
「買った時よりも安く売却すれば利益は出ないから、確定申告をしなくてもいいのでは」と疑問に思う方もいるかもしれませんが、実際の計算はそれほど単純ではありません(詳しくは「4-1 減価償却費の計上」で後述します)。
譲渡益が発生するのか、あるいは特例(マイホーム売却の特例など)によって税金が少なくなるのか、税金が発生しないのか・還付を受けられるのか、などは実際に計算してみないと判明しないのです。
2-2 確定申告が不要な場合
不動産を売却して譲渡益が発生するかどうかを計算した結果、納税すべき税金が発生しないか、あるいは税金の還付もないと判明した場合には、確定申告をする必要はありません。
このとき注意が必要なのは、計算して譲渡益がマイナスになったとしても、特例で税金の還付を受けられるかどうかをチェックしておく必要があることです。この場合、確定申告をしなくてもペナルティは発生しませんが、税金の還付が受けられるのなら面倒でも確定申告をすることをおすすめします。
2-3 マイホームを売った時の特例について
マイホームを売却した時には、下記の特例を利用することが可能です。確定申告をする必要があるか否かを判断するためにも、利用できる特例について知っておきましょう(※マイホームの定義は、現在住んでいるか、居住しなくなってから3年を経過する日の属する年の年末までに売却した不動産となります)。
①3,000万円特別控除
所有期間に関係なく、マイホームの譲渡所得から3,000万円を控除できるという特例です。
②10年超所有軽減税率
所有期間が10年を超えるマイホームを売却した時に、所得税率が10.21%と住民税率が4%になる特例です。なお①との併用はできません。
③特定居住用財産の買換え特例
所有期間が10年を超えるマイホームを売却し、新居を買い換えで取得した時に適用される特例です。
買い換え代金が売却代金以上となる場合、譲渡益の課税は繰り延べることができます。譲渡代金が買い換え代金よりも大きい場合、買い換え代金額に相当する課税は繰り延べられ、譲渡代金・買い換え代金との差額には長期譲渡の所得税・住民税がかかります。
④ 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算および繰越控除
⑤ 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算および繰越控除
④、⑤は給与所得などと損益通算をしても引ききれない譲渡損がある場合、損益通算をした翌年以後3年間、給与所得などから繰越控除することができます。また、③④⑤は、2019年12月31日までに売却したものに適用されます。
3 マンション売却後の確定申告と必要書類
マンション売却後の具体的な確定申告の流れと、必要となる書類一式を解説します。
3-1 マンション売却時の書類を用意する
まずはマンション売却時に要した以下書類の写しなどを用意します。
- 売買契約書の写し
- 売買代金受取書の写し
- 固定資産税精算書の写し
- 増改築時の請負契約書・領収書の写し
- 仲介手数料などの領収書
- 不動産登記事項証明書
- 住宅借入金などの残高証明書※
- 登記費用などの諸費用の領収書
- 売却した土地・建物の全部事項証明書
(※ローンを完済していない場合、売却金額で残金をすべて返済できることを確認するため)
領収書のコピーは譲渡費用に算入する金額を算出するために必要となります。
次に、各特例の申告時に必要な書類は次の通りです。
【3,000万円の特別控除】
- 戸籍の附票など(居住していたことを証明するため)
【10年超所有軽減税率の特例】
- 戸籍の附票など(居住していたことを証明するため)
【特定居住用財産の買換え特例】
- 戸籍の附票など(10年以上居住していたことを証明するため)
- 新居の土地・建物の全部事項証明書
- 耐震基準適合証明書(築年数基準を超えた建物の場合)
- 建設住宅性能評価書(築年数基準を超えた建物の場合)
- 保険加入証明書等(築年数基準を超えた建物の場合)
- 買換(代替)資産の明細書
【居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算および繰越控除】
- 買換え取得資産(新居)の資料
- 新居の土地・建物の全部事項証明書
- 新居の借入金残高証明書(年末時点)
- 居住用財産の譲渡損失の金額の明細書
- 居住用財産の譲渡損失の損益通算および繰越控除の対象となる金額の計算書
【特定居住用財産の譲渡損失の損益通算および繰越控除】
- 戸籍の附票など(居住していたことを証明するため)
- 譲渡資産の借入金残高証明書(売買契約日前日時点)
- 特定居住用財産の譲渡損失の金額の明細書
- 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算および繰越控除の対象となる金額の計算書
3-2 マンション取得時の書類も揃える
売却するマンションなどの不動産を取得した時の情報が必要になるため、取得時の書類も揃えておきます。売買契約書のコピーや仲介手数料などの領収書コピー、固定資産税の精算書などが必要です。
