ロシアのウクライナ侵攻は、ウクライナ国内への生活だけでなく世界経済、とりわけ新興国市場に大きな影響を与えそうだ。資産運用大手シュローダーの分析レポートの日本語版をシュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社が3月29日公表した。見解は、エマージング株式運用チームのチーム・ヘッド、トム・ウィルソン氏によるもの。
2月の侵攻前、同社は新興国市場にとって2022年前半は厳しい状況になると予想していた。世界の金融政策は引き締め傾向にあり、財政支援が薄れる中、世界経済は下押し圧力がかかっていた。また、新型コロナウイルスの感染拡大後の正常化を考えると、在庫サイクルの鈍化とともに、モノからサービスへの消費のシフトが続くと予想され、さらに、物価上昇率は予想以上に高い水準で推移していた。
ポジティブな材料もあった。新興国の利回りと通貨は魅力的な水準にあり、中国の国内総生産(GDP)に対する新規与信の伸び率は底打ち。物価上昇も、供給の改善と需要の伸びの緩和を背景に、年後半には緩和すると見られた。新興国株式市場のバリュエーションは全体として、過去と比べやや割高だが、先進国市場、特に米国と比較すると魅力的な水準にあった。そこで紛争が勃発した。
ロシアはエネルギーから金属、貴金属、穀物、肥料に至るまで、様々な商品を輸出している。地政学的リスクプレミアムと供給停止の恐れが重なり、コモディティ価格は広範囲にわたって大きく上昇した。「こうした高騰が続けば広範な経済への悪影響が生じる」と同社は警告する。まず、ロシアの輸出が短期的に中断される可能性が指摘されている。レピュテーションリスク(悪評が広がるリスク)や様々な制裁強化のリスクが、ロシアの一部のコモディティの購入の妨げとなっている。
リスクへの対応から、企業はコモディティの在庫の積み増しを進めている。また、欧米諸国の技術、ハードウェア、専門知識を失うことで、ロシアのコモディティ供給に長期的な影響が及ぶ可能性もある。また、ウクライナは小麦やその他の農産物の重要な生産国および輸出国なため、」食料価格への影響が特に懸念される。既に小麦の生産サイクルにも影響が出始めた。
現状を踏まえ、同社は「なぜロシアの行動は物価上昇を加速させそうなのか」として、次の見解を示す。「世界の物価上昇率はすでに数十年に一度の高水準にある。コモディティ価格の持続的な上昇は、短期的には物価上昇圧力に拍車をかけるだけだが、この紛争は、より長期的な物価上昇圧力につながる可能性もある。化石燃料から再生可能エネルギーへのエネルギー転換のペースが加速すれば、物価上昇を誘発する。再生可能エネルギー用のハードウェアの投入コストは上昇しており、再生可能エネルギー用ハードウェアの生産には初期費用がかかる。さらに、特定の製品について供給の保証をより重視する流れに伴うサプライチェーンの多様化と経済の二極化の加速も、物価上昇を引き起こす要因だ」。
地政学的、供給サイドが引き起こしたコモディティ価格の上昇がもたらす影響は、スタグフレーションのリスク、つまりインフレの昂進と経済成長の鈍化をもたらす。
新興国市場への影響については、「米連邦準備理事会(FRB)の利上げペースは緩やかかもしれないが、世界的な経済成長が鈍化している環境下で利上げを行う可能性が高くなっている。ドル高と相まって、新興国にとってはより厳しい環境となる」と指摘。ウクライナ侵攻が世界の経済成長に与えた主な影響はコモディティを通じてとなり、新興国のうちコモディティの純輸入国にとっては、経済や特定のコモディティへのエクスポージャーによって影響は異なるものの、物価上昇は国際収支と通貨の負荷となる。
世界貿易の減速も新興国経済への重しになりそうだ。在庫の積み増しが緩和され、新型コロナウイルスの感染拡大後の消費がモノからサービスへとシフトしていることから、今年後半に減速することはすでに予想されていた。一部のセクターでは、需要が低迷する中で投入コスト上昇の転嫁に苦戦し、利益率を鈍化させる可能性がある。
対照的に、コモディティ輸出国である新興国は、相対的に有利な立場にある。これらの国々は、中南米と中東に広く分布しており、アジアでは、マレーシアとインドネシアが恩恵を受けることが想定される。
中国では、国内総生産(GDP)に対する新規与信の伸び率が底を打った。同社は「これは通常9~12ヶ月の遅れで経済活動や新興国の収益に影響を与える。他の多くの国が政策を引き締める傾向にある中、中国は緩和しており、景気を下支えするため景気刺激策や、不動産開発業者への支援なども表明している。中国当局は、国内経済が軟調な中、国外の見通しの悪化を懸念しているようだ。また、中国株式市場の低迷が負の資産効果をもたらし、消費者心理にも影響する」と懸念する。
今後の見通しは「コモディティ価格がどの程度まで高騰するかということと、その高騰の期間がどれくらい続くかが世界の成長の鍵を握る」と見込む。不確実性と変動の大きい相場環境が短期的に継続する可能性がある中、リスクとして、ロシアへの制裁強化の反動、米中間の緊張関係などの地政学的リスク、さらに、中国ではゼロコロナ政策が解除されるタイミングとその影響を挙げている。
さらに、一部の新興国では年内に選挙がある。ブラジルでは10月に大統領選挙を控え、例年、この時期は市場の変動が激しくなる。ほか、ウイルスの変異株、経済活動正常化の遅れ、物価上昇圧力の長期化、金融引き締めのペースなども広範な課題だ。一方、「これらの問題の多くが好転すれば、市場は上昇に転じる可能性がある。また、中国当局が景気刺激策を強化し、株式市場を支援する動きを見せるかもしれない」との期待感も残した。
【関連サイト】シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社
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