3-3 確定申告書を入手する
確定申告書を作成するために必要な書類は次の通りです。
- 確定申告書B
- 申告書第三表(分離課税用)
- 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表と計算明細書)
上記書類はどの税務署でも同じものを配布しています。近場に税務署がなければ、電話で取り寄せの依頼をすると郵送してもらえます。あるいは国税庁のホームページからダウンロードすることもできます。
3-4 譲渡所得、課税譲渡所得、税額を計算する
不動産売却時の書類と確定申告書を揃えたら、税額の計算を行います。まずは譲渡所得を算出するため、譲渡収入金額・取得費・譲渡費用を計算します。そして譲渡所得から特別控除を差し引いて課税譲渡所得を求め、それに税率をかけます。
- 譲渡所得=譲渡収入金額-(取得費+譲渡費用)
- 課税譲渡所得=譲渡所得-特別控除
- 税額=課税譲渡所得×税率(所得税・住民税)
取得費については、もし購入時の金額がわからなければ「概算法」で計算することができます。計算式は、「譲渡収入金額×5%」です。なお不動産譲渡益の税金は、給与所得などとは別に計算する「分離課税」となります。
3-5 確定申告書を作成して提出する
確定申告書に各数字を記入して作成し、税務署へ提出します。直接税務署に持ち込めば、その場で控えをもらえます。
所得税の納税は、税務署に置いてある納付書に必要事項と税額を記入し、その場で行うことができます。後日に納付するのであれば、確定申告の期限内に行わなければなりません。もし一括での納付が難しいという場合には、徴収課に分割納税を相談しましょう。
4 確定申告する際の注意点
不動産売却に伴う確定申告における注意点をいくつかご紹介します。
4-1 取得費を求める際の減価償却費について
譲渡益を求める際には、単純に購入金額から売却金額を引いた額で計算するわけではないと前述しました。譲渡益の計算では減価償却費を考慮する必要があります。
不動産の建物・設備は年数の経過によって、その価値が劣化により減少していきます。売却金額もその価値の減少に応じた金額になるべきという考えにより、不動産の取得費も年数に応じて減少することになります。そこで購入金額から価値が減少した分を、減価償却費として差し引きます。
取得費=購入金額-減価償却費
なお、居住用の不動産の減価償却費の計算は次の通りです。
建物購入金額×0.9×償却率×経過年数
さらに、償却率は建物の構造によって次のように異なります。
- 木造 0.031
- 軽量鉄骨 0.025
- 鉄筋コンクリート 0.015
4-2 譲渡所得を求める際の注意点
譲渡所得を計算する時の譲渡収入金額については、不動産の売却による譲渡代金のほかに、固定資産税と都市計画税の精算金も加えることに注意が必要です。
固定資産税・都市計画税は、1月1日時点の所有者に対して課税されます。年の途中で売買により所有者が変わった場合には、新しい所有者が元の所有者の支払った税額を日割りで負担するというのが慣習となっています。そのため不動産の売却時には、引き渡し後に買主から日割で精算金を受け取ることになります。これも譲渡所得に算入するのを忘れないようにします。
4-3 譲渡所得税率は所有期間で変わる
譲渡所得税は譲渡所得金額に税率をかけて算出しますが、税率は不動産の用途と所有期間によって変わります。例えばマンションなどを居住用で所有していた場合、税率は次のようになります。
- 5年以下 39.63%(所得税30.53% 住民税9%)
- 5年超 20.32%(所得税15.315% 住民税5%)
4-4 確定申告書を郵送するとき
確定申告書を税務署に直接提出せずに郵送する場合には、控えを送ってもらうための返信用封筒も入れておきます。これが無いと税務署の印を押した控えを送ってもらえないからです。自分で複写の控えを手元に残しておいても、税務署の印がなければ有効とならないため注意しましょう。
5 まとめ
マンション売却時の譲渡所得が発生したら、確定申告をスムーズに終わらせるためにも、まずは各種書類の準備に取り掛かりましょう。なお、譲渡所得や税額を求める計算がわからない場合は、税理士に相談するのもおすすめです。
また、譲渡所得がマイナスになった時でも、すでに天引きされた税金が戻ることがあるため、忘れずに確定申告をすることが大切です。
なお、確定申告の手続きが自分だけでは難しいと感じる場合、不動産仲介大手の東急リバブルのように、売却にあたって弁護士による無料法律相談、税理士などによる無料税務相談なども利用することができる会社もありますので、離婚・相続など法律上の権利関係でお困りの場合や、売却後の税金(譲渡所得税など)、住み替え時の住宅ローン減税などについてもお悩みの方は相談を検討されてみて下さい。
HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム
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